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Photo byneko0629

【自己紹介代わりのエッセイ】私の名前のカクテルを作られた話。

    Sという男は、新卒で入った会社の同期だった。
    夢はバーテンダー。我々が入社したIT企業とは一切関係ないが、バーテンダーを目指していた。オフィスでパソコンの画面に向かいながら、彼の脳内では常にシェイカーが振られていたのだろう。なぜIT企業に入社したのかは今でも謎だが、とにかく彼はバーテンダーという夢にロマンを抱きまくっていた。

    配属は私が本社で、Sは九州。
    両思いではあったが、Sは「遠距離恋愛はできない」とのたまっていた。なんとも現実的というか、責任を取りたくない男の常套句である。付き合わないくせに、地元に帰ってくるときには、しっかり私に会う約束を取り付けてくるあたりが、ずるい。

    年末、Sが地元に帰ってくる時に会う約束をした。
    二人きりの忘年会。少し胸がときめく。
    夜中までオープンしているバーで、アルコールを摂取しながら近況報告やら思い出話に花を咲かせた。

    私たちの座っているテーブル席に、何やら紙と鉛筆が置いてあった。
    「なにこれ」と紙を一枚取ると、その店で開催されている「オリジナルカクテルコンテスト」の応募用紙だった。
    Sが目を輝かせて、鉛筆片手に「考える」と言って長考に入った。頼んだフライドポテトが冷めていく。私はこの頃そこまでアルコールに詳しくなかったので、一体どんなカクテルを作るのだろうとSの動向を見守った。彼は完全に自分の世界に入り込んでいた。目の前には、楽しむはずだった二人の会話の代わりに、必死にレシピをひねり出す男のまなざし。そして、カリカリだったはずのフライドポテトが、冷気にさらされてしなしなになっていく。私はただ、冷めた芋を見つめながら、彼が(自称)プロフェッショナルの顔で長考するのを見守るしかなかった

    「できた!」とSが言う。アップル系のリキュールを使ったオリジナルレシピ。ここまでは良かった。
    「あれ?カクテルの名前書いてないよ?」と指摘すると、Sはちょっと笑いながら私の本名――ここではペンネームの「MAOLA」にしておく――と命名して勝手に応募した。

    当時は付き合うかどうかの微妙な時期だったこともあり、主観100%の盲目フィルターが作動。
    「えっ、私のために……?(ポッ)」とちょっと嬉しいと思ってしまっていた。私の手をそっと握ったことも嬉しさアップに繋がった。

    しかし、だ。
    のちに大人になり、数々の修羅場をくぐり抜けて酸いも甘いも噛み分けた今の私が、当時の防犯カメラの映像を見たら、間違いなく画面を叩き割る。
    待って、冷静に考えて何やってんの!?そこ、他人の店だよ!?他人のふんどしで、付き合ってもいない女の名前を騙って夢を叶えようとしてるの!?正気の沙汰じゃないわ!痛すぎる!!
    今の私なら、そのアップルリキュールを彼の頭からぶっかけるか、伝票をひったくって全力で店から脱走しているだろう。

    バンドマンは好きな人の歌を作ったりするが、バンドマンの元彼がこのオリジナルカクテル事件の話を聞いて、腹がよじれるほど笑っていた。
    いやお前も似たようなもんだからな?

    3Bとは上手いこと言ったものだな、と振り返って思う。みなさんもお気をつけて。

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