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「あの人って声がいいから何言っててもそれっぽく聞こえるよね」

    あなたは自分の声をどう思っている?
    自分の声は、好き?

    ──私は、はっきりと言ってしまえば私の声が心底嫌いだ。

    先述の通り、私は自分の声が大嫌いだとはっきり断言できる。
    世間一般的に言われている「いい声の概念」と比べてみれば「悪い声」寄りかもしれないな、とすら思うこともある。
    音楽や歌うこと、何かを演じることが好きだから余計にそう思ってしまうのかもしれないのだけれど、ふと己の声を録音して意識的に聞いてみるたびに「気持ちが悪い!」と取り乱して叫びだしたくなってしまいそうなほど、他人の声を聞いて羨ましくて妬ましくて泣きそうになってしまうほど、素敵な声を羨み、自分の声を恨んでいる。そんなことを繰り返している。
    それくらい、己の声は悪いし嫌い。

    声に向き合うたびに、己の声への嫌悪感や他人への羨望は増す。そして「なんと自分の精神も声も醜いことか!」と痛感させられる。
    生まれ持ったものは変えられないというのに、ちっぽけな自尊心と歌、音楽、演劇等に対する気持ちが諦めることを拒み続けた。ここまでくると、どろどろとした執着と言ってもいいかもしれない。

    そう。私は「いい声」の人間がとにかく羨ましくてしょうがない。

    彼ら彼女らは、とりあえず「声がいい」と耳を傾けて話を聞く気になってもらえることが多い。おまけに声を聞くだけで不快な気持ちになるなんてことはまずないだろうし、伝えたいことが大衆の騒めきの中に掻き消されることも多分少ないだろうし、素敵な声というのは褒められることも多いだろうから、単純に羨ましいし……。あげればきりがない。羨望は膨らむばかりだ。
    きっと彼ら彼女らは、声の改善のために録音をした自分の声を、苦い顔で心底気持ち悪いなと思って聞いたことはないのだろうな。なんて妬ましく思ってしまうことも少なくない。
    自分勝手に他人を解釈して、勝手に落ち込むなんて馬鹿らしいし愚かだし、こんな思いを勝手に抱かれている側の人間はきっとなんて悍ましい考えだとぞっとするだろう。でも、この劣等感と僻みを飼いならすことはとても難しかった。
    きっといい声の持ち主には、その当事者にしかわからない悩みもあるだろうに、羨むことがやめられない。隣の芝だなんて近さにないのはわかっているけれど、いつだって隣の芝が青くて青くて、羨ましくて妬ましくて仕方なかった。
    きっと私の庭は枯れ果ててしまっている。そこに巣食うのは、救いようのないルサンチマンだ。

    録音アプリを開く。何か適当なことを喋る。聞き返す。そんな単純なことにすら胃の中がぐるぐるとするような不快感や、緊張感、どこか遣る瀬無い気持ちを覚える。
    でも、やめられない。少しでも己の声に改善の余地はないだろうか、変な喋り方になっていないだろうか。昨日より少しでもましに、少しでも不快感がなくなれば──……。祈るような気持ちで、鳥肌を立てながら己の声を聞く。
    外見を気にする人が何度も何度も執拗に長時間鏡で己の姿を確認したり、己の顔の写真を撮ったりすることがあると聞くが、私の録音作業はそれに近しいかもしれない。
    決して好きだからではない。嫌いだからこそやめられない。そのジレンマも私を大いに苦しめる。

    「あの人って声がいいから何言っててもそれっぽく聞こえるよね」

    時折このような言葉を聞くことがある。
    わかる。とてもよくわかるのだ。事実だと思う。声がいい、というそれだけで何故だか説得力が生まれる。実感してきたことだ。だから羨ましくてたまらない。
    生まれ持ったものはもうどうしようもないし、妬むなんてお門違いも甚だしい。ぜんぶぜんぶ、わかっている。
    でも私だって、自分の声を気持ち悪いと思って泣きそうになることなんてしたくなかった。
    好きな歌を声の気持ち悪さというノイズなしで歌いこなしてみたかった。
    声だけで、君はこういう人間だよねとラベリングされたくなかった。
    ちゃんと話を聞いてもらいたかった。
    たった一度だけでもいいから声を褒められてみたかった。
    歌うことが、演じることが、声で表現をすることが好きだったから。

    こんなことになってしまうならいっそ、己の声が良くないことに気づきたくなかったなんて思いもするけれど、自分の声を客観視できるというのは、私が声で表現をすること等に対して真剣に向き合おうとしてきたから分かったことであるというのも、また事実だった。
    その事実を否定したくないから、私は今日も正面から「私の声が嫌いだ」という気持ちに苦しみながら、ぶつかるしかないのである。

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