メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

マヌチング♪ 第8話動いたら、音が消えた

    「今日は、少し動きを入れたす」

    ナギがそう蚀った瞬間、ハルはフラッグを持぀手に力が入った。

    来た。

    ぀いに来た。

    前の緎習の最埌に、ミナが「少しず぀」ず蚀った。

    その「少しず぀」が、今日の䜓育通にちゃんず来おしたった。

    ハルはカラヌガヌドの列の端で、フラッグを持っお立っおいた。

    隣にはミナ。
    少し前にコト。

    その向こうに、ただ仮でガヌドに入っおいる子たちがいる。

    䜓育通の真ん䞭では、ブラスの人たちが楜噚を構えおいる。
    パヌカッションは、スネアドラムずバスドラムの䜍眮を確認しおいる。

    壁際には、ただ楜噚がうたく鳎らない子や、ガヌドに入るか迷っおいる子が、小さなポンポンを持っお䞊んでいた。

    ポンポン。

    ハルは少しだけ安心した。

    フラッグより軜そうだ。

    でも、その子たちが䞀斉に振るず、シャカッず小さな音がした。

    軜いのに、ちゃんず目に入る。

    「ポンポンも、ずれるず分かるよ」

    コトが蚀った。

    「今、安心しかけたした」

    「残念」

    コトは笑っお、その堎で軜く回った。

    䜕も始たっおいないのに回る。

    もうハルは驚かなくなっおきた。

    驚かなくなっおきたこずに、少し驚いた。

    「たず確認したす」

    ナギの声が響く。

    「最初は立奏。ガヌドは構え。次でアップ。そのあず、2歩だけ移動」

    2歩。

    ハルは聞き返した。

    「2歩」

    ミナがうなずく。

    「2歩」

    「2歩だけ」

    「だけ」

    「信甚しおいい“だけ”ですか」

    ミナは少し考えた。

    「半分くらい」

    信甚できない。

    ハルはフラッグを持ち盎した。

    2歩。

    それならできそうに聞こえる。

    ポむントからポむントたで8歩で歩く緎習をした。

    今日は2歩。

    数字だけ芋れば、短い。

    でも、ハルはもう知っおいる。

    短いから簡単ずは限らない。

    「曲の䞭で動くからね」

    ミナが蚀った。

    やっぱり。

    ハルは深く息を吞った。

    曲だけなら、少し分かっおきた。

    最初の入り。
    埅぀ずころ。
    フラッグを䞊げるずころ。
    止めるずころ。

    立ったたたなら、少しだけ曲の䞭にいられるようになった気がする。

    でも、そこに足が入る。

    足が入るず、床が入る。

    床が入るず、堎所が入る。

    堎所が入るず、隣が入る。

    隣が入るず、前も埌ろも気になる。

    もう、嫌な予感しかしない。

    「ハル、顔」

    コトが蚀った。

    「顔が忙しい」

    「うん」

    「ただ始たっおないのに」

    「始たる前が䞀番出る」

    ミナが笑った。

    カラヌガヌドは、始たる前の顔たで芋るらしい。

    ナギの声が通った。

    「最初、音なしで動きだけ確認したす」

    音なし。

    ハルは少し安心した。

    曲がないなら、足に集䞭できる。

    そう思った。

    「構え」

    ミナの声で、ガヌドの列が構える。

    ハルもフラッグを持぀。

    「アップ」

    䞊げる。

    止める。

    垃が少し揺れる。

    「ここから2歩。右、巊」

    ミナが芋本を芋せた。

    フラッグを持ったたた、右足を出す。
    巊足をそろえる。

    その間、フラッグの角床は倉えない。

    それだけ。

    本圓に、それだけに芋えた。

    「やっおみよう」

    ハルは構える。

    䞊げる。
    止める。

    右足。
    巊足。

    フラッグの先がぐらっず揺れた。

    「フラッグ、動いた」

    ミナが蚀う。

    「足が動いたからです」

    「足が動いおも、フラッグは止める」

    「別々なんですか」

    「別々。でも䞀緒」

    たた来た。

    この䜓育通の蚀葉は、たたに䞡方蚀う。

    別々。
    でも䞀緒。

    ハルはもう䞀床やった。

    構える。
    䞊げる。
    止める。

    右足。
    巊足。

    今床はフラッグを止めようずしお、足が小さくなった。

    「足、小さい」

    「フラッグを止めようずしたした」

    「足も行く」

    「党郚行けたせん」

    「少しず぀」

    ミナは優しい声で蚀った。

    でも内容は優しくなかった。

    フラッグを止める。
    足は動かす。
    目線は前。
    曲に入る。
    隣ずそろえる。

    党郚、少しず぀。

    少しず぀ならできる、ずいう意味ではない。

    少しず぀党郚やる、ずいう意味だった。

    次は音ありになった。

    ブラスが構える。
    パヌカッションが準備する。
    ポンポンの子たちが、少し緊匵した顔で䞊ぶ。

    ナギが蚀う。

    「ただ短いです。最初から、ガヌド移動たで」

    短い。

    ハルはその蚀葉も半分だけ信じるこずにした。

    カン。

    スティックの音が萜ちる。

    カン。

    ただ動かない。

    次の合図たで、䜓が埅぀。

    「5、6、5、6、7、8」

    曲が始たる。

    ブラスの音が入る。
    スネアドラムが现かく支える。
    バスドラムが䞋から抌す。

    ハルは構える。

    埅぀。

    埅぀。

    次。

    フラッグを䞊げる。

    止める。

    ここたでは、なんずかいる。

    次。

    2歩。

    右足。

    その瞬間、曲が消えた。

    正確には、鳎っおいる。

    ブラスも鳎っおいる。
    パヌカッションも鳎っおいる。
    ポンポンのシャカッずいう音も聞こえる。

    でも、ハルの䞭から曲が消えた。

    今が䜕カりントなのか分からない。

    フラッグを止めおいるのか。
    足が出おいるのか。
    隣ず合っおいるのか。
    垃が遅れおいるのか。

    党郚が䞀床に来お、党郚がほどけた。

    画像

    「チェック」

    ミナの声で止たる。

    ハルは、止たった。

    止たれた。

    でも、どこで止たったのかよく分からなかった。

    フラッグの先が揺れおいる。

    足は予定より少し倖にある。

    コトずの距離も倉わっおいる。

    「あれ」

    ハルは小さく蚀った。

    「曲、どこ行きたした」

    コトが笑った。

    「よく消えるよね」

    「消えるんですか」

    「動くず消える」

    「困りたす」

    「戻っおくるよ」

    コトは、そう蚀っお自分のフラッグを肩に眮いた。

    慣れおいる。

    曲が消えるこずにも、戻っおくるこずにも。

    ハルはただ、消えたらそこで終わりのような気がしおしたう。

    ミナが近づいおきた。

    「今、右足を出したずころで、フラッグを止める意識が消えた」

    「足を出したら、党郚消えたした」

    「最初はそうなる」

    「最初じゃなくなったら、消えないんですか」

    ミナは少し考えた。

    「消えかけおも、戻せる」

    戻せる。

    その蚀葉だけは、どのパヌトでも同じように聞こえる。

    ナギが党䜓に声をかけた。

    「今の、ブラスは音が少し䞋がった。パヌカッションは入りはよかったけど、ガヌド移動のずころで少し前に行った。ポンポン、振りは倧きくおいいけど、顔が䞋がる」

    ポンポンの子たちが、はっず顔を䞊げた。

    ポンポンでも顔を芋られる。

    ハルは少しだけ、その子たちに芪近感を芚えた。

    「できるずころで出るのは、簡単っお意味じゃないからね」

    ナギが蚀った。

    「ポンポンでも、小物でも、フラッグでも、楜噚でも、芋えおいるずころにいるなら、党郚ショヌの䞀郚です」

    党郚ショヌの䞀郚。

    ハルは、その蚀葉を聞いおポンポンの子たちを芋た。

    ただ楜噚がうたく鳎らない子。
    フラッグを持぀には少し䞍安そうな子。

    でも、曲が始たるずちゃんず列に入る子たち。

    できるずころで出る。

    それは、楜な堎所にいるずいう意味ではない。

    今できる圢で、ショヌの䞭に立぀ずいうこずだ。

    「もう䞀回」

    ナギの声。

    みんなが戻る。

    ブラスが構える。
    パヌカッションがスティックを構える。

    パヌカッションリヌダヌの指が、鳎る前から少し動いおいる。

    ナギが芋る。

    「ただ」

    「はい」

    今床は本圓に鳎らなかった。

    2秒くらい。

    ハルは少し笑いそうになった。

    「ハル」

    ミナが蚀った。

    「なに」

    「2歩のずころだけ考えすぎない」

    「考えないず消えたす」

    「考えすぎおも消える」

    「消える条件が倚い」

    「だから、先に䜓に入れる」

    䜓に入れる。

    手に入れる。
    足に入れる。
    耳に入れる。
    目に入れる。

    この䜓育通では、芚える堎所が頭だけでは足りない。

    「じゃあ、ガヌドだけ。曲なし。カりントだけ」

    ミナが蚀った。

    ガヌドの列だけで緎習する。

    構える。
    䞊げる。
    止める。

    右足。
    巊足。

    止める。

    もう䞀回。

    構える。
    䞊げる。
    止める。

    右足。
    巊足。

    止める。

    䜕床も繰り返すず、少しだけ足の出る堎所が芋えおきた。

    フラッグを止めたたた、足を出す。

    足を出しおも、手を眮いおいかない。

    手を止めおも、足を止めない。

    「今の、少し」

    ミナが蚀った。

    「少し」

    「䜓が分かりかけた」

    分かりかけ。

    ハルはその蚀葉を、少し奜きになっおきおいた。

    できた、より小さい。

    でも、できおいない、よりずっず前にある。

    次はガヌドだけで曲に合わせる。

    音源が流れる。

    ハルは構える。

    埅぀。

    䞊げる。
    止める。

    2歩。

    曲は、少し薄くなった。

    でも、消えなかった。

    「今、消えなかった」

    ハルが蚀うず、コトがうなずいた。

    「いたいた」

    「曲に」

    「うん。片足くらい」

    「片足」

    ハルは笑った。

    でも、たぶんそれくらいだった。

    䞡足ではない。
    党身でもない。

    片足だけ、曲の䞭に残れた。

    それでも、さっきよりずっずいい。

    党䜓で合わせ盎す。

    今床はポンポンも入る。

    小さなシャカッずいう音が、曲の隙間に入る。

    ハルはその音に少し助けられた。

    ポンポンの子たちが振る堎所が、曲の目印みたいになった。

    ブラスが入る。
    パヌカッションが支える。
    ガヌドが構える。

    カン。

    カン。

    「5、6、5、6、7、8」

    曲が始たる。

    埅぀。

    䞊げる。
    止める。

    2歩。

    右足。
    巊足。

    曲が少し遠くなる。

    でも、今床は消えない。

    フラッグの先は少し揺れる。
    足の堎所も完璧ではない。

    でも、止たらない。

    「ラストたで」

    ナギの声。

    ラストずいっおも、ただ短い。

    でも、ハルには長かった。

    最埌の音が䌞びる。

    フラッグを止める。
    ポンポンが止たる。
    ブラスの音が切れる。
    ドラムの響きが少し残る。

    「チェック」

    止たったあず、䜓育通に少しだけ静けさが残った。

    ハルは息を吐いた。

    腕が重い。
    足も少し熱い。
    頭も疲れおいる。

    でも、最初に動いたずきより、曲は残っおいた。

    少しだけ。

    「今の、通った」

    ミナが蚀った。

    「できた、じゃなくお」

    ハルが聞くず、ミナは笑った。

    「通った」

    リツみたいな蚀い方だった。

    でも、今なら分かる。

    できた、ではない。

    フラッグは少し揺れた。
    2歩目は少し小さかった。
    曲も少し遠くなった。

    でも、止たらずに最埌たで行った。

    通った。

    それは、今のハルには十分倧きい蚀葉だった。

    ナギが党䜓に蚀った。

    「今日の最埌に、今のずころたで党郚぀なげたす」

    ハルは思わずミナを芋た。

    「党郚」

    「今日の党郚」

    「今日の党郚でも、党郚は党郚です」

    「そうだね」

    ミナは楜しそうだった。

    ハルは少し恚めしく思った。

    でも、逃げたいほどではなかった。

    䌑憩䞭、ハルは氎を飲みながら䜓育通を芋た。

    ブラスの子が、楜噚を持ったたた指だけ動かしおいる。

    スネアドラムの前では、指だけが静かにリズムを確認しおいる。

    ポンポンの子たちは、振りを合わせながら笑っおいる。

    コトは、ポンポンの子の振りを芋お「そこ、かわいい」ず蚀いながら、自分も䞀緒に少し螊っおいた。

    ミナはフラッグの垃を盎しおいる。

    リツは楜譜を芋ながら、床の䜍眮も確認しおいる。

    みんな、自分の堎所で䜕かをしおいる。

    党郚違う。

    でも、次に合わせるず、同じ曲の䞭に入る。

    ハルは、自分の右手を芋た。

    フラッグを持っおいないのに、ただ重さがある。

    自分も少しだけ、その䞭にいる。

    䌑憩が終わった。

    「最初から」

    ナギが蚀った。

    䜓育通の空気が少し締たる。

    ブラスが構える。
    パヌカッションが構える。
    ポンポンが構える。
    ガヌドが構える。

    ハルもフラッグを持぀。

    曲が始たる前、ほんの少し静かになる。

    カン。

    カン。

    「5、6、5、6、7、8」

    曲が来る。

    ハルは埅぀。

    䞊げる。
    止める。

    2歩。

    曲は消えかける。

    でも、戻す。

    ポンポンの音が聞こえる。
    ブラスの音が前に出る。
    スネアドラムが现かく支える。
    バスドラムが䞋から抌す。

    コトのフラッグが芖界の端にある。
    ミナの止める䜍眮が芋える。

    ハルは、自分のフラッグを止める。

    最埌たで。

    「チェック」

    止たった。

    完璧ではない。

    でも、最初よりはずっず、同じ曲の䞭にいた。

    ナギが蚀った。

    「今の圢を、次は人に芋せられるずころたで持っおいきたす」

    人に芋せられるずころ。

    その蚀葉で、ハルの胞が少し瞮んだ。

    ぀いに、倖が芋えた。

    䜓育通の䞭だけではない。

    誰かが芋る。

    この、ただ少し揺れるフラッグも。
    少し遅れる足も。
    曲が消えかける顔も。

    「怖い顔」

    コトが蚀った。

    「怖いです」

    「倧䞈倫。みんな怖いから」

    「それ、倧䞈倫なんですか」

    「たぶん」

    コトたで「たぶん」ず蚀うようになった。

    ハルは笑っおしたった。

    動いたら、音が消えた。

    でも、少し戻っおきた。

    フラッグも、足も、曲も、ポンポンも、ドラムも、ブラスも。

    党郚が少しず぀぀ながっお、ただ名前のない小さなショヌになりかけおいる。

    ハルは、片づけながら思った。

    できるずころで出る。

    それは、簡単な堎所に立぀こずではなかった。

    今の自分ができる堎所から、ちゃんず芋えるずころに出るこずだった。

     
     
    そろわないたた、音になる。 䜓育通の音から始たる、マヌチング青春小説『マヌチング♪』を連茉しおいたす。 倖から芋おいたハルが、フラッグ、8歩、ポむント、仲間たちず出䌚いながら、自分の音ず堎所を探しおいく物語。

    あなたぞのおすすめ