メインコンテンツへスキップ
見出し画像

AI時代に「人」が経営する意味|論理的なリーダーの組織ほど、なぜ新しい挑戦が生まれなくなるのか

    財務コンサルタントの村重まゆこです。
    お金、組織、人。
    経営にまつわるあれこれについて、日々考えたことを書いています。

    ここ最近ビジネスコミュニケーションの学びを深めていますが、その中で以前から気になっていたことを改めてじっくりと考えてみました。

    人と人とのコミュニケーションの間に、ここ最近はAIというツールが大きく絡みだしましたよね。
    AIは本当に便利で、私も使わない日がないくらいです。
    しかしその環境に慣れれば慣れるほど、無意識のうちに自分の思考までAI化していっているのではないだろうか、という恐怖を感じています。

    ロジカルなリーダーほど「孤立」していく

    ロジカルシンキング、クリティカルシンキング、そして高度な課題解決能力。
    ビジネスのスピードが加速する今、こうした力はますます重要になっています。
    私自身コンサルタントとして活動していくなかで、課題を整理し、本質を見極め、解決策を考えることを日々仕事にしています。
    意思決定権を持つ方は、この力を武器に日々目の前の課題と向き合い、無数にある課題を解決し、多くの人の役に立ってきたはずです。

    しかし、ここに現代のリーダーが陥りやすい落とし穴があります。

    私たちは、有能であればあるほど、ある思考の癖が身についていきます。
    それは、数字やシステムだけでなく、目の前の「人(部下・顧客・取引先をはじめ、家族や友人)」にまで、その課題解決思考を適用してしまうということです。

    誰かから相談を受けたとき、無意識のうちにあなたは相手の悩みを「処理すべき案件」として見てはいないでしょうか。

    問題は解決できた。
    しかし、信頼は築けているか?


    この問いに、胸を張ってイエスと言える人が、今どれだけいるでしょうか。

    なぜ、その人はAIではなく、「あなた」に相談したのか

    私たちには今、24時間365日、気をつかう必要もなく、驚くほど高精度な回答を即座に返してくれるAIが近くにいます。
    解決策だけが欲しいのなら、画面の向こうのAIに問いかければすべて事足りる時代です。

    それでも、その人はAIではなく、あなたに相談しました。
    なぜでしょうか。
    そこには理由があるはずです。

    そもそも人は、課題を解決してほしいという理由だけで人に相談するのでしょうか。
    きっと、それだけではないと思います。
    ただ誰かに話を聞いてもらいたいという気持ち、自分の気持ちを理解してほしいという願い、あるいは自分という人間をもっと知ってほしいという欲求。
    人はそんな思いを込めて、誰かに話をすることがあります。

    しかし、もしあなたがそんな期待に対して
    「要するに、課題はこれだよね。解決策はこうだね」
    と正論を突き返しているとしたら、相手は失望してしまうかもしれません。
    なぜなら彼らは、「答え」ではなく「関わり」を求めてあなたを選んだからです。

    「相談」とは、単なる業務のボトルネックの報告だけではありません。
    その根底には、
    「今の私の状態を知ってほしい」
    「孤立している自分を分かってほしい」
    「不安だから、助けてほしい」
    という、人間的なメッセージが隠されていることが多々あります。
    それをロジックで解体し、答えだけを渡して終わらせる。
    それは有能さの証明ではなく、リーダーとしての「向き合い方」の欠如です。

    AIは「点」を処理し、人間は「線」を紡ぐ

    人は、今日という「点」だけで生きているわけではありません。
    それぞれに背景があり、積み重ねてきた時間があり、物語を持っています。

    優れたリーダーは目の前の言葉である「点」だけを見ません。
    その人がこれまでどんな経験をし、何に悩み、何を乗り越え、どんな未来を描こうとしているのかという「線」を知っているし、それを含めてその人を見ています。

    その「線」を知っているからこそ、今日は解決策を伝えるべきなのか、それとも、まずは「ここまでよく頑張ったね」と伝えるべきなのかを判断することができるのです。

    一方、AIは入力された「今、この瞬間」の情報、つまり「点」を整理し、瞬時に課題を見つけて高精度な解決策を提案することに優れています。
    感情に左右されることもありません。
    膨大な知識やデータをもとに、合理的で効率的な答えを返してくれます。
    スピードや正確性が求められる場面では、これほど心強い存在はいないでしょう。

    しかし、人は相談するとき、自分の背景や物語を一から説明するとは限りません。
    なぜならば、こんな前提が存在しているからです。

    「この人なら分かってくれている」

    あなたに対しては今まで積み上げてきた歴史があり、それをもとにした信頼や安心感があります。
    だからこそ、言葉にならない前提を伝えることなく相談することができるのです。

    その時あなたに求められているのは、言葉そのものの理解だけではありません。
    重要なのはその言葉の行間や表情の奥にある思い、その人が歩んできた物語に想像力を巡らせた上で、相手に共感し寄り添うことです。

    AIは「点」を処理します。
    人は「線」を紡ぎます。


    これこそが、AI時代にリーダーという「人」が発揮すべき、代替不可能な価値の正体ではないでしょうか。

    画像

    リーダーに求められる「見極める力」

    もちろんビジネスの現場においては、本当にただの「業務のボトルネックの報告」であり、1秒でも早く具体的な解決策だけが欲しい、という場面もたくさんあります。
    経営スピードを考えれば、すべての相談に時間をかけて背景を遡るわけにはいきませんよね。

    では、私たちはそれをどう見極めればいいのでしょうか。
    実は、基準はとてもシンプルです。

    その相談の主語が、「業務(コト)」にあるのか、
    それとも「人間(ヒト)」にあるのか。


    「システムのエラーをどう復旧させるか」「契約書の文言をどう直すべきか」といった、主語が業務(コト)にある相談は、AIが得意とする「点」の処理で手早く解決策を出すのが正解です。

    しかし、 「最近、チームの人間関係がうまくいかなくて……」 「自分のこれからのキャリアに不安があって……」 というように、主語が人間(ヒト)やその人の感情にあるとき。
    これこそが、相手が「答え」ではなく「関わり(線)」を求めてあなたを選んだサインです。

    優秀なリーダーほど、この「ヒト」や感情が伴う相談が来たときにまで、無意識に「コト(業務)」を捌くようなスピード感で正論を突き返してしまいがちです。
    しかし、その一瞬の見極めのミスが、静かに信頼を損なっていく原因になるのです。

    関係性を「案件化」するリーダーの末路

    顧客との関係も、社員との関係も、取引先との関係も、一つの課題を解決して終わるものではありません。
    解決したあとも気にかけ、次の挑戦を一緒に喜び、ときには失敗を共に受け止めながら歩んでいく。

    そうした時間の積み重ねが、人と人との「線」を育て、やがて簡単には失われない「信頼」という資産へと変わっていくのです。

    だからこそ、最も避けなければならないのは、人との関係まで「案件」として処理してしまうことです。

    課題を解決すること自体は、決して悪いことではありません。
    しかし、それが癖になり、人との関わりまで「処理」の対象になってしまったとき、リーダーは最も大切なものを失い始めます。

    あなたがロジカルに対応したことで、問題は綺麗に解決したかもしれません。
    しかし、相手の心には「この人は私を見てくれていなかった。ただ問題を片付けたかっただけだ」という悲観的な気持ちが起こります。
    その瞬間、それまでじっくりと構築してきた信頼の線は、少しずつ揺らぎ始めます。

    信頼とは、課題解決の正確さで生まれるものではありません。
    相手と向き合い、物語の伴走者としてその線を一緒に歩んでいる時間で育つものなのです。

    会社が「AI化」していくという、本当の恐怖

    ところでなぜ、組織において「点」の関わりではだめなのでしょうか。
    それは、「点」の関わりしかしてくれないリーダーに対して、メンバーは「言われたこと(点)」しかやらなくなってしまうからです。

    背景や物語という「線」を共有していない組織では、一人ひとりが全体を見渡すことをやめ、目の前の仕事だけを部分最適でこなすようになります。
    自分で考えるよりも、正解を待つ。
    相談するよりも、指示を待つ。
    そんな、どこか冷め切った関係性が、静かに組織の奥へと広がっていくのです。

    そして今、私が本当に怖いと感じているのは、その先にある未来のことです。
    今まさに成長過程にある若い世代や次のリーダーたちが、この「効率的で正論だけが行き交うAI化したコミュニケーション」を当たり前だと思って育ってしまったら、一体どうなるでしょうか。
    会社という組織そのものが、まるで一つの巨大なAIのようになってしまうのではないか。
    そんな危機感を覚えざるを得ません。

    上司も部下も、お互いを「点」としてしか見ず、問題が起きればロジックで処理して終わり。
    相談は課題を解決するためだけのものになり、評価は数字だけで語られる。

    そんな乾いた組織から、本当に新しい発想や挑戦は生まれるのでしょうか。

    人は、
    「この人とならやってみたい」
    「失敗してもこのチームなら大丈夫」
    という信頼や心理的安全性があるからこそ、未知の挑戦へ踏み出すことができます。
    イノベーションは、正解を積み重ねた先ではなく、人と人との信頼関係の中から生まれるものです。

    もし、このような関係性が失われた組織ばかりになれば、人の考え方や組織のあり方まで均一化し、企業同士が似たような価値しか生み出せなくなってしまうかもしれません。
    それは一企業だけの問題ではなく、日本全体の活力にも関わる話ではないのだろうかと、私は危惧しています。

    ただ、決して「昔ながらの属人化された効率の悪い経営に戻るべきだ」と言いたいわけではありません。
    仕組み化できる部分や、数字の管理、業務の効率化などといった、いわゆる「コト」の部分は、大いにAIやシステムに頼るべきです。

    だからこそ、私たちはリーダーとして、常にこの問いを持ち続ける必要があります。

    「どこまでをAIに委ね、どこの部分で私たちは『人』であり続けるべきなのか。」

    AIは、「この事業は成功確率が高いです」と、高精度な判断材料を示してくれるでしょう。
    しかし、その数字だけで、人は本当に心からわくわくし、「やってみたい」と思えるのでしょうか。

    人は、正しいから挑戦するのではありません。
    心が動いたから、挑戦するのです。
    「面白そうだ」「この人と一緒なら挑戦したい」という感情が、人を未知の一歩へ踏み出させます。

    そしてこの先、効率や正解ばかりが重視される時代だからこそ、人を理解し人と人との「線」を大切にする会社は、それだけで圧倒的な競争力を持つようになるはずです。

    AI時代だからこそ、リーダーが見るべきもの

    AIが進化することは止められませんし、私たちもこれから大いにその恩恵を受けながら目の前の課題と向き合います。
    だからこそ、リーダーに求められる役割も変わっていきます。

    「何をAIに任せ、何を人が担うのか」

    私たちはこんな問いを、これからも絶えず持ち続けていく必要があります。

    もし、会社が「正しい答え」を返すことだけを追い求め、人と人との関わりまでAIのようになってしまったら、新しい挑戦や、人が「ここで働きたい」と思える熱量は失われていきます。
    それは企業の枠を超え、巡り巡って日本という国の活力そのものを蝕んでいくことにつながるでしょう。

    発端は個人と個人の向き合い方かもしれません。
    しかし、その関わり方はやがて企業全体のコミュニケーションへと広がり、外部との接し方にも自然と表れていきます。
    すべては、目に見えない「線」でつながっているのです。

    次に誰かから相談を受けたとき、ぜひ一度だけ立ち止まってみてください。

    「なぜ、この人はAIではなく、私に相談してきたのだろう?」

    その問いを持つだけで、相手の背景や物語に、どこまでも想像力を巡らせることができるようになるはずです。

    相談されたということは、その人があなたとの「線」を選んだということです。
    その意味を受け止めたとき、たとえAIと同じ答えを返したとしても、その言葉の重みも、相手への届き方も、きっと変わります。

    AIは、答えを返します。
    人は、その人に応えます。

    AIが「点」を支える時代だからこそ、私たちリーダーは、人と人との「線」を紡ぐ存在であり続けたい。
    私は、その役割だけは、どれだけ時代が変わっても人にしか担えないと信じています。

    あなたの組織には、AIにはつくれない「線」がありますか。

    10年後の日本に残したい組織は、どんな組織でしょうか。

    この記事が参加している募集

     
     
    合同会社MIKATA代表。MBA取得。財務を中心とした経営支援に携わる傍ら、現在は経営心理士の資格取得に向けて学んでいます。 数字だけでなく、人や組織の側面からも経営を捉えたいと考えています。このnoteでは、学びの記録や読書メモ、経営・マネジメントに関する考察を発信します。

    あなたへのおすすめ