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Photo bylisa500ml

パリのルーブル美術館で出会ったマダム

    フランスに旅行に行ったという話になると、聞かれることがある。

    「フランス人って、フランス語で話しかけないと、嫌がるんでしょう?」

    正直なところ、私もそう思っていた。
    フランスへ旅行に行くまでは。

    なので、今日はこの件についての、私の失敗談を聞いてもらいたい。
    (長くなるので、お時間のある方のみお付き合いください)

    私はフランス旅行で楽しみにしていたことがあった。
    美術館巡りである。
    とは言っても、私は美術への造詣が深いわけでなく、単なる絵を見るのが好きなだけのタイプだ。

    当然、ルーブル美術館は外せないので、日程に組み込んだ。

    ただ、普通に見ても1週間はかかると言われるルーブル美術館。他の日程との兼ね合いもあるので、泣く泣く2日半を当てることになった。

    ルーブル美術館は、広い。広大だった。

    島国である日本の美術館とは、わけが違った。
    展示数も多いが、とにかく広い。
    通路の幅まで、日本の美術館とはスケールが違った。

    張り切っていた私は、もちろん早朝のオープンとほぼ同じくして入館し、夕方までの滞在。入場者も多い時間帯だったと思う。

    アメリカの団体客。他のヨーロッパからと思わしき団体客。それ以外の個人、少人数でのグループ。

    世界中から集まった人々で賑わっていても、館内は滞りなく進めるほどの余裕があった。モナリザの場所を除けば。

    私は時に立ち止まって感慨深く眺め、時には目的の作品までを急いで歩いていた。

    正直、日本の美術館ではあり得ない速度で歩いていた。それが許させるくらいの広大さだったから。

    パリの街を歩き尽くせるよう、私の足元はスニーカーを履いていた。そこもまた、歩く速度を後押しした結果になった。

    私はその日、急いでいた。
    最終日だったような気がするけれど、あまり思い出せない。目的の作品まで急いで歩いている時に、事件は起きた。

    ドン‼️

    という衝撃とともに、フランス人のマダムに衝突してしまったのだ。

    「キャーーーーーーー‼️」

    マダムの悲鳴がルーブル美術館に響いた。
    周囲の人々が立ち止まり、一斉にこちらを向く気配がわかった。

    私はやっと何が起きたのかを理解して、青ざめた。

    充分に他の人との距離はとっていたつもりだったけれど、こちらが横を向いていた隙にぶつかってしまったようだ。

    そしてその時に、気がついた。
    「ごめんなさい」というフランス語を覚えてこなかったことを。

    「e…Excuse me?」

    思わず漏れでてしまった言葉は、英語だった。
    最悪だ。
    相手はフランス人マダム。
    こちらの不注意でぶつかってしまったのに、かけた言葉はフランス語ではなくて、英語だった。

    どう考えても、万事休す。

    私は申し訳なく、マダムを気遣わしげに眺めるしかなかった。

    …………それなのに。

    フランス人マダムは、そんな私を見て、
    「おやおや、まぁまぁ」
    といった感じで強張った表情を緩めていった。

    そして最後には、軽く笑みさえ浮かべて

    「Excuse me?」

    そう言って連れのご婦人達と静かに立ち去っていった。
    周りの人も、それぞれの動きに戻り、何事もなかったように、ルーブル美術館の空気が回りはじめた。

    信じられない気持ちで立ち尽くす、私だけを残して。

    フランス人は、英語を話さないのではなかったのか。
    フランス語で話しかけないと、気を悪くするのではなかったのか。

    私の事前に収集した情報が、あっけなく崩れ去った瞬間だった。

    私はホテルに着いてから、落ち着いて考えてみた。

    どう考えても、私がフランス語で罵られてもおかしくない瞬間だった。
    しかも英語で話しかけてしまったのに、こちらに非があるのに、英語で返してくれた。
    この衝撃を、整理できなかった。

    けれど、ますますフランスとフランス人を好きになってしまったようだった。

    帰国後、こういう事を思い出した。
    コミュニケーションにおける言語の割合は3割程度だと。

    つまり、私の

    「ごめんなさい」
    「お身体大丈夫ですか?」
    「私の不注意でした」

    そういう気持ちを、言葉がなかったとしても謝罪の意を汲んでくださったのかな、と。

    お互いに共通の言語が、英語だっただけで。
    そこにフランス語であるかどうかは、その時は問題ではなかったのかもしれない。

    思えば、フランス人は、最初からフレンドリーで優しかった。

    小さなホテルのフロントマンと仲良くなり
    「もうすぐパリ祭があるから、それまでいればいいのに。案内するよ」と言ってくれた。

    シャンゼリゼ大通りを歩く美しいパリジェンヌに見惚れていたら、にっこり笑顔で返してくれた。

    また、中国人からは走って追いかけてもらった。
    「一緒に回らない?」
    そう声をかけてくれたのは、人の良さそうな男女ペアの旅行客だった。

    道がわからなくなって、地図を広げていたら
    「ツーブロック先だよ」と笑顔で教えてくれたパリジャンもいた。

    早朝、モンマルトルの丘へ急いでいたら
    「やぁ、韓国人?」と
    お店をオープンしながら陽気に話かけてもらえた。
    あれはパン屋の店主だったのだろうか。

    私はあまり寂しさを感じることがなく、旅を終えることができたようだ。フランスは、そういう懐の広さを感じる場所だった。

    ただ、私がフランスに旅行中の間には、気をつけていたことがあった。

    まず、Bonjour (ボンジュール、こんにちは)の挨拶は必須。文字通り、必ずだ。
    スーパーのレジで黒人の店員さんにも。
    セーヌ川沿いの露天のお店で絵葉書を買う時も。
    どんな会話もまずはBonjourから。

    Merci(メルシー、ありがとう)を多めに使う。
    切符を受け取った時。
    お釣りを受け取った時。
    飲み物を運んでもらった時。
    できれば、笑顔と一緒に😊

    長く話す必要がある時には

    Bonjour
    I’m sorry I can not speak French
    (ごめんなさい、フランス語が話せなくて)

    と話すと、「英語でどうぞ」と言ってもらえた。

    これで1週間ぐらいの旅行ならば、何とかしのげたのだ。

    思うのだけど、きっとイギリスに行って
    「どうしてフランス語を話さないんだ?」
    というフランス人はいないのではないだろうか。

    フランス人は、気難しいのとは、少し違うのだと思う。
    少なくとも、私が出会ったフランス人に、そういう人はいなかった。

    フランスで、彼らの地にお邪魔をして、
    彼らに敬意を表すことを忘れなければ、
    英語で話しても受け入れてもらえるのでは
    ないだろうか。

    日本人らしい礼儀や気遣いは、海外でもちゃんと伝わるのかもしれない。
    今でも、私はルーブル美術館のあのマダムの笑顔と優しさを覚えているのだから。

    あくまで観光地である、パリでのお話でした。

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    認知症の母の介護に奮闘する、決してヤングではないケアラーです。 介護の合間の珍道中をゆるく綴っています。 「普通に生きているだけなんだけど」 そんな私が介護、蜂、猫、町内会の当番、他に巻き込まれる日常。 🔶水・土曜、更新目標

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