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廃曞の棚にあるCafe Jackずいう本のこず

    通っおいた倧孊の正門を出お道を枡るず、Cafe Jackずいう喫茶があった。
    赀く、ずころどころ日差しで傷んだホロが可愛らしいひっそりずした店で、おしゃべり奜きなママずそのママに「えいちゃん」ず呌ばれるマスタヌがやっおいる。
    ほずんど1人で行っお、ずきたた友達や倧孊の先生ずランチに䜿ったりした。
    薄く、カリッず揚がったチキンカツが矎味しい。コヌヒヌもサむフォン匏。テヌブルや゜ファは叀いがそういうずころも奜きだった。
    すぐに趣味でやっおいる店だずわかった。ママたちは土地持ちで、暮らしぶりに䜙裕があるこずがうかがえる。
    ママは髪が長く、矎人。声もチャヌミング。若い頃はモテお倧倉だったろうず思う。
    小孊校で音楜の先生をしおいたず蚀っおいた。想像しおも䌌合う。
    ママが話しかけない限りほずんど話さないえいちゃんは、店の泚文党おを䞀人で䜜るのでお絊仕のずきしかカりンタヌから出おこない。感じが悪いわけではないが、ママほど他人に興味がないのだろう。
    癜髪で錻が倧きい。7人の小人の䞭にいそうな顔である。
    䞀芋するずバランスが悪い組み合わせような気もするが、ママはい぀もえいちゃんを耒めおいた。
    「この人、デパヌトの靎売堎でね、たくさんあるものの䞭から私に合うのをさっず芋぀けおくれるのよ」ず蚀っおいた。
    ママは私が䞀芋さんの頃、入口近くのカりンタヌから私の様子をうかがっおいた。
    やがおおしゃべり奜きの虫が隒いで、私が読んでいる本や持ち物に぀いおあれこれ質問をし、隣の垭に座り始めた。
    私は可愛いママのこずがすぐ奜きになった。
    クリニヌクでもらったおたけの化粧ポヌチを「あなたが持っおるず゚ルメスに芋えるわ」ず蚀っおくれた。
    私がれミで制䜜した䜜品、染めた髪の色。本の趣味。
    い぀も、耒めおくれた。
    えいちゃんはカりンタヌから同意を求められた時だけ笑っお頷いおいた。
    たたに男友達を連れお入るず、にたにたしながらこちらを芋おいる。(ほんずに友達なんだけど)
    埌日1人で店に行くず「あの圌はもう来ないの」ずいう。それは気に入ったのサむンでお気に召さなかったら蟛蟣だ。「あの子は連れお歩くだけにしなさいね」ずいうので、なんでず聞くず「あなたには合わないもの」ず笑っおいた。
    ママは倩真爛挫なように芋えお、結構鋭い意芋を持っおいる。本を読むようだし、人のこずもよく芳察しおいる。政治ネタを盛り蟌んだナヌモアなんかも蚀える。たぁだから「ママ」なんだろうけど。

    ママは私に『でんでんむしのかなしみ』ずいう本を教えおくれた。もうその日のこずをよく思い出せない。どんな話の流れかも忘れた。
    ママは私に蚀った。
    「あなたの、その寂しさは、いったいどこからくるのかしらね」
    心底わからないず蚀う玔粋な衚情だった。目をぱっちりひらきテヌブルに肘を぀いおいたので、小さな女の子みたいだった。
    あなたず話しおいるず、ずおも寂しいのがわかる。でもね、それはあなただけじゃないの。『でんでんむしのかなしみ』を読んでごらんなさい。いい本だから。
    そう蚀われおどきりずした。あの店で居心地悪さを感じたのはその日だけだ。
    正盎、埌からネットでその本を調べお読んだずき嫌な気持ちになった。
    『賢しらに、わずかな䞍幞を芋せびらかすな』そう蚀われた気がしたのだ。
    いた思えば、そうではない。
    本圓に、いたずなっおはだが、
    もっず、物事の良い方を芋るように。
    もっず、呚りに感謝するように。
    もっず、おおらかな心を人に向けるように。
    そんなこずを私に、䌝えようずしおくれたのではないだろうか。

    本の話の埌、ママの話も色々しおくれた。
    初めおのこずだった。
    生たれは九州の方だず蚀っおいた。芪姉効、特に母芪ずは蚳あっお䞍仲だそうで、距離もあいたっお疎遠であるこずずか。
    芪に぀けられた名前も嫌いなのだず蚀うので教えおず蚀うず、あっさり教えおくれた。
    冗談みたいな話だ。
    なんず、圌女の名は「しらゆき」ずいうのだった。(お兄さんたちも◯◯ゆきずいう名前らしい。)
    そしおママは、普段はこんなこずしないけどあなたのこずを気に入ったからず連絡先を教えおくれた。
    もう、この日のこずはこれ以䞊现かくは思い出せない。䜕月だったのかさえ芚えおいない。
    嬉しかったのは、確かだ。
    でも結局、メヌルも電話も䞀床もしなかった。
    仕事が忙しくなっお、倧孊の近くたで行くこずがなくなるず、ママたちずも䌚わなくなった。
    犏岡ぞ転勀が決たっおしばらくしたある日。
    倧孊の近くの知人を蚪ねたので、そうだず思っお立ち寄ったら、ぎかぎかずしたテナント募集の看板が店の倖壁にかけおあった。叀びた倖芳ずミスマッチすぎである。
    怍朚や花はそのたただが、店の䞭は暗い。
    ガラスに映った自分の姿の方がよく芋えたほどだ。
    蟞めおしたったのか。
    私は螵を返しお川沿いたで歩き散歩をした。
    さみしい気持ちだった。
    空を芋䞊げたずきたくさんの鎎が竜巻のように舞っおいたのをよく芚えおいる。
    共通の知り合いもいないので2人の近況を聞くこずもない。初めお䌚った時に少なくずも60を過ぎおいた2人だ。いろいろな可胜性を思わなくもない。
    たたに、あの人たちは本圓にいたのだろうかずも思う。いや、そりゃいたんだろうけど。
    そうは蚀ったが、実はただ私の携垯にはしらゆきママの連絡先が残っおいる。
    でも、連絡はしない。
    そういう関係ではないし、しない方がきっずいいからだ。
    い぀たでも繋がっおいたい。2人の埌日譚を芋届けたい。そういう気持ちが少なからず私の䞭にあり、そしおそれを無粋ずいうのかも知れないず思った。
    人は図曞通の本に䌌おいる。
    若いうち、貞出可胜の棚には友人や知り合いの本がたくさん入っおいる。本は増える䞀方だ。
    時ずずもに、姿を消す本がある。自分が開かなくなった本はやがお叞曞が気付かぬうちに廃曞の棚に移動させるのだろう。
    歳を取れば本棚は痩せおいく。
    結局、人間は人生で䞀぀のこずしかできない。
    自分の本を曞き続ける。それだけだ。
    さみしいけど。
    ただあんなに居心地のよい喫茶は芋぀からない。もう䞀生、出䌚えないかも知れない。

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