
青春小説「アカシヤの伝説」第8回~片想い
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八月二日より行われるインターハイへ向けて、舟入バレー部は夏休みに入ってからも練習に明け暮れていた。
しかし、その前にけじめをつけておかなければならないことが一つあった。大森雪子のことである。
色々と思い悩んだが、大森雪子の俺に対する真剣な思いを踏みにじる訳にはいかない。俺の真実を真正面から彼女に伝えて判ってもらうことしか俺には出来ない。そういう結論に達し、彼女に会うことにした。
雪子の親友で、俺と彼女の間を取り持っている秋本裕子に、
「今週の月曜日の夕方六時に、学校の中庭の所で待っているから来て欲しい」
と伝えてもらうことにした。
ところが、これがちょとした行き違いから、彼女を大きく傷つけることになってしまった。六時に学校でと、俺は、「夕方の」と言わなかったらしく、彼女は、早朝の六時に学校に行ったというのだ。
そして、待っても待っても俺が来ないので、もしや、からかわれたのでは、との思いもあって、ガックリきて傷心のまま帰途についた。
俺はと言えば、その日は、午後から修徳高校バレー部との練習試合で午後の二時からずっと修徳高校に行っていた。やっと練習の終わった時には六時半になっていた。
急いで舟高に向かった訳だが、彼女はもはや居るよしも無い。
(何だ、ちょっとくらい遅れたからといって待ってくれてもいいのに。その程度の気 持ちだったのか。真剣に考えて損した。)
と、俺の方も肩すかしをくらったようで拍子抜けだった。
以後、クラスで顔を会わしても、向こうも目をそらすし、俺の方も、ぷいっと知らん顔を決め込むような気まずい関係となった。
何日かして、また例の秋本が、夜、家に電話をかけてきた。
「薬師堂くん、ちょっとひどいんじゃない。雪子泣いてたわよ。朝早く呼び出しといて、薬師堂くん結局行ってあげなかったんだって?その気が無いんだったらハッキリ言ってあげればいいのに。私からかわれたのかも知れないって、雪子傷ついているわよ」
「朝早く?ちょっ、ちょっと待ってくれ、夕方の六時って俺は言ったんだよ。クラブで大分遅れたけど俺も行くには行ったんだ」
「えー、?私、薬師堂くんが六時に、って言うから朝の六時と思って…」
とんでもない行き違いだった。こんな大事な時に、こんな大事な問題で。人生とは、得てしてこんなものなのだろうか。
とにかく、俺は大森雪子に、まずは謝りたかった。
まさか朝とは思いもせず、「夕方の六時」と言わず、ただ「六時」とだけ言った俺の方に非があるのは明らかだ。そして、謝った後、彼女には悪いが、もう何年も片憶いの好きな女の子が居て、寝ても覚めても、この子のことしか考えられない。君の気持ちは本当に嬉しいが、その気持ちに応えられない。堂々と、心をうち明けられる君を羨ましく思う、というような意味の手紙を彼女に書いて秋本に託した。
暫くして、大森雪子から返事が来た。
「残念だけど、あなたがそんなにまで私のことを色々と考えてくれていたことを知ってとても嬉しかった。あの日学校に来てくれていたことも知らされた。何て自分はドジなんだろう。穴があったら入りたい気持ちです。……好きな人って、どんな人かな。あなたにそんなにも思われている人が、とっても羨ましい。その人とうまくいけばいいネ。これからも、いいお友達同士としてつき合ってゆければ、私は嬉しいのです」
こんな趣旨の返事だった。
この手紙を読んで俺は泣いた。
彼女のいじらしい心や、俺の美紀に対する長くつらい片憶いの日々など思い出され、涙が次から次へと出て仕方がなかった。
(つづく)