mint green┊︎〝ペパーミント〟がくれた最初の背伸び┊ ブラーノ島🇮🇹
イタリアのカラフルな漁村・ブラーノ島の路地。
〝ペパーミントグリーン色〟の壁の前で、足が止まった。
グリーンというにはやわらかすぎて、
ミントというには少し甘い。

──ちなみに、この色。
正しい名称はペパーミントグリーンじゃないかもしれない。
でも、あの日、あの子がそう呼んだから。
わたしの中では今でも、この色はペパーミントグリーン──。
🍃🍃🍃
小学三年のとき、ひとりの転校生と仲良くなった。
地元にはあまりいないタイプの女の子。色白で、都会っぽくて、華奢で、お洒落で、でも気取らない。風通しのいい子だった。
「親友」という言葉も、「DREAMS COME TRUE」も、「決戦は金曜日」というキーワードも、彼女が教えてくれた。

〝ペパーミントグリーン〟
その子に「まゆちゃん」と呼ばれると、自分の名前が少しだけ、別の響きに聞こえた。
声もかわいくて、大人びていて、関西弁じゃないその音が、
いつもの私を、ちょっとだけ“背伸びした私”に変えてくれる気がした。

ある日、「好きな色ってある?」と聞かれた。
さあ、なんと答えただろう。覚えていない。
たぶん「紫」とか「緑」とか、そんな感じだったと思う。
逆に私も聞いてみた。
「好きな色、ある?」
そのときの彼女の表情と、口にした言葉は、今でもはっきり覚えている。
「──ペパーミントグリーン。」
清々しい顔で、あの子はそう言った。

サン・シメオン・ピッコロ教会
赤とか青とか単純なものを想像していたわたしは、
そのおしゃれすぎる響きに面食らって、
「それって……ガム?」としか返せなかった。
それ以来、彼女がその色の文房具やハンカチを持っているのを見るたび、
「ペパーミントグリーン、ペパーミントグリーン」と、
頭の中でそっと唱えた。
少し、背伸びした気分で。

でも、ある日。
彼女はまた、どこかへ転校していった。
爽やかな空気をまとったまま、〝ペパーミントちゃん〟はいなくなった。
そのあと、少しだけ文通をした。
私の誕生日には、手紙と一緒にカセットテープが届いた。
再生すると、「お誕生日おめでとう」っていう、彼女の大人びた声。
ふっとまた、ペパーミントグリーンのイメージが広がった。

今気づいたけど、ちょっとミントグリーン色だよね
便箋も、文字も、貼られたシールも、名前の書き方も。
そして、カセットテープでメッセージをくれるという、その発想も。全部がいちいち、当時の私には“都会的”。
彼女の風はいつも、
私にちょっとした“背伸び気分”を運んできた。

──ペパーミントグリーン。
日本語にすれば、薄荷緑。
最近、家で薄荷やバジルを育てたりするようになって気づいた。
ペパーミントグリーンって、あの子が勝手にそう呼んだだけで、
実際の色とは違うぞ? と。

でも、それはもうどうでもいい。
わたしの中で、この色はきっとこれからもずっと〝ペパーミントグリーン〟だから。
ペパーミントグリーン。
今もこうしてすぐ目の前にあるのに、
この言葉だけは、今でもほんの少し──暗号のよう。
それに、彼女の名前はもう、忘れてしまった。
でも、この色の名前を初めて聞いたあのときの、
“背伸び”の感覚だけは、ちゃんと覚えている。
きっと私はずっと──
この色のなかに、人生最初の背伸びをしまいこんでいる。

