
3行日記 白いTシャツ
汗ばむ季節になると、私は白Tシャツに黒か茶色のパンツといういで立ちになる。服選びに迷わなくて楽だからだ。
しかし、このために困ることもある。
昨晩は思い立ってスペアリブを料理することにした。
肉に塩こしょうをまぶしたあと、鉄鍋で軽く焼き、醤油、みりん、酒、ハチミツを合わせた甘辛いタレを加えて長時間煮込む。
美味しそうな琥珀色に仕上がったスペアリブはなかなかの出来だったが、ふと自分の服を見ると、白いTシャツの裾あたりに醤油のしずくが飛んでいた。
「なんで、こんな料理するときにそんな白いの着るのよ!」
妻に叱られたので、シャツを脱いで黒いTシャツに着替え、白Tにはハイターをかけた。
「もう…また洗濯物増やして…」
と、また叱られた。
まあ、私は万事この調子である。カレーを皿によそえばしぶきを浴び、チョコを食べればこぼし、植物の土を入れ替えれば、終わる頃には服が泥だらけになっている。
最初から茶色か黒を着ればいいのだろうが、こればかりは好きな色の服を着たい。
今日も懲りずに白Tシャツを着て、家族と妻の母を連れてスシローへ食事に行くことにした。
テーブル席に座ると、まずは赤だしを注文した。
私は魚のアラ、妻と義母はアサリの赤だしを選んだ。長男はサイドメニューから茶碗蒸しを注文し、次男はうどんを頼んだ。
しばらくすると、テーブル席のコンベアに赤だしが3杯届けられた。しかし、お椀を見ても、どれがアラでどれがアサリなのかわからない。
蓋を開けてみると、赤だしの表面にはネギらしきものが揺れているだけで、魚の身も貝殻も見当たらなかった。
私が「アラはどれだろう」とお椀を眺めていると、
「パパ、ハマチいる?」
と、次男がタッチパネルのハマチを指差しながら聞いてきた。
「いや、まだいいわ」
まずは目の前の赤だしを振り分ける作業を完遂しなければならない。こんなことなら、全部アサリにしておけばよかった。
割り箸でかき混ぜてみる。
すると、中から何の魚かわからないが皮付きの切り身が現れた。
「おっ、これだ……」
そう思った瞬間、
「パパ、エビはいる?」
と次男の声。
「え?」
頭を上げた瞬間、箸も一緒に持ち上げてしまい、赤だしがこちらへ飛んできた。
「あっ」
「うわっ!」
横に座っていた妻にも飛沫がかかった。次男の指は、すでに注文したエビの数を3皿に増やそうとプラスボタンを押しかけている。
「パパは自分で注文するから、気にせんといて」
「ちょっとぉ! 私にもかかったやん。ほんで、また白T汚れたやん!」
私の白Tシャツには、昨日とほぼ同じ色のシミがいくつも付いていた。
「もう、白い服は着んといてくれる?」
妻に呆れられた。
さて、食事を終えて義母とも別れた。
帰りの車の中でも、私の連日の粗相を妻に責められ、それを聞いていた子どもたちにも笑われた。
帰宅前に近所のスーパーへ立ち寄ることにした。
車を降りた長男を見た妻が叫んだ。
「えー! これじゃあ、パパと一緒やん!」
長男が着ている白Tシャツにも茶色いシミが付いていた。赤だしも頼んでいないのに、長男もまたスシローで粗相をしていたらしい。醤油でも落としたのだろうか。
私と同じ遺伝子を受け継いだ長男が、愛おしいような、気の毒なような気がして、なんだか可笑しかった。
長男の服のシミは、ほとんど私と同じ場所にできていた。
終