
幻のあけぼの町
私がまだ幼かった頃、父の実家に連れて行ってもらったことがある。
そこはあけぼの町。細い路地が入り組んだ大きな川沿いの町。昔は商店街があり賑やかだったらしい。
父の実家は今はもう他の家族が住んでいるらしかった。私はびっくりした。私は私の実家があって、そこはまだ私が入ってもいい場所であるのに対し、父は父の実家には入れない。実家という場所はあるのに、それは踏み込めない領域にいて、父が寂しそうな懐かしいような顔をしていた記憶がある。
私が持っているものは父も持っていると思っていたから、世界のズレを見てしまった気がして怖かった。
数年後、あけぼの町は開発が進み、小さな家々が密集していた場所は何かの施設になってしまった。駅前だったので、とても大きな建物で、広い自習スペースもあり、近くの中高生がたくさん来ていた。その頃私は進学のため地元を離れていたので、その施設を利用したことはあまりない。
今でも、その家に行こうと思えば行けると思う。
昔のままの路地を記憶を頼りに進んでいくと、きっと父の実家の塀が現れるだろう。そしてそこには私の人生には交わらないであろう人が住んでいて、表札を見ても、珍しい苗字とかではないはずだ。でも、もしかしたら、その家の住人が好きな作家を私も好きだったりするかもしれない。
こんな可能性を考えてもとっても無駄な時間なのだが、いつかあの路地に迷い込んでみたいと思う。
あけぼの町が昔の姿を忘れて、今の姿が寂れていくまでに、迷い込みたい。それは私と私の兄弟たちだけの物語になると思うから。