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Photo byyokoichi

私だって小説書きたい③少女のゆく先

    とても小さな小さな小屋の窓辺から、一人の少女が外の様子を眺めている。
    窓の外の草原と湖は月明かりに照らされて一段と輝いており、湖の水面には赤く満ちた月が浮かんでいる。また、風に揺られる木々のざわめきと仲間を求める獣の鳴き声が少女の耳にも届いている。少女は少しばかり大きめの声を出してみるも、こだますら返ってこない。少女はため息をついた。
    もう何日も一人でここにいる。ここ最近は一人でいることの寂しさを忘れていることの方が多かった。自分がどうしてここにいるのか思い出せない。気が付いたら木でできたこの小屋にいた。以前どこにいたかも何をして過ごしていたかも何が好きだったかも思い出せない。少女も最初は自分の身に起きた事態に困惑を隠せなかったが、小屋での生活に慣れたのかだんだんとその戸惑いを表すことも減り、水も食事も摂らないで済んでいる生活に違和感を示すことはなくなっていた。

    そんなことを考えてながら窓の外を見つけ続けていると、空の方で何かが光っているのが見えた。最初は大きめの星かと思ったが、夜空に浮かぶそれとは大きさが違う。少女が不思議に思い目を凝らしていると、その光がこちらに向かってくる。少女は慌てて窓を閉めて部屋の奥に逃げ込んだその瞬間、それは大きな音を立てて窓を突き破って床にめり込んでいる。サッカーボールと同じくらいのサイズである。少女が戸惑いながらそれに近づこうとすると、何か呻き声をあげながら飛び跳ねるのでそれにつられて少女も尻もちをついた。
    「やぁ。僕は君を迎えに来たよ。」
    それは床の上で飛び跳ねながら少女に語りかけている。少女は口がひきつったままうまく動かすことが出来ない。
    「だから、僕は君を迎えに来たんだってば。」
    それの胴体から腕が伸びてきた。少女は尻もちをついたまま目を丸くする。
    「えっ、わ、私を迎えに来たって何?てかあなた何者?」
    少女はそれに問うも、それは何も答えず少女に腕を伸ばしたまま飛び跳ね続ける。
    「僕が何者なんてどうでもいいのさ。それより行きたい場所があるっていってたのは君じゃないか。」
    それのビー玉のような目が少女をじっと見つめている。少女の口からは声にならない息が漏れ、それの瞳に吸い寄せられるように手を伸ばしている。
    「あれ・・・。私・・・。」
    それの方に伸ばしていた手を少女はひっこめて、それの目を合わせないように目線を下に向ける。少女の呼吸はだんだん浅くなっていく。少女の脳裏にはこれまで出てこなかった光景が浮かんでは消えていく。少女は床に視線を固めたままひっこめた手を震わせている。
    あっ、そうだ。思い出した。何もかも嫌になってここに逃げて来たんだ。自分のことを受け止めてもらえないという事実が嫌で嫌で仕方なくて。だってあの人があの子の手を取るから。あの人があの子に微笑むから。だから私すべてぶつけてきた。ぶつけてきたはずだったのに。

    「ねぇ、私、行きたいところがあるの。」
    少女は改めてそれに顔を向ける。
    「君が行きたい場所なら僕はどこにでも連れていくよ。どこ?」
    「それはね・・・。」
    少女はそれに耳打ちする。少女の両手はそれの手を包んでいる。
    「分かった。一緒に行こう!」
    それは弾むような声で答える。それは突然形を変えて少女を包み込む。少女はそれに身を委ねた。次の瞬間、少女を包み込んだそれは小屋の窓から飛び出していった。小屋には割れた窓の破片と埃が一瞬だけ宙を舞った。草原と湖は月明かりによって輝きを更に増し、主を無くした小屋は静かに佇んでいた。

     
     
    茨城出身東京在住の社会人です。 食べることやエンタメを楽しむことが好きです。 よろしくお願いします。

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