
歴史小説「安芸銀山城秘伝」第3回~黄金の茶釜伝説~
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翌日昼前頃に薬師堂は再び公民館の図書室をのぞいてみた。すると、地元の中学校から同じ高校に進学した三人の同級生がいそいそと本棚の間を見て回っている。他の利用者もいるので、三人に軽く目配せして隅の方の席についた。同じ男子バレー部の北村と野本がすぐに近づいて来て、耳元へ小声で話しかけた。
「ヤクシ、お前も地理の宿題か?」
「おお、弱っとるんじゃ。ここへ来りゃあ、何かいい知恵が浮ぶんじゃないかと思うて」
三人がこそこそ囁き合っていると、書棚の陰から何冊かの本を小脇に抱えて中原美紀が現れた。
中原は中学の途中から、しかも東京から転居してきた転校生で、才色兼備、男子生徒たちの憧れの的であった。話し言葉も流暢な東京弁なので、薬師堂たちには彼女の一挙手一頭足が新鮮に写った。
「中原さんも例の宿題?」
思い切って薬師堂が声をかけた。
「ええ、そうなのよ。ここに来ればなにか手掛かりが見つかるんじゃないかと思って。私この街のこと余り知らないし・・・」
真っ白のTシャツに赤いミニスカートの中原美紀が今日は一段と可愛く見えた。
「薬師堂君たちは何にするか決めたの?」
「うん、実は武田山にまつわる話が面白そうなんで、これをやってみようかと思うんだ。色々調べてみると、言伝えの中に『武田氏が毛利元就によって攻め滅ぼされた時に、お家再興のために宝物を祇園町側の山の中腹に埋めた』というものがあるんだ。『民話』の中にも『黄金の茶釜』というのが有って、武田家の残党が山の中腹に先祖から伝わる黄金の茶釜を埋め、目印としてその上に白南天の木を植えた。虚無僧となってこれを守っていたが、或る時宝探しに来た者に切り殺され、それ以来場所が判らなくなってしまった。宝探しに来た欲張りには白南天の木は見えないが、何も知らない者がこの山に登ると、よく繁った美しい白南天の木を目にする・・・と言うものなんだ。どう、ちょっと面白いだろう?」
薬師堂が得意げに一気にそこまで話すと、中原だけでなく聞き入っていた北村や野本も目を輝かせた。
「おお、そりゃあ面白そうじゃな」
祇園町と武田山とは切っても切り離せない関係にあるのは確かだ。
薬師堂たちの通った小学校の校歌は、
「武田の峰のぉ~朝あけよぉ~・・・・」と始まったし、中学校の校歌も、
「緑かがよう武田山、久遠の姿ゆるぎなく・・・」
と、どちらも武田山のことを朗々と歌い上げていた。小学校六年間と中学校の三年間、合わせて九年事あるごとにこれを歌わされ続けてきたのだから、嫌でも体に染みついていた。
「どう、中原さん?俺たちこのテーマで共同研究しようかと言ってるんだけど、良かったら君も加わらない?」
薬師堂から見せられた本を眺めていた中原美紀の目もみるみる輝いてきた。
「うーん、これ・・・・・なかなか面白そうねえ。ちょっと、私もこれやってみようかしら」
半ば強引に引っ張り込んだ形となったが、同級生では一番人気の中原美紀が加わることに他の二人も異論があろうはずは無かった。
そんな訳で、この祇園町、とりわけ「武田山の歴史」について、薬師堂、北村、野本、それに中原の四人でこの夏共同研究をすることに相成った。
図書室を出て、公民館のロビーのソファーに陣取り、打ち合わせ始めると、すぐに野本が、
「四人一緒じゃあ多過ぎるから、二人ずつの組にしようや」
と言い出した。武田山に登るにしても道は幾つもコースがあるし、資料を調べるにも二手に分れれば倍のことが出来るのは確かだ。
何事にもクールな合理主義者の野本の発想であった。
「それもそうね」と中原。そこでさり気無く、
「ヤクシと北村は家が近かったよなあ・・・」と野本が言ったのでピンときた。
実は薬師堂は前々から野本が密かに中原美紀に想いを寄せていることに気がついていたのだ。その裏心を察した薬師堂はすかさず、
「じゃあくじ引きっていうのはどう?」と提案。
「そうね面白そう。くじ引きがいいわ」
中原もそう言うのでこれには野本も従わざるを得なくなり、アミダくじをすることに決した。
結果、「北村・野本組」と「薬師堂・中原組」に決まる。
(天の助けか!)と、憧れの中原美紀と組めたことに心臓が飛び出さんばかりの胸の高鳴りを覚えている薬師堂であった。
一方、(畜生め!)と心の中で地団駄踏んで悔しがっているのは野本である。
「じゃあ早速それぞれの組に分れて打ち合わせしような」
苦虫を噛み潰したような顔をした野本を横目に薬師堂は中原と打ち合わせに入った。
「やはり実際に武田山に登って歩いてみたいわ。近い内に行って遺跡を調べてみましょうよ」
と中原も積極的だ。
緑深く謎の多い、神秘的な武田山へ、中原美紀と、それも二人だけで行くことになり、薬師堂は何かを期待してもう天にも昇るような浮かれ気分なのであった。 (つづく)