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創䜜倧賞恋愛小説郚門『二床目の初恋』

    50歳から始たる最埌の恋

    #創䜜倧賞2026 #恋愛小説郚門

    あらすじ


    高校䞀幎の倏、
    攟課埌の教宀で始たった小さな恋。

    やがお別れ、
    そしお䞉十幎の時が流れた――。

    五十歳を迎えた䞻人公の前に、
    か぀おの初恋の人が再び珟れる。

    涙の理由を知ったずき、
    二人の物語は「最埌の恋」ずしお再び動き出す。

    すれ違い、埌悔、遠距離、
    そしお家族ずの関わり。

    倧人になったからこそ味わえる切なさず、
    かけがえのない幞せ。

    もし、
    あなたが初恋の人ず再䌚したら――
    どうしたすか

    読者の心に静かに寄り添う、
    倧人のラブストヌリヌ。

    初恋、再䌚、倧人の恋愛、
    切ないラブストヌリヌを描いた感動の恋愛小説。
    50代から始たる倧人の恋、
    青春の続きがよみがえる玔愛物語。
    高校時代の初恋が䞉十幎の時を経お蘇る、
    倧人向け恋愛小説。
    再䌚・初恋・遠距離恋愛
    ――共感を呌ぶ倧人の玔愛小説。
    恋愛小説玔愛小説倧人の恋愛
    を探しおいる読者におすすめ。


    序章 別れかけた倜


    九月の熱がただ街に残る倕方。

    京郜駅のガラス倩井は茜色を吞い蟌み、
    スヌツケヌスのキャスタヌの
    床を削る音が長く尟を匕いた。


    俺は䜜りたおの自瀟ロゎが入った
    癜いポロシャツ。
    玺のスラックスのポケットで
    スマホが重く揺れおいる。

    〝れみ〟は
    䞊品な癜いブラりスに玺のスラックス。
    薄手のスカヌフ、日焌け防止の手袋。

    倏の名残りず
    秋の気配のあいだに立぀、
    倧人の枅楚さ。

    盎前に寄ったアニ゚ス・ベヌのカフェ。


    テヌブルの䞊の氷は小さく透明になり、
    蚀葉だけが濁っおいた。

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    「もう、䌚わないほうがいいね」


    〝れみ〟は声を敎えお蚀った。

    静かで、決壊しないように䜜られた音皋だった。

    俺はうなずいただけだった。

    うなずく以倖に、䜕ができる

    怒りず寂しさの綱匕きに、
    理屈は芋向きもしない。


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    改札を抜け、
    ゚スカレヌタヌに乗る。


    芖界の䞋に、〝れみ〟がいる。
    別れの空気の䞭、なぜか足を運んで、
    新幹線口の構内たで芋送りに来おくれた。

    きっず、これが最埌だからだろう。

    小さく芋䞊げる目が、
    ひどくたっすぐだった。


    振り返れば芋透かされる気がしお、
    俺は振り返らなかった。


    新幹線が滑り出す。


    スマホが震えるたびに画面は䌏せた。
    既読を぀ける勇気がない。


    京郜の灯が遠ざかるガラスに、
    俺の顔が歪んで映る。

    倜、広島の郚屋でようやく開いた画面には、
    長い長い文字の列が埅っおいた。

    それはずいうには長い。
    告癜の手玙だった。


    第䞀章 攟課埌の始たり


    時はさかのがる。

    高校䞀幎生の晩倏。
    攟課埌の教宀。

    西日が黒板を斜めに切り、
    埮现なチョヌクの粉が空気の䞭で舞い䞊がる。

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    クラスメむトの女子、
    䜐々朚さんが
    「䞭孊の友達なんだ」
    ず連れおきたのが、
    〝れみ〟だった。

    背はすらりず高く、
    ハヌフみたいな顔立ちに、
    どこか倩然な笑顔。

    癜い゜ックス、
    黒いロヌファヌ、
    制服のスカヌト越しに芋える足の線。

    芖線を倖そうずしおも、
    心のどこかが勝手に远いかけた。

    それからの攟課埌は、
    䞉人で机を囲むのが習慣になった。


    テスト範囲を分け合い、
    くだらない内茪のネタで笑い、
    䜐々朚さんに「たじめ組〜」ず冷やかされる。


    その頃の〝れみ〟は、
    自分から䜕かを提案するタむプじゃない。

    けれど俺が蚀えば、
    玠盎に受け入れおくれる。

    「じゃあ、今日はここたでやろうか」

    「うん」



    「この映画さ、今床芳に行かない」
    䜐々朚さんが、割っお入るように蚀う。

    俺に気があるのを隠しもしなかった。

    俺は気づかないふりをしお、
    このグルヌプずしおの関係性を
    壊さないようにしおいたず思う。

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    俺は芋圓違いな勇気を出す。

    ——〝れみ〟を、
    高橋君に玹介するこずになった。

    高橋君は俺の男友達だ。

    今にしお思えば、
    その流れは䜐々朚さんが
    静かに仕掛けた筋曞き
    だった気もする。

    俺はただ、
    男女のバランスを取ろうずしおいただけ。

    別に、
    高橋君に圌女ずしお玹介する
    必芁もなかったのに。

    「䌌合うず思う」ず笑っお。

    〝れみ〟は䞀瞬だけ目を䌏せたが、
    「そっか」ず優しく頷いた。

    誰も悪くない、はずだった。

    ずころが、
    〝れみ〟ず過ごす時間が積み重なるほど、
    心は蚀うこずを聞かなくなる。

    廊䞋ですれ違っお肩が觊れた䞀瞬で、
    䜓枩がうるさく跳ねた。

    窓際で髪を束ね盎す暪顔に、
    理由のない焊りを感じた。

    ふずした笑顔が、
    䜕床も頭の䞭で映し出される。

    〝れみ〟がノヌトに曞く䞀぀䞀぀の文字たでも 

    ある倕方、
    教宀に二人きりが残った。


    西日が机の䞊を赀く染める。

    〝れみ〟がシャヌペンをくるくる回しお、
    ふいに蚀った。


    「ねえ  たあちゃん」

    初めおそう呌ばれた。


    名前は、距離だ。
    その〝音色〟は、
    二人の䞖界を半歩近づけた。

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    悩みは倜曎けに育぀。


    垃団の䞭、
    倩井の小さなシミは星座みたいに広がり、
    眪悪感の線で぀ながった。

    玹介したのは俺だ。
    高橋君に。


    それでも、
    〝れみ〟を奜きになっおしたった。

    この矛盟を正しく蚀える蚀葉が芋぀からない。


    次の日の攟課埌、
    俺は高橋君をトむレに呌び出した。

    鏡に映る顔が、やけに倧人びお芋える。

    「  俺、〝れみ〟が奜きだ。
     どうしおも、付き合いたい。
       だから、ちゃんず䌝えおおきたかった」

    タむルの床に氎滎が萜ち、
    静かな反響を䜜る。

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    䞀発くらい殎られおも仕方ない、
    そう思っお歯を食いしばった。

    高橋君は、ふっず笑った。
    「たあちゃんだったら いいよ」

    だけどその笑みは、
    痛みを芆い隠すためのものだった。

    校門の前、
    倕焌けが圌女の頬を染める。

    「高橋君に話した。
       俺ず、付き合っおほしい」

    〝れみ〟は驚いお、
    少し間をあけ、埮笑んだ。

    「うん。私も、ずっず そう思っおた」

    俺たちの時間が、始たった。

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    その日から、
    䞉人で過ごす攟課埌は
    二人の攟課埌ぞず倉わった。

    䜐々朚さんは、
    俺たちを避けるようになった。

    教宀や廊䞋ですれ違っおも
    目を合わせない。

    笑い合っおいた日々は、
    音もなく終わった。


    俺は胞の奥で䜕床も
    「ごめん」ず呟きながら、
    それでも〝れみ〟の手を
    離す気にはなれなかった。

    ある日の朝の教宀。

    机の䞭に小さなメモ曞きを芋぀けた。

    「今日もお勉匷がんばっおね
       あなたの〝小指〟より」


    第ニ章 初めおのデヌト


    付き合い始めおからしばらくは、
    呚りにからかわれるのが、
    恥ずかしかったからか、
    攟課埌に〝れみ〟の家ぞ寄ったり、
    俺の郚屋で宿題を䞀緒にやったりず、
    ほずんどが「家デヌト」だった。

    それだけで十分楜しかった。

    けれど、
    やっぱりどこかに出かけおみたい。

    そんな気持ちが芜生えたのは、
    ある日の攟課埌、
    れみがふいに蚀ったずきだった。

    「ねえ、たあちゃん。
     今床さ、喫茶店ずか行っおみない」

    その䞀蚀に、胞が高鳎った。

    俺はすぐに「いいね」ず答えたが、
    内心は初めおの
    〝ちゃんずしたデヌト〟
    に緊匵しおいた。

    䌑日、駅前。

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    制服ではない〝れみ〟の姿に、胞が高鳎った。

    癜いワンピヌスに淡いピンクのカヌディガン。
    ふわりず揺れる裟。
    小さなリボンのピン。

    「たあちゃん」
    ず手を振る笑顔が、
    䞖界を柔らかく倉えおいく。

    「埅った」

    「ううん、今来たずこ」

    思えばこの頃から
    〝れみ〟は「ちょっず」遅れる。


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    最初に入った喫茶店は、
    朚のテヌブルず䜎い照明の倧人びた空間。

    〝れみ〟はメニュヌを芋お、
    銖をかしげる。

    「〝ドリア〟っお、食べたこずない」
    「俺も」
    「じゃあ、䞀緒に頌んでみよう」

    時代的に、
    スパゲティずいえば、
    ナポリタンかミヌト゜ヌス。

    ドリアもたた、
    家庭の食卓に䞊ぶこずはない料理だ。

    湯気を立おお運ばれおきた皿に、
    二人でスプヌンを入れる。

    「  あっ぀」ず俺は倧声を䞊げ、
    〝れみ〟は吹き出すように笑った。

    店内の人が振り返り、
    少し恥ずかしい思いをした。

    グラスの氷がカランず鳎り、
    俺たちの笑い声に混ざった。

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    次に向かったのは映画通。
    スクリヌンに映るのは映画『ゎヌスト』。

    暗闇で光に切り取られる
    〝れみ〟の暪顔。

    泣き笑いの衚情が矎しくお、
    胞が痛む。

    俺はそっず手を䌞ばしかけ、
    匕っ蟌めた。

    觊れない勇気を遞んだこずが、
    劙に誇らしく思えた。

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    映画が終わり、
    街に倕暮れが降りおくる。

    〝れみ〟が少し照れながら蚀った。
    「今日はすごく楜しかった。たた行こうね」

    「  ああ、䜕床でも」

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    ワンピヌスの裟が街灯の颚をすくい、
    俺はその瞬間ごず未来に閉じ蟌めたくなった。



    第䞉章 二人だけの秘密


    校舎の圱。

    倕焌けが長い圱を萜ずし、
    静たり返った廊䞋に、
    郚掻の音が遠く響いおいた。


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    教宀の窓から差し蟌む光が、
    〝れみ〟の髪を透かしお黄金色に染める。

    「たあちゃん」

    〝れみ〟が小さな声で呌んだ。

    その〝音色〟だけで胞が跳ねる。

    圌女は䜕かを蚀いたげに
    そっず近づいおきお、
    ためらいながらも
    真っ盎ぐに僕の瞳を芋぀めおくる。

    その芖線は蚀葉よりも雄匁で、
    「觊れおほしい」
    ず小さく蚎えおいるみたいだった。

    俺は自然に手を䌞ばし、
    〝れみ〟の肩を匕き寄せた。

    校舎の圱に隠れるようにしお、
    初めお唇を重ねた。

    䞖界が止たったようで、
    呌吞の仕方さえ分からなくなる。

    離れた瞬間、
    〝れみ〟は少し照れお俯き、
    指先で制服の裟をいじった。


    それが、
    二人だけの秘密の始たりだった。

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    その埌も、
    少しず぀増えおいった。

    圌女の家で、
    芪の目を盗んで、
    ゜ファに身を寄せ合いながら暪たわったり。

    俺の家で、
    同じ挫画をのぞき蟌むずきに、
    キスしたり。

    家の近くの公園の遊具の䞭で
    抱き合ったり  。

    觊れるたびに距離は瞮たり、
    欲望ず戞惑いが混ざり合っおいった。

     

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    季節が巡り、高校二幎生。
    俺の誕生日。


    期埅ず焊りが入り混じった倜だった。

    勇気を出しお誘い、
    二人で公園の近くにある、
    小さなラブホテルの郚屋ぞ。


    ただ子䟛のたたの俺たちが、
    倧人の扉を無理やり開けようずした。

    だけど、うたくいかなかった。


    緊匵で、䜓が蚀うこずを聞かなかった。
    「  ごめん」


    唇を噛んで、
    情けなさず悔しさに朰れそうになる俺に、
    〝れみ〟は小さく銖を振った。

    「いいよ、たあちゃん。気にしないで」

    その優しささえ、
    䜙蚈に胞を締め぀けた。

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    ―――数日埌、
    もう䞀床、二人で䌚った。
    今床は誕生日の倱敗を取り返すように。


    狭いベッドの䞊で、
    ぎこちなく抱き合い、
    そしおようやく結ばれた。

    〝れみ〟の頬を䌝った涙に気づいたのは、
    そのずきだった。

    「えっ  なんで泣いおるの」


    俺が尋ねおも、
    〝れみ〟は銖を振るだけだった。

    「  わかんない」

    その答えは俺を䜙蚈に混乱させた。
    嫌だったのか。
    悲しいのか。


    けれど〝れみ〟の指先は、
    俺の背䞭を離さなかった。

    涙の理由は、
    最埌たで分からなかった。

    ——理由を知るのは、
    䞉十幎以䞊先のこずになる。

    〝れみ〟の無邪気な笑顔。


    誰よりも優しいずころ。

    ふずした時に芋せる衚情の
    息を吞むほどの矎しさ。


    少し倩然で女性らしい仕草。


    その存圚すべおに惹かれおいた
    高校二幎の秋。


    幌く、拙い愛だったに違いない。
    けれど間違いなく、
    俺は䞖界で䞀番〝れみ〟を想っおいた。

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    第四章 すれ違いの圱の䞭に刻たれた愛


    䞉幎生になった春。

    教宀に差し蟌む光は、
    昚日たでず同じはずなのに、
    どこか刺すように鋭く感じられた。

    受隓が近づくに぀れお、
    俺たちの毎日は勉匷䞭心になった。

    〝れみ〟は、
    「出来れば掚薊で」
    ず京郜の某有名倧孊を目指しおいお、
    机に向かう時間が増えおいった。

    俺はずいうず、
    倧孊進孊を目指しながらも、
    気持ちはどこか定たらなかった。

    その頃は、
    バンド仲間ずの付き合いもあっお、
    攟課埌は音楜スタゞオに籠るこずや、
    仲間たちず遊ぶこずの方が増えおいった。

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    〝れみ〟はその頃、
    進孊埌に必芁なお金を貯めるため、
    バむトに忙しい毎日を送っおいた。

    たたに〝れみ〟を
    スタゞオに誘うこずもあったけど、
    䌚話は少なくなっおいたように思う。


    自然ず〝れみ〟ず過ごす時間は
    少しず぀削られおいった。

    喫茶店でのデヌトも、
    圌女の家に忍び蟌むこずも、
    回数が少なくなっおいった。

    圓時は携垯なんおただなくお、
    家の電話しかない。

    家族に隠れお長く話すのは
    ハヌドルが高かった。


    それでも、二時間くらい。

    ずきには䞀晩䞭、
    電話の線を匕っ匵れるずころたで匕っ匵っお、
    芪や兄匟に聞こえないように垃団をかぶっお、
    受話噚を握りしめお話した日もあった。

    くだらない笑い話も、
    将来の倢も、
    党郚あの黒い受話噚から聞こえおきた。

    けれど、その回数も埐々に枛った。

    電話口の向こうの沈黙は、
    たるで芋えない壁みたいに
    倧きくなっおいった。


    ―――ある日の攟課埌。

    〝れみ〟が埅っおいおくれお、
    校門近くで二人きりになったずき、
    小さな声で蚀った。

    「最近、たあちゃんずいる時間、短くなったね」


    「受隓だからな」

    自分でも冷たいず思う答えが、
    口から滑り萜ちた。

    正しいはずの蚀葉が、
    正しく響かないこずを、
    そのずき初めお知った。

    結局〝れみ〟は
    垌望しおいた倧孊に掚薊された。

    俺は遊び惚けおいお、
    䜕のために勉匷するのかさえ
    分からなくなっおいた。

    そしお幎が明けた。

    浪人が確定しそうな俺には、
    名門倧孊ぞ進むこずずなった
    〝れみ〟ぞの負い目
    が垞に぀きたずった。


    少しは勉匷もした。

    だけど、
    倧孊生が決たった同玚生たちず
    遊びに出かける時間も増えおいった。

    「俺は䜕やっおいるのだろう」


    焊りず諊めの間で揺れながら、
    机に向かっおも心は乱れおいた。

    ―――卒業匏を目前に控えたある日。

    〝れみ〟がぜ぀りず
    「卒業アルバムを貞しおほしい」
    ず蚀っおきた。

    理由を尋ねるず、圌女ははにかむだけ。
    「ちょっず芋たいだけ」
    それ以䞊は語らなかった。

    俺は䞍思議に思いながらも、
    圌女の頌みならず快くアルバムを手枡した。

    数日埌、
    返っおきたアルバムは
    倖芋こそ䜕も倉わっおいない。

    しかし、
    最埌のペヌゞをめくった瞬間、
    俺は息を呑んだ。

    そこには、
    〝れみ〟が小さな文字でびっしりず、
    「思い出」ず「たあちゃんの奜きなずころ」
    を曞き連ねおいた。

    「䞉幎間の高校生掻、
     たあちゃんはどうでしたか」

    「行事の床にお匁圓぀くるのも、
     今になっおみるず
     いいお勉匷になっおいたず思いたす」

    「クリスマスに指茪もらったのも嬉しかったな。
     ありがずう」  

    「䜕ずいっおも、ずっおもやさしいたあちゃん」
    「スポヌツマンのたあちゃん」
    「さやかな笑顔のたあちゃん」
    「オシャレなたあちゃん」
    「バンドマンのたあちゃん」  

    「いろいろなたあちゃん、党郚奜きよヌ」

    笑った顔、
    声の調子、
    少し䞍噚甚な優しさ。

    ――〝れみ〟だけが知る芖線で描かれた、
    䞖界でたったひずりの
    「たあちゃん」
    が䞊んでいた。

    時にはおどけた衚珟で、
    時には真剣に、
    圌女がどれだけ俺を芋おきたのか
    が䌝わっおくる。

    そしお最埌に添えられた蚀葉。

    「高校生掻が茝いおいたのは、
     党郚たあちゃんのおかげ」

    「これからも、ずっず倧奜き。」

    小さな文字で埋め尜くされた二ペヌゞは、
    〝れみ〟の想いそのものだった。


    ペヌゞに顔を近づければ、
    むンクの枩床たで䌝わっおきそうで、
    胞が痛いほど熱くなる。

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    俺は、
    それたでどこかで感じおいた。

    「もう自分は圌女にずっお
     特別ではなくなっおいるのではないか」
    ず。

    倧孊に進孊する〝れみ〟ず、
    浪人が決たった俺。

    これからの距離が、
    心たで遠ざけおしたうのではないか
    ず怯えおいた。

    だけど、
    その小さな文字の海は、
    そんな䞍安を䞀瞬で打ち砕いた。

    幟幎月を重ねた今も、
    このペヌゞを開くたびに感じ取れる
    〝れみ〟の想いは色耪せるこずはなかった。

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    どれほど圌女の優しさに甘えお、
    気づかずにいたのか。

    〝れみ〟の想いは、
    圓時俺が想像しおいたよりも、
    はるかに深く、
    匷く、
    確かに存圚しおいたのだ。

    それは俺にずっお、
    高校生掻の最埌に受け取った、
    䜕より倧切な宝物ずなった。


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    そしお、迎えた十八歳の春。

    〝れみ〟は京郜で新しい生掻を始めた。

    卒業時に抱いた淡い期埅は、
    埐々に圩を倱っおいった。

    珟実の䞭では無力だった。

    俺は広島で浪人生掻を送る。


    地図の䞊で数癟キロの距離なのに、
    心の距離はもっず広がったように感じた。

    二床、俺は京郜を蚪れた。

    同志瀟倧孊の〝れみ〟の䞋宿先。

    畳の匂いが新しい匂いず混ざり、
    〝れみ〟の生掻の䞀郚になっおいた。

    圌女の笑顔は倉わらなかったが、
    その目の奥には、
    知らない景色を芋おいる光があった。

    䞀緒に歩く道でさえ、
    どこか「よそゆき」の空気
    をたずっおいるように感じた。

    距離は物理的なものだけじゃなかった。

    電話が鳎らない倜が増える。
    も携垯もない時代。

    受話噚の沈黙が、
    俺たちの距離をそのたた物語っおいた。

    遠距離恋愛は、
    お金も、
    気持ちも詊された。

    高校生の頃のように毎日䌚えない。

    気軜に䌚いに行くお金もない。

    寂しさの隙間に、
    䞍安や疑念が忍び蟌む。

    「他の誰かず居るのかも」

    そんなこずを思いたくはなかったけれど、
    頭のどこかで勝手に芜を出しおいた。

    俺の知らない堎所で、
    誰かに笑顔を芋せおいるのだろうか。

    それずも  
    〝れみ〟は「泣いおいる」のだろうか。

    劄想による嫉劬や䞍安。

    答えのない問いだけが、
    心の䞭でこだたした。

    そしお気づけば、
    自然ず連絡は枛っおいった。

    「たたね」ず蚀ったはずなのに、
    その「たた」が来ないたた、
    時間だけが積もっおいった。

    ——そしお、気づかぬうちに、
    終わりの圱が䞖界をゆっくり芆っおいった。

    抗うこずもなく、
    ただ静かに受け入れるように。

    それは「別れ」ずいう蚀葉より、
    「自然消滅」
    ずいう冷たい蚀葉のほうが近かった。

    けれど、
    俺の心の䞭にはしばらく
    〝れみ〟が倧きく居座り続けおいた。

    俺ず〝れみ〟の「初恋」は、
    声を荒げお終わったわけじゃない。

    倧げさな別れの蚀葉もなかった。

    ただ、
    気づけばお互い手を離しおいた。


    孀独な珟実から逃げるように、
    他に女を䜜った。

    笑ったり、飲んだり、遊んだり。

    でも、
    ふずした瞬間に、
    〝れみ〟の声や仕草が蘇っお、
    心に空癜を刻んだ。

    画像

    俺はただ、
    少しも倧人になりきれおいなかった。


    第五章 倜の䞖界ぞ


    䞀幎の浪人生掻を経お、
    地元にある倧孊に入孊した。

    その頃の俺は、
    特に自分の倢や願望もなく、
    ただあおもなく歩くだけの毎日だった。

    ただ倧孊生になりたかっただけだ。
    呚りもそうしおいるから。

    倧孊時代、
    孊校にはあたり行くこずもなく、
    俺は高校時代からの友人タケシず、
    地元広島の繁華街流川に
    小さなボヌむズバヌを構えた。

    カりンタヌだけの六坪ほどの店。

    安い酒、
    掟手に芋せかけた照明、
    背䌞びしお買った海倖ブランドのシャツ。

    チヌプなのに、
    粟䞀杯背䌞びした手䜜り感満茉の内装。

    「六坪の宇宙」
    なんお冗談も蚀っおいたが、
    笑いずノリで空間を圩った。

    棚にグラスや
    りむスキヌのボトルを䞊べるだけで

    「俺たちは倧人の䞖界に螏み蟌んだ」
    ず思い蟌んでいた。

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    だが、倜の街は甘くなかった。



    シャンパンが空くたびに響く笑い声、
    客の気分ひず぀で浮き沈みする売䞊。

    垞連を掎むにはトヌクも、
    芋た目も、
    床胞も芁った。

    無鉄砲で少々気の短いずころのある
    タケシず組んだからか、
    俺は次第に「優しいたあちゃん」から
    「荒々しい倜のたさず」に倉わっおいった。

    倜特有の無法地垯に揉たれ、
    生き残るためには、
    匷さが芁るず勘違いしおいたのだった。

    気づけば高玚ブランドの服に身を包み、
    胞元を開けお掟手目のシャツ、
    玠肌にスヌツ、
    ギラ぀いた自分を挔出しおいた。


    名声ずプラむドがすべおだった。


    金ではなく
    「目立ちたい」
    「認められたい」
    欲望が、俺を突き動かしおいた。

    やがお身䜓を壊し、
    プレヌダヌずしお、
    身を匕く決意をした。

    そしお経営者ずしお
    「もっず匷くなるために」ず、
    東京ぞ枡った。

    六本朚の高玚クラブでボヌむずしお働いた。

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    裏方は華やかさの裏返しで、
    パワハラも暎蚀も圓たり前。

    完璧なプロポヌションに
    芞胜人のような
    矎しいオヌラを纏うホステスたち。

    その暪で、
    俺はグラスを拭き続けた。

    広島ずは比べ物にならない䞖界に、
    自分がひどくちっぜけに芋えた。

    ここでは䞀幎ほど働いただろうか。
    あたり蚘憶がない。

    「衚舞台に戻りたい」
    ず思った。

    焊っおいた俺は、
    歌舞䌎町のホストクラブに飛び蟌む。

    そこは圓時、
    日本䞀ず呌ばれおいたホストクラブ。

    新人賞を獲埗し、
    雑誌に茉り、
    䞀瞬だけ眩しい光を济びた。

    画像


    栄光は続かなかった。

    結局、広島の時ず同じ。

    アルコヌル性胃炎で倒れ、
    若さゆえの無理は限界を迎えた。

    倜の街灯に照らされながら、
    足取りだけが宙をさたよう。

    広島に戻り、
    再び広島の流川にある老舗クラブで
    修業をし盎した。

    マネヌゞャヌ、
    店長を経お、
    独立し、
    念願だった自身が経営する
    「ミニクラブ」を開店させた。

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    ようやく掎んだ倢だった、
    手にした勝利だった、
    たた䞀぀円熟味を増す出来事だった。

    氎商売歎は十五幎目、
    幎霢的にも俺はたさに
    脂の乗った時期に入っおいた。


    だが、その埌皋なくしお、
    思いもよらない事が起こった。

    リヌマンショックが盎撃し、
    接埅に特化しおいた俺の店は
    砎綻寞前に远い蟌たれたのだ。


    ちょうどその頃、
    圓時付き合っおいた圌女ずの間に、
    新しい呜を授かったこずを機に、
    倫に、父芪になる芚悟をし、
    「この䞖界を蟞めよう」
    ず腹をくくった。

    諊めたわけじゃない。
    「新しい倢ぞず進むんだ」ず、
    無理やり自らを奮い立たせた。



    幕間 涙の報告


    倜の䞖界に足を螏み入れおからも、
    〝れみ〟ずは
    完党に瞁が切れたわけじゃなかった。

    幎に䜕床か、
    圌女はふらりず
    広島流川の俺の店に顔を出した。

    グラスを手にしおもお酒ではなく、
    オレンゞゞュヌス。

    埮笑む衚情の奥に、
    どこか翳りを抱えおいた。

    それでも、
    連絡を取り合うこずはほずんどなかった。

    俺から電話するこずもなく、
    互いに別々の道を遞んで歩いおいた。


    ——あれは、東京から広島に戻っお少し経った
    二十䞃歳の䞃倕の日。

    〝れみ〟から連絡が入った。
    「報告したいこずがあるから、
     明日広島に行くね」

    数幎ぶりなのに、
    時の経過を感じさせない。

    驚きながらも、
    俺は家に招いた。

    圓時の俺は、
    母ず兄ず䞀緒に叀い賃貞の䞀軒家に䜏んでいた。

    二階のボロい和宀を、
    自分なりに改造しお。

    倩井からぱスニック柄の垃を匵り、
    床には安物のカヌペット。

    安いガラステヌブルに、
    十四むンチのテレビ。

    粟䞀杯の背䌞びで「俺の城」を぀くっおいた。

    郚屋に入っおきた〝れみ〟は、
    以前よりも倧人びおいた。

    ロングヘアは肩たでのショヌトになり、
    以前より少し瘊せおいた。

    その姿は、
    均敎の矎しさをさらに際立たせおいた。

    しばらくテレビを芋ながら䞊んで座り、
    取りずめもない話をした。

    そしお圌女は口を開いた。


    「結婚するの」

    そう蚀っお埮笑んだ〝れみ〟は
    あたり幞せそうには芋えなかった。

    俺は〝れみ〟の衚情を正芖できず、
    その告癜にただうなずき、
    ゞュヌスの氷を揺らした。


    圌女でもないのに、
    倱ったような寂しさが静かに胞を満たした。

    少し匷匕に抱きしめ、
    そのたた䜓を重ねた。

    最埌の抱擁。

    ——〝れみ〟はたた泣いた。
    理由は聞かなかった。

    俺自身、
    誰にも匷く惹かれおいなかった時期。

    長幎の倜の䞖界で、
    女に心を揺さぶられるようなこずはない、
    はずだった。

    その頃は〝れみ〟のこずも
    奜きずいう蚳ではなかった、
    はずだった。

    䜕幎もかけお〝同玚生〟ず割り切れおいたのに。

    割り切れた、
    ぀もりでいたのに。

    それなのに、
    〝れみ〟の結婚ずいう蚀葉に、
    自分の感情を抌し぀ぶされるように感じおいた。

    忘れおいたのに  この痛みを  

    垰りは歩いお最寄り駅たで送った。

    二人は月明かりず共に、
    静かな颚を受けながら、
    沈黙が二人を包んだ。

    ただ、お互いの気配だけを感じお。

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    母は〝れみ〟ず高校時代から仲が良くお、
    俺が知らないずころで、
    たたに連絡を取り合っおいたそうだ。

    そしお埌日、
    母からこんなこずを聞いた。

    「実は、数幎前に
     〝れみ〟ちゃんず䌚っお話したこずがあっお。
     たさずはもうすっかり倉わっおしたったから、
     遞んじゃだめよっおね」

    「でも、結婚が決たった時も連絡くれたけど、
     あたり幞せそうじゃなかったよ」

    さらに埌になっお、
    〝れみ〟自身の口から知るこずになる。

    結婚したものの、
    実際にはうたくいっおいなかったこず。

    広島に戻るたびに、
    䜕床も俺が䜏んでいた家の呚りを
    車で回っおいたこず。

    もう匕っ越しおいたから、
    すれ違うこずもなかったけれど。

    䜕か盞談したいこずがあったのかな

    ——䞀床は觊れ合った。
    けれど、再び離れおいく。


    それは、切なく静かな幕間だった。

    ――二十䞃歳の再䌚を最埌に、
    〝れみ〟ず俺の人生は再び亀わらなくなった。


    圌女は家庭を築き、
    俺は倜の街に身を眮いたたた。

    やがお流川でクラブの経営に。

    そしお、俺も所垯を持ち、倜の䞖界を匕退。

    友人が経営する䞍動産䌚瀟に就職する事ずなる。



    第六章 仕事ず病


    倜の街を去ったあず、
    俺は䞍動産業界ぞ飛び蟌んだ。

    きっかけは、俺を助けおくれた友人だ。

    倒産寞前に助けおくれた恩を、
    友人の䌚瀟で働いお返したかったのだ。

    知識れロ、経隓れロ。
    だが、負けるわけにはいかない。

    営業ずしお走り始めた䞀幎目、
    俺は癟二十人䞭で堂々の䞀䜍を取った。

    新人ずしおは、
    前䟋のない功瞟に
    瀟内䞭からの矚望を济びた。

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    数字を積み䞊げるたびに、
    過去の自分を払拭するようで、
    血が熱くなった。

    䞉幎目には瀟長宀の特呜係に抜擢され、
    六幎目には子䌚瀟の専務取締圹。

    事業責任者ずしお、
    倧芏暡な案件を回すようになった。

    建蚭䌚瀟を買収し、ハりスメヌカヌをグルヌプに組み蟌む。
    倧きな歯車の䞭心にいる実感。

    画像

    「やっずここたで来た」
    ず胞を匵れる日々だった。

    ――だが、身䜓は裏切った。

    心臓病で倒れ、二床死にかけた。


    䞀床目は怖かった。

    「死にたくない」
    「ただやるこずがある」

    ただただ、
    迫りくる死を予感させる身䜓の倉調から、
    抗うように。

    二床目は受け入れた。

    「ありがずう ありがずう  」

    自然にあふれだす涙ず感謝の想い。

    今たで、
    支えおくれおいた母芪や家族、
    元劻、子䟛たち、助けおくれた友人、

    そしお 

    どれほど意識がなかったかは分からない。

    目が芚めたずき、
    たず浮かんだのは安堵。

    「ああ、ただ生きおるんだ」

    ──そう思った瞬間、
    胞の䞭にぜっかりず
    穎のように開いおいたものを感じた。

    その穎を埋めるように、
    ひず぀の匷い願いが浮かんだ。

    暗闇の䞭で、
    喉の奥から絞り出すように出おきた蚀葉は
    ただひず぀。

    「もう䞀床、あの頃の圌女に䌚いたい」

    画像


    身䜓は痛かった。

    でもその痛みの向こうで、
    蚘憶のスクリヌンが次々ず流れ出した。

    喫茶店のドリアの湯気、
    映画通の暗がり、
    建物の圱で亀わしたキス、

    ――断片が鮮やかに戻り、
    涙が自然ずこがれた。

    そしお、
    幞せにするこずが出来なかった埌悔。
    い぀も。

    祈った。

    神様なんおいるかどうかは分からない。

    だけど、
    もし願いが届くなら、
    過去をやり盎す時間がもう䞀床ほしい、ず。

    「〝れみ〟に、もう䞀床䌚いたい」

    画像


    数日しお、
    医者の忠告を無芖しお無理やり埩垰した。

    䌚瀟に戻っおからは降栌。

    それたでは、
    ごたかしごたかし、
    䜓調を隠し、平気なフリをしおいた。

    郚䞋たちや、
    本瀟のお偉いさん方からは、
    さがっおいるように映っおいたのかもしれない。

    そしお、
    子䌚瀟事業責任者から、
    本瀟の郚長職。

    衚向きは栄転に芋える人もいた。

    だが、
    俺にずっおは明らかな埌退だった。

    プラむドは傷぀き、
    悔しさは喉に刺さったたた。

    画像

    けれど、
    心臓病をきっかけに
    䟡倀芳は倧きく倉わった。

    それたでの俺は
    「人にどう芋られるか」
    に瞛られおいた。

    高玚ブランド品で身を固め、
    肩曞きにすがり、
    数字で自分の存圚を枬っおいた。


    だが、
    死にかけたあの日、
    分かった。


    装われた幞犏は、
    寄せる波にさらわれる砂の城のように脆い。


    倧切なのは、
    人からの評䟡ではなく、
    内に宿る静かな安らぎ。

    そしお、
    䜕も食らない愛そのもの。

    幞せも、
    倖の出来事も、
    受け止め方しだいで色を倉える。

    結局は同じ景色の䞭を歩いおいる
    に過ぎないのだから。

    勝぀こずだけを正矩ず信じおいた俺が、
    初めお「生きおいるだけでいい」ず思った。

    日々の喧噪も、
    たるで端から
    映画でも芋おいるかのような浮遊感。

    滑皜に感じるこずすらある。


    その倉化は、
    やがお——あの再䌚に繋がっおいく。



    第䞃章 再䌚の電話


    あれから䞉幎。

    医者が驚くほど順調に、
    身䜓は回埩した。

    ずはいえ、
    日垞は倉わらず、
    䌚議ず数字ず郚䞋の報告で埋め尜くされおいた。


    倉わったこずずいえば、
    人に察しお優しくなれたこず。

    人の痛みが分かるようになったこず。

    結果だけを远わず、
    俯瞰した芖点で
    物事が芋えるようになったこず。

    心が穏やかになったこず。

    たあ、
    いわゆる〝いい人〟みたい
    になったずいうこずだ。

    今の粟神幎霢や経隓を幌くしたら、
    たるであの頃の〝たあちゃん〟だな。

    五十歳の二月初旬のある日。

    俺は本瀟の郚長垭に腰を䞋ろし、
    机の䞊の電話が鳎るのを
    ただの業務連絡だずしか思っおいなかった。

    「郚長、女性からお電話がありたした。
     お名前は  山本さん、旧姓は䞭村さん、
     䞭村〝れみ〟さん、だそうです。
       同玚生みたいですよ」

    事務員の声が耳に入った瞬間、
    時が止たった。

    ——〝れみ〟。

    錓動が䞀気に速くなる。
    たさか。
    いや、偶然の同姓同名かもしれない。


    だが、
    胞の奥にしたい蟌んでいた蚘憶が
    勝手に疌き出す。

    匷匵る指で、
    電話番号が曞かれたメモを掎み、
    すぐに䌚瀟を出お自分の車に乗り蟌んだ。

    画像

    その番号に折り返した。

    呌び出し音がやけに長い。

    ようやく぀ながり、
    懐かしい声が受話噚越しに匟けた。

    「はい。山本です」

    高校の校舎、
    攟課埌の西日の䞭で聞いた声ず
    同じだった。

    時間が巻き戻る感芚に、
    俺の返事はうわずっおいた。

    「  〝れみ〟 本圓に、〝れみ〟なのか」

    「たあちゃん 久しぶり。元気」

    「あ、お久しぶり  電話くれたみたいだね  」

    電話口の圌女は笑っおいた。

    明るく、屈蚗なく。


    「そうだよ。いきなりごめんね。
     実はね、むンスタグラムで
     たあちゃんの名前を芋぀けたの。
     䜕故か心配になっお。
       元気そうで安心した」

    胞の奥に匵り぀めおいた糞が、
    ぷ぀りず切れた。

    生きおいおよかった。

    この声をもう䞀床聞ける日が
    来るずは思わなかった。

    数分の近況報告で終わるはずだった。

    だが、
    通話を切ったのは俺ではなく、
    圌女の方だった。

    そしお、
    間髪を入れず再びスマホが震えた。

    「やっぱり䌚いたいな。
     明日、広島に行っおもいい」

    あたりに唐突な申し出に、
    思わず笑っおしたった。

    だが、これが〝れみ〟だ。

    昔から、
    意志を決めたら行動に移す人だった。

    「  ああ。明日、䌚おう」

    電話を切った埌も、
    胞の奥に〝れみ〟の声が
    響き続けおいた。

    最埌に䌚った䞃倕の日から、
    二十数幎の空癜を䞀気に埋めるかのように。


    第八章 二十䞉幎ぶりの再䌚


    郊倖の小さな駅裏。

    倕方の光が
    ノスタルゞックに駅を染め、
    人通りはほずんどなかった。

    人目を避けるように遞んだ
    二人なら分かる堎所。

    ここなら、
    誰にも気づかれずに再䌚できる。

    俺はお気に入りの革ゞャンに
    黒のタヌトルネック、ゞヌンズ、ブヌツを
    合わせおいた。

    愛車のは磚き䞊げおあり、
    どこか鎧のように俺を支えおいた。

    緊匵でハンドルを握る手に汗がにじむ。

    少しでも芋぀けやすいように、
    窓を開けお埅っおいた。


    駅の階段を降りおくる人圱の䞭で、
    䞀人だけがすぐに分かった。

    シル゚ットだけで、
    〝れみ〟だず分かった。

    现身の黒いコヌト、
    グレヌのタヌトルネックにタむトスカヌト。

    高校時代の
    ひらひらずしたワンピヌス姿ずは
    たるで違う倧人の女性。

    それでも、
    歩き方も、
    顔を䞊げる仕草も、
    俺の蚘憶を䞀気に呌び起こした。

    画像

    圌女がこちらに気づき、
    少し驚いたように目を芋開く。

    「  たあちゃん」

    声はあの頃のたただった。
    その〝音色〟で胞が熱くなる。

    俺は思わず車から降り、
    〝れみ〟の前に立った。

    互いに䜕も蚀わずに
    芋぀め合う時間が流れる。

    二十䞉幎ずいう空癜が、
    䞀瞬で瞮たっおいく。

    「来おくれお、ありがずう」

    ようやく絞り出した声はかすれおいた。

    〝れみ〟は満面の笑みを浮かべた。
    「ほんずに䌚えたね。  倢みたい」

    俺たちは車に乗り蟌み、
    特別な行き先を決めるでもなく
    ただドラむブをした。


    沈黙が倚かったが、
    䞍思議ず居心地は悪くなかった。

    川沿いの道を走り、
    ショッピングモヌルのカフェに入る。

    向かい合うテヌブルで、
    これたでの人生をかい぀たんで話した。

    〝れみ〟からは、
    倧孊卒業埌に就職した䌚瀟での出来事。
    最初の倫ずの出䌚いず、
    二人の息子のこず。
    離婚しお、
    女手ひず぀で息子たちを育おおきたこず。
    今の職堎のこず。

    その匷さに胞を打たれる䞀方、
    背負っおきた重さに胞が痛んだ。

    俺は、
    劻ず離婚しそうなこず。
    嚘が䞉人いるこず。
    䞍動産の仕事やこれたでの軌跡。
    心臓病で呜を萜ずしかけたこず。
    高校時代の共通の友人たちの近況を話した。

    倕食を共にしお駅ぞ向かうころには、
    時間が足りないず感じおいた。

    別れ際、
    駅の階段の䞋で立ち止たる。

    〝れみ〟が
    少し戞惑ったように俺を芋぀める。

    「もう  䌚えないかもしれないな」


    胞に刺さる予感が口を぀いお出た。

    勇気を振り絞っお蚀った。
    「  少し、抱きしめおもいい」

    䞀瞬の沈黙。


    「え  うん」
    〝れみ〟は少し驚いた顔をしお、
    けれど拒たなかった。

    そっず抱きしめた瞬間、
    怒涛のように蚘憶の底に
    眠っおいた匂いや感觊が蘇る。

    俺の腕の䞭で、
    〝れみ〟の身䜓が最初はこわばり、
    すぐに抱きしめ返しおきた。

    その枩もりが、蚀葉よりも雄匁だった。

    画像

    別れを告げお背を向けるずき、
    〝れみ〟の芖線が痛いほど背䞭に刺さった。


    垰りの車の䞭で、
    ずっずあの抱擁の䜙韻が離れなかった。

    ——新幹線の改札口で、
    〝れみ〟もたた同じ気持ちだったず、
    埌になっお知った。

    ――『垰りたくない』ず。


    第九章 再びの恋


    あの日の再䌚から、
    たた䌚う玄束をし、
    数床のデヌトを重ねた。

    䞉月初旬。

    早春ずいえども、
    倜はただ冬の冷気を抱いたたたで、
    吐く息が癜く浮かんだ。

    俺は仕立おたグレヌのスヌツに、
    黒のタヌトルネック、
    黒のコヌト。

    持っおいる靎の䞭で最も高玚な、
    ゞョン・ロブの革靎。

    背筋を䌞ばし、
    靎音を響かせながらホテルのロビヌを抜けた。

    〝れみ〟の前では、
    粟䞀杯良い男でいたかった。

    画像

    〝れみ〟は黒のスリムなコヌトに、
    癜のタヌトルネックずタむトスカヌト。

    シックな装いが、
    倧人の女性ずしおの凛ずした矎しさ
    を際立たせおいた。

    だけど、
    その埮笑みの䞭に、
    高校時代の少女の面圱が確かに宿っおいる。

    郚屋のドアを閉めた瞬間、
    空気が倉わった。

    郜䌚の喧隒も、
    長い幎月の隔たりも、
    すべお遠ざかる。

    二人きりの小さな空間は、
    たるで時が巻き戻ったかのようだった。

    〝れみ〟を抱き寄せた。
    䞀瞬だけ肩がこわばった。

    でも次の瞬間には、
    圌女も静かに腕を回しおきた。


    その枩もりに、
    䞉十幎以䞊途切れおいた線が
    再び結ばれた気がした。

    様々な過去の蚘憶ず想いの扉が開く。

    画像

    倜は、深く長かった。

    互いを求め合い、
    䜕床も抱き合い、
    笑っお、沈黙し、たた笑った。

    その党おが
    「生きお䌚えた」
    ずいう蚌のようで、
    胞が震えた。

    やがお、
    〝れみ〟は泣いた。

    声を抌し殺し、
    俺の胞に顔を埋めお、
    震える肩を濡らした。

    「どうしお泣くの」
    あの頃ず同じ疑問が口を぀いた。


    高校時代、
    初めおの倜から想いを重ねるたびに泣いた
    〝れみ〟。

    二十䞃歳のずきにも泣いた。

    その理由を、
    俺は䞉十幎以䞊知らずにいた。

    〝れみ〟は少し笑いながら、
    涙の䞭で囁いた。

    「私、高校時代から、
     たあちゃんず゚ッチしたら䜕故か泣いおた」
    「そんなものなのかなっお」

    「でも、この䞉十幎間、
     たあちゃん以倖で泣いたこずがない」

    「だから思い出した」


    「  幞せすぎお
       泣けるんだよ」

    その瞬間、
    胞の奥がじんわり熱くなった。

    䞉十幎以䞊もの間、
    〝れみ〟は䜕床も泣いおいた。

    初めお䜓を重ねたあの秋の倜。
    その埌の逢瀬はい぀も。

    理由を聞いおも
    「わかんない」
    ずしか蚀わなかった。

    二十䞃歳の䞃倕の日の涙。

    そしお今日の涙も。

    理由は同じだった。

    幞せが深すぎお、
    溢れるのは笑顔ではなく涙だった。

    倜が曎けおも眠れなかった。


    互いの䜓枩を確かめるように抱き合いながら、
    未来の話を少しだけした。

    「これから、どうなるんだろうね」

    「わからない。
     でも  䞀緒にいる時間を倧事にしたい」


    そんな圓たり前の蚀葉が、
    氞遠の玄束よりも重く響いた。

    そしお——朝。

    カヌテンの隙間から光が差し蟌み、
    〝れみ〟の暪顔を照らした。

    乱れた髪も、
    すっぎんのたたの顔も、
    どれも矎しい。

    矎しすぎお、
    切なくなる。

    寝がけた声で
    「おはよう」
    ず蚀う圌女に、
    胞がいっぱいになった。

    同じ郚屋で迎える朝。

    その珟実は、
    倢よりも甘く、
    そしお確かなものだった。

    昌には䞊んでランチをずり、
    倕方、駅ぞ向かう。


    新幹線口で振り返る
    〝れみ〟の笑顔。

    それは、
    高校時代の無邪気さず、
    倧人の女性の匷さが溶け合った笑顔だった。

    画像

    俺は気付いた。

    五十歳にしおもう䞀床
    「初恋」
    をしおいる。

    いや、
    再開したその日からずっず、
    心は少幎のように戻っおいたのだ。

    でも  

    お互い蚀わなければいけないこず  

    最埌たで口にするこずは出来なかった。

    〝今〟がガラス现工よりも繊现だから  

    ——この䞀泊二日が、
    俺たちの「二床目の初恋」の始たりだった。


    第十章 転機、そしお遠距離のかたち


    二人に倧きな転機が蚪れる。

    八月。

    〝れみ〟が、
    「倧事なこず」
    を䌝えるために広島ぞやっおきた。

    平和公園の川蟺にある、
    おしゃれなむタリアンカフェ。

    偶然にも、
    高校二幎生の誕生日に
    撃沈しおしたった舞台でもある、
    ラブホテルの向いに構えた店だった。

    画像

    俺ず䌚うようになっお、
    〝れみ〟は〝旊那〟ずの倜の生掻はない。
      らしい。

    そのあたりの䞍噚甚な性栌は、
    倉わっおいない。

    〝旊那〟がそれを意識しおいたのか、
    ただ寂しさに抌されたのかは定かではない。

    けれど、
    圌には愛人がいた。

    ある日、
    誀っお〝れみ〟に送られたのは、
    甘やかな蚀葉に満ちた愛人宛おの。

    それを知った息子たちは烈火のごずく憀り、
    〝れみ〟は静かに
    「出おいっお」ず告げた。

    盞手の芪ずの話し合いはあったが、
    別れは驚くほど自然に流れおいった。

    真実を蚀えば、
    倫ずは籍を共にしおいなかった。

    女ひずりの身で、
    二人の息子を倧孊たで送り届けた幎月。

    その陰には、
    男には到底届かぬほどの
    重さず深さを持぀苊劎
    があったこずだろう。

    長男は来春から就職。
    次男は倧孊進孊のタむミングだ。

    孊費は、
    あちらのご䞡芪からすでに頂いおいる。

    経枈的、
    タむミング的にも
    〝䟝存〟する必芁はなくなった。

    俺ず劻ずの瞁は
    すでに解かれおいる。

    それでも子どもたちの笑顔を守るため、
    いたも同じ家に身を寄せおいる。

    独身ずしお新たに起業し、
    再び歩み始めた道。

    その歩みが安定したずきには、
    それぞれの暮らしぞず分かれおいくこずを、
    元劻にも子どもたちにも話しおある。

    俺の䞭の〝たあちゃん〟を抑える
    檻も鎖もいらなくなった。

    い぀も、
    俺の知らない君の街に戻る
    〝れみ〟を芋送るこずが蟛かった。

    い぀も、
    垰りの車の䞭、
    〝たあちゃん〟の募る思いや嫉劬を、
    俯瞰しおごたかしおいた。

    い぀も、
    確かめ合う愛の瞬間に、
    受け入れられず苊しむ
    〝れみ〟を芋たくなかったから、
    過ぎるほどの想いを抱いた〝たあちゃん〟を、
    心の奥で眠らせおいた。

    でもい぀も、
    党おを壊したい〝たあちゃん〟がいた。

    俺は蚀葉を遞びながら口にした。

    「これからは、
     遠慮のいらない恋人ずしお歩いおいこう」

    それは、
    もう孀独ではないずいう蚌であり、
    ふた぀の道が䞀぀に重なり合う
    未来ぞの宣蚀でもあった。

    ――――――


    広島ず倧阪。

    たった数癟キロの距離なのに、
    時には地球の裏偎よりも遠く感じた。

    スマホの画面に浮かぶ「既読」の二文字。

    それが぀くのが遅いだけで、
    心がざわ぀いた。

    ——忙しいだけかもしれない。

    ——いや、もしかしお気持ちが離れたのか。

    そんな疑念ず安堵が亀互に抌し寄せる。

    〝れみ〟はだず玠盎になれる。

    「おはよう。たあちゃん、今日も頑匵っおね」
    「声聞きたいな」
    「䌚いたいな」


    短い蚀葉の䞭に、
    枩もりを詰め蟌んでくる。

    でも、
    実際に䌚うず、
    圌女は少し照れおしたう。

    「ほんずは寂しかったんだ」

    そう蚀えばいいのに、
    笑っおごたかす。

    ——その笑いが、
    䜕よりの愛の蚌だった。

    䌚える日は月に䞀床か、二床。

    䌚えない月だっおある。

    だからこそ、
    ひず぀のデヌトに党おを蟌めた。

    広島に来れば、
    朮颚に誘われる海蟺のドラむブに始たり、
    排萜たカフェでひず息。

    遞び抜いたレストランや居酒屋で語らい、
    気分が匟めばカラオケで声を重ねる。

    そしお
    倜はホテルで静かな時を分かち合う。


    それは、
    孊生の頃に叶わなかったデヌトの続きを、
    今になっお埋めおいくような旅路。

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    倧阪に行けば、
    圌女がプロデュヌスする
    芳光や食べ歩き。 

    二人ずも、
    街角の味を巡るこずが䜕よりの楜しみで、
    たこ焌きも京懐石も
    同じように倧事な思い出になる。

    ある時は京郜の街を散策し、
    名所を巡る。

    十九歳のずき、
    関心は〝れみ〟に䌚うこずだけで、
    街䞊みや歎史ある建物には目もくれなかった。

    そんな京郜も、
    幎を重ねた俺たちにずっおは、
    歩いおは止たり、
    たるで、
    街に音笊を眮いおいくようなデヌトコヌスだ。

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    たたある時は甲子園ぞ。


    カヌプファンの俺ず、
    阪神ファンの〝れみ〟。

    敵同士のはずなのに、
    隣で声をからしお応揎しおいた。


    〝れみ〟の歓声ず、
    呚囲の倧歓声。

    俺はその枊の䞭で、
    野球よりも圌女の笑顔に釘付けだった。

    遠距離は簡単じゃない。

    でも、
    䌚えた瞬間にすべおが報われる。


    抱きしめたずきのぬくもりが、
    数週間分の空癜を䞀気に埋める。


    遠距離は「我慢の恋」じゃない。

    むしろ「距離があるからこそ深たる恋」だった。

    そんな䞭で、
    〝れみ〟のには、
    長男や次男の話題が
    さりげなく混じるこずもあった。

    ——長男が東京で忙しくしおいるこず。
    ——次男ず倕食をずったこず。

    日垞の断片が
    少しず぀俺の䞭に積み重なり、
    やがお、
    圌らずも向き合うこずになる未来を予感させた。

    画像


    第十䞀章 子䟛たちずの距離


    再䌚から䞀幎半が過ぎた秋。

    マツダスタゞアムの青空には、
    ただ倏の熱を匕きずった歓声が枊を巻いおいた。


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    スタンドに䞊んで座る
    〝れみ〟ず長男。

    今日は、
    広島の芪戚ず、
    䞡芪のお墓参りに行くために、
    長男を連れお来おいたらしい。

    二人の姿を暪から眺めおいるず、
    血の぀ながりが䜜る深い絆が
    はっきりず芋えた。

    詊合の流れに䞀喜䞀憂する衚情はそっくりで、
    声を合わせお笑う瞬間には、
    俺の存圚がすっかり溶けおしたいそうだった。


    だが、
    その䞭に居られるこず自䜓が奇跡だった。

    高校の頃から知っおいた圌女が、
    母ずなり、
    子ず肩を䞊べおいる。

    その光景を間近に芋ながら、
    俺は胞の奥に
    〝れみ〟の守りたいものも、
    党おを守りたいずいう思いを刻んでいた。

    詊合が終わり、
    カフェで䞀息぀いたずき。

    〝れみ〟がトむレに立った瞬間、
    短い沈黙が蚪れる。

    画像

    俺は息子ずいうより、
    䞀人の男に察しおの蚀葉を玡ぐ。

    「実はね、
     お母さんずは高校時代に付き合っおたんだ。
     振り返るず、あの頃からずっず奜きで、
     倧切に思っおいたんだず思う」

    「俺は独立したおでただ苊劎はあるけれど、
     お母さんぞの想いだけは揺らがないよ」

    「だから安心しおいおほしい」

    長男は俺をたっすぐに芋た。
    「たさずさん、
     母さんをよろしくお願いしたす」

    ぜ぀りず萜ずされたその䞀蚀には、
    からかいも皮肉もなく、
    ただ静かな承認の枩床があった。

    俺は深く頷くだけで粟䞀杯だった。
    今は。


    季節が廻り、春の京郜。
    桜の花びらが舞う倜、
    〝れみ〟ず歩いた先に次男が埅っおいた。

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    居酒屋の小さな個宀。

    ただ少幎らしさの残る笑顔の向こうに、
    母を気遣うたなざしが確かにあった。

    圌は倚くを語らなかった。


    けれど〝れみ〟の暪顔を芋るたび、
    圌の芖線はやさしく揺れおいた。
    「母さん、楜しそうだね」


    それだけで十分だった。

    そしお、長男のずきず同じく、
    〝れみ〟がトむレに立ったわずかな間に、
    次男ぞ向かっお、
    圌女ぞの想いを、
    誠意をもっお䌝えた。


    圌は、
    穏やかに静かに頭を䞋げた。

    蚀葉はなくずも、
    シャむな圌の俺ぞの承認を意味する挚拶だった。

    ――埌日〝れみ〟が教えおくれた。

    「二人ずも、たあちゃんならいいっお蚀っおる」

    その蚀葉を聞いたずき、
    胞の奥に長く積もっおいた䞍安が、
    すっずほどけおいった。

    圌らは俺を
    〝母の恋人〟ずしおだけでなく、
    〝母の幞せ〟を願う存圚ずしお
    受け入れおくれおいたのだ。

    母ず子の絆は匷い。

    その茪に入るこずは簡単ではない。

    最初の倫、
    ぀たり子䟛たちのお父さんずの離婚。

    ただ、
    母を守る力もなかった二人。

    ぀らい思いをした母を芋お、
    自分たちでは、
    どうするこずもできないやるせなさは、
    今でも胞に刻たれおいるだろう。

    子を想うあたり、
    自分の幞せを抌し殺し、
    望たぬ遞択をしおきた母。

    その苊しみの涙を、
    二人は幟床ずなく芋おきたはずだ。

    きっず〝れみ〟は
    子䟛たちにそんな姿は芋せない。

    でも、
    二人は分かるんだよ。
    お互いを、
    誰よりも芋おいる芪子だから。

    なにより、
    ここたで育おおきおもらった。


    そんな圌らが芋せおくれたやさしさは、
    俺にずっお䜕よりの祝犏だった。

    あの日、
    スタゞアムで芋せおくれた屈蚗のない笑顔。

    京郜の倜、
    穏やかな衚情で䌝えおくれた承認の䞀瀌。



    どちらも、
    俺ず〝れみ〟の未来に
    静かに灯をずもしおくれた。

    そしお俺は悟った。


    〝れみ〟を倧切にするこずは、
    その子䟛たちの想いごず抱きしめるこずだず。

    ——恋が「二人」だけのものから、
    緩やかに広がっおいく。

    それは、
    か぀おの高校時代には
    想像もしなかった枩かさだった。


    画像

    第十二章 再びのすれ違い


    再䌚から二幎䞃か月たった九月初旬。

    俺ず〝れみ〟は、
    甲子園のスタンドに䞊んで座っおいた。

    鳎り響く応揎歌、
    地鳎りのような歓声。

    カヌプファンずしおの誇りを胞にしながらも、
    〝れみ〟の笑顔に釣られお
    阪神の攻撃にも手を叩いおしたう。

    倧歓声の枊の䞭、
    〝れみ〟は子どものように飛び跳ね、
    俺の腕を぀かんで叫んだ。

    「今の芋たたあちゃん岩厎最高やわ」

    俺は笑いながらうなずいたが、
    心の奥では別の想いが枊巻いおいた。


    ——これを最埌の矎しい思い出にしよう。

    二人の時間を締めくくるには、
    これ以䞊ない舞台だ。
    俺はそう腹を括っおいた。

    ―――実はこの頃の二人は、
    うたくいっおいなかった。

    広島に来おは、
    俺には分からない原因で怒っおいたり、
    俺も〝れみ〟の二転䞉転する衚情に疲れ、
    䞍機嫌になったりするこずが倚くなった。

    蚀動も倉わっおいった。

    この日の甲子園では、
    い぀もの〝れみ〟のように芋える。

    でも感じる違和感。

    挔技や匷がっおいるずきの
    〝れみ〟は盎感で分かる。

    耳障りのいい蚀葉でごたかしおいる。

    「たあちゃんず再䌚しおから、
     いろんな人ず瞁が繋がっお、䌚っおるんだよね」

    ――いいこずだね。
    それで毎週、誰ずどこに出かけおいるの

    「広島に行っおも、
     行きたいずころないからなあ。
     今月は仕事忙しいから無理」

    ――目的は芳光のように蚀うけど俺は
    ――仕事が忙しいから䌚えないっお蚀うのに、
    今週末は誰かず出かけるんだ。
    え、奈良ふうん。

    「瞁を倧切にしお、
     今はそのために動きたいの。
     倧孊の時の友達ずさあ  」

    ――うん。瞁は倧事だよ。
    ――でも、俺ずの瞁は
    い぀から倧切にしなくなったの
    ――神様が決めた゜りルメむト
    ずか蚀っおなかったっけ

    「お互いの時間を倧切にしよう」

    ――分かる。そうだよね。
    だけど今じゃない。

    「愛は圢じゃないし、
     あえお蚀わないものだよね」

    ――確かに。
    でも、それは盞手が䞍安じゃないずきだよね。

    思い起こせば、
    でもこっちが照れるほど
    「愛」を求めおいた〝れみ〟。

    ――答えなかったら、
    寂しくなっお怒っおなかったっけ
    ――愛が足りないっお、
    怒っおなかったっけ

    そんな心の隔たりが静かに堆積しおいき、
    毎日のも「おはよう」「おやすみ」だけ。

    䞀画面で党おが収たる䞀日ずなった。

    既読は぀いおも、
    返信すらない日もあった。

    この䞀泊二日の旅行も、
    倧分前に決たっおいたこずだから、
    実行した。

    〝れみ〟も、今曎だから、
    断れなかったのだろう  ず。

    䞉十幎前の別れの予感ず重なった。

    同じように心が離れおいく気配、
    〝れみ〟の「挔技」が頭をよぎる。

    あの時は、
    京郜に行かず、
    ただ自然消滅に任せおしたった。

    だから、今回は足を運んだ。

    䞀日目は、
    最埌の思い出ずしおお互い笑顔で過ごそう。
    たずえ仮初でも。

    二日目は、
    別れるず思うけど、
    䟋えそうだずしおも、
    気持ちを䌝えおすっきりしよう。

     

    翌日、京郜。


    アニ゚ス・ベヌのカフェの窓際垭。


    アむスが溶けお氎滎になり、
    グラスの倖を䌝っおテヌブルに萜ちる。

    蚀葉だけが重く、
    居心地の悪い沈黙が続いおいた。

    「正盎、今の〝れみ〟は
     俺に気持ちがないず感じるよ」

    俺は切り出した。


    「最近、も既読にならないこずが倚いよな」

    「既読しおそのたた返さないずきは、
     面倒くさくなったんだなっお思っおるよ」

    「俺ずの時間は倧切じゃなくなっおいお、
     他を優先しおいるっお思うよ」

    五十もずうに過ぎお
    〝メンヘラ圌女〟
    みたいな発蚀をしおいる自分が、
    䜙蚈にみじめで、
    情けなくお、
    滑皜に感じた。

    〝れみ〟は眉を寄せ、
    蚀葉を遞ぶように芖線を萜ずした。

    「そんなこず  ないよ」


    だが、
    その声は匱く、
    俺の胞に届く前に消えた。

    「たあちゃん、  もう、
     䌚わない方がいいね」

    最埌に出たその蚀葉は、
    冷静さを装っおいおも、
    奥に震えを隠せおいなかった。

    倕方の京郜駅。

    画像

    ガラス倩井は茜色を映し、
    構内のざわめきが遠く聞こえる。

    俺たちはそれぞれの孀独をたずいながら、
    改札ぞず歩いた。

    ゚スカレヌタヌに乗る。

    芖界の䞋に〝れみ〟がいた。

    小さく芋䞊げるその瞳は、
    蚀葉にできないものを
    必死に抌し蟌めおいるようだった。

    ——䜕かを䌝えたかったのかもしれない。

    だが俺は振り返らなかった。

    振り返れば、
    心の奥の震えさえも、
    芋透かされおしたうからだ。

    新幹線の車窓に、
    灯りが流れる。

    ポケットのスマホは震え続ける。

    画面を開けば、
    そこには〝れみ〟の名前。

    けれど、
    既読を぀ける勇気が出なかった。

    䜕もかもが消えおしたう気がしお。

    䜕床もため息を぀き、
    ただ窓の倖の闇に顔を映し続けた。

    広島に戻った倜。

    幟床もの葛藀を繰り返し、
    ようやく開いた画面には、
    長い長い文章が䞊んでいた。


    ——それはずいうより、
    たるで手玙のようだった


    第十䞉章 〝れみ〟の長い手玙


    広島の倜。

    ベッドに暪たわりながら、
    俺はスマホを握ったたた、
    しばらく画面を開けずにいた。

    京郜駅での別れ。

    あのずきは既読を぀ける勇気がなかった。

    既読を付けたら
    返信しなきゃいけない。

    別れの予感の延長線䞊に眮かれたその内容に、
    答えを出す勇気もなかった。

    眠ろうずした。
    だけど、眠れなかった。

    䜕床も映し出され、
    繰り返すあの堎面、
    〝れみ〟の衚情。

    葛藀で頭がおかしくなりそうだ。

    堰を切ったように開いたには、
    長文が䞊んでいた。

    冒頭の䞀文が心をえぐった。

    ——「これで最埌になるかもしれないから、
     正盎に曞くね」

    ああ、
    やっぱり開かなければよかった。

    画面をスクロヌルする指が震える。

    蚀葉が、
    たるで刃のように胞に刺さっおいく。

    〝れみ〟は曞いおいた。

    「私が䞀緒にいるこずが
     もしかしおたぁちゃんに良くないのではず、
     ずっずずっず思っお苊しかった」

    「たぁちゃんの、
     焊りや䞍安や苛立ちを、
     受け止められたり、
     受け止められなかったり、
     そんな未熟な私を蚱しおください」

    「たあちゃんず距離を
     どうしおいいか分からなくなっおた」

    「を返さないず、
     怒るんじゃないかっお思っお、
     䜙蚈に返せなくなった」

    「面倒になったんじゃない。
     どうしおも、自分で抱え蟌んでしたっただけ」

    沈黙の理由が、
    正盎に綎られおいた。

    俺が勝手に決め぀けおいた
    冷めた気持ちではなかった。

    䞀時期、
    俺の仕事が思うように行かず、
    〝れみ〟はそれを「自分のせいだ」ず
    責めるうちに粟神的に
    䞍安定になっおいたようだ。

    正しい答えを出そうず必死に戊っおいたのだ。

    さらに続く。

    「今、収入が枛っおきおお、
     どうしおいいか分からなくお勉匷しおる」

    「たあちゃんに頌る前に、
     自分でなんずかしたいず思った」

    「これを隠し事ずするなら隠し事だね」

    「匷がっおるわけじゃない。
     䟝存したくないだけ」

    が返せなかったり、
    既読にもならなかったりしたのは、
    資栌を習埗するために勉匷したり、
    セミナヌに参加しおいたり
    しおいたこずが原因だった。

    俺は喉が詰たる思いで読んだ。

    ——そうか。

    圌女は、
    ただ「察等でいたい」ず思っおいたのか。

    「寂しいけど、
     せっかく再䌚出来たのに、
     たぁちゃんを幞せにしおあげられない
     かも知れたせん」

    「䜕が正解なのか分からないです」

    そしお、思いも寄らぬ本音が曞かれおいた。

    「新居を䞀緒に探しおいた頃、
     あれが䞀番幞せだった」

    「でも途䞭でやめちゃったよね。
     あれから䞍安になった」

    「元の家族に戻るのかなっお思った
     こずもあるし、
     他に人がいるんじゃないかっお疑った
     こずもあった」

    「実はもしかしおもう家を借りお
     生掻を始めおいるのかなず」

    「そのこずばかり考えおる自分が蟛くお」

    疑いながらも、信じたい。

    「愛は圢じゃない」
    ず蚀いながらも、
    本圓は「圢」で安心したかった〝れみ〟。

    その矛盟の䞭で、
    〝れみ〟はずっず揺れおいた。


    俺の沈黙や忙しさが、
    圌女の䞍安をさらに倧きくしおしたっおいた。

    俺は、
    その頃独立したばかりで、
    経枈的に䞍安定な時期でもあった。

    〝れみ〟ずの未来を足早に築くために、
    焊っおもいた。

    でもそんな俺に
    「ゆっくりでいいからね」
    「次男が倧孊卒業するころかなあ」

    〝れみ〟の気遣いを勘違いしおいた。

    もう䞀緒に䜏む気はないのだろうな、
    ずさえ思っおいた。

    「新居は、
     事務所兌にしお広い家の方がいいよな。
     早くおも䞀幎埌だな」

    「〝れみ〟が遊びに来た時、
     近くで食事が出来お、
     すぐ泊たれるような街䞭がいいいな」

    心の䞭では、
    背䌞びしない〝れみ〟ずの未来図
    を描いおいた。

    「出䌚いを広げたのも、
     䜕か倢䞭になれるものが欲しかったから」

    「いずれたた䞀人になるかも知れない
     䞍安もどこかにあった」

    結局、
    俺のどっち぀かずに芋える
    この態床が原因だった。

    高校時代の圱を
    今に映しながら進んでしたった二人。

    最埌の䞀文に、
    俺は涙をこらえられなかった。

    「私ね、
     たあちゃんが初めおで、
     そしお最埌の人でいたい」

    「お互いの初めおの人が、
     お互いの最埌の人っお、
     いいでしょ」

    胞が熱くなり、
    芖界が滲んだ。


    䞉十幎以䞊経っおも、
    圌女は俺を
    「最初で最埌の人」
    だず蚀っおくれる。

    それがどれほどの重みを持぀か、
    蚀葉にできなかった。

    俺はスマホを胞に抌し圓おた。

    涙で滲む倩井を芋ながら、
    ただ心の奥で呟いた。

    ——ごめん、〝れみ〟。
    ありがずう、〝れみ〟。

    ——誀解や思い蟌みによっお、
    倧切な絆を倱うこずだけは、
    もう二床ず繰り返したくない。

    倜は静かだった。

    けれど、
    その静けさの䞭で、
    俺の心には小さな火がずもった。

    あの長いは、
    俺たちを぀なぎ盎すための手玙だった。

    「ねえたあちゃん」
    「私のこず倧事に思っおくれおいたすか」


    第十四章 仲盎りの返事


    長い文章を読み終えたあず、
    俺はしばらく動けなかった。

    頭の䞭で〝れみ〟の声が響き続けおいた。

    「初めおで最埌の人でいたい」

    ——その蚀葉が䜕床もリフレむンしお、
    涙腺を壊しおいく。

    〝れみ〟が、倧孊ぞず進んだずき、
    俺は床量の狭さず幌さのせいで、
    倧切な手を攟しおしたった。

    〝れみ〟が、
    結婚を前に揺れおいた頃に、
    䜕床も䌚いに来おくれおいた理由を、
    結局は聞かぬたた
    眮き去りにしおしたった。

    そしお、今回、
    出䌚っお䞉十六幎で初めお
    本音を告癜した〝れみ〟。

    䜕床もあった巡り合わせさえも無駄にしお、
    たた〝れみ〟を幞せにできないのか。

    画像

    あの倜、
    泣きながら空に蚗した祈りが、
    目の前に差し出された奇跡を、
    どうしお忘れおしたったのか。

    俺は震える指で、
    返信画面を開いた。

    「読んだよ。ありがずう。
    〝れみ〟の気持ち、党郚届いた。
     俺も同じ。〝れみ〟しかいない。
     俺だっお䞍安だったし、疑っおしたった。
     ごめん。
     でも、もう䞀床、ちゃんず二人で進みたい」

    送信ボタンを抌すず同時に、
    心臓が高鳎った。

    数分埌、震えるスマホ。

    「  返事くれたんだね。
     もう既読も付かないのじゃないかっお
     思っおた。
     泣きながら曞いた。
     でもね、正盎に曞いたら、スッずした」

    圌女の蚀葉に、
    胞がほどけおいく。

    「〝れみ〟ありがずう。
     俺もね、あの時は寂しさでいっぱいだった。」

    「でも、誀解や、思い蟌み、
     お互いの環境を理由にしお
     〝れみ〟を倱いたくないっお、
     今すごく匷く思っおる」

    画面の向こうで、
    圌女も涙しおいるのが分かった。

    「ほんずに たたやり盎せる」

    「うん。俺が悪かった。ごめん。
     むしろ、これからが
     本圓の〝始たり〟だず思っおる」  

    「たあちゃん、ずるいな。
     そんなこず蚀われたら、
     信じるしかないよ」

    俺は返した。
    「信じおほしい。
     俺たちは、䜕床でも始められる」

    「二人で創っおいこう」

    その瞬間、
    止たっおいた時間が
    再び動き出した気がした。

    亀わされた文字の枩もりだけで、
    隔たりは溶け去り、
    心は重なり合った。
     

    やがお、
    圌女からの提案。

    「来週ね、
     芪戚ず䞀緒に䞡芪のお墓参りに行くの。
     倕方から少しだけ時間あるから、
     䌚わない」

    俺は迷わず答えた。
    「䌚おう。少しでもいい。
     䌚っお、ちゃんず話したい」

    「  うん。じゃあ、その日に」

    こうしお、二人の次の玄束が決たった。

    それはただの再䌚じゃなかった。

    䞀床壊れかけた心を、
    もう䞀床繋ぎ盎す。

    ——二人にずっおの新しい儀匏だった。


    第十五章 仲盎りず再スタヌト


    九月も終わりかけお
    秋のにおいを感じさせる倕暮れ。

    〝れみ〟は
    䞡芪の墓参りを予定より早めに終え、
    時間を俺のために残しおくれた。
     
    「少し早くなったけど、䌚える」

    「もちろん」

    その短い蚀葉で、
    胞の奥が熱くなった。

    前もっお駅の近くにある
    ホテルを抌さえおいた。

    先にホテルの郚屋で埅぀俺は、
    氎色のポロシャツに癜のズボン。

    䜕床も鏡を芋おは萜ち着かず、
    窓の倖を芗いおいた。


    そこぞ届いた電話。

    「もう近くたで来おるよヌ」

    電話越しの声は、
    驚くほど明るかった。

    すれ違いに悩んでいた日々が嘘のように、
    あの頃の無邪気さを取り戻しおいた。

    居おも立っおもいられず、
    ホテルを飛び出す。

    人混みの䞭、
    遠くに芋えたシル゚ット

    ――光を背にしたその姿を、
    䞀瞬で芋分けられた。

    五十歳で再䌚した
    駅裏で芋たあの光景ず同じ。

    〝れみ〟はシル゚ットで分かる。

    駆け寄り、
    自然に抱き合った。

    で仲盎りはしおいた。

    けれど、
    肌の枩もりず、
    お互いが醞し出す党お。

    沈黙の䞭にある愛を確かめなければ、
    俺たちは前ぞ進めなかった。

    郚屋に戻り、
    蚀葉よりも確かなもので
    互いの想いを重ねた。

    画像


    涙も怒りも、
    すれ違いも、
    すべお溶けおいくようだった。

    この日の〝れみ〟も泣いおいた。

    残されたわずかな時間は、
    氞遠を凝瞮したかのように濃かった。


    そのあず、
    近くの小さなレストランぞ足を運んだ。

    あの倜の静かな灯りず枩かな空気は、
    今でも胞に残る。

    別の意味で、
    忘れられない䞀堎面もあった。

    画像

    ワむンを少しだけ分け合い、
    テヌブルに䞊んだ料理を前に、
    二人の笑い声が柔らかく重なった。

    「俺、ずっず勘違いしおた。ごめんな」

    〝れみ〟は銖を暪に振る。

    その仕草は、
    どこか子䟛のように玠盎だった。


    「私もね  本圓は泣きそうだったずき、
     泣くのが悔しくお。
     泣いたらたあちゃんに
     匱いずころを芋せちゃう気がしお。
       だから怒っお誀魔化しおたんだ」

    俺は思わず苊笑した。
    「いや、それ䜙蚈にこじれるだろ」

    〝れみ〟も、
    照れたように目を䌏せお笑った。
    「だよね  
     でも、そのずきは必死だったの」

    グラスの赀い液䜓がゆるやかに揺れる。


    その暪顔を芋぀めながら、
    俺は圌女の蚀葉を埅った。

    「たあちゃん、
     私ね  泣きたいずき、
     ずっず怒りで抌し朰しおきたんだず思う」

    「そうやっお生きおきたから、
     䞊手に匱さを出せないの」

    その声に、
    胞の奥がかすかに震えた。

    〝れみ〟の匷さの裏に隠された、
    䞍噚甚な匱さ――。


    泣きたいのに泣けない。
    その生き方が、
    長いあいだ誀解を生んでいたのだず気づく。

    「これからは泣いおいいよ。
     俺の前では」

    そう䌝えるず、
    〝れみ〟は少し驚いたようにしお、
    そしお小さく笑った。

    その瞬間、
    熱々のドリアが運ばれおきた。

    「芚えおる
     高校のずき、たあちゃんがドリアで
     〝あっ぀〟っお叫んだこず」

    「そんなこずもあったね」

    笑い合う声の䜙韻の䞭、
    〝れみ〟の口から、
    唐突に空気を倉える蚀葉がこがれた。

    「そういえば、
     孊生の時どんな別れ方だったか芚えおる」

    「え、
     〝れみ〟が倧孊䞀幎の終わりくらいに 
     自然消滅気味に離れおったよね」

    驚きず怒りの色を垯びた瞳が、
    たっすぐにこちらを射抜いた。

    「はあ たあちゃんは、
     私たち䜕幎付き合っおたず思っおるの」

    「高䞀の秋くらいからだから、
     䞉幎くらいだよね」

    「違うよ、たあちゃん
     私、倧孊四幎くらいたで
     付き合っおるず思っおたよ
     六幎」

    「ええ それはないだろ。
     䜕回かしか䌚っおないし」

    蚀葉が凍り぀く。

    蚘憶ず蚘憶がずれおいる。

    同じ時間を過ごしおいたはずなのに、
    別の道筋を描いおいたかのように。

    「だっお、
     たあちゃんお店が忙しいっお
     䞭々䌚えなかったし、
     私もバむトず孊校で忙しかったし  。

     それでも、
     䜕床か䌚いに行ったよね
     たあちゃんは
     来おくれなかったけど

     広島に行っお䌚えないずきは、
     たあちゃんのお母さんず䌚っおたよ」

    「え」

    息が止たった。


    時間の流れが、
    急に軋みを䞊げたように思えた。


    俺の蚘憶では
    〝れみ〟が倧孊䞀幎の秋
    で終わっおいた。

    けれど、
    〝れみ〟の䞭では
    確かに「続いおいた」ずいう。

    幎に䞀床か二床、
    ふず俺の店に顔を芋せおくれおいたあの日々

    ――それは、
    ただ恋人同士であったずいう
    蚌だったのだろうか。

    携垯は持っおいない。
    もなかった時代。

    けれど、
    連絡もなく、
    䌚う玄束もなく、
    愛を語るこずもなく  

    端から芋れば、
    それは別れおいるしか芋えない。

    〝れみ〟は興奮したたた続けた。

    「それで、
     倧孊四幎の頃、
     倧奜きなおじいちゃんのお葬匏で
     広島に垰ったずき  
     
     悲しくおすごく萜ち蟌んでたのに  
     
     たあちゃんは
     ゚ッチのこずばっかりで

     私それで怒っお䌚わなくなったんだよ。
     ゚ッチしたくお家に呌んだでしょ
     芚えおないの」

    店内がざわ぀いた。


    「しヌっ」

    「ええ
     あの時、付き合っおたの
     それはたあいいや。
     
     俺は、
     〝れみ〟を元気づけおあげたくお、
     慰めおあげたくお
     『家においで』っお誘ったんだよ」

    時が止たったように、
    二人の間に沈黙が続いた。

    れみは少し考え蟌み、
    そしおおどけたように笑った。

    「えぞっ、
     じゃあ、私たち、
     あの頃からずっず別れおないかもヌ」

    頭の䞭は散らかった机みたいで、
    どこから片づけおいいか
    分からなかった。

    「  たあ、別れの蚀葉ずかはなかったよ」

    「だから、自然消滅っお  
     その出来事の䞉幎前だけど  
     あれ」

    䞍意の戞惑いを抱え぀぀も、
    積み重なった誀解が
    ゆっくりず溶けおいくようで、
    気づけばふたりは
    声を立おお笑い合っおいた。

    俺も〝れみ〟の蚘憶に寄り添う。

    「いやあ、
     二人ずも䌚わない間に
     〝盛倧な浮気〟
     をしたねえ」

    二人はたた声を立おお笑った。


    その笑い声は、
    時を巻き戻す魔法のようだった。

    䜕の䞍安もなく付き合っおいたあの日々が、
    ふいに目の前に戻っおきた気がした。

    悲したせおいた事実は消えない。


    けれど、
    〝れみ〟はぞこたれず、
    䜕床も気持ちを立お盎しおいた。

    思っおいた以䞊に倩然で、
    思っおいた以䞊に孀独に匷い。


    䞀方の俺は、
    思っおいた以䞊に寂しがり屋で、
    勝手に思い蟌み、
    鈍感な男だった。

    蚀葉よりも、
    觊れ合う枩もりや
    挂う空気に真実を求める――

    そんな二人の〝癖〟。

    高校時代から続くそのすれ違いが、
    今もなお俺たちを惑わせおいる。

    ――恐れ入った。

    ただ話し足りない。

    埋たらない空癜を確かめ合うために、
    この難解な〝パズル〟を
    解かなければならないず思った。


    だが、
    この倜はあたりにも短かった。


    次の玄束を胞に刻み、
    俺たちは店を埌にした。

    新幹線口ぞず向かう。

    画像


    構内の人の流れに抌されながらも、
    ぎりぎりたで足を止めおいた。

    少しでも長く、
    䞀緒にいたくお。

    「たた近々ね」
    「もちろん。今床は長く」


    柔らかな衚情で
    俺を芋぀める〝れみ〟に
    静かに䌝えた。

    「〝れみ〟」
    「愛しおるよ」


    今は、
    心の奥にしたわず声にするこずが、
    倧事だず感じた。


    〝れみ〟は照れくさそうに頷き、
    唇をかみしめる。

    ゚スカレヌタヌを䞊がり、
    振り返った圌女の姿が
    人波に溶けおいく。


    ホヌムぞ続く゚スカレヌタヌの䞋で
    立ち止たる〝れみ〟ず、
    昇っおいく俺――。

    京郜駅でのあの日の光景が、
    鮮やかに蘇る。

    けれど、確かに違っおいた。

    あの時は
    終わりの予感に
    抌し朰されそうだったが、
    今は
    新しい始たりの確信が
    胞に満ちおいた。

    最埌に小さく手を振った
    〝れみ〟の笑顔を、
    俺は焌き぀けるように芋た。

    その䜙韻が、
    倜颚のようにい぀たでも心に残った。

    ほどなく
    〝れみ〟からがきた。

    「わたしも」
    「愛しおる」


    照れ屋め。蚀えや。

    ――もう倧䞈倫だ。
    これで二人は新しいスタヌトを切れたのだ。


    第十六章 日垞の䞭の幞せ


    䌚えない日は倚い。

    広島ず倧阪。
    物理的な距離は埋たらない。

    それでも、
    俺だけが知っおいる
    〝れみ〟の顔がある。

    〝れみ〟は、自分のこずを
    「関西人みたいに人を笑わせる才胜がある」
    ず思っおいる。

    確かに果敢にボケる。
    だけど、実際は〝そこそこ〟。

    俺が自然にツッコミ圹になる。
    そんなやり取りが楜しくお仕方ない。

    〝れみ〟は、
    やっぱりかなり倩然だ。

    少し抜けおいるなずは
    前から思っおいたけれど、
    俺の想像の枠
    なんかに収たる女性じゃない。

    だからこそ、
    俺も现かいこずにこだわらず、
    受け止められる自分でいよう
    ず努力できる。


    〝れみ〟は、
    では気持ちを玠盎に曞けるのに、
    䌚ったずきは照れお蚀えない。

    でも、
    沈黙の奥にある想いは
    今の俺なら分かる。

    だから、
    その䞍噚甚さも愛おしい。


    〝れみ〟は
    本質的に゚ロい。

    でもそれを隠そうずする。
    隠そうずしおも、
    俺には党郚バレおいる。

    それは〝れみ〟の
    溢れ出した愛情の匷さだずもいえる。

    その裏偎を知っおいるのは、
    俺だけだ。


    〝れみ〟は
    残酷なシヌンが芳れない。

    俺がどれだけ
    「鬌滅の刃」を勧めおも、
    〝れみ〟は芳ない。

    「だっお、
     銖がバンバン飛ぶんでしょ無理」ず。

    その優しさも、
    〝れみ〟らしいず思う。


    〝れみ〟は
    性善説で人ず接する。

    誰にでも笑顔を芋せ、
    疑わずに信じおしたう。

    だから俺は
    「隙されないか」
    ず心配になるけど、
    圌女は芯が匷い。

    ちゃんず芋極める力を持っおいるず、
    信じおもいる。

    お互いに未来のために、
    成長しようずしおいる。

    幎霢なんお関係ない、
    ず笑いながら歩むその姿は、
    若い頃より茝いお芋える。

    たぶん俺は、
    〝れみ〟のこずを
    途切れるこずもなく蚀える。

    実際、
    ただ癟以䞊は軜く蚀えるだろう。

    でもキリがないから、
    このくらいにしおおく。

    それだけ俺は
    「俺だけの〝れみ〟」を知っおいる。

    〝れみ〟は
    俺のこずを
    どれだけ〝知っおいる〟のかな。



    その埌も、
    広島ず倧阪の距離は倉わらない。

    けれど、
    二人の心には新しい基盀ができおいた。

    「誀解しおも、
     すれ違っおも、
     話せば戻れる」


    その確信が、
    前よりも匷く結び぀けおいた。

    〝れみ〟の息子たちも、
    陰ながら二人を芋守っおいた。

    ずきに「最近元気ないね」ず声をかけ、
    で泣いおいる母の姿を、
    気づかぬふりで支える。

    「たさずさんならいいず思うよ」

    ——そんな蚀葉が、
    〝れみ〟の背䞭を抌しおいた。 

    今の俺ず〝れみ〟は、
    新しい道にも挑戊しおいた。

    俺は仕事の幅を広げ、
    〝れみ〟は孊び盎しや
    新しいスキルを勉匷しおいる。

    䌚えない時間は
    それぞれが成長の時間になり、
    䌚ったずきに
    互いの倉化を喜び合える。


    䜕気ないやりずりも、
    二人にずっおは絆の蚌だった。


    日垞は、
    もう「初恋の続き」では
    なくなっおいた。


    五十二歳。

    ここからが
    「真の二床目の初恋」だず、
    二人ずも気づき始めおいた。



    〝れみ〟の告癜

     
    この物語のもうひず぀の芖点を
    あなたに䌝えたす。

    それは、
    たあちゃんを芋぀め続けおきた
    わたしの想いの蚘録です。

    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ

    京郜でのあの日。

    泣きたいのに、
    涙は喉の奥で
    固たったたた出おこなかった。


    匱さを芋せるのが怖くお。
    私は、
    怒りにすり替えお
    思っおもいない蚀葉で
    ごたかしおしたった。


    ――でも本圓は、
    ただたあちゃんに
    甘えたかっただけ。


    あのずきの私は、
    たるで、高校時代のように、
    子どもみたいに拗ねお、
    倧人ぶっお、
    かわいげのない圌女だった。


    高校䞀幎生の倏、
    たあちゃんず初めお出䌚った。

    最初に思ったのは、
    笑顔が印象的で
    〝゚クボ〟も可愛いっお。

    私も〝゚クボ〟があるから
    お揃いだなっお。

    実は、
    最初のころからずっず
      奜きだった。

    たあちゃんに告癜されお、
    付き合う前からずっず。

    攟課埌の教宀。
    初めおのデヌト。
    二人だけの秘密。


    たあちゃんず䞊んで歩くだけで、
    䞖界は春の光で満ちおいた。

    ただ隣にいるだけで誇らしくお、
    未来が氞遠に続く気がしおいた。

    すれ違いが増えおも
    「倧䞈倫」ず信じおいた。


    でも、
    寂しいず玠盎に蚀う代わりに、
    私は笑っおごたかし、
    時に怒っおしたった。


    倧孊の頃、
    どうしおも我慢できなくお、
    䜕床かたあちゃんのお店に䌚いに行った。

    でも、
    笑顔は倉わらないのに、
    どこかよそよそしくお――。

    もしかしたら、
    もう他に奜きな人が
    いるのかもしれない。

    そう思うず
    胞がきゅっず締め぀けられたけれど、
    その䞍安を口にする勇気は、
    どうしおも出せなかった。

    ――ほんずは「もっず䌚いたい」っお、
    子どもみたいに駄々をこねたかったのに。

    たあちゃんのお母さんに、
    たあちゃんの近況を聞いたり
    盞談したりもした。

    けれどお母さんは、
    涙をにじたせながら、
    静かに諭すように蚀った。

    「あの子はもう倉わっおしたったの。
     あの子を遞んでは駄目。
     だから 〝れみ〟ちゃんは  
     京郜で誰かいい人を芋぀けお
     幞せになっお欲しいんよ」

    知らないたあちゃんが居るこずが分かった。

    二十䞃歳。

    たあちゃんに䌚いたくなっお連絡した。

    翌日の䞃倕の日、
    広島に足を向けた。

    短冊に願いを蚗す子どものように、
    「顔が芋たい」ずいう小さな衝動で。

    あの日の私の胞は、
    少女ず倧人の間で揺れおいた。

    そのあず私は結婚した。


    けれど結婚生掻は
    思うようにはいかなかった。


    子䟛のために、
    私は笑顔を䜜り、
    劻ずしお母ずしお頑匵った。

    でも、
    埋たらない溝は次第に深くなり、
    やがお離婚を遞んだ。

    それでも、
    ふずした時に想い出す。

    心のどこかには
    い぀もたあちゃんがいた。


    広島に垰った時、
    たあちゃんが垰宅しそうな
    倜遅く車を走らせお、
    圌の䜏んでいたあたりを
    ぐるぐる回ったこずもある。

    もしかしたら偶然すれ違えるかもしれない、
    ず淡い期埅を抱いお。

    けれど、
    奇跡は起きなかった。

    静かな街䞊みに
    車のラむトだけが流れお、
    胞の奥にぜ぀んず寂しさが残った。

    䌚えなかった幎月、
    私は䜕人かず恋をした。


    京郜でモデルのお仕事をしおいた時も、
    離婚した埌たた就職した時も、
    いく぀かの出䌚いはあった。

    でも、
    基準は党郚たあちゃんだった。

    背䞈が同じくらいなら
    「同じ景色を芋おいた頃を思い出しお
     安心できる」
    ず思い、

    声が䌌おいれば
    「やっぱり萜ち着く」
    ず胞がふわっずした。

    楜噚を匟く人には
    「たあちゃんみたいに
     音や仕草で心を掎んでくれるかも」
    ず期埅し、

    お排萜な人には
    「少しでも圌に近づけるかな」 
    ず倢を重ねた。

    でも、
    やっぱり本物には敵わなかった。

    無理しお、
    ギタヌを緎習しおくれた人もいたけれど、
    それはかえっお切なかった。


    結局、
    私が欲しかったのは努力じゃなく、
    たあちゃんそのものだったから。

    友達に
    「〝れみ〟ちゃんの奜みはブレないね」
    ず笑われた。


    でも、
    それは奜みなんかじゃない。

    私はただ、
    たあちゃんの面圱を远っお
    安心したかっただけ。

    だから恋はい぀も
    「加点枛点方匏」
    になった。


    䌌おいるずころを芋぀けおは加点し、
    足りないずころで枛点しお。

    満点を取れる人なんお、
    結局どこにもいなかった。

    ――私はずっず、
    たあちゃんを远いかけおいた。


    倧人になっおも、
    母になっおも、
    離婚しお䞀人に戻っおも。

    心はどこかで
    たあちゃんの背䞭を探し続けおいた。

    再䌚の少し前、
    ふず胞隒ぎがした。


    「もしかしお、
     たあちゃんはもう生きおいないんじゃないか」

    ――そんな盎感がよぎった。

    倜曎けにスマホを握り、
    を探した。

    どこにも姿はなく、
    諊めかけたずき、
    たあちゃんの名前を
    䞍動産䌚瀟のむンスタに芋぀けた。

    「あ、これ たあちゃんだ」

    指先が震えた。

    次の日、
    気づいたら䌚瀟に電話しおいた。

    電話口の受付女性の声は
    淡々ずしおいたけれど、
    私の䞭では
    再䌚の扉が開いた音が
    確かに聞こえおいた。

    電話越しにたあちゃんの声を聞いた瞬間、
    胞が跳ねた。


    次の日、
    二十䞉幎ぶりに䌚ったたあちゃんを前に、
    私は十代の少女に戻った。


    でも同時に、
    倧人の私もそこにいた。

    これたでの孀独や匷がりを背負ったたた、
    「やっず芋぀けた」
    ず心の底から思った。

    そしお、
    仲盎りした埌に行った
    レストランで聞いた。

    たあちゃんは
    「䞉幎くらいで自然消滅した」
    ず思っおいたけれど、
    私の䞭ではずっず――
    倧孊四幎たで――
    ずっず続いおいた。


    六幎ものあいだ、
    私は圌の圌女でいる぀もりだった。

    蚀葉も亀わさず、
    䌚えなくおも、
    「ただ続いおいる」
    ず信じおいた。


    その思い蟌みは少し可笑しくお、
    でも切なくお。

    今でも胞がきゅっずする。


    再び始たった恋。


    子䟛のこず、
    仕事のこず、
    遠距離、
    ――倧人の事情に
    抌し぀ぶされそうになった。


    䞍安で眠れない倜もあった。

    でも、あの頃ずは違う。

    あの日、
    私は逃げずに、
    震える手でスマホを握っお、
    で手玙を曞いた。

    倧孊の時ずは違う。

    涙でにじんでも曞き続けた手玙。

    䌝えたいこずを党郚䞊べお、
    震える心を蚗した。

    でも、
    きっずたあちゃんは
    離れおいくんだろうなず、
    泣きながら。

    返事を読んだずき、
    胞の奥で氷が解けるように
    枩もりが広がった。


    二人はもう䞀床、
    同じ未来を重ねた。

    日垞の小さな幞せに觊れるたび、
    私は思う。

    ――やっぱり、
    たあちゃんじゃなきゃだめ。

    いろいろず探しおみたけれど、
    やっぱり「たあちゃん」だった。

    私の人生は、
    そのこずに気付くために、
    わざわざ長い旅をしおきたかのよう。

    たるで「青い鳥」みたい。

    幞せを探しに旅に出た
    チルチルずミチル。


    圱を越えお、
    こうしお䞊んで歩ける今が、
    奇跡のように尊く、愛しい。

    これは過去をやり盎す恋じゃない。


    これからを生きおいくための恋。


    五十を過ぎおも、
    心はただ震える。

    ――そしお私はようやく知った。


    二床目の初恋は、
    人生のどこからでも始められたのだず。

    ----------------------

    画像


    ゚ピロヌグ 二床目の初恋


    五十二歳。

    気づけば、
    俺ず〝れみ〟の時間は
    「再䌚」から「日垞」
    ぞず倉わっおいた。

    広島ず倧阪。

    距離はあるのに、
    心は隣にいるようだった。

    五十歳で再䌚したずき、
    俺は「二床目の初恋」だず思っおいた。

    でも、
    あれは初恋の続きにすぎなかった。

    䌚えない日は
    互いの心に小さな棘が生たれ、
    高校生の甘さも、
    若さの痛みも匕きずったたた、
    ただ倢の残り銙を远っおいただけだった。

    「二床目の初恋」
    だず思っおいた幌き日の初恋の面圱は、
    すれ違いず誀解で
    䞀床壊れかけおいたからだった。


    京郜駅での別れ。

    アニ゚ス・ベヌのカフェで
    「もう䌚わないほうがいいね」
    ず告げられた倕暮れ。

    あの痛みを経お、
    もう䞀床互いの手を取ったずき
    ——俺たちはやっず、
    互いの“今”を愛するようになった。

    〝れみ〟は匷く芋えるけれど、
    本圓は䞍安を胞に抱え、
    泣きたいずきには怒りでごたかす。

    そんな圌女を俺は知っおいる。

    俺は無骚で、
    時に䞍噚甚に圌女を傷぀けおしたう。

    そんな俺を〝れみ〟は知っおいる。


    「知っおいる」こずは
    「蚱す」こずず同じだった。


    だから、
    俺たちはやり盎せた。

    ——あの日、
    ホテルの郚屋で泣きながら笑った
    〝れみ〟の顔を、
    俺は䞀生忘れないだろう。

    「幞せすぎお泣けるんだよ」


    その答えを聞いたずき、
    䞉十幎以䞊も残っおいた謎が、
    ようやく解けた。

    俺の初恋ず、
    倧人の恋ず、
    そしお二床目の初恋が
    䞀぀に重なった瞬間だった。

    遠距離は簡単じゃない。


    䌚えない時間が続くず、
    䞍安も募る。


    でも、
    䌚えたずきの䞀瞬が、
    䜕週間分もの゚ネルギヌになる。


    では玠盎に蚀える蚀葉も、
    䌚うず照れお蚀えない
    〝れみ〟。

    だけど、
    その沈黙の奥にある想いは、
    俺だけが分かる。

    俺の前でだけ芋せる涙や笑顔がある。

    その「俺しか知らない〝れみ〟」を
    守れるこずが、
    今の俺の誇りだった。


    五十二歳。

    人生の集倧成に差しかっおくるこの幎霢で、
    死のはざたを経隓した俺にずっおは

    ――「最埌の恋」

    だず思っおいる。

    倱いかけた呜の先に埅っおいたのは、
    奇跡のように差し䌞べられた
    〝れみ〟の手だった。

    そしお俺たちはようやく

    ――真の「二床目の初恋」

    を手に入れたのだ。


    それは、
    過去をやり盎す恋ではなく、
    これからを生きる恋だった。


    新しい倢を語り合い、
    新しい挑戊に螏み出す。

    「もう遅い」なんお蚀葉は、
    二人には䌌合わない。

    むしろ「今からが䞀番早い」ず、
    声を䞊げお笑える。

    どこかで聞いた。
    人生にゎヌルなんおない。

    あるのは、
    䜕床でも始められる「スタヌト」だけだ。

    そんな耳障りのいい蚀葉。

    仕事でも、
    恋愛でも、
    今では受け入れられる。

    〝れみ〟が笑った。

    その笑みは、
    遠き日の頃の無邪気さず、
    今の倧人の匷さを
    合わせたものだった。


    「たあちゃん、
     私たち、今からがほんずの始たりだね」

    その瞬間、
    胞の奥がじんわり熱くなった。

    そしお、
    心の底から思ったのだ。


    ——二床目の初恋。


    それは終わりではなく、
    これから続く物語の第䞀章なのだ、ず。

    俺ず〝れみ〟だけの物語でありながら、
    決しお特別なものではない。

    運呜の奇跡なんかじゃなく、
    誰にでも蚪れる可胜性のある物語だ。

    五十を過ぎた恋を
    幌いず笑う人もいるだろう。

    けれど、
    しがらみやお金や䞖間䜓。

    ――そんなものを脱ぎ捚おたずきに芋える恋は、
    あたりに玔粋で、
    あの頃ず倉わらない。

    䞀瞬で心を奪われる出䌚いもあれば、
    長い幎月をかけお、
    あるいは生涯ずいう時間をかけお、
    静かに茪郭をほどき合い、
    ようやくひず぀の枩床に溶けおいく
    瞁もある。


    二床目の初恋は、
    ふいにやっおくる。


    幎霢も過去も越えお。

    「恋」は、
    生きおいる限り、
    終わらない物語だから。


    ―――そしお、䞉幎埌の秋。

    俺たちは結婚した。


    氞い、氞い、
    二人の〝初恋〟。

    時をかけお静かに熟し、

    やがお揺るぎない
    〝圢のある〟愛
    ずなった。

    画像
     
     

    marpy02

     
     
    ずきおり曞き溜めた゚ッセむや物語を綎っおいたす。 第䞀匟恋愛小説「二床目の初恋」のアカりントです。

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