どうする、ユカちゃん 5/5
朝起きると〈装置〉の画面が光っていた。昨日床に落としてから動かなくなってしまった〈装置〉といくらか格闘はしたが、機械に強くないユカが説明書もなく対応するには難しい仕事だった。工具で開けられるような箇所も見当たらず、念じながらボタンを押してみるくらいしかできなかった。その成果なのかはわからないが、今はいつもと違うマークが画面に出ていた。ユカは、〈装置〉の電源が点いてくれたことにホッとした。
そのボタンをタップしてみると、「パラレル通信しますか?」とポップアップが出た。パラレル、通信。眠い頭が一気に冴えた。思ってもみなかったことだった。画面の向こうのユカと話せるかもしれない。ユカが「はい」を選択すると、画面でカウントダウンが始まった。ユカは髪を軽く手ぐしで整えた。なんて言おう? なんて言うのが正解だ? ちょっとは考えてからボタンを押すんだった。カウントがゼロになると、画面の右上に「REC」と表示され、画面中央には自撮りのユカが映った。ユカは少し逡巡したあと、〈装置〉のカメラに向かってこう告げた。
「わたしは、ちゃんと生きています」
ユカがひとこと言ったあと、〈装置〉は送信画面になった。数秒ののち、送信完了と表示され、画面はぷつりと切れた。ひとことだけ伝えられるシステムのようだった。
〈装置〉はまたうんともすんとも言わなくなってしまった。しかしユカにはもう必要がないものに思えた。
午後になるとユカの頭にひとつの決定事項ができあがった。この〈装置〉をインターネットオークションに出品することだ。善は急げ、ユカはいつもの要領で〈装置〉の写真を撮り、オークションアプリで出品した。オークション終了日は今日の夜に設定した。商品名は「パラレル分岐観測装置」。商品紹介には「必要な方のために」。千円開始。
オークション終了一分前、ひとりから入札があり、そのまま落札となった。ユカはその結果に満足そうに〈装置〉を見つめた。キミとはもうお別れだね。
ユカは取っておいたあの真っ黒な箱に梱包材をぎゅうぎゅうに詰め、その中に〈装置〉を大事に入れた。テープを取り出し、端を一センチメートル折って封をした。慣れた手つきでアプリから配送業者に集荷依頼をし、すぐに来てもらった。明日の夜には先方に届くだろうとのことだった。
ユカは配送業者に荷物を渡したあと、自室のデスクに座り、ノートパソコンを開いた。ドキュメント作成ソフトを立ち上げ、タイトルに「履歴書」と入力した。まっさらなドキュメントに、カーソルが瞬いていた。