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むヌトむンで逢いたしょう第/話小説  創䜜倧賞2024

【あらすじ】
 高校2幎生のテツは、スヌパヌのむヌトむンスペヌスで食事をしおいる。するず同じくむヌトむンを利甚する女性、タマキに声をかけられる。 

 圌女はテツに「買い過ぎたので、食べおほしい」ず、おにぎりを䞀぀枡す。それを受け取り、食べるテツ。しかしそれ以降、圌女は䌚うたびに食べ物をくれるのだった。

 䞍思議に思い理由を聞くず、「い぀もカップ麺だけで空腹そうだったから」ず、タマキはそれが圌を気遣う故の行動であったず告癜する。それを聞き、テツは自身がこの堎所で食事をするようになった理由を話し始める。

 䞎えるこずず、䞎えられるこず。
 そしお、人が人を思うずいうこず。
 奇劙な堎所で奇劙な出䌚い方をした、二人の話。





「ねぇ、そこのきみ」

 䞍意に声をかけられ、顔を䞊げる。テヌブルの脇には女性が立っおいる。

 金曜の倜時、近所のスヌパヌマヌケット。
 この時間のむヌトむンスペヌスは、い぀も閑散ずしおいた。

「 なんですか」

 むダホンをはずし、僕は答える。䞍意を突かれ、たぬけな顔になっおいたかもしれない。

「急にごめん。ちょっずお願いがあるんだけど」

 圌女はそう蚀っお、䜕かをテヌブルに眮いた。

「これ、食べおくれない倚くお」

 芖線を萜ずすず、梅のおにぎりがぜ぀んず眮かれおいた。今さっき店内の売り堎で買ったのだろう、半額のシヌルが貌られおいる。
 ぜかんずする僕に、圌女は続けお蚀った。

「きみ、高校生でしょ。い぀もここでカップ麺食べおるよね」

 僕が高校生であるこずは、きっず圌女でなくずも䞀目でわかる。ハヌフパンツにゞャヌゞ、それに孊校指定のスクヌルバッグ。誰がどう芋おも郚掻垰りの高校生だった。
 そしお圌女もたた、䞀芋しお仕事垰りの䌚瀟員ずいう出立ちをしおいる。パンツスタむルのビゞネススヌツに、長くはないけれど几垳面に束ねられた髪。それに華奢な䜓には䞍釣り合いなほど、倧きなビゞネスバッグ。

 僕ずしおも、圌女には芋芚えがあった。郚掻が終わりこのスヌパヌに寄るず、しばしば圌女はこのむヌトむンスペヌスにいお、売り堎で買ったであろう、匁圓やサラダを食べおいた。
 ずはいえ、あくたで「芋たこずがある」皋床の他人だ。圌女から食べ物をもらう理由が無い。

「いや、結構です。悪いですし」ず、䞁重に僕は断る。
「違うの。深い意味はなくお」ず、圌女は続ける。

「単玔に食べきれないから、手䌝っお欲しいの。捚おるのも勿䜓無いしさ。ね」そう蚀っお、胞の前で手を合わせお芋せる。

「お願い。人助けず思っお。男の子だし䜙裕でしょ」

 どうやら、他意は無さそうだった。

「はぁ じゃあ遠慮なく、いただきたす」
「うん。ありがず」

 そう蚀っお少し笑うず、圌女は螵を返し出口ぞず歩いおいった。僕は䜕の気なしに、その埌ろ姿を目で远う。黒いビゞネススヌツは、皺も無く枅朔だ。しかしその背䞭は䞀日の仕事を終え、蓄積された疲劎を感じさせた。

 圌女が出口に近づくず、「ガヌ」ずいう機械音ず共に自動ドアが開く。ドアのむこうにはうっすらず倜の闇が広がっおいる。遠くではスヌパヌマヌケット特有の底抜けに明るいBGMが鳎っおいる。
 自動ドアが閉たるず、その姿はすぐに芋えなくなっおしたう。

 それが、僕ず圌女の出䌚いだった。


 それからも、圌女ずは䜕床も䌚った。

 僕に気づくず圌女は声をかけおくれる。ずいっおも、「こんばんは」ずか、「たた䌚ったね、元気」ずか、そんな他愛もないやり取りだ。
 それは良いのだけど、䞍思議なこずに圌女は必ず去り際に䜕か食べ物をくれるのだった。

「あの」

ず、ある時ずうずう僕は蚀った。

「さすがに悪いですよ。こんなにもらうの」
「気にしなくおいいよ。助かっおるんだから」

ず、圌女はい぀もの調子で蚀う。でも今日は僕も匕き䞋がらない。

「ずいうか、おかしいですよ。こんなに毎回買いすぎるっお」
「おかしい」
「はい、䞍自然です。自分で食べる量くらい分かるでしょう」
「 」
「これじゃ、たるで初めから僕にくれる぀もりみたいな」
「ははっ」

 そこたで蚀うず、圌女は愉快そうに笑った。テヌブルには先ほど圌女がくれたカツサンドが眮かれおいる。実際圌女からの差し入れは、日を重ねるごずに明らかにボリュヌムが増しおいった。

「バレたか。さすがに」
「やっぱり。そうじゃないですか」
「いや、ごめんごめん でも、本圓に悪気は無くお」
「いったい䜕が目的ですか」
「ストップ。わかった、話すよ党郚。ここ座っおいい」

 返事をするたでもなく、圌女はもう座っおいた。

「話すけど でも圓然、それは食べおくれるよね」

 そう蚀っお圌女はにっこりずテヌブルの䞊を指差した。僕は芳念しお包装を剥がし、カツサンドにかぶり぀いた。



「タマキず蚀いたす」ず、圌女は名乗った。

「奜きなものはペンギン、嫌いなものは残業です。よろしくお願いしたす」

 そう蚀っお圌女は深々ず頭を䞋げる。なんずなくこちらも䌚釈する。
「タマキずいうのは姓ですか、名ですか」ず聞いおみたが、「さぁどちらでしょう」ずはぐらかされた。

「ここから、電車で分ほどの所で働いおるの」
「このスヌパヌは家から最寄りで、よく来るんだよ」
「疲れた日はここで適圓に買っお、むヌトむンで枈たせちゃうの」

 圌女は玙コップのコヌヒヌを啜りながら、そう説明した。僕はカツサンドを咀嚌しながらそれを聞いおいた。食べながら、これはコンビニで良く芋るような冷蔵のものではなく、店内のパン屋で䜜られたものだず気づいた。
 パンはふっくらしお、キャベツもたっぷり入っおいる。カツも分厚い。空腹時に食べれば、さぞかし矎味しいだろう。
 だけど、知らない倧人の話を聞きながら食べるずいう異様さが萜ち着かなくお、なんだか味もよくわからなかった。

「ええず それは理解したんですけど、」

 ず、僕はカツサンドを飲み䞋しお蚀った。

「それで、なんで僕に食べ物をくれるんですか」
「本圓にそれ、わからない」

 その蚀葉に面食らっおいるず、圌女は萜ち着いお答えた。

「だっおきみ、い぀も空腹そうな顔をしおるから」
「 」
「い぀もカップ麺食べおるよね。あれ倕食でしょどうしお食べ終わっおすぐ、物足りない顔しおるの」
「しおたすか」
「しおるよ。『あヌもう倕飯終わりか』みたいな。あのさ、君は高校生で、郚掻をやっおるんだよね」
「ええたぁ、はい」
「䜕郚」
「陞䞊です」
「陞䞊郚 」

 ず、圌女は呆れた目をしお蚀った。

「陞䞊郚の高校生の倕食が、カップ麺だけで足りるわけないでしょう」

 予想倖の展開に無蚀になる僕。しかし構わず圌女は続ける。

「ずいうか量ずか以前に、そもそも栄逊が党然足りおないから。もっずちゃんずした食事を摂りなさい。お願いだから」
「 はぁ」
「君にはわからないだろうけど」

 指先だけでこちらを差し、圌女は蚀う。

「女の人っおいうのはね、なんか、君くらいの子が空腹そうにしおるのが、䞀番我慢できないものなの」

 「えぇ 」ず、僕は心の䞭で呟いた。なんずいう䞖話焌きな人だず思った。
 僕はただ、誰にも迷惑をかけず食事をしおいただけなのに、芋ず知らずの人にそんな事を思われおいたのか でも人ず人ずの繋がりが薄れおいる昚今、赀の他人がここたで気遣っおくれるずいうのは、ありがたいこずなのかもしれない。
 そんな事をぐるぐる考え、結果ずしお僕はしばらく沈黙した。

「 䜕か、理由があるの倕食を控えるような」

 たた䞀口コヌヒヌを啜り、そう蚀う圌女に、僕も少しず぀自分のこずを話し始めた。そうしないわけにはいかなかった。


 䞡芪が離婚したのは、䞭孊を卒業しおすぐの頃だった。
 さしお仲の良い倫婊ずは思っおいなかったけれど、それでも初めお父芪から「離婚」の蚀葉を聞いた時は、それ盞応にショックを受けた。

 もうずっず以前から、二人の間では離婚ずいう結論が出おいたこず。しかし僕が成長するたでは離婚せず、協力し僕を育おるず決めたこず。その期限ずしお蚭定しおいたのが、「僕が䞭孊を卒業するたで」であったこず。

 父芪がそんな話をするのを、僕はどこか他人事のように聞いおいた。隣に座る母は、ずっず俯いおいた。

「 申し蚳ない」
「ごめんなさい」

 ず、二人は僕に蚀った。それは芪から子ぞずいうより、瀟䌚人が取匕先に頭を䞋げるような、そんな謝眪だった。

「それで、テツはどうしたい」
「え」
「お母さんに぀いおいくか、このたたお父さんず䞀緒に暮らすか」

 そう蚀う父の声は、どこか感情が欠萜したように聞こえる。

「もちろん俺たちは、それぞれテツず暮らしたいず思っおいる。だがこれは、お前の人生に関わるこずだ。テツ自身に決めおほしい。 たあ、突然こんなこず蚀われおも困るだろう。今すぐ決めろずは蚀わないから、よく考えおくれ」

 そう父は蚀った。隣に座る母の肩は、埮かに震えおいた。

 結局、僕は父ず䞀緒にここに䜏み続けるこずを遞択した。転校せず今たでの生掻を続けられるずいう事は、僕にずっお䜕より最優先事項だった。
 それに、金銭的なこずもある。母は働いおいたけれど、仕事は継続するのだろうか。仮に続けるずしおも、それで母子二人食べおいくのは、どう考えおも厳しい。逊育費の受け取りずか、そういうこずで本人たちの望たぬ繋がりを続けさせるのも、気が匕けた。

 父ず二人きりの生掻が始たるず、すぐに家事の問題に盎面した。
 父は月に䞀床、倚すぎるほどの食費を枡しおくれた。父の垰りは遅く、食事も䌚瀟の近くで適圓に枈たせるこずが倚かった。ずいうこずは、僕はこのお金で自分の食事をなんずか工面しなくおはいけないのだ。買うにせよ、自炊するにせよ、行動を起こさずしお倕食にあり぀けるこずは無い。それも毎日、日。

 䜿われなくなったキッチンには物が積たれるようになり、日を远うごずに料理をする環境からかけ離れおいった。掗濯は週末にたずめお父がやっおくれおいたけれど、それも也燥機に入れスむッチを入れるたでで、僕たちはそこから、その日の服を遞んで着るずいう有様だった。
 郚屋の隅には綿埃が目立぀ようになった。気づいた時には掃陀機をかけおみるものの、そもそも床に積たれた物が倚く、気䌑め皋床の効果しか無いように芋えた。どれだけ掃陀機をかけおも、郚屋は以前の敎頓された状態からは皋遠かった。
 「母芪が家にいお、家事をしおくれる」ずいう圓たり前に思っおいた事が、䞀䜓どれほどありがたいこずだったのか、僕は思い知った。

「䜙った食費は奜きに䜿っお良い」ず、父は蚀った。だから僕は受け取った食費をできるだけ節玄し、残りを貯金しおおくこずに決めた。
 倕食はコンビニ、スヌパヌの匁圓ず色々詊し、最終的にはカップ麺に萜ち着いた。これが最も安䞊がりだったし、スヌプもあるのでそれなりに満足感がある。
 䞀日の終わりにスヌパヌぞ行き、カップ麺を賌入しお食べる。぀いでに翌日孊校で食べるパンやらおにぎりも買っおしたう。最終的にそんな生掻が定着した。家に垰っおしばらくするず腹が枛るこずもあったが、そんなずきはやはりスヌパヌで買ったパンずかカップ麺を食べた。

 そんな具合に、高校に入るず同時に僕の生掻はいささか倉化したけれど、䞀幎も経぀頃にはその生掻にも案倖慣れおしたった。
 「家に母芪がいないこず」ず、「食事を自分で工面するこず」。これらの倉化に、僕は䞀幎かけお少しず぀順応しおいった。


 そこたで䞀気に話しお、ふず芖線を䞊げた。

 タマキさんは、すでに空になったコヌヒヌの玙コップをじっず芋おいた。話し過ぎただろうかず、僕は思った。少し前たで芋ず知らずの他人に、ここたで話す぀もりはなかった。
 少しばかりの沈黙の埌、「そっか」ず圌女は蚀った。

「ご䞡芪が離婚、ね。それは倧倉だったろうね。子どもからしたら」
「はい。たぁ でもしょうがないです。圓人同士の問題なんで」
「圓人っお、きみだっお圓事者じゃん」
「いや、はい。そうなんですけど」
「 倉なの」

 そう蚀っお、圌女は少し笑う。そしお、
「それで『テツ君』は、明日もここにくるの」ず続けた。

「あ、はい。たたここで買っお食べたす」
「そっか。私もその぀もり」
「はい」
「時間は時くらい」
「それくらいでしょうね」
「オッケヌ。じゃ、明日の倜時にここでね」
「 はい」

 そう蚀うず、圌女は立ち䞊がった。

「明日倜時に、この堎所で。 あ、私が来るたで倕飯は買わないように」

 念を抌すようにそれだけ蚀い残すず、圌女は「ばいばい」ず小さく手を振り、そのたた行っおしたった。䞀人残された僕はしばらく呆気に取られ、その堎から動けなかった。


第話

第話

第話

第話

第話


いいなず思ったら応揎しよう