共生の黎明 #63 第16章 第6節:揺らぎの中で 連続小説
あの朝から、まだ数日しか経っていなかった。
けれど、集落の空気には、静かな変化が生まれていた。
「……なんかさ、“人が増えてる”って感じ、しない?」
水路沿いの小道を歩きながら、若い女性がそう呟く。
彼女の隣を歩く青年は、少し考えてから答えた。
「うん。人も、想いも、流れてきてる。なんとなく……そんな気がする」
それは決して“外からの侵入”ではなかった。
けれど、「何かが近づいている」ことは、皆の肌感覚に、じわりと染み込んできていた。
夕方の集会所。
数人が集まり、ざっくばらんな語らいの場が設けられていた。
県からの職員のひとりが、静かに語る。
「本庁でも、この地域の動きに注目が集まってきています。……できれば、この循環を“制度”の中に位置づけたい、と考える部署もあるようで」
その言葉に、場の空気が少し揺れた。
年配の男性が、湯飲みを置いて口を開く。
「制度に乗せたら、守られる……そう思う人もいるでしょうな。でも、“あれ”は、守るもんじゃなくて、湧いてくるもんですから」
「湧いてくる?」
職員が目を瞬かせる。
「ええ。井戸水と一緒です。誰かが大切に思ってる限り、ちゃんと湧いてきます。逆に、形だけ残して気持ちが抜けたら……それはもう、ただの“枠”でしょうな」
その言葉に、若い世代のひとりがうなずいた。
「……この前もあったんです。“なんでもない、ありがとう”をユラに乗せて送ったって話。制度とか関係なく、ただ伝えたかったって」
誰も、否定しない。
でも誰も、はっきりとした答えを持っていない。
「じゃあ、制度と想いは、やっぱり交わらないのか?」
ぽつりと漏れた問い。
場が、ふと、沈黙する。
そのとき、小さな端末が、静かに光を灯した。
まだ、誰も気づいていなかった。
けれど、その光は、これから始まる“対話”の兆しだった。
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