
【エッセイ】その言葉は誰に向けられたのか
素直に言うと、自分の人生が上手くいっていないと、他人の上手くいっている人生を見て、「死ね」と思う。思うだけで、口にはしないけど。良識に包んでいるだけで、本音は相当穢れている。先日、「嫌いな先輩がいるんですけど、まじで死んでほしくて。バレずに消えてもらう方法とかないですか」と連絡が届いた。冗談でも言うべきではないけど、真剣に文字が紡がれている気がして、「消えるという保証はないけど、消えろって願えばいいと思う」と返信をした。願うだけならば誰もがしていることで、そんなことで叶うはずもない。「それで消えてくれたらいいですけど」と返信が届いた。
その連絡が届いてからもう、4日が経った。今も「消えてくれ」と願っているのなら少しだけ同情してしまう。「ところで先輩は消えましたか?」と、その人に向けてメッセージを打ったのだけど、まだ送信をするべきではないと思って消した。ストーリーが更新されていた。茂みから見える街の明かりを撮ったもので、もはや明かりが点となっていて星みたいだった。この人が見ている世界は僕と似ていて、4日前に連絡をしたときとは違う感情を抱いてしまう。茂みから見える明かりではなく、1人を見つめている気がした。
昨夜、「どうしても死んでほしいです。話を聞いてもらえないですか」と連絡が届いた。気になっていた僕は、「何かあったんですか。聞きますよ」と返信をして、観ていたテレビを消した。「先輩が俺の彼女を好きらしくて、アピールしていて。彼女も揺らいでいる部分があって、付き合っていてもなんだか楽しくないんです」と連絡が届いた。「でも別れるのは違う気がするし、結局はあの先輩さえいなければって思うんですよ」と続けられた。どういう言葉をかけてあげれば、納得してくれるのか考えるけど、何も思いつかなかった。「そうなんだね」と返信をして、何も続けずに画面を眺める。
「どうしたらいいと思いますか。殺したいけど、殺すと捕まっちゃうし。消えろと願っても、消えるなんて現実的に不可能だし」と送られてきた。「君が捕まってしまうのは悲しいね」と前置きをして、「彼女との時間を大事にするしかないと思う。先輩からのアピールでは靡かなくなるほどに」と送った。何度か「入力中」という表示が出ては消えてを繰り返している。相当悩んでいて、でも送る文字を考えているのだと思うと優しさが垣間見える。「それしかないんですかね、死んでほしいですけど」と憎しみが届いた。
これ以上話していても、この人の憎しみが膨らんでいくだけだと思って連絡をやめた。素直に言うと、他人の人生が上手くいっていないのを見て、「ざまぁみろ」と思う。けど、このときばかりは「どうか幸せになれ」と願ってしまった。いつもなら「死ね」と思ってばかりなのに、他人の幸せを願うだなんて自分ではないみたいで気持ちが悪い。痒くて、でもその箇所が分からなくて、ずっと痒いみたいな感覚と似ている。さっき、「彼女と別れました」と連絡が届いた。少し時間を置いて、「死ね」という連絡も届いた。