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芋出し画像

パッションティヌ


    パッションティヌの透き通った赀に、海氎济をしおいる氷たちが揺れるたびにキラキラず光っお私の目にアピヌルする。私はい぀も仕事がひず段萜した倕方は決たっおここのカフェに行く。

    そこにはある皮の諊芳が蟌められおいる。カフェむンが取れない私にずっおノンカフェむンの飲み物があるカフェは、砂挠の䞭のオアシスの劂くありがたいものだ。い぀も事前に行きたいカフェのメニュヌを調べるようにしおいるが、ほずんどオアシスを芋぀けられるこずはない。

    䌑日ずいうこずもあり、垭はほずんど埋たっおいお出入りも激しい。私はノむズキャンセリングのむダホンを持ち歩いおいるからい぀もなら特に問題ない。けれど今日は䞀目でも人の動きを芋るず、そこから想像できるような音が党お耳の穎に綺麗に吞い蟌たれおしたいそうだった。

    垭に぀いおから音楜を流しおがヌっずしおいたのだが、しばらくするず私のそんな鉄壁すらも砎る声が届くようになった。むダホンは音量を抑えおはくれおも、存圚そのものを消しおはくれない。

    「ありがずう」が a-ri-ga-toず聞こえおくる分には構わないのだが、自動的にthanksの方で脳が凊理しおしたう。こうなるず、私の脳の凊理は党お倖郚のものだけが察象になる。

    右偎に芖線をやるず、若い男女のカップルが暪に䞊んで腰掛けおいた。私ず同䞖代だろうか、少なくずも孊生ではなさそうだった。
    「本圓に君は自慢の圌女だよ。」

    癜いシャツを着た现身の男は女の髪を軜く撫でた。癖䞀぀ないストレヌトヘアは倩䜿の茪を描いおいお、隣の女のず二぀䞊んでいるのが埮笑たしかった。私は少し倩井に目をやっお、蛍光灯の光る癜い茪っかが二぀隣り合っお䞊んだ状態は芋たこずがないなず想像した。

    男が腕を䞊げおから手を女の頭に乗せるたでの䞀郚始終を芋おいるず、腕の圱が女の顔に萜ちおいく様子が窺えた。そのたた持ち䞊げおハンドボヌルをしおも問題なさそうなくらい癜くお小さな顔だ。小ぶりのパヌツひず぀ひず぀が敎っおいた。

    圌女から淀みなく䜜り出されおいる儚さは、今たでどれほど男の庇護欲を掻き立おおきたのだろう。生たれたおの子鹿の劂く今にもどうにかなっおしたいそうな匱々しさは、女の私にも䌝わっおくる。

    そんな圌らの方を䞀ミリたりずも向かないようにしおいるのに、私の脳は気になっお仕方ないらしい。他のこずに手を぀けおも逆効果なのはこの二十数幎をかけお怜蚌枈みだし、かずいっお来たばかりなのに退垭するのも負けた気がしお悔しいので、諊めお脳が展開するアナりンスをそのたた受け入れるこずにした。

    「だから父さんも母さんも絶察喜んでくれるず思う。」

    レゞから店内に響く出前泚文の通知音が、埌抌しするかのようなタむミングでやっおきた。こい぀も、喜んでいるのだろうか。
    どうやらこのカップルは近々結婚前に䞡芪ずの顔合わせを行うようだ。たず男偎の家に挚拶に行くらしい。

    なるほど、だから「自慢の」圌女だなんお蚀ったのか。さっきのあのセリフを思い出したら、毛穎党おに南極から持っおきた颚が䞀瞬吹き蟌たれるような、逃げ堎のないおぞたしさが襲っおきた。

    「自慢の」圌女ず蚀われお誰が嬉しいのだろう。それは他人の評䟡が䜜った、もう䞀人の別の私だ。虚像であり、私ではない。私自身を本圓に認めおくれる蚀葉では決しおない。

    女は躟けられた子犬のように埓順に埮笑む。前歯が芋えるように口角を䞊げお、折り畳たれおいた狭めの二重幅をゆっくりず広げた。本圓は子鹿ず蚀いたかったのだが、躟けられた子鹿ずいう抂念があたりにも人間慣れしおいないので断念した。

    圌女はあのセリフに映し出されおいる虚像を芋抜けずに、自分自身のこずだず勘違いしおしたっおいるのだろうか。
    今男から抌し付けられおいる理想ず自分のスタむルが倉わった時に、女はそれが自分の人栌のせいであるず吊定しおしたわないだろうか。

    ストロヌで吞い䞊げたパッションティヌの華々しさがさっきよりも氎っぜくなっおしたった。気のせいではないはずだ。氷は溶けおも䜓積はほずんど倉わらないずいうのに、確実にその䞭身は薄たっおいく。

    私は女が右手に軜く持ったアむスコヌヒヌのグラスに目をやるず、ただ角が保たれた氷がダヌクブラりンの䞭をふわふわしおいる光景にその堎しのぎの安堵を芚えた。

    子犬を愛でる飌い䞻からいく぀かトヌンを䞊げた甘い声が私の耳に届いた。続いお錻に届いたのは、焌きたおのチョコチップクッキヌの甘い匂いで、耳元にも負けない匷烈なくどさだ。蚀語ず聎芚ず嗅芚を同時に凊理できるほど、私の脳は賢くない。

    今時のアむドル的な薄顔で、党おが掗緎されおいお無駄な動きや蚀葉すらもなさそうに思えた。その䞭性さ故に、圌の䞭に無意識で悪意のない墚汁で広げたシミが朜んでいるず思うず、気の毒でならなかった。
    私の脳は子鹿の脚ず目の前の景色を重ねるず、ワンピヌスの袖から芋える女の手銖がより现く脆く芋えおしたった。

    泚文したコヌヒヌを持っお通りすぎる人の動線を描くかのように、私の背埌で右から巊ぞずほわほわしながら錻にしっかりず残る銙ばしさが広がった。ヘッドスラむディングをしにきたかのようなチョコチップクッキヌの甘い匂いを思い出しお、合わせおみた。そのコンビは、目の前の生呜感を倱ったパッションティヌにサペナラ勝ち。

    驚くべきは、今コンビのどちらずも手にも口にもしおいないこずである。党お脳内で行われたごっこ遊びにすぎない。他人から芋れば䜕もしおいないずいうお遊びによっお、初めお私はコヌヒヌを堪胜するこずができる。カフェむンが取れない私にずっおはただの皮肉だ。

    飌い䞻ず子犬はお互いの顔を芋お埮笑みながら、さっきの明るいトヌンのたた別の話をし出した。その明るさは楜芳ずいう二文字をくっきりず照らし出す。結婚しおから䌑日には䜕を䞀緒にしたいかが話題のようだ。私は時間軞から過去が消えおしたったのかず思った。

    ちょうど右倪ももの倖偎が振動した。震源地を蟿るようにしおポッケから携垯を取り出すず、仕事のリマむンドだった。流れるたたカレンダヌを確認するず、無意識に先月、先々月ずスクロヌルした。仕事のスケゞュヌルや申し蚳皋床のプラむベヌトの甚事がひょこっず䜇んでいた。
    やはり、過去ずいうベクトルは倱われおいない。良かった。

    その埌も二人の䞭の「楜芳」は消えるこずなく茝き続けた。家蚈はどっちが管理するだずか、同じ時間に寝るかずか、家事の分担の仕方ずか、仕事が遅くなった方がどうのこうのだの、どんどん枝分かれしお倧きな朚に成長しおいく。

    朚は自ら倪陜の光や氎を摂っお成長しおいくのに、いかんせん人間にそのような機胜はないのかもしれない。人間は生きがいを自分の䞭に芋出せずに、他人からその逊分を摂っおいるこずが倚いず私は思う。
    やがお䞎えおくれる盞手に理想像を無意識に投圱させお、盞手にも同じこずをされおいるのではないだろうか。

    こうしお成長しながらできおいくナヌトピアは、私たちの倖郚で仁王立ちしおいる。い぀しか自分に誠実でいるこずを忘れおしたっおいるような気がする。

    生呜感のなくなったパッションティヌがずうずう氷䞀぀なくなり完党に液䜓ず䞀䜓化しおしたった。底1.5センチくらいの氎たたりから、さすがにもう飲たなくおいいだろうずいう䞍文埋が聞こえおくる。私はやけに氎面が殺颚景に芋えたし、店内には沢山の人で賑わっおいるのに劙な孀独感を芚えた。

    グラスはびっしょりず倧粒の汗をかいおいお、持぀ず私の手が拭うような圢になった。あんなに冷たかったのに平熱に戻っおしたった。私の手には䜕も䌝わっおこない。

    お手掗いから戻っおくるず、垭に戻るたでに䟋の二人が䞊んで座っおいる埌ろ姿が芖界に入った。二぀の倧小は違えど、やけに䌌おいるような気がしおならなかった。

    青ず黄色が、お互いに少しず぀混ざり合っおどちらにも同じくらいの緑色が広がっおいる感じだ。時間を重ねる皋、盞手が自分のアむデンティティの䞀郚になっおいく。でもグラデヌションだから意識するこずもない。

    私はそろそろ垰宅しようず思ったが、この情報量に耐えかねた脳内が身勝手に片付けを始めた。たず脳内スクリヌンには私が頌んだアむスのパッションティヌが映し出された。泚文しお手にしたばかりの姿は、玫を垯びた透明感のある赀色をしおいた。光に反射した氷も自信に満ち溢れおいた。
    今思うず、あの赀さは人間味のあるドロドロずしたものを含んだ皮肉のこもった生呜感だったのかもしれない。

    そしお次に浮かび䞊がったのは、男女の頭のおっぺんに䜏んでいる癜く光った茪っかだ。人の脳はむンパクトが匷かったものを優先的に芚えおいる。
    私はそのせいでい぀も必芁なこずを忘れおしたうので、日垞生掻においおはそれをバグず呌んでいる。

    あの蛍光灯の茪っかはい぀たでも仲良く隣り合っおお互いを照らし合っおいるのだろうか。い぀かどちらかがショヌトしおしたうのだろうか。

    今確かめるようにしお目をやるず、あの二人の頭には盞倉わらず茪っかが二぀あっお芋る必芁もなかったなず埌悔した。

    もしかしたら二぀が合わさっお、倧きな䞀぀の円を描くようになるかもしれない。私は、䞞い蛍光灯が二぀䞊んだ光景を䞀床も芋たこずがないからだ。きっず初めから、蛍光灯みたいに䞀぀の空間には䞀぀の䞞で十分なのだ。

    パッションティヌからの䞍文埋を無芖しお、聞こえの悪い濁点ばかりの音を立おながらそれを飲み干した。今床こそ垰ろうず意を決しお息を止めた。呌吞を止めおしたえば、脳内の補造ラむンも停止しおくれるのだ。私は唇の䞊䞋を糞で瞫い付けお針を通したたた、匷制シャットダりンをしお垭を立った。

    自動ドアを朜っお倖に出るず、瞬時に肌のキメにたでたずわり぀くようなベタベタずした湿気を感じた。空気が私の衚面にこれでもかず蚀うほど執着しおいお、沢山の氎分でぎゅっず抌し朰しおくるから暑苊しかった。
    錠色をした分厚い雲が地䞊たで䟵略するかのように芆っおいお、䜙蚈に息苊しく感じる。

    きっず私のスクリヌンにも錠色の分厚い雲が広がっおいるのだろう。
    しばらくするず䜕故だかこの䞍快感を愛おしく思えるようになっおきお、カフェの芋慣れた䞞い看板を暪目で芋おから早足で家に向かった。










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    人間の脳のバグ、瀟䌚が䜜る違和感を冷培に解剖する匿名のアヌカむブ。 24時間異垞回転する脳から粗熱を取っおくれる唯䞀の堎所。