
世界で一番短いエアメール
人生の折り返しも過ぎている男爵ですけど、今までの人生の中で、唯一1通だけエアメールが届いたことがあります。
今でも家のどこかに保管している、エアメール。
20年ほど前に、アメリカのロサンゼルスから、はるばる日本の大阪に届いたエアメール。
小さな手紙に書かれているのは、ほんの2行の言葉だけ。
「元気にしてる?
L.Aで待ってる」
本当にそれだけ。
濃厚な1年の先に
学生生活が終わって、初めて男爵が就職した会社(超絶ブラック企業)で、同期で入社した男友達がいてました。
仮にNとします。
Nは男爵より一つ年上ですけど、早生まれとかの関係で、生まれた年は一緒だったんじゃないかな?
一緒に同期入社した20人超の仲間が、あまりのブラックの仕事内容っぷりに次々と辞めていく中、唯一1年以上続いたのは男爵とNの二人だけ。
Nは京都から出てきて一人暮らしというのもあって、男爵はよくNの家に泊まりに行ってました。二人で毎晩のように仕事の愚痴を言い合ったり、寝落ちするまでゲームをして遊んだり、一緒にレンタルビデオ店に寄ってはアダルトなDVDなんかを借りて、男同士で夜中に視聴したり…。
仕事がとんでもなくブラックな形態だったのもあって、お互いがお互いを慰め合いながら、次の日の仕事に向かうような…同僚というより、もはや戦友のような感覚。
「将来は今の仕事じゃなくて、他で一緒に何か仕事できたらいいな」
なんて話してました。酔ってても、シラフでも。
Nは大学で外国語を専攻していて、英語が話せるので、将来は外国で働きたい夢を持っていました。
日々のブラックの仕事のおかげで、お互いに体力も精神力も削られていく中で話していたのですが、
はっきりと覚えているのは、Nが海外で英語を活かしての販売、男爵は元々当時興味のあったアロマテラピーを活かしての仕事、そんなことを夢見たりしていました。
そんなことを話しながら、濃厚な1年が過ぎて、男爵が先に退社しました。それから1ヶ月の後、Nも退社。
アメリカのL.Aと日本の大阪と
お互いが仕事を辞めてからも、ちょくちょく飲みに行ったりしていました。
何度か会った後に、Nは学生時代から付き合っていた女性と結婚をして、それからしばらくして念願のアメリカへ渡米。
完全に生活の拠点をアメリカに移しての生活。
アメリカに行く前のNと、最後に朝まで二人でオールナイトでカラオケで歌って、夜が明けてから、ハグをして別れました。
しんどいこともいっぱいあったけど、もう会えないかもなぁ…って思いながらのハグ。
今でもたまに思うのよ、男爵。
変わらず大阪で生活してる男爵なんですけど、
(そっちじゃたこ焼きなんて食べれないんじゃないの?青のりが歯に詰まって笑い合ったりできんやろ)
とか、
(世界的に有名な自由の女神もいいけど、ずっと同じ色やろ?通天閣は色も変わるで)
とか。
そんな中、Nが渡米してから数ヶ月経った頃かな。
先に書いたエアメールが届いたのは。
「元気にしてる?
L.Aで待ってる」

9200km先にいるあなたへ
大阪からアメリカのL.Aまでの距離って、約9200kmらしい。
そりゃ今の世の中、スマホをポチっといじれば、世界中のどこの誰とでも一瞬で繋がることができる世の中。
でもね、男爵が本当に嬉しかったのは文明の利器じゃなかったのよ。
9200kmも離れた、男爵からすると、想像もつかないようなL.Aの街から送られた、たった15文字にも満たないような、手書きで書かれた2行だけのエアメール。
AIに書かせたら、辞典くらいの文字数でもほんの数秒で手紙は書けるかもしれない。
でも、違うのよね。
どんだけ叫んだって、思いっきり小石なんかを全力で投げたって、9200km先のNには当然届くことはないけど、世界一短いエアメールは、確かに届いたのよ。
男爵の家にも、心にも。
お互いに仕事も家庭もあって、もう会えることはないかもしれないけど、もし男爵が9200km先のNに会えることがあったら、
もう一度…ハグをするかな。
日本で最期に会った日、徹夜明けの別れ際にそうしたように。
では、また。