賞味期限、358日。┊︎ 創作大賞と、そのあと
昨年9月17日、一通のメールが届いた。
「創作大賞2025 中間選考通過のお知らせ」
noteを始めたばかりで、
中間選考があることすら知らなかった。
だから、待っていなかった。
サイトを見ると、
たくさんの名前の中に自分の名前があった。
へえ。
こういうことって、あるんだ。

──杉本博司「絶滅写真」展
東京国立近代美術館──
応募したのは、
「干すというささやかな革命」というエッセイだった。
洗濯物を干す話。
最近、“Tシャツが乾くまで” を見ながら、
ひそかに思っている。
洗濯物に目をつけるとは、
なかなか先見の明があったのではないか。

私よりずっと先にいたけど。
知らない誰かが読んで、
選んでくれた。
嬉しかった。
それからほんの少し、
自分が特別な人になったような気がした。
「もしかしたら」という言葉が、
急に自分の側にやってきた。

結局、賞はもらえなかった。
でも、
次はもう少し先へ行けるかもしれない。
私はそもそも、
こういう博打みたいなものが好きではない。
ただ、勝負になったら勝ちたい。
我ながら、面倒くさい。

そして今年も、その季節がやってきた。
どうしてよりによって、
これが選ばれたんだろう。
もっとちゃんとしておけばよかった。
去年はそんなことを思った。
選ばれてから欲が出る。
だから今年は、
あとでそう思わないくらいにはやってみた。
「モザイクを避けたら、あっち向いた鬼」を書いた。

一か月くらい、
ずいぶん夢中だった。
もともと普段のnoteにも
わりとしつこく時間をかける。
書いて、消して、
写真を並べて、また書き直す。
誰に頼まれたわけでもないのに、
毎回それなりに面倒くさいことをしている。
今回は、さらにこねくり回した。
締切の前日まで。
出来上がったものはけっこう長かった。
それでも読んでくださった方がいた。
本当にありがたかった。
長かったでしょう。
私も長いと思います。

途中から、
結果とは別のところで楽しくなった。
朝起きても、寝る前にも触っていた。
“これだけやったんだから、
あとはそちらで決めてください”
──選ぶのは最初からそちらなのだけど。

戦利品くらいは持ち帰る。
そして先日。
2026年9月10日。
中間選考が発表された。
残ればメールが来ることを知っていた。
これは、知らないほうがよかった。
去年は待っていなかったものを、
今年は少しだけ待った。
そして、
メールは来なかった。

残念だった。
でも、
「もしかしたら」がなくなっても、
思っていたほど何も壊れなかった。
去年のメールの日付を見る。
2025年9月17日。
今年は、2026年9月10日。
──358日。
そのあいだ、
ちょっとだけ夢見心地だったらしい。
“プチ夢”に賞味期限があるなら、
私のは358日。
なかなか楽しかった。

本人にもよくわからない。
落選から三日後、
私は東京にいた。
杉本博司さんの写真展がその日で終わると知り、
滑り込んだ。
最後に見たのは、
たしか2005年の森美術館。

あのころの私は、
人の気配のないモノクロ写真が好きだった。
色がなくなると、
ここではないどこかの気配がする。
そういうところも好きだった。
それから長い時間がたって、
目が向くものが変わった。
色のあるもの。
人が何かしているところ。
生活の湯気が立っているもの。
「どこか遠くの極彩色」
なんて名前でnoteまで始めた。
ずいぶん色が増えた。

展示室を歩く。
白。
黒。
また白。
また黒。

きれいだった。
でも、昔ほど心は動かなかった。
このまま白と黒で
終わるのだと思っていた。
最後の部屋に入った。

わあ、と思った。
ずっと白黒だったから、
目がびっくりしたのかもしれない。
──358日。
楽しい夢だった。
夢から覚めたら、
色があった。
