
【歪んだ日常】第12話|流行
あらすじ
都内に住む、ごく普通の高校一年生。クラスでは、人気インフルエンサーの一言が、ファッションも趣味も価値観さえも変えていく。「ゲームが好き」「引きこもり」といった言葉まで、おしゃれなライフスタイルとして受け入れられ、昨日まで浮いていた同級生は一夜にして人気者になる。一方で、自分が同じ物を身につけても、まったく違う評価を受ける主人公。高価なブランド品より、インフルエンサーが持つプチプラ商品の方が価値あるものに見える現実に戸惑いながら、少しずつ「価値」とは何かを考え始める。しかし答えに気づいたはずなのに、翌日もまたスマホを開き、新しい流行を追い続けてしまう――。誰かを真似し続ける現代人の心理を描いた、静かな日常ホラー。
本編
私は都内に住む、ごく普通の高校一年生です。
朝起きて、制服を着て、学校へ行き、
時間があればスマホをチェック。
クラスの話題の中心には、
いつも“誰か”がいます。
人気のインフルエンサー。
韓国アイドル。
SNSでバズっているモデル。
「昨日のファッション、おしゃれだったよね」
「私、同じの即注文したよ」
「メイクも可愛かったね」
「今日、それ参考にして真似してきたんだ」
「いま手芸にハマってるみたいだよね」
「え、じゃあ私も今日から趣味は手芸にする」
ファッションも、メイクも、趣味も。
まるで空気のように、
誰かの発言が次の流行になっていきます。
昨日まで興味のなかった手芸が、
急に「おしゃれな趣味」になるのです。
ある日の放課後。
「学校終わったら、カラオケでも行く?」
「いいね。
どうせなら人数が多い方が楽しいし、
K子も誘ってみようか」
K子は、流行にはまったく興味がなさそうな、
おとなしい子。
一日中ゲームをして、アニメを見て、
休日もほとんど家から出ない。
いわゆる「オタク」と呼ばれるタイプです。
「ちょっと話が合わなそう」
「一緒に歩くのは、ちょっと……」
私服も、好きなアニメのキャラクターが描かれたTシャツばかり。
おしゃれな子たちの中では、
どこか浮いた存在でした。
ところが、ある日。
人気のインフルエンサーが動画で言いました。
「私は、とにかくゲームとアニメが大好き。
休みの日は引きこもってまーす」
そして、その人はアニメキャラクターのTシャツを着ていたのです。
不思議でした。
さっきまでダサいと思っていたものが、
急におしゃれに見えたのです。
翌日には、
「私もゲーム始めた」
「実は隠してたけど、
私もアニメ好きなんだよね」
「アニメのTシャツ注文しちゃった」
そんな声で溢れていました。
そして、K子も一瞬で人気者になりました。
それを言うのが人気のインフルエンサーなら、
急に意味が変わるのです。
「え、意外。でも可愛い」
「なんかそういう生活も、おしゃれ」
ある日、私はずっと気になっていたインフルエンサーが紹介していたプチプラのバッグを買いました。
とても高見えして、おしゃれに見えたからです。
届いた箱を開けた瞬間、心が弾みました。
翌日、そのバッグを学校へ持って行きました。
すぐに友達が気づきました。
「え、なにそのバッグ。おばあちゃんのおさがり? 笑」
「え?」
私は驚くと同時に、慌てて言いました。
「でもこれ、
インフルエンサーのAも使ってるよ」
一瞬の沈黙。
友達はスマホを見て、
「あ、本当だ」
と言い、次の瞬間、
「え、この子が持ってると、
おしゃれに見えるね。私も買おうかな」
さっきまで「古くさい」と言われていたバッグが、一瞬で「流行」に変わりました。
別の日。
私はバイトで貯めたお金で、
ずっと欲しかったブランドバッグを買いました。
でも、それを持っていても誰も気づく人がいませんでした。
「これ、ブランドなんだよ」
いちいち説明する必要があったのです。
有名人が持てば、プチプラのバッグでもブランドに見えるのに、私が持てばブランドバッグでもプチプラに見える。
同じ物でも、誰が持つかで価値が変わってる?
ある日、私はインフルエンサーの動画を見ていました。
「動きたくない」と大きく書かれたTシャツ。
ボサボサの髪。
丸い眼鏡。
ほとんど、すっぴんの顔。
それなのに、全部がおしゃれでした。
だらしないはずなのに、
「抜け感」に見えるのです。
同じ格好を私がしたら。
きっと「だらしない人」で終わります。
同じ服。
同じバッグ。
同じ趣味。
同じ話し方。
それを「おしゃれ」に見せているのは、
その人自身だったのです。
誰が身につけるかで、意味が変わる世界。
そうやって、価値は簡単に反転します。
それでも今日も、流行りの会話は尽きません。
「ねぇ、このアイドルの髪型可愛くない?」
「今日美容院予約しちゃった」