掌編小説 『岡山イオン五階のスタバ』
窓際のカウンターは、夕方の光を吸い込んで少しだけ白く曇っている。
プラスチックの透明なカップに結露が群がっていた。
「なぁ、見てや、あそこ」
隣に座ってるやつが、植物由来のストローを噛みながら言う。
「どこぉ?」
俺は窓の外に視線だけ向けた。
「中庭の。あの二人。あれ、ほぼ同じ背丈の男女」
「おん」
「いや、男のほうがちょっと低い」
「そぉじゃな」
しばらく沈黙。
吹き抜けの中庭にある植栽の葉を風が小さく揺らす。
「こっから見えんけど」
やつが急に続ける。
「もしあの女、10センチのヒール履いてたらどうする」
「どうもせん」
「俺が今“男のほうが低い”って思った事実、どけぇ行くん?」
「知らんわ」
やつは笑っていない。
ただ、ストローをもくもくと噛む。
「男のほうがインソール入れてたら?」
「もっと知らんわ」
「俺らぁって、何をみとんじゃろ?」
「オメェが、勝手にみとるだけじゃろ」
「なにをぉ?」
「それこそ、知らんがな」
中庭の男女は、ベンチに移動していた。
こちらを向いていないので、どんな顔をしているのかはわからなかった。
「かわいいは正義っていうがぁ」
「急に何なん?」
「いや、あの女がヒール脱いだらどうなるんかなって」
「知らんよ」
「正義って、ああいう高さの話なんかもしれんと思って」
「高さ……」
「おん。靴底の厚みで変わるみてぇな」
「今は、男の方がたけぇな」
「座高がなぁ」
窓ガラスが、内と外とをただ隔てている。
「なあ」
やつが言う。
「俺ら、今ちゃんと地面踏んどんかな?」
「ここ五階じゃけど」
「そういう意味じゃねぇわ」
俺は答えない。
答える必要もなかった。
窓ガラスに映った俺らの輪郭は、中庭の二人よりもずっと曖昧だった。
おもろかったら『スキ』して!!
おねがい♪
