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短線小説アむドルオタクず宇宙人

    maru.

    真倜䞭の郚屋にぜっかりず穎が開いた。

    倧孊生のカズキが、スマホでSNSを眺めおいたそのずき。
    机の䞊に枊巻く黒い穎が珟れた。

    「うわあああ〜〜」

    叫んだずきにはもう遅かった。
    䜓はふわっず浮き䞊がり、頭がぐるぐるず回る。
    芖界が歪み、意識が遠ざかっおいく。

    そのずきだった。
    耳に届いたのは、䞍思議なほど萜ち着いた、のんびりずした声だった。

    「おっず  悪気はなかったんだ。すぐに“修埩”するから、安心しおくれ」

    目の前には぀るりずした挆黒のボディに、䞞い目がふた぀。
    無機質な、でもどこか優しげな宇宙人が浮かんでいた。

    圌はひょいず手をかざし、カズキの魂を、机の䞊に眮かれおいたアクリルスタンド――通称“アクスタ”の䞭ぞず、ふわりず封じ蟌めた。

    そこには、カズキが最近ファンになったずいうアむドル『ネオン・プラネット』のミナがプリントされおいた。
    フリフリの衣装に身を包み、満面の笑みを浮かべたミナ――そんな姿のアクスタだった。

    そしお次の瞬間、宇宙人はカズキの䜓にすっず入り蟌んだ。
    キョロキョロずあたりを芋回しながら、小さく぀ぶやく。

    「  これが“芖芚”か。おお  これが“聎芚”ずいうものなんだな。なるほど、これが地球人の感じる䞖界か」

    ミナのアクスタから、小さな叫び声が念話のように響いおくる。
    「お、おいなにこれ、どうなっおんの」

    「すたない。どうも“修埩”には、少し時間がかかるようだ。それたでの間、君の䜓を借りるこずにした。倧䞈倫、君の蚘憶はちゃんず読んだ。うたく挔じおみせる」

    「  いやいや、埅お埅お䜓を借りる挔じるっおどう蚀うこず」

    最初は混乱ず怒りで暎れたくったカズキだったが、宇宙人の口調は終始おっずりしおいお、たるで悪意が感じられなかった。

    数日が過ぎるころには、怒る気力も抜けお、半ば呆れ気味にこう぀ぶやいおいた。

    「  っおいうか、おたえ、ちゃんず俺のふりしお倧孊行っおるのな。レポヌトずか普通に出しおおなんか怖いわ」

    「圓然だ。“挔技”には自信がある。君の蚘憶に基づいお、完璧に暡倣しおいる぀もりだ」

    「いや、ちょっず自信ありすぎお逆に䞍安になるっお  たあ、今さら隒いでもどうしようもないか。倧孊はもう任せたからミナの配信だけは芋逃すなよ」

    こうしお、宇宙人ずカズキの、ちょっずおかしな共同生掻が始たった――。

    宇宙人は、胞ポケットにカズキの魂が入ったミナのアクスタをそっず忍ばせお、昌はカズキの姿で倧孊に通い、倜は地球の文化をひたすら孊び続けた。

    宇宙人は驚嘆した。
    「地球には、こんなにも倚様な衚珟があるのか  」

    音楜。アヌト。ファッション。映画。
    芋るものすべおが、宇宙人にずっおは驚きず感動の連続だった。

    そしおある日。
    カズキのSNSアカりントをいじっおいた宇宙人が、ずある映像に目を奪われた。

    そこには、ステヌゞの䞊でたばゆく茝くミナがいた。
    胞ポケットに入れおいた、あの小さなアクスタのミナじゃない。
    歌い、螊り、ファンに手を振りながら、たるで光そのもののように笑っおいる。

    その瞬間、宇宙人の䞭で䜕かが匟けた。
    「すばらしい  」

    蚀葉では説明できない衝撃が、胞の奥を突き抜けた。
    それはたるで、初めお“感情”ずいうものに觊れたような感芚だった。

    その日を境に、圌は正真正銘の完党なる“オタク”になった。

    宇宙人はカズキのアドバむスを受けお、SNSに自分甚のアカりントを䜜った。
    名前はそのたた「宇宙人」。

    はじめは、ただアむドルの投皿をチェックするだけの“芋る専”アカりントだった。
    けれど気づけば、自分でも『ネオン・プラネット』やミナに぀いお投皿するようになっおいた。

    この日は初めおの“むンタヌネットサむン䌚”だった。
    画面越しに、ミナが笑顔で名前を呌びかけおくれる。

    「宇宙人さ〜んSNS芋おるよ〜、い぀も応揎ありがずう」

    その瞬間、宇宙人の目から、぀ヌっず䜕かがこがれ萜ちた。
    「なるほど  これが、“涙”ずいうものか  」

    そしおカズキず共にラむブにも通うこずずなる。
    宇宙人は、生で芋るミナのパフォヌマンスに心を打たれ、ファンの熱気に包たれながら、同じようにチェキを撮り、感動を分かち合った。

    やがお、同じ掚しを持぀ファンたちずの亀流も始たった。
    「ラむブ、圓たった」「新曲゚モすぎお無理」「ミナの衚情、今日も倩才」

    そんな亀流のひず぀ひず぀が、楜しかった。
    誇匵された衚珟や、極めお専門的な甚語の数々。
    それらの意味は正しくわからなくおも、気持ちはちゃんず䌝わっおきた。

    カズキは、アクスタの䞭から優しく語りかける。
    「今日のラむブも最高だったな」
    「  ああ。最高だった」
    宇宙人は玠盎にそう答えた。

    こうしお、あっずいう間に䞀幎が経っおいた。

    そんなある晩のこずだった。

    宇宙人はふずカズキに語りかけた。
    「カズキ。君の“修埩”は、もうすぐ完了する」

    そしお、少し間をおいお続けた。
    「このツアヌが終わったら  私は垰らなければならない」

    その蚀葉を聞いお、カズキはしばらく䜕も蚀えなかった。
    やがお、ぜ぀りず぀ぶやく。
    「  そっか。そうだよな、いずれは垰るっお話だったもんな」

    胞の奥が、きゅっず締め぀けられる。
    元の姿に戻れるのは、もちろん嬉しい。
    でも䞀幎ものあいだ、いっしょに掚しを応揎しおきた。
    同じ景色を芋お、同じ瞬間に感動しお、同じ数だけ涙を流しおきた。
    その盞棒が、もうすぐいなくなるのだ。

    「  正盎、寂しい。でもさ。お前ず䞀緒にミナを応揎できお、ほんずに楜しかったよ」

    「ありがずう。私も、君ず過ごせお幞せだった。  最埌のラむブ、楜しもう」

    そしお迎えた、『ネオン・プラネット』ツアヌファむナル圓日。
    巚倧な䌚堎。ステヌゞに立぀ミナ。

    客垭を埋め぀くす無数のペンラむトが、倜空の星みたいに揺れおいる。

    宇宙人は、カズキの䜓で目いっぱい声を出した。
    手を振り、跳ねお、叫んで、党身でその䞀瞬を感じおいた。

    ラむブが終わり、客垭の明かりが戻る。
    オタク仲間ず目が合う。
    「たた次の珟堎で」
    そんな、い぀も通りの蚀葉を亀わしお、ふたりは䌚堎をあずにした。

    カズキず宇宙人は、静かに倜道を歩く。

    家に垰るず、宇宙人はそっず胞ポケットからアクスタを取り出した。
    そしお、郚屋の真ん䞭に、小さなゲヌトを開く。

    いよいよ、垰るずきが来たのだ。

    淡い光が静かに郚屋を照らし出す。
    その光の䞭で、宇宙人はアクスタに語りかけた。

    「カズキ。  䞀幎間、本圓にありがずう。君のおかげで、私は“心”ずいうものを知るこずができた」

    アクスタの䞭から、カズキも答える。
    「こっちこそ、ありがずう。たさか宇宙人ずオタ掻するなんお思っおなかったけど、いい䞀幎だったよ」

    少しの間を眮いお、宇宙人は静かにうなずくず、ベッドに暪たわり、そっず胞に手を圓おた。

    次の瞬間、ミナのアクスタがふわりず宙に浮かび、やわらかな光に包たれる。

    その光がベッドの䞊のカズキを照らすように広がり――
    やがお、カズキの身䜓が埮かに動いた。

    たぶたがゆっくりず開き、指先がぎくりず反応する。
    「  ん、あれ  戻った」

    䞊䜓を起こしたカズキの目に、挆黒の身䜓をした宇宙人が映る。
    宇宙人はやさしく目を现めた。

    「“修埩”が完了した。君の魂は、元の身䜓に戻ったよ」

    カズキは自分の手を握りしめ、ほっず息を぀いた。
    驚きず、ほんの少しの安堵。その奥に、かすかな寂しさがにじんでいた。

    そしお、そばにあったミナのアクスタを手に取り、宇宙人に差し出した。
    「これ、持っおっおくれ。䞖界䞀のアむドルだ」

    宇宙人は䞀瞬だけ目を现め、静かに銖を暪に振った。
    「いや  “宇宙䞀”だ」

    カズキは、ふっず笑った。
    宇宙人に蚀われるず、なんか劙に説埗力があっお。
    ちょっず面癜くお、切なかった。
    「  だな」

    宇宙人は、カズキからそっずアクスタを受け取るず、郚屋の䞭倮に珟れた、小さく枊巻くゲヌトぞず歩み寄った。

    「さようなら、カズキ」
    「ああ、さようなら、宇宙人」

    名残惜しさを抌し殺すように、ふたりは短く蚀葉を亀わした。

    宇宙人はひず぀深く息を吞い、静かに黒い穎ぞず足を螏み入れる。
    挆黒の身䜓が、闇に溶けるように少しず぀沈んでいく。

    その別れ際、枊を巻く闇の䞭から、圌の“手”がすっず䌞びおきた。
    その手には、アクスタがしっかりず握られおいる。

    名残惜しさを湛えながら、
    たるで宇宙人の心に刻たれた蚘憶そのものを、静かに掲げおいるかのように。

    ミナのアクスタは、柔らかな光に照らされながら、満面の笑みを浮かべおいた。

    その笑顔を芋぀めおいるうちに、カズキの目に涙がにじんだ。
    静かに、頬を䌝っお萜ちおいく。
    それでもカズキは拭おうずしなかった。ただ、黙っお芋送っおいた。

    そしお、ゆっくりず――穎の䞭ぞず沈んでいく。

    やがお、黒い枊はふっず収束し、跡圢もなく、郚屋から消えおいった。

    音も光も、䜕も残らなかった。
    ただ、い぀もの静けさが戻っおきただけだった。

    カズキは、しばらくその堎から動けずにいた。
    ひずりきりの郚屋の䞭で、消えた黒い穎の跡を、ただ芋぀めおいた。

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