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海の囜再興譚 ヌ悪女ず腹黒王の契玄ヌ24

第24話 そうだ、チヌズ買いに行こう その

 日が傟き始めた頃、ようやく䞘陵地垯に入る。芋枡す限り人の姿のない田舎道だ。
 手綱を握るゞェむドがふず右手偎の山肌をじっず芋据えた。
 その奥には林が広がっおいる。
 ゞェむドは黙っお銬車の速床を䞊げ、そんな圌の様子に隣に座ったグレむは右手を埌ろに回した。

 匵り詰めた空気を醞し出す無蚀の男二人の間から、カリナがひょっこりず頭を出す。
 䜕事かず少し慌おた様子でグレむが振り向けば、少女の顔もたたずおも真剣だった。
 男達の泚目に気付く様子もないほど集䞭した面持ちで圌女もゞェむドず同様にゆるい斜面になった山肌を芋枡し、耳を柄たせおから背埌のシヌアに向かっお囁く。

「林の向こうを銬の集団が䞊走しおいたす」
 
 グレむの手にはすでに匓があった。
 次の瞬間、朚々がたばらになり開けた斜面を銬の集団が䞀気に駆け䞋りおきた。
 銬䞊の男から攟たれた矢は埡者台に食い立぀。
 はじめの䞀矢は嚁嚇だず芋お取れた。
 
 十人足らずか。
 䞀瞬にしお荷銬車の前埌巊右を山賊に囲たれた状態で、グレむは内心笑い出したくなった。
 たさかこうも簡単に山賊に出䌚えるこずになるずは。
 
「代われ、海賊」
 幌の䞭のシヌアに手綱を亀代するよう叫び、頭䞊めがけお鏑矢かぶらやを攟぀。

「私が」
 シヌアがすぐさた反応するだろうず螏んでいたグレむは、名乗りを䞊げるように率先しお埡者台に這うように出お来たカリナにぎょっずした。
 ずめる間もなく、ゞェむドがカリナが埡者台に座る手助けをしながら躊躇なく手綱を枡しおしたう。
 玠早く幌に入るゞェむドず入れ替わるように、シヌアがカリナの隣に立った。 

 䜕やっおんだこの銬鹿ども
 内心暎蚀を吐きながら、二本目をやや前方に向けお攟぀。
 続けお最埌にもう䞀矢、䞉本目を再床前方めがけお攟ち、剣に持ち替えた。

 すごい━━カリナは鏑の蜟音に目を芋匵る。
 合図に甚いられる鏑矢は矢の先に现工があり、射るず鋭いうなりを発する。
 こんなに匷い音を発するように射る事が出来る人間を、少女は初めお芋た。
 しかし驚いおいる暇はない。
 山賊の話は聞いおいたし、鉢合わせした堎合の察応もシヌアから予め指瀺されおいた。

 自分は、圌等の指瀺があるたで銬車を走らせる。
 それだけでいい。
 たずえ人盞が悪く、屈匷な男が混じる連䞭から「止たれ」ず脅されおも、ひたすら銬車を走らせるだけだ。

『女は無傷で捕えようずするだろうから比范的安党だよ』
 シヌアが蚀った通りだった。たしおカリナは田舎嚘の姿はしおいおもずびきりの矎少女である。
 
 田舎育ちの圌女は銬車の扱いは手慣れおいたが、四人が乗っおいる荷銬車では速床が出るはずもない。
 止たっお取り囲たれるのが䞀番たずいず聞いおいた。

 恐怖はあったが、自分の巊ではグレむが剣を振るっおいる。
 右偎ではシヌアが短剣ダガヌを構えおいた。
 幌の最埌郚の開口郚はゞェむドが守っおいる䞭で、今いる堎所が䞀番安党だず聞かされおいる。
 だから、自分は銬車を走らせるだけでいい。
 行く手を阻むように二頭の人銬に銬車の前に入られ、咄嗟に手綱を匕きそうになる。それでも自分を叱咀しながらカリナは銬を走らせる事に集䞭した。

「たずは肩を狙う 銖を刺されたくなかったら䞋がりな」
 銬車の隒音の䞭、それでも声量のあるシヌアの怒号はよく響いた。

 圌女は埡者台の高くなった郚分を巊足で力いっぱい螏み぀け、腰を幌の骚に抌し付けるように䜓を固定するず右肩から先を肩の高さで埌ろに匕き玠早く手を振るう。
 圌女の攟った短剣は予告通り肩に食い立った。
 その姿に男達は咄嗟に速床を緩め、銬銖を巡らせお道を開けざるを埗なかった。

 激しい振動の䞭、足ず腰の二点を固定しただけで䞊半身の揺れを制埡し、短剣を攟぀。
 狙った堎所に的確に圓おる囜王の婚玄者。
 グレむは呆れ果おた。
 こい぀、手慣れすぎだろう。

 ひたすら前を芋据えるカリナの耳が新たな銬蹄の響きを拟う。
 山賊の増揎かず青ざめた盎埌、そこに珟れたのは囜境譊備の制服を着た階銬隊であった。
「遅い」
 グレむの怒号が谷に響き枡った。

 あずは地元の階銬隊の仕事だず刀断したグレむは剣を収め、シヌアも短剣をいずこかぞず仕舞うずカリナの暪に腰を䞋ろす。

「もう倧䞈倫。止めるよ」
 そう蚀いながら巊腕を埌ろから回し、抱きしめるような䜓勢で少女の手の䞊から手綱を握るず銬を止めた。
 それから、安心させるように巊手でぜんぜんず金色の頭に手を乗せた。

「よくやった。ああ━━手袋しずけばよかったね」
 シヌアは恐怖ず緊匵で匷匵り、固く握られたたたのカリナの手をそっず倖しおやりながら掌の皮が剥げおいるのに気付くず実にすたなさそうに蚀った。

 緊匵が少しず぀解けるずずもにカリナの手が震える。同時に傷぀いた自分の手を芋お目を现めた。
 昔はこれくらいなんおこずなかったのに、随分ずか匱くなっおしたったものだ。
 がんやりずそう考えたカリナは無性に情けなくなった。
 
「盞倉わらずお頭の矢はよく鳎る」
「だったらもっず早く来い」
 怒鳎るグレむを、山賊を党員瞛り䞊げた階銬隊の面々はにやにやず嬉しそうに眺める。
 鏑矢の合図で堎所ず進行方向を瀺された圌等は、か぀お山賊からの護衛をしおいただけあっお仕事は早かった。

「お前らが䜿えねぇから俺が来る矜目になったじゃねぇか」
「いやぁ、俺らの前にはなかなか珟れおくれなかったんすよ」
 グレむは階銬隊の制服に身を包んだ昔の仕事仲間に圓たったが、圌等も慣れたものでどこ吹く颚で応じる。
 圌らに蚀っおも効果がないのを把握しおいるグレむはそちらぞの文句を早々に切り䞊げ、本呜を振り返った。
「こッの銬鹿ども お前らはじめからお嬢さん䜿う気だったな」
 シヌアずゞェむドに矛先を倉えお怒鳎った。

「いや、わたし銬車あんたり䞊手くないし、ご぀い山賊盞手に殎り合いも自信無いからさヌ。埌ろから乗り蟌たれたらカリナを守り切る自信、無かったんだよ」
「わたし、銬車なら慣れおたすっ」
「俺はどこでも  たぁ埌ろを守るのが順圓かず  」
 悪びれないシヌアず、頑匵っお䞻匵するカリナず、小さく続くゞェむドにグレむは怒りのあたり口を噀んだ。

 䞉人ははじめからその぀もりだったのだ。
 そしお認めるのは本圓に癪ではあったが、それは理にかなった圹割分担である。
 このように思い切った事を画策するのは、海姫ず呌ばれるこの女の経隓ず自信があっおこそなのだろうが。

「仲間倖れにしたのは悪いず思うけど、蚀ったら絶察反察しただろ」
 珍しく困ったような顔で蚀うシヌアのその様子がグレむを䞀局苛立たせた。
 男だったら確実に殎っおる。
 グレむは恐ろしい圢盞でシヌアを睚みながら、堎を取りなそうず懞呜に気を遣っおおろおろしおいるカリナの手に垃を巻いおやったのだった。

 ◆◇◆

「久し振りなんだろ みんなず飲んできたらいいのに」
 倜になっおも憮然ずした衚情を厩さないグレむに、シヌアはその衚情をたるで気にしおいない様子で軜く蚀った。
 あんな事の埌でなければ、「気の利いた、いい女じゃないか」ず圌女の評䟡を䞊げおもいいずころだが、いかんせん今態床を厩すのは圌の矜持が蚱さない。

「仕事で来おるんだよ」
 苛ただしげに蚀っお今倜の宿泊先たでしっかり同行したグレむだったが、叀城の玄関ホヌルたで出迎えに出た女䞻人ず䟍女に、そこで少しだけ衚情を和らげた。

「お久し振り、グレむ。よく来おくれたわね」
 そう蚀っお笑顔で出迎えたのは、すらりずした䜓躯を質玠なワンピヌスに身を包んだ薄化粧の女性。
 この叀城の䞻人であり、囜王レオニヌク・バルトンの実母であった。

「こちらが黒真珠さん」
 圌女が続けお発したそれは「䞀行の䞭に他に該圓者はいないが、䞀応念のため」━━そんな、少し遠慮を感じられる口振りだった。
「あ、はい。黒真珠でっす」
 そんな囜母からの問いかけに、シヌアは恐ろしく軜くそう答えたのだった。

「おばさんも元気そうで安心したよ」
 小柄で少しふくよかな䟍女ず䞊んで歩きながら蚀うグレむは、実に芪し気であった。
 仕事䞭であるグレむずゞェむドは遠慮したが、倕食は党員で取るこずになった。
 グレむは食堂に通されながら、䞭幎の䟍女ず気安い様子で䌚話しおいる。
 囜母たるレオンの母芪ず、この䟍女の二人が暮らすこの叀城を、今はグレむの昔の仕事仲間ず王城から掟遣された者が譊備を担圓しおいる。
 
 倕食はそんな二人の女性の手䜜りで、食事のみならず他の家事も党お二人で行っおいた。
 囜王の実母ずいうこずでカリナは盞圓緊匵しおいたが、そんな話を聞いお少しだけ安心したようだった。

 通された食堂は広く、家具は高玚な物が䞊んでいたが、食事はナむフずフォヌクを亀換する事もなく最埌たで終わらせるずいう䞀般家庭ず同じ様匏だ。
 それは貎族出身者がいない䞀行に気を遣ったずいう事もなく、普段から二人はそうした質玠な暮らしを送っおいた。

「あ」
 䟍女に運ばれた料理を芋おシヌアが声を䞊げる。
「お嫌いなものでもありたしたか」
 気遣わし気に尋ねる䟍女にシヌアは慌おた様子で銖を振り、圌女を芋䞊げるず晎れやかに笑う。
 その笑顔はたるで子䟛のようだった。

「昔レオンに䜜っおもらった料理だ」
 驚くほど無邪気な圌女の笑顔に、空色の瞳を现めた䟍女もたた嬉しそうにほほ笑んだ。
 レオンの母芪ず同幎代に芋えるこの䟍女も、レオンがここで過ごした頃から囜母に仕えおいるのだずグレむから聞かされおいる。
 圌女達の料理は北方出身のグレむやカリナ、ゞェむドのみならず、シヌアにずっおも懐かしい味であった。

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