
「童心に帰る」の本義を悟る。2千229字

JR奈良駅の改札前を通りかかった。
ひな人形を飾っていた。
(おいおい、もう五月前だぞ?)
(鯉のぼりの季節だぞ?)
(何をやってるんだか?)
冷めた気分が沸き上がった瞬間。
ハプニングが起きた。
わー!
おひなさまだ!
おおきい!
きれい!
子供4人がどこからともなく現れて歓声を上げた。
身長1メートルにも満たない子供たち。
子供たちは『うれしいひなまつり』を歌い始めた。

あかりをつけましょ ぼんぼりに♪
おはなを あげましょ もものはな♪
子供たちは踊り始めた。
みんなで、ひな人形を囲んで、ぐるぐる回りながら。
みんなで、リズムをそろえて、手を叩きながら。

(これ、何?)
(何のオプション?)
(ひょっとして、ドッキリカメラ?)
俺は狼狽した。
「ドッキリです」と書かれたプラカードを手にしたスタッフが出て来ることを想定した。
ごにんばやしの ふえたいこ♪
きょうはたのしい ひなまつり♪
ここで終わるかと思いきや、
子供たちは歌って踊り続けた。
(お遊戯か!)
(先月やったばかりなのだろうな!)
子供たちは2番も歌い始めた。

おだいりさまと おひなさま♪
ふたりならんで すましがお♪
およめにいらした ねえさまに♪
よくにたかんじょの しろいかお♪
ここで終わるかと思いきや、
子供たちは3番も歌い始めた。
しかも4人から7人に増えた。

きんのびょうぶに うつるひを♪
かすかにゆする はるのかぜ♪
(俺、3番の歌詞はあいまいだよなあ!)
(3番は忘れてるわあ!)
久しぶりに聴く3番に聴き入った。
すこししろざけ めされたか♪
あかいおかおの うだいじん♪

きものをきかえて おびしめて♪
きょうはわたしも はれすがた♪
(4番まであったのか⁉)
(完全に忘れてるわあ!)
"即興お遊戯"を最後まで見届けることにした。
はるのやよいの このよきひ♪
なによりうれしい ひなまつり♪
子供たちは歌い終わると一斉に「おひなさま!」と叫んでから「わー」と歓声を上げた。

その間、わずか3分ほどの出来事だった。
「こっち来なさい!」
「あははは」
保護者と思しき大人たち10人ほどが笑いながら声をかけた。
子供たちが最後まで歌って踊り切るまで見届けていたのだ。
親心だ。
子供たちは歌い踊り切って大満足そうだ。
はしゃぎながら親元へ走って行く。
(これ、何?)
(何のオプション?)
俺はまだ狼狽していた。
しかし、「ドッキリです」と書かれたプラカードを手にしたスタッフが出て来ることは無かった。
"仕掛け"も"やらせ"も無く自然発生した歌と踊りであった。

振り返ってみよう。
俺はひな人形を見た
⇒おいおい、もう五月前だぞ?
⇒鯉のぼりの季節だぞ?
⇒何をやってるんだか?
=陰気臭くて冷めてる~!
子供たちはひな人形を見た
⇒わー!
⇒おひなさまだ!
⇒おおきい!
⇒きれい!
=陽気かつ素直~!
⇒あげくは"歌って踊る"!
(俺にあんな時代があったかな⁉)
(娘にはあんな時代があったよな!)

「童心に帰る」という言葉がある。
「年甲斐も無く"幼稚なこと"を敢えてやる」と履き違えている"自称・オトナ"が大多数ではなかろうか?
「童心に帰る」を口実にして、やっていることは「オトナの邪心」そのままではなかろうか?

ー徹夜行列
ー行列バイト
ー裏ルート
ーオトナ買い
ー買い占め
ー品切れ
ー奪い合い
ーメルカリ出品
ーヤフオク出品
ー高額転売
ー偽物販売
ー詐欺
ー場所取り
ー場所取りバイト
ー割り込み
ー警備員の制止をふりほどく
ー怒鳴り散らす
ー掴み合い
ー罵り合い
ー「責任者を呼べ!」と騒ぐ
ーSNS投稿
ーアクセス稼ぎ
ーでっち上げ・やらせ
ー話を盛る
ーインスタ映え
ー画像加工・修正
ーマウント取り
ー痴漢行為
ーナンパ
ーつきまとい
ーセクハラ
ー盗撮行為
……こういうことって子供はやらないよな?
「マセガキはやる」ってか?
ならば「童心に帰る」をはき違えている"自称・オトナ"は「オトナではなくマセガキ」だよな?

現世は"オトナ"になれば「これ、何の罠?」と常に斜め目線で生きていかねばならぬ。
現世は"オトナ"になれば「これ、裏があるでしょ?」と常に疑い目線で過ごさねばならぬ。
現世は"オトナ"になれば「これ、ひょっとして見られている? 録られている?」と他人目線にビクつきながら窮屈この上ない。
そんな世知辛い現世をしばし忘れて"心のバランス"を整えるために「童心に帰る」わけだよな?

"仕掛け"も"やらせ"も無く自然発生した歌と踊りを見せつけられ、俺は「童心に帰る」の本義を悟った。
俺なりに「童心に帰る」を言語化してみた。
ー嬉しさ・感動は口に出す!
ー皮肉・偏見は交えない!
ー利害・体裁から離れる!
ー好奇心旺盛で楽しむ!
―歌・踊りで表現できれば最高!
斜め目線・疑い目線・他人目線を忘れて「しばし童心に帰る」のは大事だ。
"仕掛け"も"やらせ"も無く自然発生の即興なら、なおよし!
「童心に帰る」の本義を授けてくださった"身長1メートルにも満たない師匠たち"に感謝し、ほっこり心地で家路につくことができた。
