
チロル会音楽部~ロック青春記 第4話*チロル会演劇部★ドッキリ企画
僕らが録音したのは、演奏だけではない。チロル会には、なんと演劇部まであった。
演劇といっても、それは音声だけのラジオドラマ。内容はコミカルなショートドラマで、ストーリーはその場の思い付きで決めて行った。
録音したものの中で、真っ先に思い出すのが、ディズニー・アニメ風のキャラクターが登場する場面。
普通に喋ったものを4倍速で再生すると、そこにチップとデールが出現した。早口過ぎて何を喋っているかも分からなくなる。
声質の変化はこれでOKだ。
だが、いざマイクを向けられると、自在に笑うなんて芸当は中学生の素人には至難の業。
では、どうしたら笑えるか…。
「どうせ何を喋っているか分からんのだろう?」
「そう、絶対にわからないよ」
「じゃあ、好きなこと言って笑おうぜ」
そこから先は、ここに書けない、先生に対する罵詈雑言と爆笑の嵐だった。
腹の底から笑っている声を録音するには、これが一番手っ取り早い方法だった。
録音終了後、速度を上げて聴いてみると、何を喋っているのか全然わからなかった。
チロル会演劇部員は、そのシナリオを、自分たちだけの小さな世界に留め置くことができなくなった。その続きを、もっと開かれた舞台「リアル空間」の中で演じてみたくなった。
その内容とは…、
できあがった演劇のテープを学校に持って行き、散々ネタにした当人に、そのテープを聞かせるというものだった。自分がバカにされているのも知らずに大喜びする姿を物笑いのタネにする、というところまでで完結。これは、中坊たちにとって魅惑のストーリーだった。
** **
翌日。
全員、朝からわくわくして、「その時」を待っていた。
授業が終わると、皆踊るような足取りで音楽準備室に集まった。そして、いよいよ音楽の先生が姿を現し、待ちに待ったその時がやってきた。
生徒たちは、逸る気持ちを抑えつつ、皆の「中年アイドル」をうやうやしくテープレコーダーの前に案内した。
再生スタート!
そして、いよいよチップとデールの登場場面だ。
「ほう、本当にディズニーの漫画みたいだなぁ」
― 面白がって聴いてるぞ! ―
笑いをこらえる小僧たち。
互いの顔をチラチラ見ながら、自分自身が吹き出しそうになるのを懸命に耐えている。
異変が起きたのはその直後だった。
「これは、何と言っているんだ? ちょっと回転を落としてみろ」
― ドキッ☆★ ―
テープは巻き戻される。
誰も止められない。
カチャ☆
テープレコーダーからは、自分たちの声が流れ出した。
― お…、おい、頼むから止まってくれ! ―
時すでに遅し。本人を前にして、バカだの死ねだの罵詈雑言が容赦なく降り注ぐ。
身じろぎ一つしない生徒たち…。
音楽教師の笑顔も、いつの間にか消えていた。回転するオープンリールを神妙な顔付きで見つめ、じっと耳を傾けている。
そして、ようやくチップとデールのセリフが終了。
聴き終えた彼は、ゆっくりとスイッチに手を伸ばし、テープを止めた。
恐る恐る顔を覗き込む小僧たち。
「ふふん」
眼鏡の奥で、ニヤリと薄笑いを浮かべる音楽教師。
くるりと踵を返し、スタスタと出入り口に向かい、足音だけを響かせて遠ざかっていった。
「おい…、どうする?」
「どうするって…」
「この後、部活でどんな顔をして会ったらいいんだ??」
「わからん」
** **
その後、両者の関係に、どのような変化があったかは覚えていない。生徒側の捉え方としては、常に敵対関係にあったような印象だったが、今こうして振り返ってみると、なかなかどうして、じつにチャーミングな関係だったようにも思えてくる。