
Sam Fender「Seventeen Going Under」
楽曲情報
タイトル:Seventeen Going Under
アーティスト名:Sam Fender
リリース日:2021/07/07
収録作品(アルバム/EPなど):Seventeen Going Under
ストーリー(物語)
若者の成長、困難な環境下での青春時代、大人になった後も残す傷跡
「I’m seventeen going under」
「17歳、追い詰められている」
苦悩を吐露する一節です。
「Seventeen Going Under」は、単なる個人的な回顧録ではなく、厳しい社会状況の中で若者が経験する痛み、怒り、そして絶望を浮き彫りにした楽曲です。経済的困難、家庭環境、そして若者特有の葛藤が複雑に絡み合い、それがどのように個人の心に深く刻まれるのかを、痛々しいほど正直に描いています。
社会の周縁で声を上げられない若者たちの「生」の声を代弁しているといえるでしょう。
過去の描写とトラウマ
“The sickness was forever”
「病は永遠だった」
“snuff videos”
「スナッフ・ビデオ」(人が殺される様子を本当に撮影したとされる、違法で暴力的な映像)
“Cold Septembers”
「冷たい9月」
“fist fights on the beach”
「浜辺での殴り合い」
このような描写は、書き手の少年時代が必ずしも穏やかではなかったことを示唆しています。暴力や不穏な出来事が日常の一部であり、それが「永遠の病」のように心に刻まれている様子がうかがえます。
心に残る出来事がトラウマとして現在も語り手を苦しめ、語り手がただの傍観者であったことへの後悔や、その暴力性への恐怖が、
「I was far too scared to hit him / But I would hit him in a heartbeat now」
「当時は怖すぎて手を出せなかったけど/今なら一瞬で殴ってる」という形で現れ、「怒り」が時間と共に変質していく様を描写しています。
怒りとの葛藤
歌詞の中心的なテーマの一つが「怒り」であり、破壊的な性質を深く洞察しています。怒りが人を蝕み、大切な人々をも傷つけるという苦い真実が語られています。
そして、「怒り」は語り手の心を蝕んでいきます。
「See I spent my teens enraged / Spiralling in silence」
「わかるだろ、10代の俺は怒りに取り憑かれてて声も出せずにひたすら落ちていった」
この一節は怒りが内向的になり、静かに精神を蝕んでいった様子を表しています。外には出さないが、内側では荒れ狂っていた青春時代が示唆されています。
「ジョーカー」としての自己防衛
「And I armed myself with a grin / Cause I was always the fuckin' joker / Buried in their humour / Amongst the white noise and boys' boys / Locker room talkin' lads' lads」
「俺は 笑みで自分を武装した、だって俺はいつだってクソみたいな道化師だったから。
あいつらの笑いの中に 自分を埋もれさせて、
雑音と“仲間意識の強い男たち”の中でロッカールームで話す“男たちの男”たちに囲まれていた」
「男らしさ」や「笑い」に逃げながら本心を隠していた語り手の、苦い自己認識を含んでいます。
“boys’ boys” や “lads’ lads” は「男同士の絆」や「典型的な男らしさ」を表しつつ、そこにある同調圧力や空虚さも滲ませています。
この一節は、書き手が自身の内なる苦悩を隠すために、道化師のような役割を演じ、男社会の中で、表面的な陽気さで自分を守り、本音を隠していた様子がうかがえます。
「Drenched in cheap drink and snide fags」
「安酒と粗悪なタバコにまみれて」
若者たちが陥りがちな安価な娯楽や、それを取り巻く環境の描写であり、そこから抜け出せない閉塞感が漂います。
家族の影響と経済的困窮
「A mirrored picture of my old man / Oh God the kid’s a dab hand / Canny chanter, but he looks sad / God, the kid looks so sad」
「まるで親父を映した鏡のようだ
神よ あの子は本当に器用でなかなかの歌い手だけど、悲しそうな顔をしてる。
神よ、あの子は本当に悲しそうだ」
父親の影響を強く受けていること、そして才能がありながらも、どこか悲しみを抱えている自分自身を客観的に見つめている描写です。
また、経済的な困難が家族、特に母親に重くのしかかります。
「Luck came and died round here」
「運に見放された場所だ」と語り手は吐き捨てます。
この表現は、希望の見えない状況への諦めと絶望を表しています。
「I see my mother / The DWP see a number / She cries on the floor encumbered / I’m seventeen going under」
「僕には母の姿が見える。でもDWP(福祉事務所)は彼女をただの番号としか見ない。彼女は重荷を背負って床で泣いている。僕は 沈みゆく17歳」
この部分は、最も痛切で感情的な描写です。
DWP(Department for Work and Pensions:英国の雇用年金省)が母親を単なる「番号」としてしか見ていないという表現は、社会保障制度の冷たさと、経済的困窮に喘ぐ人々の人間性を奪う側面を批判しています。
母親が床で泣き崩れる姿は、家族が抱える重い負担と、17歳の書き手がその重圧の下で「沈んでいく(going under)」様子を象徴しています。
無力感と葛藤、未熟さと成長の狭間
家族の経済的困難や社会の理不尽さを目の当たりにしながらも、自分にはそれを変える力がまだないという無力感、そしてその中で募る怒りや悲しみが、歌詞全体を貫いています。
未熟だった過去への後悔と、怒りによって変化した現在の自分を認識する過程。まだ完成されていない人格の中で、様々な感情が渦巻いている様子がこの楽曲には描かれています。
バックグラウンド(背景)
サム・フェンダーはこの曲を、17歳の自分への手紙のように形にしたと語っています。母親が慢性疾患(線維筋痛症)に苦しみ、英国の福祉制度(DWP)との衝突の中で、無力さを感じていた当時の自分を描いています。
特に労働者階級が抱える社会経済的な問題や、若者たちが直面する困難な状況を色濃く反映しています。
緊縮財政と社会保障制度
英国では2010年代以降、政府の緊縮財政政策により社会保障費が削減され、低所得者層や障害を持つ人々への支援が厳しくなりました。DWPが「番号」としてしか見ていないという描写は、このような政策の結果として、人々が単なるデータとして扱われ、人間的な尊厳が失われがちである現状を痛烈に批判しています。
格差社会の広がり
グローバル化や産業構造の変化により、英国でも地域間の経済格差や所得格差が拡大しました。特に、伝統的な産業が衰退した地域では、若者の雇用機会が限られ、未来への希望が見出しにくい状況を生み出しました。結果、そのような地域の閉塞感につながっていきます。
メンタルヘルス問題の増加
経済的な困窮、将来への不安、そして社会的な孤立は、若者たちのメンタルヘルスに大きな影響を与えています。若者が抱える内面的な苦悩や、それが表面化しにくい現実。
男性の場合、感情を表現することが難しいとされる社会的な圧力も、この状況に拍車をかけています。
若者文化と社会問題
一部の若者文化において見られる飲酒、喫煙、そして他者への配慮に欠ける言動が、不安や不満のはけ口となっている側面が影響しています。
17歳という年齢の意味
書き手が17歳という設定は、この歌詞に決定的な意味を与えています。
17歳は、子供から大人へと移り変わる非常に多感な時期です。自我が形成され、社会や自分自身について深く考えるようになる一方で、まだ社会的な支援や自立が難しい立場にあります。この年齢での経験は、その後の人生に大きな影響を及ぼします。
サウンドキャラクター(音楽的特徴)
インディー・ロックやブリットポップの影響を強く感じさせます。
インディー・ロック特有の生々しさ、飾り気のない生身の感情を表現する特性が、楽曲全体に現れています。派手な音作りではなく、バンドサウンドの核となるギター、ベース、ドラムが中心となり、ボーカルを際立たせています。
またブリットポップのバンドが持つ、キャッチーでありながらどこか憂いを帯びたメロディラインと、合唱したくなるようなアンセミックな熱量が感じられます。特にサビの「I’m seventeen going under」の部分は、スタジアムロックのような広がりと高揚感があります。加えてサックス の使用がこの曲の大きな特徴です。サックスは、メインのメロディラインを補強したり、間奏で感情的なソロを奏でたりすることで、楽曲に深みと独特の哀愁を加えています。サックスが加わることで、単なるロックバンドの範疇に収まらない、ソウルフルでR&B的な要素も感じさせます。これは、サム・フェンダーが敬愛するBruce Springsteenのようなアメリカン・ロックの影響もあるでしょう。
引用