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動かない人を動かすな—人は「やる気」ではなく「環境」で動く ♯9

    終章|社会を変えるのは、「人の成長の循環」である

    ◾️ 人は、一人では変われない

    私は、これまで25年以上、1300人以上の子どもたちと関わってきた。
    そして、学校を離れた今も、
    保護者、教師、企業人、挑戦したい大人たちと対話を続けている。

    その中で、私は一つの確信にたどり着いた。

    人は、「変わろう」と言われても変われない。

    責められても。
    否定されても。
    「頑張れ」と言われても、人は本当の意味では動けない。

    むしろ、「できない自分」を責めるほど、
    人は少しずつ、自分を閉ざしていく。

    だから私は、「どうすれば人を変えられるか」ではなく、
    「どうすれば、人が自分から動き出したくなる環境をつくれるか」
    を考え続けてきた。

    そこで必要だったのが、
    安心感だった。
    承認だった。
    共感だった。
    そして、対話だった。

    比較される不安ではなく、「ここにいていい」と思える感覚。
    自分の想いを話しても大丈夫だと思える関係性。

    そうした土台があって初めて、
    人は、「やってみようかな」と思えるようになる。

    そして、小さな挑戦を重ねながら、少しずつ、
    「自分にもできるかもしれない」という感覚を取り戻していく。

    つまり、人を変えるのは、根性論でも精神論でもない。

    「関わり」と「環境」なのである。

    これは、子育てだけの話ではない。
    学校も。会社も。社会も同じだ。

    挑戦を笑われる空気の中では、人は可能性を閉ざしていく。
    失敗を恐れる環境では、本音よりも「正解」を選ぶようになる。
    比較され続ける場所では、人は、自分らしさより、
    「間違えないこと」を優先してしまう。

    反対に、
    安心して挑戦できる環境。
    認め合える関係性。
    対話できる文化。

    そうした土壌がある場所では、人は、自分から成長を始める。
    私は、それを教育現場で何度も見てきた。

    そして今、それは企業や社会にも必要なことだと強く感じている。

    人が輝く社会とは、優秀な人を選び抜く社会ではない。
    一人ひとりが、「自分にもできるかもしれない」と思える社会である。

    安心が、挑戦を生み。
    挑戦が、成長を生み。
    成長した人が、今度は誰かを支える側になっていく。

    その循環こそが、社会を変えていくのだと、私は信じている。


    ◾️ 小さな挑戦が、人生を変えていく

    私は、かつて、「教育」とは、子どものためのものだと思っていた。
    学校で学び、知識を身につけ、社会へ出ていく。
    教育とは、そのために必要なものなのだと考えていた。

    しかし今は、少し違う。

    学ぶとは、子どもだけのものではない。
    人生そのものなのだ。

    学校を卒業したあとも、私たちはずっと、
    迷い、悩み、失敗しながら生きている。

    「このままでいいのだろうか」
    そんな問いを抱えながら、大人もまた、自分の生き方を探し続けている。

    だからこそ、大人にも「学び直し」が必要なのだと思う。

    今、日本では、リスキリングという言葉が広がっている。
    新しいスキルを学ぶこと。
    変化する時代に適応すること。
    もちろん、それも大切だ。

    しかし私は、本当に必要なのは、
    「どう生きたいのか」を問い直すことなのではないかと感じている。

    やりたかったこと。
    本当は挑戦してみたかったこと。
    いつの間にか、「もう遅い」と諦めてしまっていたこと。
    誰かの期待を優先する中で、置き去りにしてしまった「自分自身」。

    それを、もう一度取り戻していく。
    それが、本当の意味での学び直しなのだと思う。

    私自身、50歳にして、大きく人生を動かし始めた。
    25年間続けた教師という職を離れ、新しい教育の形づくりに挑戦している。
    人前で話すことが苦手だった私が、ステージに立ち、自分の想いを語るようにもなった。

    以前の私なら、絶対に選ばなかった生き方である。

    もちろん、不安はある。
    怖さもある。
    失敗するかもしれない。

    それでも私は、小さな挑戦が、人を変えることを知っている。

    最初から、大きく変わる必要はない。

    小さな一歩でいい。

    小さな「やってみよう」でいい。

    その積み重ねが、少しずつ、
    「自分にもできるかもしれない」という感覚を育てていく。

    そして気づけば、人生そのものが動き始める。

    私は、教育とは、単に知識を教えることではないと考えている。
    人が、「自分の人生を生きていい」と思えるようになること。
    そして、何歳からでも、もう一度、自分の人生を始められると知ること。

    そのための伴走こそが、
    これからの時代に必要な教育なのではないだろうか。


    ◾️ 一人の変化が連鎖する

    人は、一人だけで生きているわけではない。

    家庭の空気。
    学校の空気。
    職場の空気。
    地域の空気。

    私たちは、知らず知らずのうちに、
    その場の「雰囲気」に影響を受けながら生きている。

    だからこそ、誰か一人の変化は、必ず周囲へ伝わっていく。

    例えば、

    子どもが安心して話せる家庭では、少しずつ笑顔が増えていく。

    教師が、「失敗しても大丈夫」と伝え続ける教室では、
    子どもたちは挑戦を恐れなくなっていく。

    上司が、管理よりも対話を大切にし始めた組織では、
    少しずつ主体性が育っていく。

    そして、地域の中に、
    「あなたのままで大丈夫だよ」と言ってくれる場所が増えるほど、
    人は再び、自分らしく生きられるようになる。

    家庭も、学校も、企業も、地域も、すべて「人が育ち合う場」なのだ。

    だから本当に大切なのは、「誰かを変えること」ではない。
    まず、自分自身が、自分らしく生きること。
    安心して学び、挑戦し、誰かとつながりながら生きること。

    その姿は、言葉以上に、周囲へ伝わっていく。

    Well-beingとは、個人だけの幸福ではない。

    一人の「やってみよう」が、誰かの勇気になる。
    一人の挑戦が、周囲の希望になる。
    そして、一人の変化が、
    家庭を変え、学校を変え、組織を変え、地域を変えていく。

    だから私は、社会を変えるのは、「特別な誰か」ではないと考えている。

    目の前の一人が、自分らしく生き始めること。
    その小さな変化の循環こそが、未来を変えていくのである。

    ◾️ 「ここにいていい」と思える場所をつくりたい

    私は、ずっと感じてきたことがある。

    それは、多くの子どもたちが、
    「できないこと」そのものではなく、
    「できない自分には価値がない」
    と思い込んでしまっていることだった。

    間違えないことを優先する。
    周囲の期待に合わせようとする。
    そうして少しずつ、自分の気持ちより、
    「正しさ」を選ぶようになっていく。

    そうして少しずつ、「自分で考えること」や、
    「やってみたいと思う気持ち」を失っていく。

    しかし本来、子どもたちは、もっと自由に学ぶ力を持っている。

    できない自分でもいい。
    迷っていてもいい。
    失敗しても、また戻ってこられる。
    「ここにいていい」

    そう思える場所が、人の力を引き出していく。

    そんな場をつくりたくて、
    愛媛県大洲市で、「学VIVA(まなびば)」という、
    もう一つの学びの選択肢を始めた。

    そこでは、ただ勉強を教えるのではない。
    遊び、対話し、学び、探究する。

    その中で、
    「何が好きなのか」
    「どんなことに夢中になれるのか」
    「どう生きたいのか」
    を、一緒に考えていく。

    時には、雑談のような対話が、その子の安心につながる。
    時には、小さな成功体験が、「やってみよう」という自信を育てていく。

    人は、「やらされる場所」ではなく、
    「ここでなら、やってみたい」と思える場所で育っていく。


    その実践を続ける中で、
    さらに一つの想いを抱くようになった。

    本当に必要なのは、学校だけを変えることではない。

    家庭も。
    地域も。
    社会も。

    人が、安心して生きられる方向へ、
    少しずつ変わっていく必要があるのではないか。

    子どもたちが、自然の中で遊びながら学ぶ。
    大人たちもまた、働き方や生き方を問い直していく。
    世代を越えて対話が生まれ、誰かの得意が、誰かの喜びにつながっていく。

    学校でも、会社でもない。
    それぞれが、自分らしく学び合える小さな社会。

    そんな未来を、私は、「共育ビレッジ構想」として描いている。


    私が、本当に願っているのは、
    子どもたちが、「自分らしく生きていい」と思える社会。
    大人たちが、「もう一度挑戦していい」と思える社会。
    そして、人と人とが、比較や正しさではなく、
    安心と対話によってつながれる社会である。

    私の挑戦は、小さな火種かもしれない。
    しかし、その灯りは、誰かの勇気になる。
    勇気は、挑戦を生み、挑戦は、人を育てる。
    そうして育った人が、今度は誰かの灯りになっていく。

    人は、そうして支え合いながら、生きていく存在なのだ。

    だから私は、これからも、
    「学び」と「つながり」を通して、
    人が自分らしく生きられる循環を育てていきたい。

    社会を変えるのは、特別な誰かではない。

    目の前の一人が、「もう一度、やってみよう」と思えること。
    その小さな循環が、未来を、少しずつ変えていくと信じている。


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    言っても動かない やる気が続かない ——それは関わり方と環境の問題。 教職25年・1300人の実践から自ら学び出す仕組みを体系化。 自分で考え選び行動する力を育てる関わり方と環境づくりを発信。 「やらされる」から「自分で選ぶ」へ。

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