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妖怪「おまおろ」


    #私の不思議体験

    私の亡き父(昭和2年生まれ)は、幼少の頃から不思議な体験をたくさんしており、それをよく語って聞かせてくれました。怖いけれど、ワクワクさせられる、そんな不思議で、怪異な話の数々に夢中で聞き入ったものです。

    これは、そんな父から聞いた話の一つです。

    父は熊本県の人吉市出身です。

    人吉という土地は熊本県の最南部に位置し、周囲を九州山地に囲まれた盆地で、日本三大渓流に数えられる球磨川沿いにたくさんの温泉がある、のどかな田舎町です。

    先日の「小川の少女 〜心に灯火をくれた不思議な少女との出会い〜或る一夏の記憶」は、そんな人吉での体験でした。

    父の体験は、父がまだ幼少の頃のお話です。

    祖父は材木商を経営しており、父は幼い頃はよく祖父の手伝いをし、木の伐採と運搬のために祖父や従業員さんたちと共に山に入ることがあったそうです。

    ある日、父は祖父の手伝いのために、朝から祖母にお昼に食べるおにぎりを作ってもらいました。祖母は父の分以外に、祖父や従業員さんの分のおにぎりも作って、それぞれに手渡しました。

    山奥に分け入り、次々と木を伐採していきます。木を切るのはベテランの祖父です。手際良く伐採した木を運搬するための準備をする従業員さんたち。父はその間に入って、手伝います。

    そろそろお昼。

    手拭で汗を拭きながら、祖父が「昼飯にしよう」と皆に声をかけます。重労働で疲れ果てた父は、腹ぺこです。

    たった今、祖父が切った木の切り株に座り、祖母が持たせたおにぎりに手をかけようとした瞬間、山が真夜中のように真っ暗闇になったといいます。夜が更けるように少しずつ暗くなるのではなく、本当に一瞬にして暗くなったそうです。

    怯えた父は声も出せず、手探りで祖父を捜しました。祖父は父の手を掴み、小声でこう言いました。

    「おい、動くなよ、声も出すな、これは 『おまおろ』だ、動いたり、声を出したりしない限りは安全だから、そのままでいろ!」

    何だか訳が分からなかった父ですが、異様な事態が起こっていることはすぐに分かりました。父は震えながら、事態を見守ります。

    暗くなって、どれくらい経ったでしょうか?

    真っ暗闇だった山が今度は一瞬にして元の明るさを取り戻しました。やっと祖父の顔が見え、周囲の状況も分かり、父はホッとします。従業員さんたちは、全く平然としています。

    すると従業員さんの1人が落胆した声でこう言います。

    「あ〜、、、また昼飯にありつけないのか」

    その言葉で父は気付きました、何と祖母が祖父や、従業員さんたちや、自分のために作ってくれたはずの、おにぎりが全て無くなっていたのです。

    祖父は「"おまおろ"が持って行った」と言います。

    祖父や、人夫達にとっては日常茶飯事の出来事だったのでしょうか。

    皆、おにぎりが食べられなかったことの歯痒さは口に出しますが、恐怖に狼狽える顔ではありません。

    「おまおろ」とは一体何なのでしょう?

    妖怪なのでしょうか、狐や狸、天狗?

    ともかく山を一瞬にして暗闇に変える妖力を持ち、十数人分のおにぎりを一瞬にして奪い去るほどの食いしん坊ぶり。

    ただ者ではなさそうです。

    この出来事に似た話しは、昔話の類いで聞いたことがあるのですが「おまおろ」という言葉はいくら調べても出て来ません。

    人吉、球磨地方にこの言葉や、これらの不思議な話しが私以外に伝承され伝わっているのかも定かではありません。何かの機会に調べることが出来ればいいなと思っています。

    この他にも人吉、球磨地方には不思議な話し、怖い話しがたくさんあります。

    いずれまた、お話ししたいと思います。

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