
その日、厄を祓い、王騎将軍を手に入れた
5月某日、私は友人達ととある府中の神社へ厄祓いに出かけた。
これはその日の出来事を綴った日記である。
今までの人生で、神社にはあまり縁がなかった。
我が家は信心深い家ではないので、家族で正月に初詣に行くなんてことはなく、毎年寝正月だった。
ましてや、ときメモみたいに初詣を口実にデートに誘えるような相手などいるわけがない。
おかげでこの歳まで、「神社はおみくじを引くために行く場所」という認識しかなかった。
先日、友人に「厄祓い行った?」と聞かれるまで、自分が今年前厄であることすら知らず。
厄祓いか…。
厄年とは男女それぞれ心身の不調が重なりやすい時期に設定されており、厄祓いはそういう時期であることを自覚するために行くものでもあるそうだ。
確かに私は昨年の春にぎっくり腰をやっている。
さらに最近生理の様子も怪しく、同年夏には半泣きで婦人科に行ったりもした。
親からの遺伝なのかコレステロール値も高い。
体の不調が重なっていることは明らかである。
それに神社の効果がどんなものか気になる気持ちもあって、私は友人達と厄祓いへ行くことを決めた。
家族に「厄祓いって最低5000円からなんだって」と何気なく話したら「最低5000円!?!?」とたまげていた。
そして口には出さないが、「お祓いにそんなにお金をかけて、本当に効果があるのか?」と言いたげな顔をしていた。
そりゃそういう反応だろう。
うちはそういう家なのである。
正直私自身も、そういった気持ちが全くなかった訳ではない。
だがまぁ自分の金だし、これも経験だと思って行こうじゃないか。
厄祓いへ行こう
厄祓い当日。
時折小雨が降ることはあったが、曇りで比較的過ごしやすい日だった。
私は汗っかきなので大変ありがたい。
汗でぐちゃぐちゃのままお参りなんてあまりにもしんどすぎる。
昼前に友人達と合流し軽くお昼ご飯を食べた後、いよいよ神社へ向かった。
府中にある某神社。七五三の時に行ったっきりだ。
神社の作法など毛ほども知らない人間なので、友人に教えてもらいながらなんとか礼拝の作法を行った。
手水舎では、うまく水を口に含むことができず少々服を濡らしたりもした。
良い歳して恥ずかしい奴である。
受付で名前や住所、年齢を記入した紙を提出して料金を払った後、待合席のようなところで待機する。
タスキのようなものが配られたのでこれを着用して待機していたのだが、「側から見たらちょっと浮かれたお調子者に見えるよなぁ…」と思って少し恥ずかしかった。
土曜日だったが、私達の他にご祈祷を受ける人は一、二組。
非常に空いていた。
それもそのはず、厄祓いとは普通は2月までに受けるものなのだ。
私達は完全に出遅れていることになる。
「だって、全然知らなかったんだもん」という顔をしておこう。
その後少しして、神社の人が我々を呼びに来たためご祈祷の場所へ向かった。
ご祈祷
玉串という葉っぱを手に持って畳に座り、宮司さんがやっている儀式を眺めながらご祈祷を受ける。
途中何度か頭を下げるシーンがあったが、その度に隣に座る友人のトートバッグが目に入った。
その子の家族が描いた落書きが印刷されたオリジナルトートバッグだ。
しばらく友人のお父さんが描いたウィッチャー3のゲラルトさんと見つめ合っていたのだが、その間にもご祈祷は順調に進行していく。
左目の傷がなかなかイカしているな。

そうこうしているうちに、宮司さんが一人一人名前を呼んで神様に祈願してくれるところまで進行。
住んでいるところと名前を高らかに呼ばれるのは恥ずかしいが、我々へのファンサだと思えばちょっと嬉しい。
最後は各々手に持っている玉串を神前に差し出す儀式。
玉串を差し出したら「二礼二拍手一礼」をして締める。これでご祈祷は終わりだ。
だが、神社初心者の私はここで致命的な失態を犯してしまう。
テンパりすぎて「二礼二拍手一礼」ではなく「二礼二拍手二礼」してしまった。
それだけならまだいい。
私はその時に思わず
「間違えた」
と声まで発してしまったのだ。
言わなきゃ別にバレやしないというのに。
周りの人たちには聞こえていたかもしれない。
だが聞こえなかったふりをしてくれたようだ。
本当に、今からでも穴があったら入居したい。
神前で大恥をかき、内心半泣きになりながら記念品を貰って厄祓いは無事終了した。
大体15分くらいだろうか、ご祈祷は割とあっさりだった。
以前、別の神社で厄祓いを済ませた友人が「(祝詞内に)サビみたいなところがあって面白い」と言っていたが、私はとうとう祝詞のサビ部分を見つけることはできなかった。
神社散策
絵馬をかけ、定番のお賽銭とお願い事をしたあと、私達は神社内を散策することに。
おみくじも欲張って2種類引いた。
通常のおみくじと、からすの形の入れ物に入った、“からすみくじ”の2つ。
からすみくじの入れ物は一つ一つ手作りなのか個体差があり、私の選んだものは肩に傷がある老練な個体みたいだった。
他の子のからすの体には赤いインクがついていたりして「コイツ返り血浴びてる!」とみんなで言い合うなど、各々買ったからすの違いを見てはしゃいだりもした。


また、人形(ひとがた)流しというものもやってみた。
名前をかいた人形で体の悪い部分を擦り、それを川に流して取り除くというものだ。
私は人形がくしゃくしゃになるくらい体のあらゆる不調なところを擦りまくったので友人にドン引きされたのだが、治るものなら全て治してほしいのだから仕方がない。
そうして擦られてヘロヘロになった人形は、近くにある小さな川に流され、まもなく水流でくちゃくちゃになり消えていった。
それを見て、「なんかトイレットペーパーみたいだな」と素直に感想を述べたところ、「そういうことを言うのやめろ」と友人に叱られた。
息をするようにノンデリ発言をしてしまう病も、人形流しで取り除いてもらえないだろうか。
その後、ご祈祷を受けた人は無料入場できる宝物殿なども見て満足した我々は、いよいよ神社を離れることに。
厄払い、恥はかきまくったけど意外と楽しかったな。
その後はケーキ屋でケーキを食べたり、夕飯を食べながら友人達と存分におしゃべりをしていたら、あっという間に帰る電車を気にし始める時間になった。
そして帰る前にガチャガチャを見ようという話になり、近くの商業施設に入ったのだが…
そこで運命の出会いがあったのだ。
王騎将軍と私
(以後キングダムのネタバレを含むため注意)
みなさんはキングダムという作品に出てくる王騎将軍をご存じだろうか。
実写映画版ではムキムキの大沢たかおが演じており、そちらを知っている人はいるかもしれない。
彼は古代中国の春秋戦国時代に、秦国の大将軍だった人物で、主人公である信(しん)の師匠的な存在だ。
そして、天下の大将軍を目指す信に将軍とは何たるかを教える、物語で重要なキャラクターでもある。
王騎将軍は最終的に、戦場で宿敵と一騎打ちをした際に深傷を負い、信に己の矛を託した後に馬上で息を引き取ってしまう。
そのシーンを漫画で読んだ後、私はロスで食欲を失くし、しばらく喪失感を抱えながら過ごしていた。
それくらい大好きなのだ、王騎将軍が。
(↓以下のキングダム公式特設サイトで王騎将軍の勇姿を少しだけ見ることができるので是非)
そんな王騎将軍が、厄祓いを終えた私達の前に突如現れたのだ。
クレーンゲームの筐体の中に。
キングダム Grandista-王騎-
昨年12月に発売された王騎将軍のフィギュア、「キングダムGrandista-王騎-」
プライズとしてはなかなかクオリティの高いフィギュアである。
それだけではなく、箱全体の重さが約1キロという大物フィギュアだ。
このとんでもない圧の王騎将軍が入った箱が9つほど陳列された筐体は、ガチャガチャコーナーを抜けた先の、クレーンゲームコーナーの奥の方にひっそりと存在していた。
筐体には「かんたん!やさしい!おすすめ!EASY MODE!」という表示。

私は昔からクレーンゲームの景品に縁がなかった。
掴んで箱を動かすタイプのクレーンゲームはやっても取れた試しがない。
欲しい景品があっても何度かやってすぐ諦めてしまう。
そんな経験しかなかったせいか、今までクレーンゲームにはなかなか手を出せずにいた。
だが、この日はなぜかどうしてもこの王騎将軍が欲しかった。
まさに今日厄祓いをして、来年本厄を迎える自分の前に現れた、存在感だけで厄を遠ざけそうなこの王騎将軍。
これは運命ではないだろうか?
そしてこの大捕物で、楽しかった今日の最後を華々しく迎えたい。
私達の大戦(おおいくさ)
王騎将軍が推しなのだと伝えると、友人達はこのクレーンゲームに付き合ってくれた。
「どこを掴めば取れるだろうか」、「ここは難しいから店員さんに少し動かしてもらおう」等、色々知恵を出して手伝ってくれたし、時には私の代わりに100円を出して自らプレイしてくれたりもした。
そんな我が軍の軍師や将達に支えられ、この戦は徐々に白熱したものとなっていった。
筐体の中の王騎将軍がクレーンによって転がる度、私の心も「取れるかも」「もう無理かも」の境目を何度も転がった。
途中、外部の知恵者(ゲームセンターの店員さん)からもコツをレクチャーしてもらいながら、何度もトライして回数を重ねていく。
…だが、3回目の両替をしに行った頃には、流石に私の心も「もう無理かも」のほうに傾きつつあった。
戦況はしばらく膠着状態のままで、先が見えない。
21時を超え、帰る際に乗ろうと思っていた電車の時間はとうに過ぎている。
この戦、やはり負け戦だっただろうかー
「武器を落とすとは何事ですか たとえ何が起ころうと 死んでも諦めぬことが王騎軍の誇りだったはずですよ」 by王騎将軍
そろそろ区切りをつけることも考えなきゃ、そう心の片隅で思いながらもボタンを操作した時だった。

クレーンによって僅かに動いた王騎将軍が、突如ズルンッ!と音を立てストッパーの隙間を抜けた。
そして一気に下へと落ちていった。
あまりに突然の出来事だった。
作中で王騎将軍は、元々二代前の王様(作中の王、嬴政(えいせい)の祖父)に仕えていた将軍だった。
その王の死後は半分引退していたのだが、後の始皇帝である嬴政の器を認めたことで将軍として復帰したのである。
嬴政と比べると月とゴミだめくらい違う私だが、それでも王騎将軍がストッパーを抜け下に落ちた瞬間、彼が私を認め微笑んでくれたのだと思った。
ともに中華…
いや、無事厄年を乗り越えた先の未来を目指そう、と。
苦しい状況でも決して諦めず、仲間と共に活路を見出す。
その大切さを今日、王騎将軍がまた教えてくれた。
そして、王騎将軍の真っ赤な唇を見る度にきっと思い出すだろう。
今日の楽しかった思い出を。
私、この王騎将軍と…
これから迎える本厄・後厄の年を無事乗り切ることを、誓います。

(※矛と旗はゲームセンターに置いていなかったため別で購入。またその際、めっちゃ安く売られている王騎将軍フィギュアを見つけてしまい、私はそっと目を逸らした。)
厄祓いを終えて
神社にはまた行きたいと思う。
王騎将軍が手に入ったのもご祈祷のおかげかもしれないし。
そして来年の正月は、誰かときメモみたいに私を初詣に誘ってくれないだろうか。
できればその「誰か」は…
王騎将軍か、ウィッチャー3のゲラルトさんがいいな。
ちなみに後日、神社でもらったありがたい御神酒を飲もうと家族を誘ったところ「醸造アルコールが入った酒は飲まない主義だからなぁ」と断られた。
うちは、そういう…家なのである。