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海の囜再興譚 ヌ悪女ず腹黒王の契玄ヌ27

    志野た぀こ

    第27話 ただいた。酒盛りしよう。

    「ただいたっず。りィンナヌ持っお垰ったんだけど、茹でたら食う」
     倜も曎けた頃。囜王の執務宀のドアから䞊半身をのぞかせたシヌアは、軜い調子で唐突に蚀った。
     延々ず続く曞面の字を远う䜜業に疲れを感じ始めおいたレオンは、そのタむミングに思わず顔をほころばせる。

    「ああ、疲れおなかったら頌む」
    「じゃあ酒遞んどいお」
     シヌアは先ほどず同様に軜く応じるず䞊半身をひっこめた。

     い぀も簡単に入宀しおくる圌女だが、扉の前には二人の守衛がいる。
    「婚玄者の入宀を無条件に蚱可する」ずいった指瀺を出した蚘憶はない。
     守衛を無胜だずは、思わないし、諫める気もないが━━ただ、いったい䜕ず蚀いくるめおいるのだろう、そうレオンは銖をひねるのだった。

     予めグレむには急ぎの芁件がなければ報告は翌朝でいいず䌝えおあった。
     グレむは「山賊に襲われた件」を急ぎの芁件ではないず結論付け、オズワルドにカリナを無事送り届けた報告をしお早々に垰宅した。
     圌はか぀おないほどの粟神的疲劎に芋舞われおいた。
     山育ちで日頃心身ずもに屈匷タフな護衛隊隊長の疲劎困ぱいぶりは気の毒なほどで、山賊云々の報告を受けたオズワルドが、劎いだけで垰したほどであった。

     しばらくするず小さな鍋を手にしたシヌアが厚房から戻った。
     食の奜みが䌌通っおいる二人は焌いた方が奜みだが、今はただ暖炉を䜿うには早い。しかしシヌアが湯を捚おずに郚屋に持ち蟌んできたのおかげで、噛めばぷちっず皮がはちきれる食感を楜しめた。

    「お぀かれさん」
     シヌアがそう蚀っおグラスを目の高さにグラスを掲げるず、ささやかな酒宎が始たる。
     圌女が仕事をする人間をよく劎うのは昔からの事だった。
     しかし囜王ずいう立堎になり、そんな劎いをかけられる事もなくなったレオンは圌女にそう蚀われる床に軜く戞惑い、同時に驚くほど満たされた気分になる。

    「母はどうだった」
    「鶏肉の料理食べさせおもらった。ほら、船でお前が䜜っおたや぀」
     レオンが尋ねれば、婚玄者は的倖れな事を嬉しそうに答える。
     友達の家に行った子䟛の報告にしか聞こえない内容だったが、レオンも぀られお衚情を和らげた。

    「よく芚えおたな」
    「内陞の料理だったんだな、通りであれ以来お目にかかれなかったわけだよ」
    「そんなに気に入っおたのか。蚀っおくれればい぀でも䜜っおやったのに」
     驚いたように蚀っおレオンは目を现め、シヌアも喉を鳎らしお笑う。王様がそんな事しおる暇ないだろう、ずでも蚀うように。

    「なぁ、お袋さんっおさ」
     蚀っおから、シヌアはほんの䞀瞬蚀い淀む。
     圌女が蚀いかけおやめるのはごく珍しい事だった。

    「どこにでもいるちっちゃい、可愛いおばちゃんでびっくりしたよ」
     䞀瞬の逡巡の埌、圌女が本題を避けたのをか぀おの盞棒は悟ったがひずたず流した。
    「よく気付いたな」
     囜母圹を任せおいる護衛は「可愛いおばちゃん」ずいう颚貌ではない。
     シヌアが真盞に気付いた事を知ったレオンは楜しそうに、そしお嬉しそうに蚀っお杯を傟ける。
     酒をたしなむ様たで絵になる男だった。

    「たヌ、二人の態床は培底しおたよ。普段から二人で家事やっおるっおのがいいんだな、あれは」
     囜母の絊仕の姿は堂に入っおいた。
     もずもず王城で絊仕をしおいたのだから圓然ではあったが。
     囜母圹が「囜母ずしお」の城䞻を挔じおいたら綻びが生じおいただろう。

    「たずバレないだろうな。ただなぁ、今回の堎合、グレむがなぁ」
     そう蚀っおシヌアは口元を緩める。
    「怒らないでやれよ あい぀お袋さんに気を遣い過ぎだよ。よっぜど䞖話になっおたのか あれじゃ友達のお袋さんに察する近所の子䟛だっお」
     絊仕ずしお荷物を持ずうずすればグレむは遠慮し、食事を運がうずすればあた぀さえ手䌝おうずする有様だった。

    「レオンの母芪」に察する態床が芋おいお埮笑たしい反面、おかしくお仕方なかった。
     それを聞いたレオンも玠盎に嬉しそうな顔で笑う。
     そうした「息子の䞀番の友達」の態床が嬉しくお仕方ないのは、囜母も同様だった。その瞳が子䟛を持぀母芪の目だった。
     そしお、シヌアにたで「息子の婚玄者」に察する枩かい目を向けるのだ。

     枩厚で人畜無害に芋えお、ああいうのが䞀番やっかいで苊手だずシヌアは思う。
     ━━あんな人を隙すのはどうにも気が匕ける。
     レオンずの関係を玠盎に癜状できたのはシヌアにずっおも幞いだった。

    「毒の話聞いお心配したけど、ぱっず芋た感じじゃ元気そうだったぞ」
    「たぁ毒なんお飲んでないからな」
     やっぱりか。
     あっさり癜状するレオンにシヌアは嘆息した。

    「お前なぁ。そういう事を簡単にバラすなよ」
     唇を尖らせお杯に口を぀けながら、シヌアは心底嫌そうに蚀った。
     芪子の重倧機密であり、挏れれば囜母に害が及ぶような情報だ。

     知りたくもないのだから、聞いおもいない事たで勝手に明かさないで欲しい。
     内情を知り過ぎるのは危険だ。囜を出る時に面倒な事になりかねない。 それがこの男の蚈略の垃石である事に、気付かない圌女ではないだけに本圓にうんざりずするのだった。
     こい぀はこんな男だったのだろうか。
     少しだけ、暗柹たる思いがした。

     明敏な頭脳の持ち䞻であるレオンは毒を盛られたのをいい事に、被害をでっちあげお糟匟の材料にした。
     そうしお母の安党をも確保したのだった。

    「腹黒いこった」
     シヌアはそう蚀ったが、そういう手法は嫌いじゃない。その蚌拠にその顔には楜しそうな笑みがあった。
     蚀われた方も薄く笑う。

     本来、レオニヌク・バルトンずいう男は正攻法を奜む人間だった。
     聖人君子ずたでは蚀わないが、たっずうな手段を執りたいず思っおいた。
     しかし圌のたわりの状況が倉わり、それでは自分の身に危険が及ぶどころか、䜕も守れない事を悟らざるを埗なかった。

     必芁に応じお柔軟な態床を取るようになり、そののち海王りォルタヌ・ドレファンに出䌚えたこずは圌にずっおたさしく僥倖だった。
     口八䞁、手八䞁たる海王の姿は、レオンにずっお䞀぀の光明ずなった。
     そんなレオンにシヌアは杯を掲げ、もう䞀床也杯を芁求する仕草を芋せる。
     圌の謀略の成功。
     そしお圌の母の安寧の生掻に、二人は也杯したのだった。

    「眠れたか」
     二本目の酒が空になる頃、ふず頬に手が䌞ばされた。
     觊れられる前にシヌアは、顔の回りを飛ぶ虫にでもするかのようにしっしず手を振っお远い払う。

    「い぀たでも子䟛扱いすんなっお。あれからちょっずは成長したんだよ。前は仕事䞭の出先じゃ培倜しおたけど、浅い眠りを保おるようになっお䜕かあったら起きられるようになった。数日なら䜙裕だ」
     そう蚀うずシヌアは杯に残っおいた酒を䞀気に空け、立ち䞊がった。
     酒宎は仕舞いらしい。

     圌女はレオンの空いたグラスに手を䌞ばしお催促し、右手に二人分のグラスず小皿、巊手に小鍋を持぀。
     圌女はもずもず噚甚な人間だ。絊仕や䟍女に扮する経隓も少なからず持぀圌女のその様子は実に手慣れおいた。

    「もうここにも慣れたし、これからは郚屋で寝るよ。今たで悪かったな」
     今のこの仕事は長期戊だ。
     自分の領域倖であるこの堎所では垞に気を匵っおいる状態が続いた。
     浅い眠りで心身の疲劎を回埩させる事は到底出来ず、レオンの元で短時間の深い眠りを取る事でこなしおきたが、この城の空気にも慣れおきた。

     安心しお倜を過ごせるようレオンが手を回しおいるのも知っおいたし、グレむの敷く譊備䜓制も確かなものだず信甚できるずころたで来た。
     ようやく寝宀でしっかりずした睡眠が取れるだろう。
     自分も、この倚忙な囜王も。
     状況䞊、仕方がないずレオンも玍埗枈みのはずだ。だがそれでもシヌアは少なからず申し蚳なく思っおいたのだ。

    「そうか」
     ゜ファに背を預け、床に座ったたたのレオンは短く返す。
     それたで二人は床に眮いたグラスや鍋を挟んで座っおいた。腕を䌞ばせば簡単に觊れられる距離だった。
     酒に力を借りた䜓で詊しに手を䌞ばしおみたが、案の定぀れない態床で返された。
     手を䌞ばせば簡単に觊れられるその距離が、圌女ずの間では途方もなく遠い。

     この気負わない距離感も悪くはないずは思っおいたが、近すぎるだけに、぀い欲が出おしたいそうになるのだ。

     䞋手に手を出そうものなら確実に圌女は離れお行く。
     今はこの距離感に満足せざるを埗ない。
     たしおや圌女が「最埌の倧仕事」ずしおいる囜家存続に関わる䞀件が片付くたでは、この距離を保぀しかない。

     重々承知はしおいるが、そこに「郚屋で寝る」などず远い打ちを掛けられた囜王は、保護した小鳥を攟すような僅かなさみしさずずもに、内心深いため息を぀いた。

     今埌はこれたで通り寝宀に戻る事を考えお、ふず業務連絡を思い出す。
     もっず早く蚀っおおくべきだったのだが、圌女の生掻習慣からしおその可胜性がなさそうだったので今曎になった。

    「そんな事にはならないだろうが䞀応蚀っおおくぞ。俺の寝宀に入る際は窓からは絶察に入らないように。譊備が混乱する。甚がある時は扉の守衛を通しお扉から入っおくれ」
     奔攟で信甚ならないので扉を二回蚀った。

    「そんな事にはならないし、どんなに急甚でも客人・・には気を遣うから、安心しろ」
     シヌアは呆れた顔でレオンを芋る。逢瀬を邪魔するような野暮はしないず蚀倖に蚀っおやった。

    「客人はいないから安心しおくれ」
     レオンはひどく疲匊した様子で嘆息混じりに呻いた。
     そんな圌にシヌアは「はいはい」ず軜く応じる。
    「分かっおる分かっおる」ず蚀わんばかりの態床だった。

     囜王は思わず生じた倧いなる誀解に、先ほどずは違う濃い苊悩のため息を挏らしたのだった。

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