
西山麻由子の超短編⑧Noon
⑧Noon
作:西山 麻由子
それはある壊れかけの田舎の一軒家。
脇を舗装してない道路が通り、時々トラックが通っては砂埃を上げる。
暑い八月の正午だった。
玄関を入るとすぐにリビングがあり、天井にはプロペラが回っている。
ファン、ファン、ファンと鈍い音をたててはかすかな風をおこしている。
部屋の中央にはベビー・ケージがあり乳児がいる。
ガラガラが回ると時々きゃっきゃっと声をあげる。
小さなカフェテーブルの上にはレモン水。
椅子に腰かけて新聞を読む夫人。
ラジオから流れるミュージック。
ナット・キング・コールの「When I fall in Love」。
静寂を破る音。
「おい、どうしたんだ。暑いじゃないか。この子に冷たいミルクでも飲ませたらどうだ」
夫が帰ってきたのだ。
「この子、おもちゃで喜んでますわ。音楽がわかるのかしら。この嬉しそうな顔。あなた、今日はどうして帰ってらしたの?」
「売れんからだ。今日は仕事は終わりだ。何か作ってくれ」
「キャンベルのクラムチャウダーなら買い置きがありますわ。それでよろしいかしら?クランベリーのパンも戸棚にありますわ」
「またか。たまにはコールド・ミートでも食べたいもんだ」
「だって」
「おまえ、俺の稼ぎが少ないとでも言いたいのか」
「何とかなってますわ」
「あそこにあったティファニーのテーブル・ランプはどこにいったんだ」
「都合つけましたわ」
「売ったのか?」
「まあ、そうですわね」
「あれはおまえとの新婚旅行で買った記念の品じゃないか」
「仕方ないですわ」
「お前は俺との思い出まで捨てられるのか?」
「今が大事ですもの」
「あの頃は確かに俺の商売もそこそこうまくいっていたから旅行にも行けたが、時代が変わった。一軒一軒まわってモノを売るなんてやりかたじゃたちうちできないんだ。俺もそこは考えている」
「私、明日から仕事に行きますの」
「なんだと。おまえに何ができるっていうんだ」
「私の刺繍を習いたいっておっしゃるご婦人方が多いの」
「どこからそんな話がでてきたんだ」
「前に郡のフェスティバルに出品してた私の作品をお買い求めくださった方々がたくさんいらして、皆さんが自分もやってみたいから教えてくれないかって」
「認めんぞ。そんな事は。俺のじいさんも親父も女に働かせたりはしなかった。一族の恥だ」
「これ、ご覧になる?」
「坊や名義の預金通帳じゃないか!」
「あの子の将来のためにつくりましたの」
「5000ドル!どうやってこんなに貯めたんだ?」
「すべて私の刺繍の売り上げですわ」
「おまえ売ってたのか」
「ええ」
「おれに黙ってたな。おまえ俺を馬鹿にしてたのか?」
「いいえ。あなたを立派だと思ったから結婚したんですもの。あなたに従って生きてきましたけど、坊やが産まれたからには話は別ですわ。私も母親です。あの子のためにはお金が必要ですもの」
夫は苦い汁を飲まされたように顔をゆがめ、黙りこんだ。
やがて顔色が変わった。
獣性をむきだしにし、夫人に襲いかかった。
「おまえは俺の妻だ」
夫人のドレスとペチコートを剥ぎ取り、勃起したペニスを振りながら、夫人のヴァギナに挿入し、絶頂に達する寸前に白い精液を夫人に浴びせかけた。
その間中、夫人は今度はどんなモチーフにしようかしらとぼんやりと考えていた。
また、トラックが一台、轟音を鳴り響かせながら、通って行った。
(完)