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鋲ジャン魔法少女 ステートメント

暴力をもてあそぶかわいらしさ

鋲ジャンとは、革のダブルのライダースジャケットに鋲を打ったものだ。鋲ジャンが完成形で売られていることは少なく、その多くはDIY。革ジャンの所有者が自ら鋲を打つ。高価なレザージャケットに鋲を打ち込むのだ。そこには何かしらの覚悟や思想をともなう。

長らく日本において、鋲ジャンは「不良」のアイコンだった。1970年代の原宿ローラー族、1980年代は「北斗の拳」に出てくるザコキャラにより、不良、ならず者といったネガティブなイメージを背負う。

しかし、本来の鋲ジャンは必然性をともなった社会派のムーブメント、いわゆるカウンターカルチャー(およびサブカルチャー)だった。1950年代末にイギリスで発祥したロッカーズ、1980年代のハードコアパンクなど、きわめてアイコニックな存在だ。経済状況、政治、音楽といった背景をもち、若者達の魂の器として鋲ジャンは異彩を放っていた。

ロッカーズはイギリスのバイク乗りのコミュニティーだ。カフェレーサーと呼ばれる英国製カスタムバイクで、カフェからカフェへと走る。彼らが着る革ジャンは、ラインにそって丸鋲を打ち、缶バッジを襟に、ワッペンを腕や胸につけるのがお作法だ。ベースとなる革ジャンは、ルイスレザーに代表される一流品が好まれた。

ハードコアパンクはパンクのなかでも攻撃性とスピード感を強調したもので、1970年代の終わりにアメリカとイギリスで同時多発的に発祥。とくにUK82と呼ばれる暴力的なサウンドと様式は、ハードコアパンクの型を決定づけた。彼らの革ジャンはボロボロの中古品に過剰なまでのスタッズとペイントを施したもの。ロンドンコーンやピラミッドスタッズといった鋲を、肩、襟、腕などに整然と打ち付け、鋲の面をつくる。背中にはメッセージ性の強いペイントを描くのがトレンドだった。

どちらも若者の鬱屈した気持ちの反動であり、当時の社会状況を反映している。過激であることが、当時のストレスフルな状況を物語る。

ただ日本は、攻撃性や暴力性など、鋲ジャンの外的特徴だけを採り入れた。つまり、カルチャーである鋲ジャンをファッションという文脈に解体してしまう。ここに日本固有の空疎さがある。真の過激さではなく、張り子の虎だ。

本作「鋲ジャン魔法少女」は、そんな空疎な鋲ジャンに、日本特有の“魔法少女”を封入する。

ごく普通の少女が魔法の力で変身し、大小様々な困難を乗り越える物語。魔法という武力を少女のかわいらしさで包み込む。戦えない国が許容したヒロイズムだ。

しかし、魔法少女そのものがジャパニーズカルチャーを象徴するのではない。それを嗜好する大きな子どもという歪みにジャパニーズカルチャーの源流がある。

愛と勇気のために戦い、ときに傷つき、ときにはにかみ、夢と希望を体現した魔法少女。画面のなかの彼女たちを応援し、塩ビでできた人形を愛でる大きな子どもたち。欲望や死生観は巧みに隠され、かわいらしさがすべてを無力化する。

それは文化的な去勢だ。

戦後、憲法第九条のもとで「戦わない」姿勢を選び、グローバリズムに経済力をも捧げた日本。去勢を象徴するジャパンカルチャーは、そんな“敗戦国家の慰め”ではないか。

その去勢を引き受け、魔法少女はそっと鋲ジャンに袖を通す。

昭和の時代、日本が“敗戦国”であることは巧妙に隠されてきた。経済大国、国際社会の一員、そうした輝かしい言葉が教科書に並ぶ。われわれは長い間、居心地のいい夢のなかで時をすごしてきた。

たとえ目が覚め、現実を直視したところで、それを覆すことは敗戦国の国民として許されていない。そもそも覆すことがないように、文化的に去勢されてきた。

だから魔法少女は鋲ジャンを羽織る。

ファッションアイテムに身をやつした鋲ジャンに、去勢化の分身を封入する。どれだけ攻撃的でも、パワーとスピードに満ちていようとも、所詮は去勢の慰めだ。人知を超えた魔法を駆使しても、すべては愛と勇気のため。誰がどう見ても、暴力の象徴だとわかっているのに。

鋲ジャン魔法少女は今日も跳ねる。そしらぬふりをして。

付記

「鋲ジャン魔法少女」は、既存キャラクターの消費を目的とした表現ではない。魔法少女というジャンルが共有してきた視覚的・文化的象徴を抽出し、あくまでも記号としての魔法少女をオマージュしている。キャラクター個々の“作品性”を利用しない点において、本作はいわゆる二次創作と一線を画す。

生成AIがそれらを再構築する過程で生じる「似てしまう」現象についても、現代の表現環境そのものを含むオマージュとして提示している。

本作は魔法少女という記号を、鋲ジャン――カウンター(およびサブ)カルチャーの記号――と衝突させることで、少女像・暴力・正義の構造そのものを問い直す試みである。

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澤村 徹 記事がおもしろかったら応援していただけると幸いです。オールドレンズ、デジタル赤外線写真、AIアートなど、記事や作品制作の活動費して使わせていただきます。