
#20 あの日のありがとう
サキは派遣社員として事務の仕事を始めた。
別れ話をしてから三か月ほどが経ち、一人暮らしを始めるため、小さな部屋を借りた。
新しい生活の始まりだった。
これからは、一人で働き、一人で生活していかなければならない。
慣れない仕事に、慣れない暮らし。
毎日をこなすだけで精一杯だった。
けれど、一人で暮らし始めて改めて感じたのは、
孤独だった。
そして、その孤独が大きくなるほど、彼の存在の大きさにも気づかされていった。
彼と過ごした数年間は、サキの人生で初めて心から安心して羽を休められた時間だった。
たくさんの優しさをもらい、たくさんのことを教えてもらった。
人を信じること。
誰かと暮らすこと。
そして、自分の幼さや未熟さ。
あの時間があったからこそ、今の自分がいる。
そう思えるようになっていた。
やり直したいわけではない。
もう一度戻りたいわけでもない。
ただ、心に残っていたのは、感謝だけだった。
恩を返せなかったこと。
彼の優しさに、同じように寄り添えなかったこと。
その申し訳なさだけは、今でも心のどこかに残っている。
だからこそ、サキは願っていた。
どうか彼が幸せになりますように…
大切にされるべき人だから。
これから先も、笑顔で元気に過ごせていますように…
サキは心から、そう願えるようになっていた。
過去を振り返れば、後悔も反省もたくさんある。
それでも、そのすべてが無駄だったとは思わない。
もしまた、いつか誰かと出会える日が来るのなら──
今度こそ、その時間を大切にできる自分でありたい。
サキは少しずつ前を向き、新しい人生を歩き始めていた。