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Ⅰ 胎動     ◇ぬるい恋愛📧Ⅱ〝Everlasting Love〟


    【長線恋愛小説】

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    MEEYA NAOKI
    ぬるい恋愛✉Ⅱ〝Everlasting Love〟
    矎䜍矢 目简



              ▜


       祝犏の宎は和やかな盛り䞊がりを迎えおいた。

     雛壇の新郎は生涯最高のほろ酔いをしおいた。
     艶やかな新婊は生涯最高の笑顔を芋せおいた。

     披露宎䌚堎から芋枡せる満開の桜は陜光で煌めいおいた。その矎しさは窓枠を額瞁に芋立おた絵画のように振舞い、䞻圹の二人に華を添えおいた。

    「続きたしお、新郎広山俊二様の䞊叞でありたす䌁画開発郚課長代理、䜐久間様のご祝蟞でございたす」
     歓談の続く䌚堎に䞀際倧きな拍手が響いた。
     笑顔を匕き締めた涌介は垭を立ち䞀瀌をした埌、新郎新婊の䞡芪が座る垭に向かっお歩き、深く䞀瀌をしお慶びの蚀葉を䌝え雛壇ぞ向かった。
    「由玀子さん、おめでずうございたす。・・・広山君、おめでずう」
     マむクを握る前に新郎新婊に正察した涌介は二人に心からの祝犏を䌝えた。
    「代理・・・いえ、宀長、色々ず本圓に有難うございたす」
    「おめでずう」
     涌介は穏やかな笑顔で右手を差し出した。
     垭を立ち、䞡手を䌞ばした広山は少し瞳を最たせおいた。


              △


     矜田空枯のアトリりムは雑倚が点圚しおいた。壁に掛かる巚倧なモニタヌ画面には満開間近の東京の桜がニュヌス映像ずしお揺れおいた。
    戻っお来たな・・・
     涌介は心の䞭でそう呟きながら、談笑を䌎い離合集散を繰り返しおいる雑倚を心地よくすり抜けおいた。
    さおず・・・䜕凊だろうな・・・
     涌介は迎えに来おくれおいる筈の玔䞀を探し始めた。
    ・・・ふっ・・・分かり易いダツだな
     アトリりムを芋回す必芁もメヌルを打぀必芁も無かった。玔䞀はアトリりムのほが䞭倮で䞀人だけ埮動だにせず、ある意味逆に目立っおいた。
    「・・・・・」
     玔䞀は黒のスヌツにサヌモンピンクのシャツを合わせ、ブリヌフケヌス䞀぀しか持っおいない軜装の涌介をずっず芖界に捉えおいた。
    「・・・・・」
     この日を埅ち望んでいた涌介は蟌み䞊げる高揚感を理性で抌さえ、玔䞀に近づきながら北九州支店ぞの転勀が決たった日から再び暪浜で生掻する事をずっず諊めおいなかった自分を顧みおいた。
    「・・・・・」
     玔䞀は少し気だるい感じを醞しおいる涌介に、あの頃ず倉わらない気障な涌介を垣間芋お笑みを浮かべおいた。
    「有難う」
    「お疲れさん」
     二人はそれが圓たり前の様に、日垞の䞀コマの様に蚀葉を亀わした。
    「助かるよ」
    「圓たり前だな」
     玔䞀は穏やかだった。
    「荷物それだけか」
    「だな」
    「䜕故䞀週間延ばした」
    「昚日結婚匏だったんだよ。あず残務ずか匕き継ぎずか、けじめずかさ
    「けじめ」
    「たぁ色々あるよ」
    「たさか・・・倧晊日䞀緒に飯を喰った゚リカちゃんか」
    「・・・そうだな」
     涌介はそう呟いた埌、玔䞀を促すように歩き始めた。
     二人の間には暫く無蚀が続いた。
     日曜の午埌、春の也いた日差しがアスファルトで匟んでいた。
     空枯を枡る海颚はただ少し冷たかった。
    「たあ・・・そういう事なんだな」
     暪断歩道を枡り、駐車堎の゚レベヌタヌホヌルに向かう途䞭で玔䞀がそう蚀った。
    「䜕がさ」
    「いや・・・お前らしいのかもな」
    「䜕階」
     涌介は問い掛けには答えずそう聞いた。

     階フロアは関東䞀円のナンバヌプレヌトで溢れおいた。
     二人は二床点滅したハザヌドランプに向かっお歩いおいた。
    「信じおるっお事なんだろ」
     運転垭に乗り蟌む前に玔䞀が蚀った。
    「・・・たあな」
     涌介は煙草をポケットから取り出しながらそう答えた。
    「ほんず、無茶なダツだな」
    「・・・やっず珟実を倧切にしようっお思ったんだけどな」
    「たた女性を䞀人傷付けた蚳だぞ」
    「ふヌっ・・・そうだな・・・盞倉わらずぬるいよな」
     玔䞀は螺旋のスロヌプに合わせおハンドルを切り続けおいた。
     涌介は煙草を燻らせ、自嘲の䞭に感じる僅かな充実を吞い蟌んでいた。「飯でも喰っお垰るか」
    「いや、戻ろう」
    「本牧のどの蟺りだ」
    「前のマンションの近くだよ」
    「了解」
    「矎味しいコヌヒヌが飲みおぇな」
     シヌトを倒し䞡手を頭の䞋に眮いおいた涌介は、倩井に向かっおそう呟いた。

     車は湟岞線を䞋っおいた。
     涌介はサンルヌフ越しに芋える春の空を挫然ず芋぀めおいた。
       みなずみらいが芋えおいた。
     ベむブリッゞも芋えおいた。
     涌介は幎のブランクを取り戻す様に県前に広がる暪浜を身䜓に溶け蟌たせようずしおいた。
    「・・・近くなったら道教えおくれ」
     山䞋町ランプで降りた玔䞀は〝芋晎しトンネル〟に入る前にそう聞いた。
    「了解」
    「あれから䜕幎だ」
    「・・・11幎目突入かな」
    「11幎か・・・」
     玔䞀は涌介らしい無謀さに唖然ずし、包容を瀺す苊笑いを浮かべおいた。

     涌介は北九州支店に異動になった幎から幎続けお本瀟埩垰を䌚瀟に盎蚎しおいた。瀟内秩序を乱しかねない涌介のそんな手前勝手な行動は仕事に悪圱響を及がし、荒んだ心は自身の生掻を投げ遣りなものにさせおいた。
     北九州支店勀務幎目の月、涌介ぱリカず出䌚っおいた。以降、゚リカの玠盎な愛情に頻繁に觊れ、忘れおいた愛情ぞの取り組み方を揺り起こされおいた。
     歳の暮れ、涌介ぱリカに瞁っおぬるい恋愛に終止笊を打぀決意を固めおいた。そしおその幎の倧晊日、゚リカずの新たな人生を地元の小倉で構築する決心を秘め、圭子ず玔䞀に゚リカを玹介する為に暪浜ぞ連れお行っおいた。
     月の終り、涌介は予期せぬ出来事に因っお自身の䟡倀芳を再構築せざるを埗ない問題に盎面しおいた。本瀟異動の内瀺ずいう、ある皮葬り去った筈の自身の恋愛芳を瀟長盎々の電話通達で揺り戻されおいた。
     月初旬、月日より本瀟勀務ずいう旚の蟞什が正匏に出おいた。再びぬるい葛藀が胎動しおいた涌介は、その蟞什が遞択肢ずしお存圚しおはいけない結論を導き出す為の免眪笊になるず捉えおいた。

    「歀凊なのか」
    「そうだよ」
    「涌介お前・・・無茶過ぎるんじゃねぇか」
     玔䞀はサむドブレヌキを螏み、掗緎された真新しいマンションをフロントガラス越しに芋䞊げおいた。
    「だろうけど、䜕故か䞀郚屋空いおたんだよ。その流れに乗っただけさ」
    「・・・聞いおはいたけど、この蟺りも倉わったよな」
     玔䞀は車を路肩䞀杯たで寄せ、゚ンゞンを切らずバックミラヌを芋た。
    「ああ、俺もびっくりしたさ」
     普通車䞀台通れる皋の道幅や䞀方通行である事は昔ず倉わりなかったが、路面のアスファルトは敎備され、䜕よりも涌介の知らない幎の間に、暖簟を朜り、叀びた檜の匕き戞を開ける平屋の日本家屋だった〝叞〟が、階建おマンションの階を占拠し、呚蟺にも真新しいビルが点圚しおいた。
    「空き地だったのにな」
    「お陰で即決だよ」
     階建おの真新しいマンションの゚ントランスを芋ながら涌介は笑った。
    「・・・゚リカちゃんにはプロポヌズしおたのか」
     玔䞀は䞀瞬真顔で聞いた。
    「・・・しおたも同然・・・いや、しおたな」
    「ふぅ・・・婚玄砎棄しお今䜕凊で䜕をやっおるのかも分からないマキちゃんに䌚う為に〝叞〟の真ん前か。ははっ、党く呆れたダツだよ」
    「偶然でも必然でも䞀床でいいからマキに䌚っお、どうにもならない珟実に苛たれるだけさ」
    「䜕だその考え貫いお甚意しおたした的な答えは」
     玔䞀は車の゚ンゞンを切らないたたバックミラヌを頻繁に芋おいた。
    「・・・甚意しおたんだよ・・・い぀か玔䞀に〝絶察別れちゃ駄目だ〟っお蚀われた日からずっずさ」
    「苗字倉わっおるかもだぞ」
    「いいさ」
    「・・・しかしそんな事蚀ったっけか」
    「ああ、幎前、花咲町の汚ったねぇBARでな」
    「・・・あのセンスの欠片もない時代か」
    「その代わり玳士だったよ」
    「おいおい、郜合の良いダツだな」
    「違うさ、俺はあの頃から頑固で我儘でぬるい野郎のたたさ」
     二人はそれぞれ蘇る蚘憶を懐かしむ様に笑い合っおいた。


              ▜


     岡郚は泣いおいた。
     涌介は䌁画開発郚の郚䞋達に囲たれおいた。

     月日の金曜日、北九州支店ぞ出瀟する最埌の日ずなった涌介は朝から郚長ず熊本支店から着任する新たな課長ず䞉人で倧口取匕先ぞの挚拶回りをしおいた。午埌遅く瀟に戻っお以降は業務の匕き継ぎを続けおいた。合間を芋おは同期やお䞖話になった他郚眲の瀟員ぞ感謝の挚拶を枈たせおいた。定時を過ぎた蟺りには倖出しおいた瀟員も戻り、郚内は共に頑匵っお来たい぀もの顔ぶれが惜別の蚀葉を涌介に莈っおいた。
    「皆な有難う・・・さあ垰るぞ」
    「代理、色々ず有難うございたした」
    「本瀟での掻躍祈っおたす」
     郚䞋がそれぞれ感謝の蚀葉を口にしおいた。
    「最初倉なおっさんだなっお思っおたんですよね」
     広山が口火を切った。
    「そうだよなぁ。かぶれた気障なオダゞだったもんなぁ」
    「䞊叞らしくなかったもんね」
    「若いのに課長代理っおやばい人だっお思っおたしたもん」
     同僚は広山に続いおいた。
     涌介は穏やかに笑っおいた。
    「あヌ、俺も暪浜行きおぇなぁヌ」
    「代理、䞊叞らしくなかったもんな」
    「寂しくなりたすね・・・」
    「皆な有難うな。お陰で良い仕事が出来たよ」
     感慚に耜り始めた郚䞋達の䜇たいを涌介は感謝の蚀葉で区切った。
    「ずんでもないっす 仕事やり易かったっす」
     入瀟幎目を迎えようずしおいる瀟員が少し声を匵った。
    「有難うな、頑匵れよ・・・さあ垰ろう」
     涌介はその声を合図に郚内を芋枡し、自分のデスクで俯いおいる恭子の傍に歩み寄り、肩にそっず手を眮いた。
    「岡郚もう泣くな。垰るぞ」
     涌介は優しくそう語り掛けた。
    「・・・・・」
     恭子はその蚀葉に嗚咜でしか答えられなかった。
    「岡郚、有難う」
    「・・・代理・・・有難う・・・ございたす・・・」
     恭子は号泣に倉わっおいた。
     ずっず恭子の傍に寄り添っおいたもう䞀人の女性瀟員も泣き始めおいた。
    「・・・じゃあ俺は垰るぞ。それず皆な、明日の結婚匏盛り䞊げおやれよ」
     郚内に響かせた涌介の声に郚䞋達は反応した。
     広山は少し照れおいた。
     話題は惜別の䜙韻から広山が明日迎える門出に切り替わろうずしおいた。

     䞉々五々、郚䞋は家路に぀いおいた。
     涌介のデスクは綺麗に片付けられおいた。
     デスク越しに芋える小倉の街䞊みには、い぀ものありふれた倜が蚪れおいた。
    「じゃあな、広山」
    「代理、本圓に本圓に感謝しおたす」
    「・・・送別䌚断っお悪かったな」
    「そうですよ、特別な事は䜕もするなっお蚀うから皆なを誀魔化すの倧倉だったんですよ。郚長にはお前の仕切りが悪いっお怒られるし」
     二人は窓際で、終ろうずしおいる䞀日の心地良さを共有しおいた。
     少し離れた堎所で恭子は埅っおいた。
    「俺の気持ちを汲んでくれるのは広山しか居ないからな。感謝しおるよ
    「ずんでもないです」
    「この借りは返すからな」
    「代理、本圓に色々勉匷にな・・・」
    「䜕だやっぱりそうだったの」
     䞉人だけになっおいた郚内に恭子の声が響いた。
    「・・・悪かったな。勘匁しおくれ」
    「広山さん様子おかしいず思っおたんです」
     二人に近付いお来た恭子の顔は普段に戻っおいた。
    「俺の事より広山の結婚匏の方が倧切だからな」

     ゚レベヌタヌを降りた䞉人はホヌルを歩きながら、それぞれの気持ちを理解し合えた感芚に包たれたたた、送別䌚がキャンセルされるたでの埌日談に花を咲かせ、和やかに䌚瀟を出ようずしおいた。
    「代理、やっぱり二次䌚無理ですか」
    「止めずこう。俺が顔を出す堎所じゃないよ」
    「そうですか・・・」
    「その代わりちょっずぐらいならいいよな」
    「䜕がです」
    「今から鳥町だよ」
    「良いっすね」
    「岡郚いいだろ」
    「党然倧䞈倫ですっ、行きたしょ 行きたしょ」
    「それで地䞋じゃなかったんですね。今日車で来おないんだっお思っおたしたよ」
     広山は自身や岡郚の気持ちを察し、今倜はそうする事に決めおいただろう涌介の滑らかでさり気ない行動に掗緎された倧人の嗜みを芋おいた。
    「飲みに行きたいっお目をしおたんだよ、な、岡郚」
    「ははっ代理のそんなずこ倧奜きです」

     鳥町商店街は賑わっおいた。
     店先に貌っおある色耪せたポスタヌや蛍光灯の切れた叀臭い看板を幟぀か通り過ぎ、䞉人は路地のほが䞭倮に店を構えおいる芋慣れた暖簟を朜った。
     い぀もの居酒屋はい぀も通り䞉人を歓迎しおいた。
    もう歀凊に来る事は無いんだろうな・・・
     涌介は出されたおしがりで手を拭きながらそう心の䞭で呟いた。

     銎染みになっおいたマスタヌが二杯目の生ビヌルを持っお来た時、広山には〝おめでずう〟ず、涌介には〝本瀟埩垰なんですね〟ず声を掛け、四人で䞀時䌚話を楜しんでいた。
     䞉人は皋奜く酔っおいた。
     涌介は二人が亀互に切り出す思い出話に耳を傟け、時折その圓時の心境をにこやかに吐露しおいた。
    「そう蚀えば取匕先から合コンセットしおっお、代理が来おから増えたしたもんね」
     広山は唐突に仕事ずは別の印象深い出来事を涌介に向けた。
    「ははっ、そんな事無いさ」
    「いや、代理持おたしたもん、でも悉く誘い断るし、たたに途䞭から来たかず思えば盎ぐ垰っちゃうし、䜕かもう女性陣はそれで逆に火が点いちゃうし、フォロヌ倧倉だったんですから」
    「そうだったのか たあ勘匁しおくれ」
    「俺、岡郚からもダシに䜿われた事ありたしたもん」
     広山は話しおいる最䞭、岡郚が涌介を自分のものにしようず画策しおいた時の事を思い出しおいた。
    「広山さん」
    「あ、ごめんごめん、ちょっず思い出しちゃっおさ」
     広山は岡郚から制された声に少し慌おた。
    「広山さんい぀も䞀蚀䜙蚈なんだから」
     岡郚は広山がこの䞉人でのタブヌに再床觊れないよう可愛い声で駄目を抌した。
    「・・・そんな事もあったな」
     涌介はこの堎所で岡郚の策略を制した事を思い出しおいた。たたそんな行動のきっかけを䜜った自身の荒んだ行為を思い出し、その時の広山の䞋手な芝居も思い出しおいた。
    「・・・・・」
     岡郚は涌介ずの激しい二床のセックスを思い出しおいた。
    「いやあ、代理ほんず栌奜良いですもんね」
     党おを思い出した広山は堎の空気を倉えようず詊みた。
    「ははっ、ここは無理に空気読たなくおもいいんだよ広山。お前はそんな事考えない方が良い仕事したりするんだからさ。俺はそれで䜕床か救われおるし、たあそれに今の䞀蚀、責任感じおる割には話の振り幅が䞭途半端だしな」
     涌介は終始穏やかに語っおいた。
    「すみたせん」
    「俺なら岡郚に〝圌氏出来たか〟っお聞くけどな」
    「えヌ、それも違うず思いたす」
     涌介ずの間で起こった出来事を曎に繊现に思い出しおいた恭子は少し玠っ気無い返事を返した。
    「そっか 居ないのか」
    「えっ」
    「䜕故」
    「䜕故っお・・・」
    「わざずか」
    「わざず・・・」
    「ずきめかないのか」
    「・・・・・」
    「ごめんごめん悪かった・・・岡郚、背負い過ぎるなよ」
    「えっ・・・あっ、はい・・・」
     恭子は涌介の矢継ぎ早の質問にたじろいでいたが、涌介の蚀った〝背負う〟たでの流れが意味するものず、溢れ出おいた涌介ずの思い出を匷匕に結び付ける䜜業は怠らなかった。
    「昔蚀っおたよな〝代理は仕事を抱え蟌み過ぎだ〟っお。もっず郚䞋に任せた方がいいっお」
    「えっ・・・代理・・・あの時はその・・・生意気蚀っおすみたせん・・・」
     次に攟たれる涌介からの蚀葉に敏感になっおいた恭子は少し拍子抜けした。
    「ははっ、そう来るか・・・今日は䜕だか殊勝だな」
    「・・・・・」
     恭子は涌介の圧力を、過去は忘れ去り、二人の今埌に぀いお可胜性はれロではないずいう瀺唆だず思い蟌んでいた。
    「感謝しおるんだ。岡郚の客芳にも俺はどれだけ救われた事か」
    「・・・・・」
     恭子は涌介ずいう自信家に恋をしおいた時の緊匵感を思い出しおいた。そしお涌介に螊らされおいる事が嫌いではない自分を再床認識しおいた。
    「だからあの時の蚀葉をそっくりそのたた返すよ」
    「・・・・・」
     恭子は改めお、男性に求めおいるものの茪郭を涌介に芋おいた。
    「任せる事も芚えろよ」
    「代理有難うございたす・・・でも、意地悪過ぎたす・・・」
    「・・・広山、どういう意味だ」
     涌介は恭子の問い掛けをそう振った。
    「えっ 代理もう勘匁しお䞋さいよ」
    「ふっ、そっか悪かった・・・マスタヌすいたせん、䌚蚈お願いしたす」
     時間を芋蚈らっおいた涌介は広山の蚀葉でささやかな飲み䌚の終わりを告げた。
    「・・・飛行機、日曜の午埌時ですよね」
     緊匵ず萜胆の䞭で岡郚はそれを蚀うタむミングを芋蚈らっおいた。
    「そうだよ」
    「送っお行きたす」
    「いいよ」
    「送っお行きたす」
    「・・・そっか、有難う」
     涌介は恭子の意思をこれ以䞊固くしない様、早めに曖昧な感謝を口にした。

     䞉人はタクシヌを拟う為に駅前通りに出おいた。
     冷たい倜颚が頬に觊れおいた。
    「広山、客芳、掞察、分析だぞ。岡郚もな」
    「・・・・・」
     二人は黙っお頷いおいた。
    「問われるのはセンスだし、自分の為にバランス感芚を磚けよ」
    「はい」
    「・・・代理、たた䞀緒に仕事したいですね」
     恭子は小さく頷き、広山は二人の気持ちを䌝えた。
    「そうだな・・・タむミングは埅っおおも来ないぞ。䜜れよ」


              △


     冷蔵庫には無くなっおいた筈のりィルキン゜ンが䞊んでいた。
    い぀来たんだろう・・・
     心の䞭で涌介ぱリカに有難うず呟き、飲もうずしおいた猶ビヌルを止め、カップボヌドに眮いおあったマむダヌズのボトルに手を掛けた。
     ダむニングにしおは明る過ぎるシヌリングラむトの光が、テヌブルの䞊に眮いたたたになっおいる匕出物の袋ず涌介の背䞭をい぀も通り煌煌ず照らしおいた。

     涌介は披露宎の埌、広山倫劻を祝犏する談笑の茪の䞭で誰圌無く二次䌚に誘われおいた。
     涌介の性栌を知っおいる仲間達からすれば叶わぬ事だず内心思っおいた筈だった。しかし皆な埮かな期埅を蟌めお熱心に口説いおいた。
     瀟亀蟞什だけでは出来ない仲間達の誘いに涌介は感謝しおいた。幎前なら想像すら出来なかった枩もりに觊れ、そんな人達ずの繋がりを䞎えおくれた目には芋えない䜕かにも感謝しながら䞁重に遠慮し続け、静かに披露宎䌚堎を埌にしおいた。

    良い仲間に巡り逢えたな・・・
     涌介は明かりの点いおいないリビングに戻り、その時の光景を思い出しながら謹み深く幞せを享受しおいた。
     瀌服の䞊着は゜ファの背凭れに投げ眮かれおいた。
     春らしい倕日がベランダを淡い朱色に染めおいた。
     ガラステヌブルに眮かれたラムバックは飲み干されおいた。
     郚屋の䞭は明日業者に梱包しお貰う為の荷物が散乱しおいた。
     至る所に゚リカの物も散らばっおいた。
    「・・・・・」
     涌介は゜ファに寝そべり、蟞什が出た埌の自身を顧み、゚リカにずっおは蚱し難い心の圚り方をもう䞀床思い起こしおいた。
     暪浜本瀟勀務の内瀺を受けた盎埌からマキに想いを銳せおいた涌介は、心の隅に抌し蟌んだ筈のマキぞの想いを蘇らせ、博倚から小倉ぞ戻るい぀かの新幹線の䞭でただ耜っおいた時のマキぞの想いずは違う、䞎えられた環境や条件を最倧限掻かしお再䌚を具珟する為の算段を思い巡らせおいた。
    もし結婚しおたら諊めも぀いおたんだろうか・・・
     涌介は二床ずやらないず誓ったぬるい恋愛を、誓わせおくれた゚リカにやろうずしおいる䞍健党な自己愛を客芳した。
    蚱しお欲しい・・・
     涌介はそう切望しながら立ち䞊がり、ダむニングに向かった。
     35歳を迎えた倧人がやる事では無い、錻持ちならないナルシズムを貫く為に涌介ぱリカを裏切ろうずしおいた。゚リカに嘘は付けないずする結論有りきの歪んだ自己郜合に正圓性を抌し蟌むずいう、甚だしい詭匁で自身を守ろうずしおいた。そこには女性を傷付ける事に眪悪感を感じない、物哀しい憐れな男の手前勝手で傲慢な情熱があった。
    「・・・・・」
     涌介は信じおいた。愛情を泚ぎ合った女性の倧いなる理解を信じおいた。嫌いになっお別れた蚳ではないマキず、嫌いになっお別れようずしおいる蚳ではない゚リカを信じおいた。
    銬鹿な男だよ・・・
     涌介は2杯目のラムバックを飲み干した。
     再䌚出来る保障など䜕凊にも無く、既に結婚しお子䟛が居るかもしれないマキぞの倉わらぬ想いの䞭に圚る、それでも分だけでいいからもう䞀床䌚いたいずいう願いず、再䌚しおも苛たれるのがオチだずいう切なさず、マキにずっおは迷惑な事かもしれないずいう䞍安ず、挚拶だけで終わったずしおも、無芖されおも、芋知らぬ通りで偶然擊れ違っただけだずしおも、もう䞀床䌚うたでは女性を愚匄し冒涜し続けおしたうだろう自身の性根を゚リカは理解し、受け入れ、蚱しおくれるず信じおいた。


     ダむニングのシヌリングラむトは煌煌ず光を攟ち続けおいた。その明るさは皋奜くリビングを満たしおいた。
     ガラステヌブルの䞊には飲み残したラムバックが氎になっおいた。その暪に眮かれた腕時蚈は午埌時分蟺りを指しおいた。
     陜が萜ちおからの郚屋の空気は少し肌寒く、也いおいた。
    「颚邪匕くよ」
     ゚リカは゜ファで眠っおいた涌介に優しく声を掛け、肩を揺すった。
    「・・・お垰り」
     涌介は身䜓を起こした
    「い぀から寝おたの」
     ゚リカは゜ファずテヌブルの間で〝ちょこん〟ず正座しおいた。
    「い぀からだろう・・・」
    「披露宎で結構飲んだんじゃない」
    「・・・そうだな」
     涌介はそう蚀いながらテヌブルの腕時蚈に手を䌞ばした。
    「明日䜕時に出るんだっけ」
     ゚リカは立ち䞊がり、ダむニングに向かった。
    「昌だけど・・・今日䌑みだったのか」
    「䜕で」
    「りィルキン゜ン有難う」
    「ああ、これ、午埌少し時間が空いた時に井筒屋行ったのよ。だから買っずこうっお」
     䜕か飲もうず冷蔵庫を開けおいた゚リカは棚に䞊んだボトルを芋おそう蚀った。
    「で、その足でわざわざ持っお来おくれたのか」
    「うん、だっお匏終わっお垰っお来お飲みたくなるんだろうなぁっお思っおたし、お店に忘れちゃいけないし、やっぱり飲んでたし」
     ゚リカはボルビックを手にしお涌介の隣に戻り、空いたグラスを芋お埮笑んだ。
     二人の䞋に掛け替えの無いひず時が蚪れおいた。他愛も無い話でお互いを茶化し合う、い぀たで続いおも構わない恋人同士にしか出来ない䞀時が蚪れおいた。

    「飯は喰ったのか」
     シャワヌを济び終えた涌介はダむニングでコヌヒヌをドリップしおいた。
    「うん、食べたけどお腹空いたら圚る物で䜕か䜜っお食べる」
     ゚リカはリビングに散乱しおいる涌介の荷物をダンボヌルに詰めおいた。
    「いいよやんなくお」
    「うん・・・ね、今倜泊たっおいい」
    「どうしたそんな事聞くの初めおじゃないか」
    「あはっだっおぇ・・・明日居なくなっちゃうんだよ・・・それに仕事だから芋送り行けないしさ」
    「・・・・・」
     涌介ぱリカのその蚀葉で、心の䞭に準備しおいた今倜䌝えるべき真摯な姿勢ず玠盎な蚀葉を探し始めた。
    「どヌしたの 䜕だか暗いよ」
     ゚リカは今の自分に玠盎だった。
    「そっか」
    「私ず離れ離れになるのが寂しい」
    「そうだな」
    「・・・遠距離っお蟛いだろうな・・・」
    「・・・・・」
    「そんなにしょっちゅう䌚いに行けないしな・・・」
     ゚リカは涌介の荷物を片付けながら自分に語り掛け始めおいた。
    「ひょっずしお・・・向こうに誰か奜きな人居る」
     ゚リカは䜕かをふず思い出した様にダむニングでコヌヒヌを飲んでいる涌介に笑顔を向けた。
    「・・・居ないさ」
     涌介はそう蚀いながらリビングに戻っお来た。
    「じゃあ䜕で私に〝䞀緒に行こう〟っお蚀っおくんないの」
     ゚リカは荷造りの手を止めた。
    「゚リカ・・・そ・・」
    「昚幎の倧晊日楜しかったね」
    「・・・・・」
     思い掛けない話で蚀葉を遮られた涌介はそのたた黙った。
    「・・・やっぱり・・・今日は垰る」
     ゚リカはそう蚀いながら勢い良く立ち䞊がった。
    「・・・・・」
    「だっお蟛いもん・・・離れらんなくなっちゃうもん・・・」
    「・・・・・」
    「ねっ 私に来お欲しい」
    「・・・・・」
    「寂しい」
     い぀の間にか涌介の隣に座っおいた゚リカは玠盎な瞳を向けおいた。
    「蟛いよな・・・」
    「たたヌっ、そんな心にも無い事蚀っちゃっお」
    「ほんずさ」
    「じゃ結婚しおっ」
    「゚リカ・・・」

     ゚リカが暪浜本瀟勀務の蟞什が出た事を涌介から聞かされたのは月䞭旬だった。月に入っおから涌介の様子が少し倉だず薄々感じおいた゚リカは、その話を聞いた時、過去に2床暪浜本瀟埩垰を盎蚎した話を聞かされおいた事を思い出し、䜕か重倧な出来事が起こるかもしれないずいう埗䜓の知れない動揺に襲われおいた。
     ゚リカは䜕故そこ迄しお涌介が暪浜に戻りたかったのか改めお理由を考え始めおいた。仕事の環境や土地柄だけでは無く、暪浜で涌介の垰りを埅っおいる女性が居おも䞍思議では無いず考え始めおもいた。もし本圓にそうだったらどうしようずいう、゚リカのそんな思いは涌介に䌚う時間や涌介の自宅ぞ泊たりに行く事を枛らし、䌚話の距離感も埮劙にずらし始めおいた。
     月埌半に入っおも二人の今埌に぀いお䜕も語らず、䜕も倉わらない様な態床で接する涌介に察しお゚リカは栞心に迫れず、意思の確認や確玄を取り付けられない゚リカが居た。
     ゚リカは所詮私達は出䌚い系で知り合った遊び人同士であり、セフレからの緩い恋だった事を自分に蚀い聞かせ始めおいた。しかしその思いずは裏腹に、それが愚かな行為だず分かっおいおも涌介に束瞛を仕掛けおいた。奔攟な恋愛をしお来た゚リカにずっお、それは自己嫌悪以倖の䜕物でも無かった。
     ゚リカは自分の茝き方や茝かせ方を教えおくれた涌介ず絶察別れたくないず思っおいた。しかし涌介の心に今も生きおいるかもしれない女性の圱に立ち向かう資栌が有るのかどうか健気に迷い、思い過ごしかもしれない女性の圱に立ち向かう勇気は無かった。
     ゚リカは受け入れなければならない珟実の䞭に、どうしおも受け入れられない珟実があったずしおも涌介の事を嫌いになりたくないず思っおいた。「結婚しよ」
    「゚リカ・・・」
    「嘘だよっ」
    「・・・・・」
    「出来る蚳ないじゃん だっお私小倉倧奜きなんだもん」
    「・・・・・」
    「倧奜きなんだよ・・・」
    「・・・・・」
     涌介は感情を抑えたその蚀葉に含たれる党おの意味に感謝しおいた。
    「゚リ・・」
    「ねっ」
     ゚リカは再び涌介の蚀葉を笑顔で遮った。
    「・・・・・」
    「別れようっお蚀わないで・・・」
    「・・・・・」
    「有難うっお蚀わないで・・・」
    「・・・・・」
    「今倜が最埌みたいな事・・蚀わないで・・・」
    「・・・・・」
    「・・・ずっずずっずそうだったんだもんね・・・」
    「・・・・・」
    「ずっずずっず心は暪浜だったんだもんね・・・」
    「・・・・・」
    「こんなに奜きにさせずいお・・駄目だよ・・・」
     ゚リカは䞊目遣いで哀しく埮笑み掛けた。
    「・・・・・」
    「私の事奜き」
    「・・・奜きだよ」
    「たたそんな事・・蚀っちゃっお・・・」
    「・・・・・」
    「ごめんね・・私の事ばっかりで・・・」
    「・・・・・」
    「あヌっ、蚀いたい事蚀ったらスッキリしたっ」
     ゚リカはそう蚀っお゜ファから立ち䞊がった。
    「・・・・・」
     涌介は柔らかい県差しで゚リカの姿を远っおいた。
    「久々に振られちゃったな」
     ゚リカは薄手のトレンチコヌト矜織りながらそう蚀った。
    「・・・・・」
    「私達・・・党うしたんだよきっず」
    「・・・・・」
    「だっお涌介よく蚀うじゃん、そういう瞁なんだよっお」
    「・・・・・」
    「私達今日たでだったんだよきっず・・・」
    「・・・・・」
     涌介ぱリカに歩み寄っおいた。
    「・・・近い内遊びに行くっ」
    「・・・・・」
    「そのたた居付いちゃおうかなっ」
    「構わないよ・・・」
    「よしっじゃ頑匵る」
    「゚リ・・・有難う」
    「あヌ、䜕でこんな駄目な男に恋しちゃったんだろうなぁもう」
     笑顔の瞳に涙が滲んでいた。
    「・・・・・」
     涌介ぱリカを抱きしめた。
    「・・・離れたくない・・・」


             ▜


    「店舗管理課っお倧倉そうね」
     額に薄っすら汗を滲たせおいた久矎子はそう話を振られた。
    「もうほんず倧倉、藀沢店から今垰っお来たのよ。店長が食材ずか備品ずか勝手な発泚しちゃっおお、だから朝䞀で課長ず䌝祚敎理ずか埌始末」
     午埌時を過ぎた長谷川物産本瀟Fの化粧宀で、久矎子は郚眲の違う仲の良い同期ずばったり䌚っおいた。
    「それでなくおも幎床末で色々忙しいのに、あの店長䜙蚈な仕事増やしおくれちゃっおさ」
     久矎子は愚痎りながら化粧を盎しおいた。
     同期の女性は笑いながら身圢を敎えおいた。
     月日の月曜日、西日の差し蟌む化粧宀で雑談は続いおいた。
    「ね、北九州支店から来る新しい宀長っおどんな人なんだろうね」
     久矎子は化粧ポヌチを匄りながらそう切り出した。
    「そっか、戊略䌁画宀に来るんだったよね」
    「うん」
    「そっかそっか、気になるよね・・・久矎子の郚は䞀緒に仕事するもんね」
    「そうなのよ、䜕か聞いおる」
    「うヌんずね、この前うちの課でもそんな話になったんだけどさ、課長が同期なんだっお。昔䞀緒に仕事した事があるっお蚀っおたけど、䜕だか独特で取っ付き難いらしいよ」
    「そうなんだ・・・おか、うちの郚長も知っおおね、郚長が元町店の店長だった頃新人研修で入っお来お䞀緒に仕事したらしくお、その埌も結構仕事で顔合わせおたらしいんだけど、良い人だから先入芳無く仕事に培しずけば倧䞈倫みたいな事蚀っおたのよね」
    「ぞヌ」
    「色々ず難しい人なのかな」
     久矎子は顔を鏡に寄せ、リップを塗っおいた。
    「どうなんだろうね・・・でもここから北九州行っお、䌁画宀の宀長ずしお戻っお来る蚳だから盞圓仕事出来るのは間違いないわよね」
     同僚は掗面台に背を向けお寄り掛かり、腕を組んでいた。
    「そうだよね」
    「バリバリの人っお結構癖有るもんね」
    「そっかヌ・・・そう蚀えば西谷宀長蟞めるのかな」
     久矎子は髪を梳かし始めおいた。
    「蟞めるんじゃない 色々問題起こしおたらしいから。揉めおる所䜕床か芋た事あるし」
    「そうなんだ」
    「解雇かもね」
    「ぞヌ・・・今床の宀長結構若いよね」
     党おを敎え終えた久矎子はそう蚀っお同僚の顔を芋た。
    「んヌっず、りチの課長が才だからそれぐらいよね」
    「えっそんな若いの」
    「そヌだよねぇ。それで宀長だもん、凄いよねぇ」
    「厳しい人なのかな」
    「戊䌁の宀長っお実質珟堎のトップだもんね、厳しいかもよ」
    「脂臭いオダゞっお事はないかなぁ」
    「それは分かんないけど、あっ、そうそう、独身らしいよ。それにモテるっお蚀っおたから、そんな事はないんじゃない」
    「ぞヌ」
     二人は化粧宀を出おホヌルを歩いおいた。
    「久矎子惚れちゃったりしおねっ」
     同僚はその䞀蚀だけ顔を久矎子に寄せ、小声で冗談を蚀った。
    「いやだぁ」
     久矎子のリアクションは倧きかったが、声は小さかった。
    「ははっじゃね」
    「頑匵っお」
     同僚はそう蚀っお自分の郚眲のドアを開け、久矎子は歩きながら軜く手を振った。


              △


     涌介は空になったダンボヌル箱を片付けおいた。LDKの真新しいマンションのリビングは玐解かれた荷物で足の螏み堎が無い皋になっおいた。
    やれやれ・・・
     ほろ酔いのせいか涌介が吐いた溜息には充実感が混じっおいた。
     ただカヌテンの付いおいない号宀の窓から月が芋えおいた。ベランダ越しには〝叞〟が暖簟を構えるマンションの最䞊階が芋えおいた。
     月日の火曜日、涌介は瀟䌚人になっお初めお仕事に远われない幎床末を過ごしおいた。

     月日の月曜日、涌介は業務倖のスケゞュヌルはなるべく早く枈たせたいずする思いず、久し振りに味わう本瀟の空気がどんなものだったのか早く思い出したいずする気持ちの䞋、2週間皋前に人事郚から通達されおいた着任埌の予定を倉曎しお貰い、瀟長を始め䌚瀟の䞭枢である䞊局郚ぞの挚拶回りを枈たせおいた。倜は昌間の顔ぶれに加え、戊略䌁画宀ず䞊んで䌚瀟の舵取りを担う経営䌁画宀の宀長や各郚眲の郚課長ず共に関内で䌚食をしおいた。
     涌介は日を䌑みに充おる為に業務スケゞュヌルを組み蟌んでいなかった。それ故今日の昌間も以前お䞖話になった取匕先ぞの挚拶回りに時間を割き、或いは旧亀を枩める為に各店舗を廻っおいた。
     入瀟圓時涌介を指導しおいた元町店の店長は、涌介が北九州支店に転勀になった次の幎に本瀟レストラン事業郚の郚長になっおいた。昚日の䌚食の堎に姿が無く、その人事を知らなかった涌介は顔を出した元町店から盎ぐ本人に連絡を入れ挚拶を亀わし、誘われるたたに今倜、旧知の瀟員達や初めお䌚う瀟員達ず共に居酒屋で話を積もらせおいた。

    いいな、やっぱり・・・
     涌介は倉わらない仲間や行き付けだった居酒屋のある犏富町の掻気に刺激を受け、暪浜に戻っお来た事を実感しおいた。
    明日にするかな・・・ん・・・
     立ち䞊がった涌介が䜕気に投げた芖線の先には高く積たれたTシャツや䞋着があった。その䞭皋に、ある意味芋慣れた掟手な色のシャツがあった。
    あい぀・・・
     涌介ぱリカのカット゜ヌを手に持っおいた。
     結局涌介はその積たれた衣類の䞭から゚リカのカラフルなパンツや化粧品を数点芋぀けおいた。
    〝このパンツ奜きだったよね^^〟か・・・
     酔いも手䌝い、涌介は小さく䞞められた癜い綿のパンツにだらしない笑顔を浮かべ、挟み蟌たれおあったメモを読んでいた。
    「・・・・・」
     涌介は先週の土曜日、別れたくないず明るく蚀った゚リカずの時間を思い出しおいた。そしお小倉を離れる前迄の日曜日を思い出しおいた。


              ▜


     日曜の昌、身支床を敎えた涌介は幎間䜏んだ郚屋を芋枡しおいた。未だ逊生されおいないテヌブルやチェストの呚りに雑然ず積たれたダンボヌル箱がフロアを占領しおいた。涌介は暫く䞻が居なくなる郚屋の空気に觊れながら、やはり人の営みが途絶える郚屋はこんなに冷たく也いたものになるのかず少し哀愁を感じおいた。
     北九州空枯は海の䞊に圚った。空枯建蚭ず同時に敎備された橋梁や呚蟺の道路は、そこだけ切り取れば東京や暪浜の臚海郜垂に匕けを取らない景色があった。
     涌介は空枯に向かう途䞭、タクシヌの窓越しに芋える街䞊みを眺めながら〝絶察に送っお行きたす〟ず蚀っおいた岡郚に電話を掛けおいた。
     暪浜での業務予定が急遜倉曎になり、午前䞭の䟿に乗っお既に矜田から暪浜ぞ向かっおいるずいう涌介の嘘を岡郚は優しく叱っおいた。

    思ったより少ないな・・・
     搭乗手続きを枈たせた涌介は閑散ずした北九州空枯のアトリりムを芋枡しながら埅合宀に向かっおいた。
    ・・・
     涌介の芖線は芋慣れたシル゚ットに向けられおいた。そしおそのシル゚ットは出発ゲヌトの前で誰かを埅っおいるかの様な動きを芋せおいた。
    ふっ・・・
     肩先で緩く内偎に捲かれたブラりンの髪が揺れおいた。近づくに連れ、少し䞍安そうな衚情も芋お取れた。
    「・・・・・」
     ゚リカが芋送りに来おくれおいるずは思っおもいなかった涌介は、誰にも悟られない様に埮笑みを浮かべた。
    「・・・」
     ゚リカは近付いお来る涌介を芋付け、嬉しそうな笑顔を溢れさせおいた。 涌介はクヌルな雰囲気を態ず醞し、ゆっくりず歩いおいた。
     ゚リカはい぀もの気障な涌介の姿に駆け寄りたい衝動を芚えおいたが、その堎所で埅っおいた。
    「えぞっ」
     背䞭で䞡腕を組んでいた゚リカの䜓は䞊目遣いで少し揺れおいた。
    「仕事は」
     ゚リカの爜やかな笑顔に、涌介は自分らしく居られた二人の蜜月を思い出しおいた。
    「具合が悪いっお早退しちゃった」
    「日曜忙しいのにたた文句蚀われるぞ」
    「倧䞈倫、慣れおる」
     ゚リカは曎に爜やかな笑顔を涌介に向けた。
    「・・・・・」
    「どうしたの」
     穏やかに笑ったたた䜕も喋らない涌介にそう聞いた。
    「いや、思い出しおたんだよ・・・俺ぱリの玠盎さや玔粋さに沢山救われおたんだなっお」
    「ぞぞヌ・・・」
     ゚リカは照れおいた。
    「ドラマの䞻圹充分匵れるな」
     涌介は少し茶化した。
    「えヌそんな事考えた事無いし匵れる蚳ないじゃん・・・あっ 分かった それなら涌介っおいう脇圹が最高だったんだよきっず」
    「ふふっ・・・匷請っおも今日はプレれント無いぞ」
    「残念」
     ゚リカも涌介ず同じ様に、涌介ず蜜月だった日々を思い出しおいた。
     アトリりムは静かだった。
     搭乗開始迄には充分時間があった。
    「有難う」
     涌介は䞁寧に気持ちを䌝えた。
    「ううん、私が䌚いたかったんだもん・・・それに昚日泣いちゃったし」
     ゚リカは照れ笑いを浮かべおいた。
     涌介は愛おしさを募らせおいた。
    「本圓に有難う。俺はあなたから色んなものを教えお貰った。感謝しおる」
    「そんな事蚀わないで・・・感謝しおるのは私の方なんだから・・・だっお、䞀杯䞀杯色んな事やっおくれお・・・䞀杯䞀杯色んなもの貰ったもん・・・」
     ゚リカは今たで垣間芋る事が無かった、愛情が織り成す造詣の深さを感じさせおくれた涌介に感謝しおいた。
    「ぬるい男でごめんな」
    「そんな事無い・・・楜しかった・・・」
    「有難う・・・じゃあ・・・行くから」
    「うん・・・」
    「車の運転、あたり無茶すんなよ」
    「・・・了解」
     泣かないず決めおいた゚リカの瞳には涙が溢れおいた。
    「じゃあな」
     涌介はそう蚀っお右手を差し出した。
    「・・・じゃあな、涌介」
     ゚リカは少し匷がった顔で〝ためぐち〟を利き、涌介の右腕に思い切り包たった。
    「今日は泣かないんじゃなかったのか」
    「あはっ・・・行かせたくないっお思っおたら泣いちゃった」
     ゚リカは涌介のスヌツで涙を拭きながら、笑った。

    「ねっ」
     ゚リカはゲヌトに向っお歩き始めおいた涌介を止めた。
    「・・・・・」
     涌介は振り向いた。
    「・・・ねっ・・・」
    「・・・・・」
     ゆっくりず涌介ぱリカの䞋ぞ戻っお来た。
    「やっぱ内緒」
    「・・・了解・・・じゃあな・・・」
    「ねっ・・・最埌にもう䞀床れノンの逆説教えお」
     ゚リカはゆっくりず埌ずさりながら螵を返そうずした涌介にそう蚀った。
    「゚リ・・・」
    「キスぐらい出来るんだから・・・」
    「・・・・・」
    「行かせたくない・・・」
     ゚リカの消え入る様な声が涌介の心に届いおいた。
     力䞀杯涌介に抱き付いおいた。
     ゲヌトに入ろうずしおいる人達は二人に遠慮する様に歩いおいた。
     アトリりムは静かだった。
     二人の居る堎所にだけ、曎なる静寂が蚪れおいた。
    「・・・な、キスは出来るだろ」
    「ばか・・・」
    「・・・有難う」
    「じゃあね・・・」
     ゚リカは最んだ瞳のたた笑顔を芋せた。
    「・・・・・」
     涌介ぱリカのその衚情に䞀぀笑みを残し、静かに螵を返した。
    「ねっ」
    「・・・・・」
    「今床こっち垰っお来た時゚ッチしよっ」


              △


    「ほんずあのク゜䞍動産屋い぀も無理な事ばっかり蚀いやがっお」
    「そんな事蚀わないの」
    「どうせ䜕でもやるんだろぐらい思っおるのが嫌なんですよ。たかがA折蟌み䞇郚ぐらいで」
    「鎌田君」
     マキは蚀葉を眮く様に名前を呌び、窘めた。
    「広告の事䜕も分かっおないくせに」
    「だから無理蚀うのよ」
     マキは助手垭の鎌田を芋ながら、打ち合わせの垭で自分も感じおいた苛立ちも䞀緒に諭すかの様にそう蚀い、スモヌルランプを点けた。
     薄暮から倕闇ぞ倉わろうずする囜道号は䞊䞋線共枋滞しおいた。
     月日、クラむアントずの広告最終チェックが終わり䌚瀟ぞ戻る二人の間には疲劎感が挂っおいた。

    「ただ苛぀いおる」
     マキは頃合いを蚈っおいた。
    「いえ、もうそうでも・・・この枋滞の方が苛぀きたすよね」
     暫く車内に䌚話が無かった分、鎌田は萜ち着きを取り戻しおいた。
    「・・・あのね、私が偉そうに蚀う事じゃないんだけどね、小さな仕事でも同じ仕事だし、䞁寧にやんなきゃ駄目なのよ。媚びるずかじゃなくおさ。䞖間っお意倖ず狭いし、クラむアント同士が䜕凊でどう繋がっおるか分からないし、印象悪くしお倉な噂流されたら倧きなコンペで勝おなくなっちゃうしね」
    「・・・打ち合わせの時の僕が雑で荒かったっお事ですか」
    「そうね・・・珟堎に因っお態床が違う事倚いず思うよ」
     郚䞋ぞの忠告ずしお、マキは䞁寧にそう蚀い切った。
    「・・・・・」
     鎌田は正面を芋たたた黙っおいた。
    「ほら、昔誰か蚀っおなかったっけ 小さい仕事皋慎重にやれっお」
    「聞いた事ありたすけど、その話、あの䞍動産屋には圓お嵌たらないですよ」
    「そう」
    「きっずたた制䜜費倀切っお来たすよ。今日もマネヌゞャヌが垭倖しおる時に〝お宅んずこ、時間掛ける割には仕事が粗いよね〟ずか〝次も頌むから色々宜しくね〟みたいな事俺に蚀いたしたもん。こい぀めっちゃネタ振っおやがるっお。ああいう䌚瀟は叩けるだけ安く叩いお圓然ぐらい思っおるし、気を䜿っおやるだけ無駄ですよ、なめられるだけですもん」
    「そうね・・・でもだからっおそれを態床に出しちゃ駄目だわ。察話や亀枉は鏡に映る自分ずやっおるっお思わなきゃ。鎌田君が向こうの理䞍尜に食い぀いたら思う壷だし、こんな時はこうするみたいな自分ぞの玄束事、幟぀か䜜っずかなきゃ」
    「・・・・・」
     鎌田は黙っお聞いおいた。
    「やりたくなかったり気が乗らなかったりっお私だっおあるもの。だからそんな時にはね、い぀も客芳、客芳っお自分に蚀い聞かせおるの」
    「・・・・・」
     鎌田は自分の考え方や思いを口にするかどうか迷っおいた。
    「・・・あれ 鎌田君っおこの蟺に䜏んでなかったっけ」
     マキは鎌田のプラむベヌトに話題の矛先を倉えた。
    「そうです」
     鎌田はマキの機転にすぐ答えた。
    「この蟺りも䜕だか物凄く倉わったよね」
    「そうですね」
     車は阪東橋亀差点で信号埅ちをしおいた。
     通り沿いに林立するビルの茪郭は、既に闇に混ざっおいた。
    「・・・状況刀断埗意なんだからい぀もそれをやれば良いだけなんじゃない それに鎌田君はいずれ人の䞊に立たなきゃいけないんだから」
     ハンドルを握るマキの暪顔は穏やかに笑っおいた。
     鎌田はマキの声がい぀ものトヌンに戻っおいる事に気が付いおいた。
     疲劎感の挂っおいた車内の空気は倉わり始めおいた。
    「そうね、北暪浜䞍動産の人っお、私達の仕事、玠材を切り貌りしおるぐらいにしか思っおなさそうよね・・・」
    「ほんずあの担圓ムカ付く」
    「ムカ付くよね・・・でもさ、そういうの党郚含めお営業の仕事だっお割り切っお頑匵ろうよ」
    「・・・はい」
    「よしっ」
     笑顔のマキは前を芋たたた鎌田の肩を叩いた。
     車は関内駅の高架を朜り、尟䞊町亀差点の右折レヌンに入ろうずしおいた。
    「・・・適正な利益は守るから。私だっお舐められたくないしさ。利益削るのが圓たり前みたいになっちゃうず、結果的に倧きな仕事ずか良いクラむアントが離れお行っちゃうし」
    「そうですよね。分かりたした」
    「ね、い぀も蚀わせお貰っおるけど、センス、バランス、タむミングよ」
    「・・・それず客芳、掞察、分析ですよね。なかなか難しいですけど」
     鎌田は玍埗ず反省の意思をマキが仕事の折々で口にする蚀葉で䌝えた。
    「北暪浜䞍動産ずはセンスが合わないだけなのよ」
    「ははっ、そうなんですかね」
    「そうよ、䞁寧だけど実はこっちが䞻導暩握っおるから腰が䜎いだけで媚売っおるんじゃないわよ的なバランス出しお行こ」
     マキは䜕時かのバラ゚ティ番組で䜕凊かの芞人がやっおいた喋り方を真䌌た埌、少しドダ顔を鎌田に向けた。
    「ははっ、分かるけど分かり難いですよ、䌌おないし」
     鎌田はマキのセンスに食い付いおいた。
     車は尟䞊町の亀差点を右折しおいた。
     正面には暪浜スタゞアムが芋えおいた。
    「いいじゃん、そんな感じだっお事よ」
     マキは笑顔でそう蚀った埌、䌚瀟の圚るビルの地䞋駐車堎に入る為に巊りむンカヌを点滅させ枛速した。

    「北暪浜䞍動産、折蟌み前にかなり倀切っお来たすよ」
    「分かっおるわ。タむミングを蚈っお、毅然ず断っお、次の仕事も毅然ず断る」
     車を降りた二人ぱレベヌタヌに向かっおいた。
    「私だっお䞍毛な倀匕き亀枉は趣味に合わないし、私達の仕事で薄利倚売っお結局は䌚瀟の評刀萜ずすもの」
    「分かりたした。倧いに分かりたした。ちょっずマネヌゞャヌの事誀解しおたした。すみたせん」
    「・・・・・」
     マキは笑っおいた。
    「でもあの担圓、ほんず俺の事なめおるんですよね」
    「いいじゃない、䞍毛な亀枉しか出来ない人になめられおも痛くも痒くも無いでしょ」
    「はい・・・ははっ、そう蚀えばあの担圓、髪も䞍毛ですよね」
    「ははっ・・・ね、今倜飲み行こっか」
    「もう党然OKっすよ」
    「あ、駄目だ。今倜デザむナヌさん達結構な残業になるかも」
    「そっか・・・」
    「入皿明日の時迄だよね」
    「そうです。それでギリです」
    「私達も手䌝わなきゃ」


    鎌田韍之介か・・・倧䞈倫だず思うけどな・・・
     マキはメモ代わりに走り曞きをしおいた名刺の名前を芋た埌、電話応察をしおいる本人を芋おいた。
       今幎の月、歳を迎える山厎マキはオヌセンティック・アドバタむズメント・デザむンずいう広告代理店の暪浜支瀟に勀務しおいた。倧孊卒業埌の幎間は南青山に圚る本瀟勀務だったが幎前の月、クリ゚むティブマネヌゞャヌずしお暪浜支瀟に転勀しおいた。
     鎌田韍之介は歳だった。倧孊卒業埌、個人事務所の様な広告代理店で働いおいたが、数幎前から志のベクトルが違う䌚瀟にけじめを぀けたいず考えおいた。そんな折の昚幎月、オヌセンティック・アドバタむズメント・デザむンの業務拡匵に因る人材募集を知り、2ヶ月間に及んだ採甚詊隓を突砎しお暪浜支瀟に配属されおいた。
    自分を信じなきゃ・・・
     曞類敎理をしながらマキは考えおいた。
     マキは以前から自分の䌚瀟の評刀に少しやっかみの様な感情が入っおいる事が気になっおいた。堅実で良質な仕事を継続する事で䞊がる評䟡ず増える新芏の䟝頌は、ずもすれば党おに斌いお曖昧が矎しい慣習であり、仕事の様匏なのではずしおいる業界䜓質から考えれば異端に近かった。
     異端はスポむルされる事が倚かった。ある皮耒め殺しの様な状態ならただしも、連垯されお正面から朰される事もあった。
     どの業界でもそういう郚分は有るが、特に広告業界はクラむアントを他瀟から奪う為の氎面䞋の策略に神経を䜿っおいた。それ故、瀟員の些现なミスで着々ず進めおいた芏暡の倧きいプロゞェクトが突然反故にされる事もあった。
     入瀟しお半幎䜙り、鎌田は高いモチベヌションを維持し続け、自信に満ち溢れ、自分ならどんなに耇雑で倧きな仕事でも結果を出せるず信じおいた。マキはそんな鎌田が醞す察人折衝の際の態床に、い぀かクラむアントを傲慢に捩じ䌏せ、軋蜢を生み、トラブルを起こしおしたう危険があるず考えおいた。
     マキは鎌田が持぀力量を掻かし、些现な事で足を掬われない様にサポヌトするには女性である自分がどんな蚀動をすればいいのかを考えおいた。
    「マネヌゞャヌ、長谷川物産の山厎さんからお電話です」
    「はい・・・ごめん、ちょっず保留しずいお」
     マキは察面で聞こえる鎌田の声を区切り、掛けお来た電話の盞手に昚日の出来事を思い起こし始めた。
    「・・・もしもし・・・どうしたのよ久矎子、昚日」
     マキは頭を切り替えた。
    「・・・寝おた・・・寝おたっおどヌゆう事・・・忘れおた」
     マキの頭の䞭は完党にプラむベヌトに切り替わっおいた。
    「お店予玄しおあったんだから・・・銬車道よ・・・そうよ、結構どころか高玚な割烹よ」
     マキは芖界に入っおいる鎌田を気にしながら感情を抑えお喋っおいた。
    「おなたのお陰で束䞋チヌフず時間近く飲んだんだから・・・そうよ、だから謝っおばっかりよ」
    「・・・誰っおりチの優秀なデザむナヌよ・・・栌奜良いに決たっおんじゃない・・・だっお圓たり前じゃない、芪戚になる可胜性あんのよ、倉な人玹介出来る蚳無いじゃない」
     マキは曎に声も抑えた。
    「䜕で携垯に電話しないのよ・・・え・・・そう・・・そうなんだ・・・」
    「・・・・・」
     鎌田はマキの方を時折り芋ながら仕事をしおいた。
    「・・・もう二床ず玹介しないからね・・・うん・・・分かった分かった・・・じゃあね」
     電話を切ったマキは、少しの間二人の䞋に蚪れるだろう沈黙を嫌い、盎ぐに鎌田を芋た。
    「マネヌゞャヌ、久矎子久矎子っお蚀っおたしたけど仲良いんですか それずも芪戚の方ずか」
     鎌田は自分から切り出す前にきっかけをくれたマキにそう聞いた。
    「効なのよ」
    「えっ マネヌゞャヌ効さん居らっしゃったんですか」
    「居るのよ」
    「ぞぇヌそうだったんですね」
    「そうなのよ」
     長谷川物産は真砂町に圚った。オヌセンティック・アドバタむズメント・デザむンは尟䞊町に圚り、二぀の䌚瀟は尟䞊通りを挟んでブロックの所に䜍眮しおいた。その利䟿性故䞡瀟は以前から䞀緒に仕事をする事で調敎を続けおいたが、それぞれに取り巻く関連業者の状況をクリア出来ないたた保留状態が続いおいた。結果的に取匕は久矎子が本瀟勀務になった埌から始たり、課での初仕事ずしお久矎子が東奔西走した事は事実だが、取匕開始最倧の芁因は幎前暪浜支瀟に転勀になり、長谷川物産ずの仕事を絶察に決めたいずするマキの尜力が党おだった。
    「いやあ、党然気付きたせんでしたよ。結構顔出しおるのにマネヌゞャヌそんな事䞀蚀も蚀わないから」
    「別に隠しおた蚳じゃないのよ、そんなタむミングが無かったの」
    「で、䜕凊の郚眲で働いおるんですか」
    「えっずねぇ、レストラン事業郚の店舗管理課だったかな」
    「ぞぇヌ」
     鎌田は久矎子の存圚に興味を瀺しおいた。
    「ほら、販促の打ち合わせっお䌁画開発郚ずするじゃない。だから向こうに行っおも䌚わないしね」
    「でも店舗管理課の人ずも䜕床か打ち合わせやりたせんでしたっけ」
    「その時は課が違ったんじゃない・・・あっ あるある、思い出した 鎌田君ず䜕床か䌚っおるよ」
    「えっ・・・お事は、こんな髪をしおお、黒いセルの・・・こんな県鏡掛けおた人ですか」
     初めお䌚った時の久矎子に奜印象を持っおいた鎌田は、その時の事を思い出しながられスチャヌを亀え、興味の赎くたた想像を重ねおいた。
    「そうそう。あれ䌊達県鏡なんだけどね」
    「ぞぇヌ」
    「それでね、長谷川物産の戊略䌁画宀に新しい宀長が来るんだっお。着任挚拶に来るらしいよ。ただ正匏じゃないらしいけど今の所月の日の予定だっお」
     マキは久矎子の話題を䞀先ず区切り、䌚瀟に掛かっお来た電話の理由を鎌田に䌝えた。
    「そうなんですか・・・でもそうなら、こっちが先に挚拶行った方がいいんじゃないですか」
    「そうね。それは考えおる。着任早々は忙しいだろうし、どんなタむミングがいいかなっお」
    「なるほど」
    「りチの䌚瀟、長谷川物産ずの取匕き倚いし倧切なクラむアントじゃない。だから久矎子の事前情報っお結構色々助かっおるの」
    「そっか・・・っお事は、最終プレれンの時には必ず居るっお事ですね」
    「そうなのよ・・・堅物の脂っこい人じゃなきゃいいけどね」
    「ははっ、それ、前の宀長ディスっおたすよ」
    「ぞぞっ」
    「・・・䞀぀聞いおいいですか」
     今床は鎌田が話題を切り替えた。
    「䜕」
    「マネヌゞャヌがたたに蚀っおくれるセンス、バランス、タむミングっおい぀頃意識し始めたんですか」
    「えっ あ、どうしたのよ突然」
    「いえ、ずっず思っおたんですけどマネヌゞャヌっお僕が考えおた女性の䞊叞像ず党然違うんですよね、柔らかいし懐深いし」
    「ほんずどうしたのよ、そんな事」
    「で、どうなんですか」
    「・・・若い時にある人から時々蚀われおたのよ」
    「䞊叞からですか」
    「違うの」
    「・・・・・」
     鎌田はその吊定の先にあるマキの話を埅っおいた。
    「その時はあんたり理解出来なかったんだけど、今はもの凄く圹立っおる。だからい぀か鎌田君にも圹立おお欲しいず思っお」
    「なるほど」
     鎌田は曎に埅ち、マキずいう䞊叞の内面を探ろうずした。
    「・・・その人、最良ず最悪の結果を䞡方準備出来る人は必ず負けないみたいな事も蚀っおた。最埌は人だからなっお・・・その蚀葉、今は分かる気がするのよね」
    「マネヌゞャヌ、その人ず今も䌚ったりしおるんですか」
    「ううん、今は疎遠になっちゃっおる・・・䌚いたいんだけどね」
    「その人にも興味ありたすよね。ひょっずしお昔の圌氏さんですか」
    「にもっお・・・久矎子に興味あるの」
    「だっお、束䞋チヌフに玹介する蚳ですから圌氏居ないんですよね」
    「別れたばっかみたい」
    「聞こえおたしたよ」
    「ははっ、そうなの」
    「でも僕はすっぜかされたくないな・・・で、圌氏さんだったんですか」
    「えっ あヌ、そうね・・・叀い話よ・・・本圓はね、私そんな匷くないの、盞談される偎に芋えるらしけど違うの」
    「・・・・・」
    「・・・その人にずっず支えられおたのよね・・・気付かなかったけど・・・匷がっちゃっおたし・・・た、いいじゃない、色々あったのよ」
    「今も奜きなんですね」
    「ははっ、そんな事ないわよっ・・・うわっ、もう時半じゃない。修正手䌝に行くわよっ」


    始たるな・・・
     涌介は階の窓から根岞線を埀来する電車を芋䞋ろしおいた。
     真砂町に圚る階建お自瀟ビルの関内駅偎に面した個宀が涌介の新しい仕事堎だった。今幎の春に歳になったばかりの䜐久間涌介は、月日より長谷川物産戊略䌁画宀宀長ずしお人生を新たに構築する機䌚を䞎えられおいた。
     戊略䌁画宀は経営䌁画宀ず䞊び長谷川物産グルヌプの珟堎に斌けるトップずしお瀟員に認知されおいた。経営䌁画宀は䞻に䌚瀟の資産管理を担い、䞍動産や物流、経理、総務などを統括し、戊略䌁画宀は文字通り䌚瀟の発展や運営を担う䌁画開発、癟貚店事業やレストラン事業を統括しおいた。
     幎前、䌁画開発郚課長代理ずしお北九州支店に着任しお以来、ファミリヌタむプのレストランである魚町店の経営を建お盎し、倧手町に新芏オヌプンするレストランのコンセプトに懐疑的だった䞊局郚を論理的に説埗し、高玚むタリアンずしお軌道に乗せおいた涌介は経営陣からその手腕を高く評䟡されおいた。各店舗の店長や取匕盞手からも、その颚貌ずは䞀線を画する人柄に奜感を抱かれおいた。経営陣はそんな涌介の柔軟な姿勢や仕事の緻密さに、若き管理職ずしお䌚瀟を発展させお欲しいず考えおいた。
     涌介が北九州支店に転勀ずなった理由は぀あった。本瀟䌁画開発郚で頭角を珟し始めた涌介の力量を経営陣が詊したかったのはもちろんだが、小倉が涌介の地元だった事や高霢だった前任の癒着や暪領疑惑もその人事に圱響しおいた。
     本瀟に戻った理由も぀あった。北九州支店ず同様、前任の戊略䌁画宀宀長が抱えおいた背任行為が幎床末に発芚し、経営陣は察倖的にその察凊ず凊遇に迅速を求められおいた。同時に以前から管理職の若返りを図り、䌚瀟の䜓質改善に貢献出来る人材を探しおいた。぀目は涌介が北九州支店に転勀した幎から幎続けお本瀟埩垰芁望曞、自身の営業哲孊を蚘した皟議曞、瀟員の目から芋た䌚瀟運営に関する意芋曞を䞊局郚に提出しおいた事が人事を埌抌ししおいた。゚リカず出䌚い、その情熱を封印しお小倉に骚を埋める芚悟を決めた翌幎の春、経営陣は涌介を適任ず刀断しおいた。
     経営陣は幎功序列や実力至䞊䞻矩䞀蟺倒ではなく、䌚瀟の䜓質改善に躊躇なく切り蟌める柵の無い客芳性や顧客や瀟員ぞの柔軟な察応、女性の感芚をバランス良く掻甚出来る人材を求め涌介に癜矜の矢を立おおいた。䜕れにしおも経営陣の考え方や決断が果敢である事に間違いは無く、涌介に蚗された肩曞きが異䟋の抜擢であり特進である事も間違いでは無かった。


    始たるな・・・
     月日の朝、久矎子は化粧宀で手を掗いながら鏡に映る自分を芋ながら、幎前の同じ日、倧勢の瀟員の前で挚拶をした時の事を思い出しおいた。
     歳の半ばを過ぎ様ずしおいる山厎久矎子は入瀟幎目だった。入瀟埌はヶ月の本瀟研修を経お山䞋町に圚るむタリアレストランに幎間勀務し、その埌レストラン事業郚に欠員が出た事を受けお店舗管理課に配属されおいた。
     久矎子ず涌介は幎の間、い぀䜕凊で䌚っおもおかしくない状況䞋で仕事をしおいた。しかしレストラン勀務だった久矎子ず本瀟内勀務の涌介ずの生掻動線に接点は無く、圹職では無い久矎子が本瀟の行事に顔を出す事も無く、二人の蚘憶にはそれぞれの名前が無いたた珟圚を迎えおいた。

     階の倧䌚議宀には本瀟勀務の瀟員党員ず本瀟管蜄の各店舗や倉庫勀務の管理職が集合し、雛壇を含めるず名皋の埓業員が怅子に座り新幎床朝瀌の始たりを埅っおいた。
     久矎子は暪に垭ず぀䞊んだ怅子の列目䞭倮蟺りに座っおいた。
     宀内にはただ雑談が続いおいた。
    早く終わんないかな・・・
     瀟長を始め、取締圹の話や新たな顔ぶれが䞀人䞀人抱負を語る流れが時間近く掛かるだろう事に、久矎子は俯き加枛にそう思っおいた。
     涌介は新たに本瀟に配属された名ず郚眲が倉わる名の瀟員、今幎床入瀟した新人Ⅰ5名ず共に壇䞊の怅子に座っおいた。
     雑談は続いおいた。
     倧䌚議宀は瀟長の到着を埅っおいた。

     新幎床最初の朝瀌は瀟長の挚拶を皮切りに粛々ず進んでいた。叞䌚を務める総務課長の人間味溢れる進行が䌚堎の空気に和みを䞎えおいた。瀟員は皋々に飜きもせず、新たな顔ぶれの挚拶を聞いおいた
    戊䌁の宀長っおどの人だろう・・・
     久矎子は埐に顔を䞊げ、少しだけ鋭い芖線を壇䞊に投げた。
     匏次第は新人や異動する瀟員の挚拶を経お終盀を迎え、埌は3名の管理職の玹介ず挚拶が残るだけずなっおいた。
    芋えないなぁ・・・
     雛壇に座る名の管理職の姿は久矎子の䜍眮からでは挔台に邪魔をされ芋えなかった。
    「・・・・・」
     久矎子は隣に座る同僚に重なる皋身䜓をずらし、芋えない人を芋ようずしおた。
       挚拶の終わった管理職の䞀人が挔台から離れた。残された挚拶は戊略䌁画宀の新しい宀長だけだった。
    「・・・・・」
     久矎子は誰も居ない挔台に芖線を固めおいた。
    「それでは最埌に戊略䌁画宀宀長を玹介したすが、その前に瀟長、䜕か䞀蚀埡座いたすか」
     叞䌚圹の総務課長の声は良く通り、その進行にも時折り蚈らいやアドリブを加えおいた。
     瀟長は満を持した様な笑顔で立ち䞊がった。
    「・・・・・」
     久矎子は予期せぬ瀟長の再登堎に固めおいた芖線を解き、無い物を匷請る子䟛の様にたた身䜓をずらし始めた。
    「今日は長い時間皆埡苊劎さん。最埌の玹介になるが旧知の諞君も居るんじゃないかな 北九州支店で幎勀めお今幎床本瀟に戻っお来た優秀な人材だ。ただ独身らしいぞ・・・なあ䜐久間君、圌女は居るのかね・・・たあ、戊略䌁画宀の宀長ずしお今日から皆ず䞀緒に働く事になるが、その前に戊略䌁画宀の諞君にはヶ月近く宀長䞍圚で迷惑を掛けお申し蚳なかった。今日から新しい宀長の䞋で頑匵っお欲しい。それでは䜐久間宀長、挚拶を宜しく」
     瀟長はにこやかに冗談を䞀床涌介に向け、涌介は笑顔で恐瞮し、宀内に緩和を霎した埌、涌介を挔台ぞ誘った。

    「䜐久間涌介です。宜しくお願いしたす。」
     涌介の第䞀声は簡単で柔らかく䞁寧だった。
    「・・・・・」
     久矎子は凝芖し続けおいた。
    「飯田郚長、お久し振りです」
     涌介は最前列に座っおいた同期の飯田ず目が合った事を期に、そう機転を利かせ䌚議宀の空気を曎に和やかなものにした。
    「・・・・・」
     久矎子は雷に打たれおいた。䞀人の男性が攟぀、党おを焊がす様な埗䜓の知れない匷い力に身䜓を瞛られ、胞を締め付けられ、呌吞を止められおいた。
    「・・・・・」
     久矎子は挚拶を続ける涌介を匷烈に芋続け、その瞳で涌介の姿を脳裏に焌き付け続けおいた。
     久矎子は䞀瞬にしお恋に萜ちおいた。
     想像を遥かに越えた䞀目惚れだった。
    「・・・それでは皆さん、お手柔らかにお願いしたす」
     涌介は挚拶をそう括った。
     宀内には拍手の音が響いおいた。
     久矎子は埮動だに出来なかった。
    「・・・・・」
     久矎子は䞀目惚れずはこういう胞の痛みを指すのかず思いながら、涌介の姿を党身に取り蟌み続けおいた。
     久矎子の恋心は過去に感じた事の無い、無意識に湧き䞊がる制埡の効かない情熱に突き動かされるかの様に胎動し始めおいた。その感芚は幎前、元町店でマキの姿を初めお芋た時に涌介を射抜いた衝撃ず同じ情熱だった。


    「うわっ」
     マキは開けた玄関が倖から思い切り匕っ匵られた事に驚いた。
    「ねぇ聞いおよっ」
     勢いでよろめいたマキに久矎子はそう叫んだ。
    「ねねっ、聞いお聞いおっ」
    「どうしたのよいきなり・・・䜕か良い事でもあったの」
     久矎子は玄関にマキを眮いたたたリビングに向い、マキはゆっくりず戻っお来た。
    「あったの・・・おか、そんな゚プロンしちゃっお姉さんこそどうしたのよ」
    「あ、これ 和明さんが買っお来おくれたのよ、䌌合うからっお」
    「䌌合うからっお、゚プロンなんか付ける人じゃないくせに」
    「そうなんだけどさぁ」
    「ラブラブなのねっ」
     䞊着を投げ、゜ファに深く身䜓を沈めた久矎子は楜しそうだった。
    「䜕蚀っおんの、そんなんじゃないわよ・・・おかね、もう盎ぐ来るのよ」
    「えっ そうなの 聞いお無いよ」
    「蚀っおないもん」
     マキは久矎子が投げた䞊着をハンガヌに掛けおいた。
    「えヌ折角話聞いお貰おうず思っおたのに」
    「いいじゃない和明さん居おも。䞉人で食べようよ」
    「・・・良い匂いしおるね。䜕䜜っおたの」
     久矎子はマキの話を暪に眮いたたたキッチンぞ歩き、そう聞いた。
    「メむンはね、トマトずバゞルのフェットチヌネ」
    「ははっ、それっおこの前りチのレストランでレシピ教えおあげたや぀じゃない」
     食材を手に取りながら久矎子は笑っおいた。
    「いいじゃない、だっお矎味しかったんだもん・・・ね、先に䞀杯飲もっか」
     歩み寄っお来たマキは寞胎に掛けた火を止め、冷蔵庫に手を䌞ばした。

     二人はリビングの゜ファに座っおいた。
     マキは取り敢えず䜜り掛けの惣菜をテヌブルに䞊べおいた。
    「姉さん黒ビヌル奜きね」
     久矎子は出された瓶のスタりトをマキのグラスに泚いでいた。
    「だっお矎味しいじゃない・・・䞀杯目はこれが䞀番なのよ・・・じゃ也杯」
     マキはそう蚀っお、久矎子が自分のグラスに泚ぎ終わるのを埅たずに半分ぐらいを䞀気に飲んだ。

    「やっぱり遠慮しずく」
     二人の間に暫く続いた䞖間話の埌、久矎子はそう蚀った。
     今日の午埌、久矎子はマキに今倜䞀緒に食事をしようずメヌルをしおいた。マキはその誘いには即答せず、暫くしお自宅で埡飯を䜜るからず折り返しおいた。
    「駄目よ、䞉人分䜜っおるんだから」
    「んヌ止めずく。ラブラブの邪魔したくないもん」
    「どうしたの い぀もそんな遠慮なんかしなくせに」
    「ぞぞっ、悪いじゃんやっぱり・・・恋っお玠敵だもんねっ」
    「本圓にどうしちゃったのよ・・・それより話っお䜕なの良い男に告癜でもされたの」
    「ぞぞっ」
    「・・・されたの」
     マキは少し身を乗り出した。
    「今倜話すの、もう止めようず思ったんだけど・・・結婚盞手芋぀けたの」
    「えっ じゃやっぱり告癜されたんじゃない」
    「違う 物凄い䞀目惚れしちゃったの」
     過去に芋た事がない様な笑顔を芋せた久矎子にマキは驚いおいた。
    「・・・で、どんな人よ」
    「姉さんビヌルがない」
    「・・・・・」
     簡単に男性を奜きにならない、どちらかず蚀えば気の倚い久矎子のはしゃいでいる姿に匷く興味を持ったマキは、冷静に話を聞き出す為に立ち䞊がった。
    「・・・で、どんな人」
     冷蔵庫から持っお来た黒ビヌルをテヌブルの䞊に眮き、マキは聞いた。
    「新しい䞊叞」
    「新しい䞊叞っお、あなたの郚にそんな栌奜良い䞊叞が来たの」
     マキは久矎子のグラスに黒ビヌルを泚ぎながらそう蚀った。
    「違う この前電話で話した人」
    「電話で話した人っお・・・戊略䌁画宀の宀長」
     マキは曎に驚いた。
    「そうなの・・・今朝ね、朝瀌で芋た時にね、ガヌンッっお来たの」
     久矎子は喜んでいた。
    「ぞぇヌ」
    「もうね、党郚がタむプ」
    「ふぅヌん」
    「宀長だろうが䜕だろうが関係ない感じ」
    「・・・・・」
    「初めおだったの、あんな感芚・・・これが䞀目惚れかっお」
    「・・・・・」
    「だから䜕だか嬉しくお、姉さんに絶察蚀おうっお、絶察聞いお貰おうっお」
    「・・・・・」
    「めっちゃモチベヌション高いんだから 早く䞀緒に仕事したいしさっ」
    「・・・宀長でしょ 䞀緒に仕事する事っお無いんじゃないの」
     ずっず黙っお聞いおいたマキは、努めお冷静にそう話を切り出した。
    「有るよ 無きゃ䜜るっ」
     久矎子は二杯目の黒ビヌルを飲み干すず同時にそう蚀った。
    「あなたがそんなになるなんお盞圓なのね」
    「䜕だか分かんないけど予感がするの。ほら、姉さん昔蚀っおたじゃない、倧孊生の時に物凄い出逢いがあったっお。あの話理解出来るもん、今」
    「そう・・・」
    「ねねっ、姉さん達はい぀結婚するの」
    「えっ ただそんなんじゃないわよ」
     急に切り替えられた久矎子の質問にマキは少し焊った。
    「プロポヌズされおないの」
    「いいじゃない私の事は」
    「そうなのでも姉さんもう歳でしょ」
    「ただよ」
    「どっちにしおもいい歳なんだから考えた方が良いわよ」
     久矎子は惣菜を口に運んびながら冗談ぜく〝やれやれ〟ずいう顔をしおいた。

     山厎マキは今幎の月日を迎えれば歳だった。
     倧孊卒業埌マキは南青山の本瀟でデザむナヌずしお幎間勀務し、幎目を迎えた暪浜支瀟では営業を統括するマネヌゞャヌずしお勀務しおいた。
     本瀟勀務䞭、マキは恵比寿に圚る䌚瀟の寮に䜏んでいた。転勀が決たり居を移したが、根岞の実家ではなく山䞋町のみなずみらい線元町䞭華街駅を県䞋に出来る堎所にLDKのマンションを借りおいた。
    「じゃあ束䞋チヌフずの玄束は䞁重に断るわよ」
     マキは䞉杯目を自分のグラスに泚ぎながらそう蚀った。
    「えっ 䜕で 食事行くわよ」
    「行くわよっお久矎子、雷が萜ちたみたいな䞀目惚れなんじゃないの」
    「そうだけど、いいじゃない」
    「いいじゃな・・」
    「束䞋さんっお栌奜良いんでしょ 仕事もデキるんでしょ」
     久矎子はマキの蚀葉を遮り、そう被せた。
    「そうだけど・・・たあいっか。あなたが勝手に惚れおるだけだもんね」
     マキは姉ずしお芋お来た久矎子が、倉わらず久矎子たるべき考え方や振る舞いをしおいる事にある意味ほっずし、玍埗しおいた。
    「ぞぞっ」
    「で、その宀長、どんな感じの人」
    「もうね、芋た目冷たい感じなの。でも喋るず柔らかいの」
    「結婚しおるんじゃないの」
    「ううん、玹介する時に瀟長が独身っお蚀っおた。皆の前で」
    「えそれっお壇䞊でっお事」
    「そう・・・あの信頌されおる感じもいいのよね・・・この前ね、宀長の噂しおた時、難しそうずか癖ありそうずか色々聞いたけど、りチの郚長はね、昔䞀緒に仕事しおたらしくお、良い人だから玠盎に付いお行けば倧䞈倫だっお蚀っおたのよね」
    「ぞぇヌ」
    「今日芋おさ、分かるもん、郚長の話」
    「・・・名前は䜕お蚀うの」
    〝♬ピンポヌン〟
     むンタヌホンが鳎った。
    「あ、来た」
     久矎子はその音に反応した。
    「そうね・・・」
     マキは話を区切り立ち䞊がった。

    「はヌい・・・ちょっず埅っおね」
     マキは䞀応むンタヌホンで和明かどうかを確認しお玄関に向った。
     二人はタむミングを逃しおいた。久矎子が答え様ずした名前ず、その名前をマキが聞いた時、二人の間に始たる䌚話がお互いに取っおどんなに重芁で、どんなに今埌を巊右する事になるかもしれない話をするタむミングを逃しおいた。
    「やあ久矎ちゃん、元気」
     今倜和明はマキず食事に出掛ける筈だったが、午埌受信したマキからのメヌルず電話で予定倉曎を匷匕に了解させられおいた。
    「はい。お久し振りです・・・゚プロン可愛いですね」
     久矎子はマキが付けおる゚プロンを可愛く指差し、茶目っ気を和明に向けた。
    「そう 良かった」
    「じゃあ姉さん私垰る」
    「え食べお垰んないの」
    「うん・・・結構飲んじゃったし、割ずお腹䞀杯だし、邪魔だし」
     久矎子は和明を再床芋お悪戯っぜく笑った。
    「そんな事ないけど、倧切な話ずかっお、もう終わったの」
    「倧切な話・・・えっず、はい、そうですね」
    「・・・そう」
     和明の久矎子ぞの笑顔はそのたただった。
    「倧䞈倫なのかい」
     今床はマキに、少し蚝しがる笑顔で聞いた。
    「倧䞈倫よ和明さん、心配いらな・・・」
    「それじゃ垰りたす。お邪魔したした」
     久矎子はマキが喋り終わらない前に、二人に挚拶をした。
    「・・・垰り気を付けおね」
    「はヌい」
    「じゃあね」
    「・・・・・」
     玄関ぞ歩き出した久矎子にマキは぀いお行きながら、小声で〝ありがずう〟ず䌝えおいた。

     祐倩寺に䜏む歳の藀井和明は茞入自動車のディヌラヌに勀務し、䞭目黒に圚るショヌルヌムを䞻な仕事堎ずしおいた。
     ショヌルヌムは郜内に店舗圚った。その党おは父芪が䞀代で興しおいた。䞀人息子である藀井和明はいずれ䌚瀟を匕き継ぐ事になっおいた。
     マキず半幎前に亀際を始めおいた和明は圓然結婚を考えおいた。
     和明の䌚瀟は販促グッズや広告党般の提案を叀くからマキの䌚瀟に䟝頌し、今では匷い信頌関係の䞋で䞡瀟は取匕しおいた。本瀟勀務時代、広告のデザむンを担圓する事が倚かったマキは和明ず頻繁に顔を合わせおいた。しかし圓時はプラむベヌトで芪しくなる事は無く、マキの転勀を期に䌚う事も無くなっおいた。
     昚幎月の頭、暪浜垂内に圚るクラむアントのレセプションパヌティに招かれたマキは、そのパヌティで偶然和明ず再䌚し、二人はお互いの心に残っおいた圓時の印象を矎化しながらグラスを傟け合っおいた。そしおその印象を運呜付ける為に幎半の空癜ず偶然の再䌚を䞊手に利甚し、二人は急速に関係を発展させおいた。
    「ごめん、俺、そんなに奜きじゃないんだよ」
     和明は黒ビヌルを泚ごうずしたマキを柔らかく制した。
    「そうだったっけ」
    「・・・これで也杯しようよ」
     和明は自分が持っお来た赀ワむンをテヌブルの䞊に眮いた。
    「うん、いいよ」
     笑顔で受け入れたマキは赀ワむンがそんなに埗意ではなかった。

     久矎子が垰った埌のリビングは倧人の萜ち着いた空気が流れおいた。
     満足そうな和明をマキは少し埮劙な感芚で受け止めおいた。
    「あれ これ、マキが持っおたんだね」
     和明はサむドボヌドの䞊にあったCDを芋぀けおそう蚀った。
    「そうなの・・・あの曲、良かったから勝手に持っお来ちゃっおたの、ごめんね」
    「いや党然いいよ・・・そっか、だから䜕凊探しおも無かった蚳だ」
     マキの自宅は女性の郚屋にしおは䜙りにもシンプルだった。シックでモノトヌンの色䜿いがそう感じさせおいる郚分もあるが、生掻感の無い空間ずはある皮違う、本圓に必芁な物以倖は䜕も無く、幎間も䜏めばそれなりの雑貚や増えお行くだろう思い出の品物が、䜕の䞀぀も無い空間に眮いおあった䞀枚のCDは目立っおいた。
    「奜きなんだね、あの歌」
    「うん」
     マキは自分の郚屋が涌介の趣味に寄っおいる事にい぀の頃からか気付いおいた。そしお涌介が隣に座っおいる様な感芚に郚屋を寄せおいる事を、その頃からかほっずいおいた。
    「聞く」
    「いや、いいよ今は」
     マキは今倜久矎子が芋せおいた蚀動や和明ずの䜕でもない䌚話で涌介を思い出しおいた。和明ず付き合い始めの頃、暪浜に向う第䞉京浜で流れおいた曲にマキは涌介を思い出し、こっそりずそのCDを車から持ち出した事を思い出しおいた。

     マキが䜜った手料理がテヌブルの䞊を賑わせおいた。
     和明は矎味しそうに赀ワむンを嗜んでいた。
     二人の間には高玚レストランでの晩逐の様な空気が流れおいた。
    「マキ、料理䞊手いね」
    「ありがずう・・・・ね、私やっぱりビヌルにしおいい」」
     マキは付き合い始めお半幎になる二人の関係に足りない䜕かを感じ、足りおいるものも䜕かが違うず感じおいた。

    「枩泉行こうか」
     片付けを終え、䜕をするでもなくリビングでXPERIAを匄っおいたマキに和明は蚀った。
    「・・・いいね・・・でも䌑み取れるの」
    「ゎヌルデンりィヌクに䜕日か取れそうなんだ」
    「そう」
    「箱根かな、やっぱり」
    「そうね・・・」
    「どうした 䜕か考え事しおる」
    「ううん」
     マキは和明の前で涌介に哀愁を募らせおいる自分を銬鹿だず思っおいた。
    「料理䞊手いよな」
    「え それさっきも蚀っおたよ」
    「そうだったっけ・・・飲む」
     和明はそう蚀っお赀ワむンの入ったグラスを持ち䞊げた。
    「ううん」
    「どうした元気無いよ」
    「ちょっず酔っちゃったみたい」
    「倧䞈倫か」
    「・・・うん」
     マキは立ち䞊がり、ベランダの方ぞ歩いた。

     少し冷たい海颚が優しくマキの身䜓に觊れおいた。Fに圚るベランダから芋えるマリンタワヌのネオンは嚁圧する様な茝きを県前で攟っおいた。遠くにはみなずみらいの倜景や倧桟橋に停泊しおいる客船のラむトが煌いおいた。
    「倧䞈倫かい」
    「ありがず」
     氎を持っお来おくれた和明が郚屋ぞ戻る背䞭にマキは埮笑を残しおいた。
    予感か・・・
     倜景ぞ䜓を向き盎した埌、ベランダの゚ッゞに䞡肘を付いお頭に残っおいる久矎子の蚀葉を考え始めおいた。
     今倜久矎子が蚀った予感ずいう感芚は、蚀葉を亀わした事も無い涌介に恋をした事に躊躇った圓時のマキが、自分に察しお最倧限譲歩しお導き出した䞀目惚れの蚀い蚳ではなく、これから始たる自分の恋愛が最高の圢で実を結ぶず結論付けた前向きな情熱だった。
    涌介、今䜕凊で䜕やっおんだろう・・・
     マキは久矎子の姿を芋お昔の自分を思い出し、自分を信じる事に戞惑いや躊躇いなど県䞭に無い久矎子の恋の始たりを応揎したいず思っおいた。
    ぬるいのかな、私っお・・・
     ベランダから僅かに芋える旧ザ・ホテル暪浜の建物をマキは芋ながら、今倜の久矎子ず涌介に初めお逢った時の自分を重ねおいた。
       久矎子が長谷川物産に入瀟した時、マキは涌介ず再䌚出来るかもしれないずかなり期埅しおいた。暪浜に戻っお取匕が始たった時は曎に期埅しおいた。しかし本瀟に勀めおいる筈なのに姿を探せず名前も聞かない状況に困惑や焊りを感じ、さり気なく〝探り〟を入れお涌介を芋぀けようずした事もあった。しかしその郜床、涌介は既に䌚瀟を蟞めお䜕凊か知らない街で幞せな家庭を築いおいるのだろうず思わざるを埗ない珟実ず向き合う事になっおいた。
     マキず涌介が別れお以来、お互いのその埌など圓然知る由も無かった。手がかりは涌介の勀めおいるだろう䌚瀟は長谷川物産だずいう事だけだった。北九州ぞの転勀や、涌介が゚リカに愛しおいるず誓った同じ日、マキは和明ずのデヌトで予玄しおあった䞭華街の店をキャンセルし、埮かな期埅を蟌めお〝叞〟に行った事など知る由も無かった。涌介が本瀟に戻りマキずの再䌚を願っおいる事や、マキも事有る毎に涌介に思いを銳せおいる事など知る由も無かった。
     和明ずの恋愛を最埌にしようず考え始めおいた矢先、マキの心は新たな胎動を始めおいた。その胎動は涌介を忘れる事が呚囲の人や自分の幞せなのだず考える事を改めお吊定する動きを芋せおいた。そしお自分が信じる党おを信じ続ける事の滑皜さや惚めさを今埌ずっず匕き連れお、垞識ずされるものを芋぀め盎す方向ぞ進むべきかどうか迷っおいた。
    「マキ、電話が鳎っおるよ」
    「あ、はい」
     マキは螵を返した。
     マキが去ったベランダには倉わらず冷たい海颚が届いおいた。


     ダりンラむトがキッチンを煌煌ず照らしおいた。
     テヌブルの䞊ではノヌトパ゜コンが鮮やかな光を攟っおいた。
     ドリップしおいるコヌヒヌからは心地良い銙りが挂い始めおいた。
    「・・・もしもし・・・元気か・・・」
     涌介はリビングに戻りながらXPERIAをスピヌカヌにしお話し掛けおいた。



    #ぬるい恋愛2 #EverlastingLove
    #矎䜍矢盎玀

    #創䜜倧賞2026 #恋愛小説郚門

     
     

    MEEYA NAOKI

     
     
    😊😊矎䜍矢盎玀です。宜しくお願い臎したす。

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