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【2020sアルバム】Sam Fender「Seventeen Going Under」(2021)

    作品情報
    タイトル:Seventeen Going Under
    アーティスト名:Sam Fender
    リリース日:2021/10/08

    「Album Portraits in Sound」

    時代の傷跡と若者の魂の叫び
    痛切な自伝と時代の傷跡を抱きしめる叙事詩
    北の風土に根ざす「痛みの普遍性」

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    サム・フェンダーのセカンドアルバム『Seventeen Going Under』は、ノース・シールズ(North Shields)というイギリス北東部の港町に根ざした、痛切な自伝であり、同時に現代社会の傷を映す鏡です。全体を通して感じられるのは、ブルース・スプリングスティーンにも通じるスケールの大きなサウンドと、内省的で生々しいリリックとの間に生まれる感動的な緊張感です。
    テーマは、貧困、鬱、不完全な家族関係、そして階級間格差という、現代社会が抱える根深い問題に集中しています。しかし、その根底にあるのは「痛みからの脱却」と「人生は短すぎる」という希望のメッセージです。自己の過去を深く掘り下げ、受け入れることで、個人的な物語が普遍的な共感を呼ぶ叙事詩へと昇華されています。

    アルバム構成とフロー:内省から高揚への感動的な波
    アルバムの構成は、非常にドラマチックで計算されています。タイトル曲「Seventeen Going Under」から幕を開け、即座にリスナーを、17歳の混沌とした感情と経済的な苦境の渦に引き込みます。
    序盤は、個人的な葛藤を描いた楽曲(「Getting Started」「Aye」)が、疾走感のあるサウンドとともに続きます。「Aye」のような政治的な怒りを伴うパンク・アンセムが組み込まれることで、内なる感情が外の世界へと爆発する流れを作り出しています。中盤の「Spit of You」では、父親との複雑な関係を優しく、しかし鋭く描き出し、感動の核を形成します。そして、終盤に向かうにつれて、より内省的でピアノを基調とした楽曲(「The Dying Light」)で着地し、過去の経験を乗り越えようとする静かな決意を表明します。まるで、嵐のような青春時代を振り返り、夜明けを迎えるような、感動的なフローです。
    リリックのテーマとメッセージ:階級と「見えない鎖」
    フェンダーのリリックは、彼の最大の武器です。彼の筆致は、時にジャーナリスティックな鋭さを持ち、時に詩人の繊細さを持ちます。
    中心となるメッセージは、イギリス北東部のワーキングクラスが直面する社会的な排除と経済的な苦悩です。
    タイトル曲では、
    「She said the debt, the debt, the debt / So I thought about shifting gear / And how she wept and wept and wept / Luck came and died round here
    (彼女は言った、借金、借金、借金と、だから俺はギアを変えること(ドラッグの売買)を考えた。そして彼女が泣き、泣き、泣いたこと。幸運はここに来て死んだんだ。)」といった生々しい描写を通じて、貧困が若者の人生にもたらす破壊力を伝えます。
    さらに、彼はワーキングクラス内部の分断(「Aye」での「poor, hate the poor」)や、政治的ラベルに対する拒絶、そして父親との間に存在する「感情を表に出せない男性性」の世代間連鎖(「Spit of You」)といった、複雑な感情の機微を的確に捉えています。彼の歌は、不運と怒りの中で「アンダー(劣勢)」にあった17歳の自分を、現在の視点から抱きしめ、前に進むための「戦いの歌」として機能しています。
    アーティストの姿勢・コンセプト:本物の「声」
    フェンダーのアーティストとしての姿勢は、徹底した「正直さ」と「階級への忠誠心」に集約されます。彼は自身の成功を、彼が育ったコミュニティの物語を代弁する責任と捉えています。
    音楽業界における階級格差への批判(「私立学校出身の特権的な人々によって支配されている」という発言)は、彼自身のコンセプトを補強します。彼は、単に社会的なテーマを歌うのではなく、自身の私的な経験を深く掘り下げることが、最も強力な政治的声明になると理解しています。この姿勢は、「見ている人」ではなく、「当事者」としての強い説得力をもって、彼の音楽に息吹を与えています。
    サウンド・プロダクション:アリーナを志向するダイナミズム
    サウンドは、デビュー作の延長線上にありながら、より豊かで洗練されています。特に顕著なのは、ブルース・スプリングスティーンとザ・ウォー・オン・ドラッグスからの影響を感じさせる、広大でエモーショナルなロックサウンドです。
    ドラムとベースラインは推進力があり、楽曲全体に抗いがたい勢いを与えています。特筆すべきは、ジョニー・“ブルーハット”・デイヴィスのサックスの多用です。サックスは、単なる装飾ではなく、楽曲が感情のピークに達する瞬間に現れ、フェンダーの「叫び」を増幅させる役割を果たしています。プロダクションは、荒削りな衝動と、アリーナロックとしての壮大なスケール感を両立させており、リリックの持つシリアスなテーマを、祝祭的で高揚感のある体験へと昇華させています。
    ジャンル的・社会的文脈:怒れる青春の系譜
    フェンダーの登場は、現代イギリスのロックシーンにおいて重要な文脈を持ちます。
    ジャンル的文脈として、彼の音楽は「ワーキングクラスの詩人」という系譜に明確に位置づけられます。特に、1970年代後半から80年代初頭のザ・ジャム(The Jam)やザ・スペシャルズ(The Specials)がそうであったように、社会的な怒りをポップなメロディと融合させる試みは、彼のルーツを感じさせます。また、彼が「Geordie Springsteen(ジョーディのスプリングスティーン)」と呼ばれるように、日常の苦悩を壮大なアンセムに変える能力は、ブルース・スプリングスティーンやオアシスのようなスタジアムロックの伝統を受け継いでいます。
    社会的・文化的文脈においては、このアルバムはブレグジット後の分断されたイギリス社会、そしてCOVID-19パンデミック下での内省と孤独が深まる中で生まれました。彼は、複雑な社会問題を「白黒」で単純化する現代の「分極化」した議論(特にソーシャルメディア上での対立)に対し、リリックで警鐘を鳴らします。彼の歌は、政治的なスローガンではなく、一人の青年の痛切な経験を通じて、リスナーに「階級とは何か」「社会の仕組みは誰に味方しているのか」という問いを投げかけています。
    彼の音楽は、既存の政治やメディアから疎外感を覚える、多くの若者の声なき声の代弁者として、この時代の空気を決定づける役割を果たしています。

    引用

     
     
    音楽を聴き直す、時代を読み直すライブラリ あなたの次の一枚を探すための場所 アルバムを音楽とその時代から読み解くエッセイを書いています。 日本の北国から ・1990–2019年の推薦洋楽アルバム1,000枚以上  (メンバーシップ限定) ・2020年以降の作品、その他は無料公開

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