品性という言葉を知らない(第56話)連載小説
SNS社会の生々しさや、主人公の人格のゆがみに迫る現代サスペンス
栗山杏奈は歯科クリニックで働くいわゆるキラキラ女子を演じているが
実は夜職の顔がある
―――さらには2つのSNSで使い分ける顔
恋愛・友達・仕事・家族―――
友達は自分のSNSをいかに彩ってくれるか
男は自分の日常をいかに華やかに楽しませてくれるか
既婚者や彼女持ちの複数の男たちとの関係
杏奈はそういう関係こそが、自分にとって都合のいいものだと思っていた
――しかし
杏奈自身うまくいっていると思っていた
仕事も、人間関係も、男との関係も、
「上から見下ろしていた」はずの世界が少しずつ狂い始めていったある日
2つのSNSで使い分ける顔が少しずつ明るみに出ていく――――
「ふーん……なーんだ。結局、分かんないんじゃん。
AIって、こういうところあるよね。
結論を出してくれないし、肝心な時にはいつも役立たずだよね。
まぁ、これが限界なのか。」
そう言いながら、数秒後にはまたスマートフォンを拾った。
もう一度、閲覧者一覧を開く。
貴弘
遥香
良平
良平の元カノ
そして、その他にも見知らぬアカウントがいくつも並んでいる。
杏奈は、その名前をひとつずつ確認していった。
「え?この名前も…アイコンも分かんないけど……誰?」
プロフィールを開く。
戻る。
また別の名前。
「この人も……知らないけど…?」
いつの間にか、杏奈はストーリーズを見ることよりも、
誰が自分を見ているのかを確認することに夢中になっていた。
そしてふと、画面を見つめながら思う。
「……私って、そんなに見られてる…の?
男ならまだしも…女に?…何が目的なの?」
その瞬間、スマートフォンが震えた。
新しいフォロワーが増えた通知だ。
もう以前のフォロワー数とは桁が違う、見たことのない数字。
「もしかしたら…
歯医者の子たちが自分のアカウントで見てるとかあるのかな。
え!待って!前にリサちゃんが“XとInstagramじゃ違うんですね”って言ってたっけ。
この中にリサちゃんもいるってこと?
あ!やだ!美咲も“お姉ちゃんがXやってるのショック”って言ってた。
この中には美咲もいるんだ。
え?…じゃあ家族も知ってるかもしれないってこと?
もう……どうしたらいいのか分かんないよ。
本音出せるところがないだけでも辛いのに。
XもInstagramもアカウントごと消したほうがいいのかな……
いや、それは早まりすぎか。
どうせ時間経てばこうゆうのっておさまるんでしょ?
だったら今は、やばそうなものだけ消しとくか!」
そして、過去のInstagram投稿を開いた。
「これ……消した方がいいか」
良平との食事
佐々木からもらった高級ブランド品
ラグジュアリーホテルのスイートルーム
高級シャンパンのボトル
ふたつ並ぶシャンパングラス
男物のサングラス
映り込んだ腕時計
杏奈はひとつずつ確認していく。
「……これ、消したほうがいいかも」
削除。
またひとつ。
削除。
「これも……あーあ、けっこう気に入ってる写真なのにな」
削除。
けれど、削除ボタンを押すたびに、杏奈の胸の奥がざわついていく。
「これは負けなんかじゃない。」
そう思った。
「Instagramに鍵をかけるなんて、絶対に嫌!
鍵なんかかけたら……負けじゃん
そもそも私は何も悪いことをしていない。
ただ、ちょっと変な人たちに絡まれてるだけ。
これは自分の身を守るため。
だって、今の社会では誰も杏奈のこと守ってくれないから。
自分で自分を守らなきゃ!」
そんなことを考えながら、
杏奈はまた、フォロワーをひとりずつ開いていった。
誰が見ているのか。
誰が探しているのか。
誰が、自分を知っているのか。
もう、気になって仕方がなかった。
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