
業界裏話。文春は、なぜネスコを作ったのか?
橘川 80年代半ばだったと思う。老舗の文藝春秋の白石勝さんが、「このままでは文春は行き詰まる」と考えた。既存の文壇作家だけでは高齢化してしまう。そこで、「文春と付き合いのある著者は一切使わない」という大胆な方針で、ネスコという新会社を作った。
シビル 今でいうと、社内スタートアップですね。
橘川 しかも、単に新会社を作ったのではない。「人脈を断ち切る」という発想がすごかった。出版社は、どうしても同じ著者に依存する。そこを意図的に切った。白石さんはその後、文春の社長、会長として組織を牽引した大物になったが、それ以前から組織の課題に挑戦していたのだな。
シビル だから橘川さんのところにも来たのですね。
橘川 若い書き手を紹介してくれと言われた。紹介した一人が泉麻人くんだった。泉くんはストレートな人で、後に『カジュアルな自閉症』になる。銀座で初めて飲んだとき、「橘川さん、ファッションセンスないですね」といきなり言われた(笑)。
シビル 最初の一言がそれですか(笑)。
橘川 そういう時代だった(笑)。
シビル ほかにも紹介した人は?
橘川 宝島の大島賢くんを通じて、柴門ふみさんも紹介した。当時はマンガ家としては人気だったけれど、文章はまだ本になっていなかった。本人も小説を書きたがっていたと大島くんから聞いていた。ネスコも乗り気だったんだけれど、大島くんとフーミンが喧嘩してしまって企画そのものが消えた(笑)。
シビル 出版史には残らないけれど、そういう偶然で本は生まれたり、消えたりするんですね。
橘川 そう。出版の歴史って、本当に出た本だけじゃない。出なかった企画の中にも、その時代の空気がある。ベストセラーだけではなく、膨大な没企画に出版世界の面白さがあるな。出版没企画大全みたいなの、面白いかも^_^