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マッチョにチタタプされた話

    社会人3年目。
    心も体も石のようにゴリゴリで、救いようがなかった。

    当時お世話になっていた上司が、チェーンのマッサージ屋に行ったらしい。それが案外良かったのだと。

    小学生高学年。私は縄跳びのしすぎで、オスグッドという膝の病を患った。病と言っても、シンプルにオーバーユース。(飛び台使って二重跳び100回とか飛ぶから、並んでいる人にとっちゃ大迷惑だったろうに)

    そのせいで左膝にサポーター。週1で整骨院通いだった。でも、正直サポーターって運動会でやたら目印になるし、スポーツやってる奴みたいで全く嫌ではなく、むしろ嬉しいくらいだった。当時、メガネとか憧れてるような人間だったし。

    ただ成長とともに、整骨院通いもなくなった。でもどうにも体が動かなくなり、社会人2年目、再び整骨院のドアを叩いた。
    当時と変わらぬ院長先生が「大きくなったね」なんて言ってくれて。ロビーで読み漁った『のだめカンタービレ』も健在だったし、新刊まで揃えてあった。でも、まだまだ薄給の私にとって、通うのは月1が限界。だからまた足が遠のいたのだった。

    そして1年が経ち、再び私の体は悲鳴をあげていた。

    布団から起き上がれない。

    あ、そういえば。と思い出したのが当時の上司が嬉しそうに肩をくるくると回す姿。よし、マッサージでも行ってみるか。

    「当日予約オッケー」を見て、流れるように予約を入れた。もちろん口コミも悪くない。距離はそこそこだったため、ドライブがてら行ってくるわ、なんて当時一緒に暮らしてた母に告げて家を出た。



    「いらっしゃいませ」

    私を出迎えてくれたのは、Tシャツピチピチ系の逆三角形マッチョメンだった。お兄さん、相当鍛えてますね!なんて初手から言ったら間違いなくセクハラになる。やめておいた方がいい。いや、でもマッチョ界は褒められる方がいいんか?なんて、うるさく脳内会議をしていたら、私の担当らしい。案内されるがまま大人しくついて行く。

    「では、まずはフットバスからです。」

    なに?吹っ飛ばす???

    ちげえよ!

    物騒すぎる。

    そんなオプション付きだったことを、すっかり忘れていたので、そりゃもう汚い御御足をマッチョメンに晒すわけだ(あの、言い訳がましいが本来私は施術や診察は男女問わず、腕を信用して通う人間である)。フットバスの電源が入るまでが、やたらと長く感じた。

    「...はい、では終わりですね。拭きあげます。」

    待って待って!!!
    セルフでいいよ、セルフで!!!

    筋骨隆々のスタッフさんに、私の質量たっぷりの足を丁寧にお拭きいただくなんて。しかもシンデレラですかってくらい丁寧に丁寧に拭きあげられるもんだから、ちょっとくらい濡れてて大丈夫です、って言いたくなる。大丈夫、お兄さん、クレームとか入れないから。

    「ではうつ伏せになってください。」

    言われるがままにうつ伏せになるも、どうも気になることがある。顔部分だけご丁寧にくり抜かれて呼吸がしやすくなった施術ベッド。この顔ハメパネルのせいで、どんな表情で下を向いておけばいいのか分からない。(いや目瞑っておけよ)
    ドッキリでした〜とか、カメラついてないよな、もっとおもろい顔してた方がよかったかなとか、つい考えてしまうのをやめたい。

    そして問題の施術だ。
    さすがマッチョメン。力が強い。このゴリゴリにいい力加減である。そうそう、その辺、その辺をもう少し長くしてほしい、っておっと、え?もう次のところ行く感じ?ちょい、そこ、凝ってたよそこ、そうそう、そこだよ!ッッ!!!待って!!!いかないで!!!

    結果から言うと「全てを満遍なく、マニュアル通り解される」といった感じだった。

    まさに解体ショー。

    そしてまだまだショーは続く。


    (((ドコドコドコドコ....)))

    ちょ、なんか、
    私、刻まれてる。

    刻まれてるんだけど!!!

    もうダメだった。

    チョップされ続ける背中。ゴールデンカムイでいつか見た「チタタプ」そのものだった。皆で順番に獣肉や魚を細かく刻む、あのチタタプだ。
    あれをいつか食べてみたい、と思った者が、ごまんといるだろう。私もその一人だ。

    でも調理される側になりたいと思ったことはない。

    凝ってないところを揉まれるとくすぐったくなってしまうのは小学生から経験済みだ。でもマッサージで刻まれて笑いを堪えるなんて初めてだよ。

    リラックスしにきたのにもう、脳内が騒がしいってことありゃしない。自分が予約したのって、何分コースだったっけ...ばかり考えていた。


    ...ピピピ!

    やっっっとアラームが鳴った。

    時間内、マッチョメンはなんとかやり過ごさないといけないシステムらしい。最初はよっしゃ始めますよ〜っていう手つきだったのに、段々と「ここもいっちょしとくか...」みたいに、的が定まらぬ気配があった。マッチョメンも大変だな...なんて同情すらしてしまった。

    ありがとうございました!と逃げるように深々とお辞儀をして会計へ向かう私。それをヨイショヨイショと追いかけてくるマッチョメン。あ、お会計もか!!!

    早く母にこの話をしたくてたまらず、急ぎ足で靴を履く。すると背後に気配がしたので思わず振り返ると、お見送りをするために待機するマッチョメン。

    非常に動揺した私は、普段なら必ず紐を解いて履く靴を勢いで履いてしまった。

    目を落とすと靴が破れている。

    待って。靴って破けるの?

    いっそのことマッチョメンに靴が破けたことを報告したかった。誰かに笑って欲しかった。というか、結構この靴気に入ってたんだよ。でも「あなたに動揺して破いちゃいましたテヘヘ」なんて言ってみろ。有罪でしかない。

    何事もなかったように良客を装い、丁寧に挨拶をして逃げるように帰宅した。


    ところで、私が予約したコースはなんだったんだろう...と履歴を見返す。

    「快眠マッサージ+至福の足ツボアロマ60分 施術後の圧倒的爽快感!」

    なるほど。ぜひ注意書きに「靴が破れても保証しかねます」の一言もお添えください。





    #創作大賞2026 #エッセイ部門

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