品性という言葉を知らない(第52話)連載小説
SNS社会の生々しさや、主人公の人格のゆがみに迫る現代サスペンス
栗山杏奈は歯科クリニックで働くいわゆるキラキラ女子を演じているが
実は夜職の顔がある
―――さらには2つのSNSで使い分ける顔
恋愛・友達・仕事・家族―――
友達は自分のSNSをいかに彩ってくれるか
男は自分の日常をいかに華やかに楽しませてくれるか
既婚者や彼女持ちの複数の男たちとの関係
杏奈はそういう関係こそが、自分にとって都合のいいものだと思っていた
――しかし
杏奈自身うまくいっていると思っていた
仕事も、人間関係も、男との関係も、
「上から見下ろしていた」はずの世界が少しずつ狂い始めていったある日
2つのSNSで使い分ける顔が少しずつ明るみに出ていく――――
杏奈の叫び声に貴弘は慌てふためいた。
「え?え?杏奈?なんで?」
「なんでじゃないよ!なんではこっちのセリフ!」
「今日ってガルバの日じゃ?…」
「休んだよ!だから他の女連れ込んだの?」
「ちょっと!落ち着けって、杏奈!」
「落ち着けるわけないじゃん!
で?あなた誰?
ねぇ!何してくれてんだよ!」
そう言いながら、杏奈は裸の女性に掴み掛かろうとした。
それを必死に止める貴弘。
「おい!止めてんじゃねーよ!おい!う…ううぅ…なんで…」
杏奈は顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いている。
貴弘に押さえられた両手で、今度は貴弘の胸や肩を叩く。
「早く!服着て帰ってくれる?」
杏奈の向こう側にいる女に向かって目配せをする。
「おい!逃げるなよ!名前は?名前教えてくれますか?」
女は床に散らばった自分の服で体を隠しながら、目は真っ直ぐに杏奈を見て言った。
「遥香(はるか)」
「遥香さんね。私は杏奈だから。
人のものに手を出しといて、ただで済むと思ってないよね?」
「手を出されるには、それなりの理由があると思うけど。
たかのこと、大事にしてないよね?」
「…ちょっと!…おい!ふざけんなよ!
何を分かってるんだよ!!おい!」
そう言いながら、遥香に掴み掛かろうと
貴弘の手を必死で振り解こうとする。
「遥香、今日は帰って。ほんとに。」
「ほら、お前なんて遊びだから帰らせるんだよ!」
「……」
「遥香、あとで連絡するから。安心して。ひとまず今日はさ。帰って。」
「え?」杏奈が目をまんまるにする。
遥香は服やバッグを持って、玄関に向かった。
玄関のドアが開いて、遥香が階段を降りて行く音がした。
「杏奈、ちょっと落ち着いて話そうか。」
貴弘がそう切り出した。
