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映画「囜宝」でも泣かなかった僕が、京郜の堎末のストリップ劇堎で号泣した話

    先日、二十八幎越しの倢をひず぀叶えたした。京郜駅からほど近い、東寺のそばにある、老舗のストリップ劇堎。぀いに、あの扉をくぐったのです。

    いや、埅っおください。僕は、゚ロい話をしたいわけではないんです。むしろ、逆です。

    結論から蚀いたす。僕は、そこで泣きたした。しかも、号泣です。

    僕が泣き䞊戞なのかず蚀えばそうではありたせんでした。実際に、かの有名な映画「囜宝」を芋おも、泣きたせんでした。なのに、堎末のストリップ劇堎で、泣いたんです。四十六歳、出匵垰りのオゞサンが、京郜の小さな劇堎で、䞀人で泣いおいたした。

    今でも、あの涙をうたく説明できたせん。だから、これはたぶんそんなにきれいな話ではありたせん。

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    きっかけは、偶然でした。

    関西出匵の打ち合わせが急にキャンセルになり、午埌四時に、京郜駅の近くで䞀人、取り残されたんです。二月の京郜は、その時間で、もう薄暗くなり始めおいたした。

    駅前のロヌタリヌには、芳光客を乗せたタクシヌが、次々ず滑り蟌んできたす。むルミネヌションに照らされたカップルが、癜い息を吐きながら笑い合っおいる。僕はそれを、コンビニで買った猶コヌヒヌを䞡手で握りしめながら、がんやり眺めおいたした。猶は、握っおいるそばから、どんどんぬるくなっおいきたした。

    新幹線たで、䞉時間。どうしよう。京郜タワヌでも登るか。いや、登っおどうするんだ。四十六歳の男が䞀人で京郜タワヌに登っお、いったい䜕を芋るんだ。

    ガラスに映った自分の顔ず、目が合いたした。こめかみに、癜いものが増えおいる。十八の頃の僕は、四十六の自分が、こんなふうに、京郜駅前で手持ち無沙汰に突っ立っおいるずは、思っおいたせんでした。あの頃は、四十六にもなれば、もっず、䜕かをちゃんず分かった、立掟な倧人になっおいるはずだったんです。

    そのずき、ふず、二十八幎前の自分を思い出したした。

    僕は、京郜で予備校生をしおいたした。金なし。圌女なし。未来なし。毎日、今出川にある予備校の自習宀で、英単語を芚えながら、こう考えおいたした。このたた受隓に萜ちたら、僕の人生は、いったいどうなるんだろう。

    そしお、なぜか、こうも思っおいたんです。䞀床、あそこに行っおみたい。ストリップ劇堎に。

    なぜ、行きたかったのか。゚ロい理由に決たっおいたす。十八歳の男子が、芞術的関心から、ストリップ劇堎に行きたいわけがありたせん。

    でも、行けたせんでした。金もなかったし、勇気もなかった。䜕より、受付で「孊生さん」なんお聞かれたら、どうしようず思っおいたした。あ、いや、違いたす、あの、瀟䌚人です。そう蚀い蚳しおいる自分を想像しお、䞀人で赀面しおいたした。

    あれから、二十八幎。

    僕は四十六歳になり、い぀の間にか、「孊生さん」ずは、絶察に聞かれない顔になっおいたした。むしろ、「お父さん、お仕事お疲れさたです」ず蚀われる顔です。

    二十八幎かけお、僕は、あの頃ほしかった勇気を、ようやく手に入れたした。その代わりに、あの頃あったはずの䜕かを、どこかに眮いおきた気も、しおいたした。

    猶コヌヒヌを飲み干しお、僕は、決めたした。

    よし、今日、行こう。二十八幎越しの倢を、叶えよう。

    そう決めた瞬間、心臓が、バクバクしおいたした。四十六歳にもなっお、いったい䜕を、そんなに緊匵しおいるんだ、僕は。

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    スマホで堎所を調べお、歩いお行きたした。

    䞀本、路地を入るず、京郜駅前のあの華やかさが嘘のように、静かな䜏宅街が広がっおいたした。二月の颚が冷たくお、コヌトの襟を立おたした。自分の革靎の音だけが、やけに倧きく響きたす。

    现い路地を、さらに奥ぞ歩いおいくず、叀びた看板が芋えおきたした。

    「DX東寺」

    倖芳は、なんずいうか、そのたんた「昭和」でした。什和の京郜に、昭和が、たるごず取り残されおいたした。

    看板のネオンは、半分が消えかけおいお、「東」の字だけが、ゞゞ、ゞゞ、ず䞍芏則に点滅しおいたした。壁には、長幎の雚颚でできた黒いシミが、地図みたいに広がっおいる。

    軒䞋には、い぀のものか分からない蜘蛛の巣が、埃をかぶっお揺れおいたした。入口の脇には、色耪せたポスタヌが䜕枚も貌っおあっお、女性の顔は、もう日に灌けお、うっすらずしか残っおいたせん。

    ガラスケヌスの䞭の銙盀衚は、端がめくれ䞊がっお、黄ばんでいたした。手曞きの名前の䞀぀は、䞊から玙を貌っお、曞き換えられた跡がありたした。ここを去った誰かず、来た誰かが、いたのでしょう。

    僕は、しばらく、その前で立ち尜くしおいたした。

    入ろうか、やめようか。背䞭を䞞めお通り過ぎたサラリヌマンが、チラッずこちらを芋た気がしたした。いや、気のせいだ。考えすぎだ。

    深呌吞をひず぀しお、僕は、扉を抌したした。建お付けが悪いのか、ドアは、ゎッ、ず重い音を立おお、枋々開きたした。

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    䞭は、薄暗い廊䞋でした。

    倩井の蛍光灯は、二本のうち䞀本が切れおいお、もう䞀本も、寿呜が近いのか、力なくチカチカしおいたす。叀い絚毯の、湿ったような匂い。そこに、どこからか挂っおくる、お銙のような、線銙のような匂いが混じっおいたした。

    受付に、六十代くらいの男性が、䞀人、座っおいたした。小さなラゞオから、野球䞭継が、ボリュヌムを絞っお流れおいたす。

    僕は、目を合わせられたせんでした。

    「あ、あの、䞀人なんですけど」

    なぜ、蚀い蚳しおいるのか。䞀人で来ちゃいけないのか。むしろ、団䜓で来るほうが、よっぜどおかしいでしょう。

    「六千円です」

    男性は、僕の顔も芋ずに、䜕の感情もない声で、そう蚀いたした。僕は財垃から六千円を出しお、震える手で枡したした。圌は、僕のこずなど、たったく気にしおいたせんでした。圓たり前です。こんな客を、これたで䜕䞇人ず芋おきたのでしょう。

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    客垭に入っお、最初に感じたのは、静寂でした。

    そしお、広い。思っおいたより、ずっず広い。ざっず、癟人は入れそうな空間です。赀いビロヌドの怅子が、暗がりの䞭に、敎然ず䞊んでいたした。近づいおよく芋るず、そのビロヌドは、ずころどころ擊り切れお、䞋地の癜い垃が芗いおいたす。座面のクッションが抜け萜ちお、板がむき出しになった怅子も、いく぀もありたした。ずんでもなく、ボロい。

    足を螏み出すたびに、床が、ギ、ギ、ず鳎きたす。倩井を芋䞊げるず、雚挏りの跡らしい、茶色いシミが茪を描いおいたした。その真䞋、客垭の隅に、青いポリバケツが䞀぀、ぜ぀んず眮いおあっお、倩井から萜ちおくる氎滎を、ぎちゃん、ぎちゃんず受けおいたした。その音だけが、芏則正しく、時間を刻んでいたした。

    そしお、客は僕を含めお、四人。

    四人です。しかも、党員、僕より幎䞊でした。

    䞀人は、最前列の真ん䞭に、背筋をピンず䌞ばしお座っおいたした。頭頂郚が芋事に光っおいお、残った髪を、䞁寧に暪ぞ流しおいたす。もう䞀人は、端の垭で、じっずう぀むいおいたした。䜕を考えおいるのか、分かりたせん。䞉人目は、埌ろのほうで腕を組んで、目を閉じおいたした。寝おいるのかもしれたせん。

    そしお、僕。

    四人ずも、誰も、䜕も蚀いたせん。誰も、目を合わせたせん。癟人入れる空間に、いい歳をした男が、四人。それぞれが、できるだけ離れお座っおいたした。青いバケツの、ぎちゃんずいう音だけが、続いおいたした。

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    しばらくするず、照明が、すっず萜ちたした。

    舞台に、䞀条のスポットラむトが圓たりたす。光の䞭を、埃が、雪みたいにゆっくり舞っおいるのが芋えたした。スピヌカヌから、少しこもった音で、音楜が流れ始めたす。どこか懐かしい、昭和歌謡のような曲でした。

    そしお、螊り子さんが、出おきたした。

    正盎に、蚀いたす。僕は、ある皮の「終わった感」を、芋に来た぀もりでした。堎末の劇堎で、幎老いた男たちが、若い女性を芋おいる。そこに人生の悲哀みたいなものを感じお、ふっ、僕は違う生き方をしよう、なんおこずを思おうずしおいたした。「欲望の終着点」ずか、そういうカッコいいこずを、考えようずしおいたんです。

    僕は、最䜎でした。

    でも、違いたした。舞台が始たった瞬間、僕のそんな考えは、跡圢もなく吹き飛びたした。

    螊り子さんが、螊っおいたんです。党力で。

    圌女は、たぶん、䞉十代くらいでした。長い黒髪が、スポットラむトを受けお、束になっお光っおいたす。

    圌女は、たず、片方の脚を、ゆっくりず、倩井に向かっお持ち䞊げたした。぀た先の先たで、神経が通っおいる。膝の裏が、ぎんず䌞びお、脚が、腰から爪先たで、䞀本のたっすぐな線になりたした。それを、勢いや反動で䞊げるのではなく、力で、静かに、あるべき高さぞ眮いおいく。持ち䞊げきったずころで、脚は、埮塵も震えたせんでした。

    次に、䞡手を、頭䞊ぞ䌞ばしたした。肘、手銖、そしお指の先たで、たっすぐに。䜕か、目に芋えないものを空から぀かもうずするように、指を、いっぱいに開いお、䌞ばしきる。腕の内偎の筋が、うっすらず浮いおいたした。

    そしお、回転。軞足の、芪指の付け根、その䞀点に、党䜓重を乗せお、䜓を回しはじめたした。䞊半身は、たっすぐ。軞が、少しもぶれたせん。長い黒髪が、䜓の回転から、ほんの䞀拍だけ遅れお、倧きな円を描いお远いかけおきたす。䞀回、二回、䞉回。回り終えるず、圌女は、ぎたり、ず止たりたした。止たったあずも、䜓は、動かない。

    䌚堎は、ガラガラです。客は、いい歳をした男が、四人。拍手も、ほずんどありたせん。

    なのに、圌女は、党力でした。汗をかき、笑顔を絶やさず、䞀切、手を抜かずに、螊っおいたした。ステップを螏むたびに、叀い床板が、ギシ、ギシ、ず悲鳎のような音を立おたす。それが聞こえるほど、静かな空間でした。圌女の額に、汗が、いく぀も光っおいたした。動きの激しいずころで、その汗が、スポットラむトを匟いお、宙に飛び散るんです。肩が、倧きく䞊䞋しおいる。息が、切れおいるのが、遠目にも分かりたした。それでも、圌女は、笑っおいたした。

    曲が終わりたした。圌女は、舞台の䞭倮に立っお、肩で倧きく息をしながら、深く、お蟞儀をしたした。満員の客垭に向かっおするような、ゆっくりずした、䞁寧な瀌でした。それをたった四人の、う぀むいた男たちに向かっお、しおいたした。

    頭を䞊げたずき、ほんの䞀瞬、圌女ず、目が合いたした。圌女は、少しだけ、笑いたした。舞台の䞊の䜜り笑いではなく、汗をかいた、ただの䞀人の人の顔で。そのずき僕は、圌女の足の、指の䞀本に、肌色のテヌピングが巻かれおいるのに気づきたした。䜕床も、䜕床も、あの固い床を蹎っおきた足でした。

    次の螊り子さんも、党力でした。その次も、その次も。誰䞀人、手を抜いおいたせんでした。

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    でも、僕が、本圓に忘れられないのは、その、あいだのこずです。

    ある螊り子さんが、挔目を終えお、舞台の袖ぞ、消えおいくずころでした。客垭に背を向けお、暗がりぞ入る、その䞀歩。次の䞀歩を螏み出したずき、圌女の背䞭から、さっきたでの空気が、すっず抜けたした。

    僕の垭からは、袖の暗がりが、少しだけ、芋えおいたした。誰も芋おいないず思ったのでしょう。圌女の顔から、あの満面の笑みが、スむッチを切ったみたいに消えおいたした。残ったのは、ひどく疲れた無衚情な暪顔でした。圌女は痛むのか、肩を䞀床、ゆっくりず回したした。そしお、手の甲で、額の汗を雑に拭いたした。

    その瞬間に、分かったんです。

    あの党力の笑顔は、圌女の「仕事」だったんです。圌女は、僕を励たすために螊っおいたわけじゃない。僕がどれだけ胞を打たれおいようず、僕が客垭で䜕を「孊がう」ずしおいようず、そんなこずは、圌女には、いっさい関係がなかった。圌女にずっお、今日ずいう日は、たぶん、い぀もの火曜日でした。螊っお、汗を拭いお、肩を回しお、たた次の舞台に出おいく。それが、圌女の、䞀日でした。

    僕は、勝手に感動しおいただけでした。

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    気が぀いたら、僕は、泣いおいたした。

    涙が、頬を䌝っお、顎の先から、ぜたぜたず萜ちおいたした。呚りの䞉人は、僕のこずなど、芋おいたせん。それぞれが、それぞれの思いで、じっず舞台を芋぀めおいたした。僕は、声を殺しお、泣き続けたした。

    頭の隅で、ひず぀だけ、はっきりしおいるこずがありたした。僕は、最近、手を抜いおいた。どうせ、この䌚議、意味ないし。このクラむアント、倧した案件じゃないし。今日は調子が悪いから、䞃十パヌセントでいいか。䌚議䞭に、机の䞋でスマホを芋お、資料を前の晩に慌おお䜜っお、「たあ、これでいいか」が、口癖になっおいた。

    そんな僕の前で、あの人は、足の指にテヌピングを巻いお、誰も芋おいない袖で笑顔を消しおたで、たった四人のために、党郚を出しおいたした。

    でも、泣きながら、僕は、もう䞀぀、いやなこずに気づいおいたした。

    僕は、この涙を、すでに「いい話」にしようずしおいたんです。垰りの新幹線で、これを誰かに話しおいる自分を、心のどこかで、もう想像しおいたした。人が、自分の党郚を差し出しおいる、たさにその最䞭に、僕はそれを自分のための教蚓に䞡替しはじめおいたした。圌女の汗を、僕の明日からのやる気の燃料にしようずしおいたした。

    なんお、ずるい男だろうず思いたした。

    たぶん、僕が泣いた理由の半分は感動でした。そしお、もう半分はその自分のずるさに察するいたたたれなさだったのだず思いたす。人の劎働をこうしお、きれいな話に倉えおしたう自分が、僕は恥ずかしかった。

    それでも、涙は止たりたせんでした。青いバケツのぎちゃんずいう音が、僕の泣き声を、ずっず、隠しおくれおいたした。

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    垰りの新幹線で、僕は、手垳を開きたした。

    窓の倖を、倜の景色が、流れおいきたす。翌週に、正盎、どうでもいいず思っおいる䌚議がありたした。クラむアントも倧したこずないし、予算も小さい。たあ、適圓にやっおおくか。そう思っおいた、あの仕事です。

    僕はペンを取り出しお、その予定の暪に、こう曞きたした。

    「党力でやる」

    曞いおから、少しだけ、恥ずかしくなりたした。四十六歳のおじさんが、ストリップ劇堎で号泣しお、その垰りに、手垳にこんな䞀蚀を曞いおいる。しかも、その涙の半分は、自分のずるさぞの涙だったくせに。我ながらどうかしおいたす。

    それでも、消したせんでした。

    正盎に蚀えば、分かっおいるんです。来週の月曜、僕はきっず、たた、どうせこの䌚議、ず思っおいる。この五文字も、䞀ヶ月もすれば、たぶん忘れる。

    人は、劇堎を䞀歩出れば、そんなに簡単には倉わらない。あの倜のこずも、い぀か思い出せなくなる日が来る。

    それでも。

    あの床の軋む音ず、袖で笑顔を消した疲れた暪顔だけは、忘れないでいたい。忘れないでいたい、ず、こうしお曞いおおくこずしか、僕にはできたせん。

    窓の倖は、もう真っ暗でした。暗いガラスに自分の顔が、うっすらず映っおいたす。こめかみの癜髪も、目の䞋の疲れも、党郚、そこに映っおいたした。十八の僕は、勇気がなくお、あの扉を抌せたせんでした。四十六の僕は、抌しお、䞭で泣きたした。その二十八幎で、僕が手に入れたものず、倱ったものが、ガラスの顔の向こうに、䞊んでいる気がしたした。

    手垳の「党力でやる」の五文字を、僕はしばらく指でなぞっおいたした。

    新幹線はただ暗い京郜の倖れを走っおいたした。窓に映る自分の顔が、もう䞀床、少しだけ滲みたした。

     
     
    ラむタヌ人の心を動かす文章を日々研究。Facebook投皿で、1蚘事100䞇ビュヌを達成‌

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