田舎暮らしに憧れている人に、先に伝えておきたいことがある。
初夏を迎え、草木も活発になり、奴らも活発になった。
田舎暮らしに憧れている人に、先に伝えておきたいことがある。
虫だ。
かなり、いる。
どうも、虫を見るたび乙女になるナオです。
田舎暮らしというと、よく美しい部分が切り取られる。
朝もや。
鳥の声。
山の緑。
縁側の風。
薪ストーブ。
畑で採れた野菜。
たしかに、全部ある。
あるのだが、そこにはだいたい虫もいる。
朝もやの中にもいる。
縁側にもいる。
台所にもいる。
風呂場にもいる。
なぜか靴の中にもいる。
田舎暮らしは、自然との共生である。
などと綺麗に言えば聞こえはいいが、
現実はわりと虫とのルームシェアである。
正直に言うと、僕は虫が苦手だ。
特に益虫とわかってはいるがゲジゲジが無理だ。
農家なのに。
自然栽培とか言っているのに。
土だの微生物だの生態系だの語っているのに、
急に大きめの虫が出ると、身体が一瞬で都会派に戻る。
「きゃっ」とか言う。
声も出る。
たぶん少し跳ぶ。
でも、田舎に住んでいると、虫を完全に敵として見ることはできなくなる。
虫がいるということは、草がある。
草があるということは、土がある。
土があるということは、そこに湿り気や分解や循環がある。
つまり虫は、自然界の小さな作業員でもある。
分解するもの。
運ぶもの。
食べるもの。
食べられるもの。
それぞれが勝手に、しかし見事に役割を持っている。
とはいえ、それとこれとは話が別だ。
自然の一員であることは認める。
生態系に必要なこともわかる。
ただ突然カーテンの裏から登場するのはやめてほしい。
田舎暮らしをしていると、
自然を好きになるというより、
自然に対する解像度が上がっていく気がする。
美しいだけではない。
優しいだけでもない。
自然は、普通に侵入してくる。
草として。
湿気として。
獣として。
そして虫として。
人間の暮らしと自然の境目は、
都会で思っていたよりずっと薄い。
いや、ほぼ網戸一枚である。
その網戸が破れた瞬間、文明と野生の国境はあっけなく崩れる。
田舎暮らしとは、
自然を眺める暮らしではなく、
自然と距離感を測り続ける暮らしなのだ。
近づきすぎると、しんどい。
遠ざけすぎると、味気ない。
嫌いだけど、いなくなると困る。
怖いけど、いない世界も少し怖い。
まあ、できればもう少し小さめの声で教えてほしい。
羽音、大きいんよ。
