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しずかな山、かわいいおやつ

    山のほうがいくらか気温が低いことを、私はよく知っている。どんなに春が近づこうともその摂理は変わらない。夏は涼しく、冬はうんと寒いのが山というもので、秋口や春先の寒さもばかにできないのだ。この頃あまり必要ではなくなってきたダウンジャケットを念のため夫の車に乗せ、出発する。

    ところがいざ着いてみると山の日差しのあたたかさも申し分ないことがわかり、結局何も羽織らずに外に出た。夫の故郷の町を散歩する。ちょうどイベントが開催されていて、商店街には地元の人たちによる露店が並び多くの人が行きかっていた。お義母さんも焼き鳥を売っている。とても賑やかなお店。

    日陰はうっすら肌寒いけれど、日向に出ると目を細めたくなるほどあたたかい。ちょうどいい、ちょうどいいね、と言い合いながらゆったりと町を歩く。みたらし団子を買い、のどぐろのフライを食べ(贅沢かつ絶品)、焼き鳥10本入りを二人で分けてロングポテトも頬張った。雑貨屋を冷やかして、雛人形を眺めた。


    商店街を外れ、夫の通っていた小学校の通学路を歩く。町から一歩離れた途端、あたりがしずけさに包まれる。しんとした無音のしずけさではなく、風の音や鳥のさえずりだけが穏やかに響く、人為的なものを一切取り除いた、生きたしずけさ。人々が起こすざわめきを、山がぜんぶ吸い込んでいるのだ。夫の地元へ行くと、そういうしずけさをいともたやすく感じることができる。

    人が二人並ぶだけでいっぱいになる路地を歩いていると、なんだか妙な懐かしさがこみ上げてくる。私も昔、ここを歩いて通学していたような気すらしてくる。そんなことはないはずなのに、地面を踏みしめる足先の感覚にも路地に漂う湿った匂いにも、覚えがある。

    校庭の古びた遊具、用水路の真上におかしなバランス感覚で建っているごみ捨て場、オオイヌノフグリの群生。同じ日本という地にいれば、どこにいても故郷はそこかしこにあるものなのかもしれない。私は日本しか知らないけれど、日本だけでなく、世界のどこでもそういうものなのかもしれない。


    あたりをぐるりと歩いて商店街に戻り、喫茶店に立ち寄る。店内がやけに薄暗く感じられ、そうではなく外があまりにも明るかったことに気づく。お昼のピークが過ぎたので客は私たちだけ。BGMすら流れていない、時が止まったかのような店内。ケーキセットを頼み、窓の外の往来を眺めながらぼんやりとする。ぼんやりとできる。

    やがて届いたケーキセットは、楚々とした雰囲気でかわいらしい。まずはブラックのままコーヒーに口をつけてから、やはり強いなと思ってミルクを注ぐとまろやかな口当たり。抹茶ケーキの控えめな甘さともよく合うし、パウンドケーキのぽそっとした舌触りも潤してくれる。

    たくさん歩いたことだしそろそろ夕方かと思い時計を見やると、まだ14時半だった。田舎の時間の進み方は極端に遅い。普段人と車だらけの街で暮らしていると土日なんてあっという間に過ぎ去ってしまうのに、ここにいると休日がいつまでも終わらないのだから不思議だ。

    数年前まで縁もゆかりもなかった場所でも明るく愛したいと思える、そんな力がこの町には、この山にはある。まぶたの裏で明滅する白くてやわらかい光を感じながら、夫の実家でたっぷり眠った。
    夫の地元に帰るたび、私はここで眠れるし、ここで死ねる、と思える。



    おかやまZINEスタジアム、いよいよ今週末です!
    3/7(土)11:00〜岡山ドームにてお待ちしております。

    ブースの配置も決まりました。女3人でぴよぴよしていると思います。
    ピクニックスペースもあるみたいです。レジャーシートを広げて買ったばかりの本を広げる、なんてことができてしまう! 参加者としても楽しみです。

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    ふ-15/16です。ステージ横あたり。

    販売予定の本など、詳細についてはこちらの記事をご覧ください。(ここではお知らせしていない本も持っていきます。お楽しみに)


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