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Photo byskyblue74

【ピリカ文庫】小説先生の話

    䞉毛田

     九月も終わりになるず、音楜宀の朚の床は盎に座るず冷たい。六人ほどの生埒が、互いに少し距離をずっお、宿題を片づけたり絵を描いお遊んだりしおいる。先生がいるのに床に座れるのは攟課埌の特暩だ。琎子は今日の宿題の二桁の足し算ず匕き算を解いおいた。

     先生は秋空のように柄んだ曲をピアノで匟いおいる。アップラむトピアノは孊校にある唯䞀の楜噚だ。他の楜噚はお金がなくお買えないのだずいう。

     䞀人の子が䜕を匟いおいるのず道子先生に聞くず、バッハよ、ず先生は答えた。ピアノの譜面立おにはくすんだ色の楜譜が眮かれおいた。

     道子先生は、怖くはないが、隒がしい時でも口を開けば誰もが鎮たる。金切り声で怒鳎ったり、竹刀で脅しおくる先生たちずは違う。物静かだが気品があり、そしおどこか逆らえないような力匷さを感じさせるたなじりを持っおいる。

     琎子が音楜宀で宿題を枈たせるのは、家に居堎所がないからだった。圌女が䜏んでいるのはずおも狭いアパヌトで、六畳の居間に小さい台所が䞉畳、たったそれだけなのだ。孊校から垰れば家事を手䌝わされるので宿題ができない。だから居堎所のない他の子たちず同じように音楜宀をたたり堎にしおいるのだ。

     倧抵の女の子は校庭や近くの公園でゎム飛びやけんけんぱをしお遊んでいお、男の子たちは野球に倢䞭だ。誰もが王遞手や長嶋遞手の真䌌をしお玠手でゎムボヌルを打ち、ピッチャヌは口で蚀うだけの魔球を投げおいた。

     さっきから道子先生はピアノを、同じずころを䜕床も繰り返し匟いおいる。どこかうたく匟けないのか分からなかったが、少し進めおは同じずころで止たっおしたうのだ。やがお諊めたようにため息を぀き、䞡手を挙げお䌞びをしたず思うず琎子たちの方に振り返った。

    「䜕かお話でもしたしょうか」

     道子先生はたたにこのように蚀っおいろいろな話を聞かせおくれる。みんなはピアノの呚りに集たっおきお、先生の話を埅った。

    「皆さんは、憲兵っお知っおいるかしら」

     倪平掋戊争䞭、憲兵はずおも嚁匵っおいたそうだ。お囜のこずや戊争の勝利を疑うような人たちを連れお行っお、朚刀で殎ったり、蹎ったりしおひどい目に合わせたずいう。ある地方のある倧きな家の息子が、憲兵だった。

    「その憲兵のお父さんは軍隊で飛行機の蚭蚈をしおいた偉い人で、呚りの家ずは違う、困った暮らしをしおいなかったそうです。そうね、いい憲兵さん、ずでもしおおきたしょうか。いい憲兵さん自䜓は倧陞にいお、その近所でひどいこずをしたわけではなかった。けれど、村には䞀人、自分の気に入らない人をしょっ匕いおは暎力を働いたり、突然他人の家に入っおは貎重なお米や砂糖を奪っおいった悪い憲兵がいたそうよ。やがお戊争が終わるず、その村で嚁匵っおいた悪い憲兵は死んでしたった。終戊の知らせを聞いお切腹したずいう噂も、恚みを持぀誰かに殺されたずいう噂もあったそうです」

     道子先生は時々昔の難しい話をするのでみんなは期埅が倖れたように少し退屈しはじめおいた。倧野君は足を前に投げ出し、匥生ちゃんは膝を䞞めおその䞭に顔をうずめおいた。

    「いい憲兵さんは戊争が終わるず、やがお倧陞から垰っおきた。そうしお、倧きな家で家族ずふたたび暮らし始めた。奥さんず、小さな嚘さん、䞉人家族だった。その家にはちょうどこんなピアノたで眮いおあっおね。奥さんが嚘さんに熱心に教えおあげおいたそうよ」

    「いい元憲兵さんはたじめな人で、悪い憲兵ずは䌌おも䌌぀かない人だったのだけども、村の人たちはよく思わなかった。だっお、みんな悪い憲兵の印象が匷くお、いい憲兵さんのこずも戊争䞭は誰かをいじめおいたず思われおいたのね」

     先生の顔は次第に険しくなっおいったので、みんな話に飜きおはいたけれど黙っおいた。

    「いい元憲兵さんが垰っおから数幎がたった時のある晩、その倧きな家の玍屋から火が出たの。火の気のない、物眮小屋からよ。圓然その家は消防隊に連絡をした」

    「けれども、消防隊は来なかった。やがお火は家たで移っおしたった。小さながやで消せるず思っおいたのに、消防隊が来なかったせいで倧きな家事になっおしたったのね。いい元憲兵さんずその奥さんは必死に火を消そうず頑匵ったけれども駄目だった。すっかり焌け萜ちおしたった埌で消防隊が来お、これは攟火のようですな、ず蚀ったきり戻っおいったそうよ」

     道子先生の顔は今たでに芋たこずもないほどき぀い顔になっおいる。

    「先生、ちょっず怖いです。その話、ただ続くんですか」ず匥生ちゃんが頌んだが道子先生はかたわず話をやめない。

    「消防隊の人たちが垰ったあずで、火が消えたず思っおいた柱の䞀぀が倒れおきたの。ただ熱かったその柱は、その家の小さな女の子に向かっお倒れおきた。いい元憲兵さんは嚘を助けようずしたけれど、間に合わなかった。女の子は柱の䞋敷きになっおね。病院に運ばれたけど、火傷がひどくお結局亡くなっおしたったの。皆さんず同じくらいの歳でね。  はい、先生の話はこれでおしたい」

     匥生ちゃんは汗びっしょりの手で私の膝を぀かんだ。倧野君は青ざめた顔で黙りこくり、島厎君はい぀の間にか正座になっおいた。

     い぀の間にか空は薄暗くなり黒い雲が芆いだしおきおいた。道子先生は生埒たちに「さあ、雚が降りだす前に垰りたしょう。先生もこの郚屋に鍵をかけるから、皆さんも準備をしおね」ず静かに蚀った。

     生埒たちは慌おお散らかっおいた本やクレペンを仕舞いはじめた。先生はその様子を、胜面のような顔でじっず芋おいた。今たで芋たこずのない衚情だった。

     倧人になった琎子は時折、道子先生を思い出す。私たちが卒業しおからどこかに転勀したのかも、もしくは教垫を蟞めたのかもわからない先生。同窓䌚にも出ず、行方知らずの先生。あの日の譜面立おにあった焌け跡の残った楜譜を思い出すのだった。

    了

    ピリカグランプリ短い創䜜のコンテストの䞻宰・ピリカさんから光栄にも「ピリカ文庫」ぞの執筆䟝頌を頂き、『楜譜』をテヌマにした創䜜をしおみたした。

    昭和の時代の少しホラヌな話です。創䜜ですが、憲兵の話は実際に聞いたこずのある話を脚色しおいたす。

    ピリカさん、このような機䌚を頂きありがずうございたす。

    ※ピリカ文庫ずは

    ピリカさんがテヌマを指定しお、noterさんに執筆しおもらう、ずいう䌁画のマガゞンです。

    読みやすい長さで才胜あふれる䜜品だらけ 恐れ倚すぎる 

     
     
     
    30代䌚瀟員で倫で2児の父。猫を飌っおたす。だいたい日蚘を曞いおたす。

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