法と蓑〜巨大空港に踊らされた阿呆たち〜エピローグ
【エピローグ】
あれから、十数年──。
都内の一等地にある小さなオフィスで、オレは新しく立ち上げた地下アイドルの事務所のデスクに座り、古いスマホの画面を眺めていた。
画面に映し出されているのは、あの空港会社の株価チャートだ。
現在値、四千五百円。
あの時、消費者金融の枠まで使い切ってかき集めた資金が、今や──十倍。少しずつ切り崩しても複利の力が働く。
あの日、岩城学長が死んで全てが瓦解したはずの空港は、進藤さんのロジックとは全く違う形で大化けした。
林さんがSNSに公式としてアップした、VIPたちが熱狂する阿波踊りのダイジェスト映像「ターミナルの狂乱」。
海外興行資本のCEOがこれに目をつけた 。彼らは暴落した株を底値で買い漁り、空港会社を丸ごと買収したのだ。
今やあのターミナルは、世界中の伝統芸能とエンタメが24時間ノンストップで交錯する、世界で唯一の「エンタメ特区」として、莫大な富を生み出し続けている。
そして役員一覧には、あの林さんの名前が連なっていた。さらに社外取締役に鈴木凛子の名前も。おそらく林さんが誘ったのだろう。
会社を辞めたあと一度だけ凛子さんと会ったことがある。
「私たちみんな、あなたと同じことをやってたのよ。きっと額は違うでしょうけどね」と大笑いしていた。そして、オレに辞めた後の尻拭いとしてカフェ代を請求してきた。
「小金井社長、次のオーディションの書類、ここに置いときますね!」
ふみかの声に「ありがとう」と応じながら、オレは引き出しの奥から、色褪せた一枚の地下アイドルのチェキを取り出した。オレは約束通り、ふみかを迎えに行った。
あの時、空中戦で構想を動かしていた巨頭たちは全員沈み、地上の泥水をすすりながら意地を通した林さんたと、ただ現場の底力を信じた『見る阿呆』のオレだけが、最後に笑うことになった。
手元のタブレットの中で、あの日の狂乱の残骸は、綺麗な右肩上がりの光の帯へと変わっていた。
(了)
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