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青春小説「アカシヤの伝説」第9回~激闘

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     七月二十八日、いよいよ全国高校総合体育大会(インターハイ)へ向けての旅が始まった。
     今年のインターハイは、福岡県の直方市で行われる。部員十七人と監督、コーチの総勢十九人は午後には小倉駅に着いた。
    「いそがしいところすみません。お世話になります」
     駅には舟入バレー部0Bの山下さんという人が出迎えてくれていた。スケイチが丁寧に頭を下げている。
     山下さんは、小倉にある角友金属男子バレー部のマネージャーをしている。0Bの中で実業団でバレーを続けている数少ない先輩であった。
     インターハイのバレーボールの日程は八月二日からで、それまでの数日間を、インターハイ出場チームが四~五校集まって、体慣らしの意味も合わせてここでミニ合宿、この角友金属体育館三階にある茶室に泊って練習試合にあけくれた。
     七月三十一日の昼、そこを打ち上げ、バスで、直方市から更に二十キロメートルくらい南の脇田温泉へ移動。「桃源境」旅館にその日の晩からは寝起きすることとなった。
     八月二日、開会式に続いて、いよいよ待ちに待った大会が始まった。やるべき練習は、もうすべてやり尽くした感があった。
     広島県内にはもう負ける相手はいない。しかし、所詮井の中の蛙、これから対戦するのはどれも激しい予選を制して勝ち上がってきた各県の一位のチームなのだ。
     一体どこまで我々の力が通用するものだろうか。不安なような、武者震いのような言いようのない気持ちの高まりが皆にあった。
     
     予選グループ戦、舟入は滋賀県代表近見高校との対戦、勝てばこのまま決勝トーナメントに進める。負ければ一試合だけ敗者復活戦に臨め、勝てばトーナメントに残れるが、負ければそれでお終いとなる。初戦でもあり大切な試合であった。
     インターハイの初戦ということで第一セットは皆動きが固くエンジンのかかりが悪く落としたが、二セット目からは落ち着きを取り戻した。速攻、コンビネーションでは舟入が優っており、セットカウント二対一で制し、無事予選リーグを突破した。
     ほっと胸をなでおろす感じだった。
     ここまできて初戦敗退では送り出してくれた広島の皆にも顔向け出来ない。
     一方、同宿の広島修徳高校は予選グループ戦で苦戦していた。初戦大阪の藤見寺工に二対一で敗れ、あわやというところ敗者復活戦で金沢松陵工を二対0で破ってかろうじて決勝トーナメントに残った。
     八月三日決勝トーナメントの初戦、対戦相手は宮崎県都工業高校。やはり全国大会ともなると各チームとも一定の実力を備えていて、ブロック力、レシーブ力、攻撃力ともそこそこの力を持っている。スタートの第一セットを取っても、ちょっと気を許すと第二セットはすぐ取り返される。少し気をもんだが、第三セットに入って攻守上手くかみ合い、この試合も二対一で舟入が制した。無事決勝トーナメント一回戦突破である。
     大会も三日目となり、どんどんと試合日程は進んでゆく。この日は、もう一試合、二回戦が行われた。対するは、神奈川県法政高校。昨日からすると、もうこれで三試合目で、メンバーも皆、体のキレがいい。試合前のアタック練習でも、達山さんのスパイクしたボールが相手コートのアタックエリア前に突き刺さり、ポーンともの凄い勢いでバウンドし、体育館の二階席に飛び込んだ。相手チームも唖然という感じ。
     全国大会へ来ると、舟入などは全く無名で、広島で高校男子バレーというと「修徳」が、代名詞となっているくらい余りにも有名なのだ。その修徳を、県予選で破った「舟入」という、元気のいいチームがいるらしい、という声が、ボソボソとささやかれ始めたようだ。
     この第二試合は、舟入は乗りに乗りまくって選手も絶好調だ。セットカウント二対0だが、第二セットなど、あわや相手を零敗かという所まで追いつめた。結果的には、一点だけ取られたが、圧倒的な強さを見せ、三十分で片づけた。今年の高校バレーに舟入あり、を強烈にアピールした。        
     

     神奈川の法政高校に難無く勝った俺たちは、意気揚々と、「桃源境」旅館に引き上げた。
     どの顔も笑っていた。それもそのはず、この時点で舟入は、参加五十八校中、ベスト十六に入ったのだ。
    「達山さん凄い調子ですね。」
     すかさず俺がほめると、
    「おお、負ける感じがせんのよ。」
     と汗を拭き拭き、着替えながら達山さんが弾むように言った。
     一体どこまで勝ち進めるのだろうか。そんなに甘いとは思えないが。
    旅館へ戻っても、そこここで、弾けるような笑いが起っている。
     ところで、修徳高校はどうしただろうか。修徳の吉山監督とスケイチとは、東京体育大学の同期だそうで、舟入がある程度強い去年と今年は、まるで姉妹校のように、バレー部同志で一緒の遠征合宿や、練習試合をしていた。おかげで、弱かった俺たちは強くなったが、俺たちのレベルに合わせていた修徳の方は、逆に弱くなったということもあるかもしれない。今回も、修徳も一緒にこの桃源境旅館に泊まっていた。
    (そうだ、早川に聞いてみよう。)
     早川は中学の同級生で、三年間同じ釜の飯を食ったチームメイトだ。高校は修徳に進学し、今回の大会にも補欠だがメンバーの一員として来ている。
     俺は奥の修徳の部屋の方に足を進めた。ところが、人の沢山いるような気配はするのだが何かシーンと静まり返っていて妙な感じだ。
     丁度女中さんが廊下を通りかかった。
    「あのー、修徳高校は今日の試合はどうなったのでしょうか?」
    「へえ、それが負けられよったらしいですわ」
     気の毒そうに言った。
     何てことだ。それほど強くない年でも全国大会で「修徳」と言えば、その名前だけで対戦相手は萎縮して、一~二回戦くらいは軽く突破するのが常の修徳であったのに。今回は二回戦で、しかも地元福岡の電習館高校に二対〇のストレート負けを喫してしまったとは。メンバー全員正座のままの大説教が、駆けつけた厳しい先輩諸氏からされている最中のこの静けさなのであろう。
     これは大番狂わせだ。
     これまでのところ、優勝候補の筆頭は大阪・大工大附属高校、その他静岡・東海高校、東京・東央大附属、茨城・古賀高校、山口・宇辺商業等々前評判通りの強豪が順当に勝ち上がっていた。この一角に、全く無名の我が舟入高校が食い込んで来ている訳だった。
     「修徳が負けた」とのニュースは瞬く間に舟入の皆の知るところとなり、(まさか)という思いと同時に、やはりここは県大会ではなく一ランクレベルが上の全国大会なのだ、と皆の浮かれ気分も一気に吹き飛ぶこととなった。
     
     大会第四日目、三回戦の相手は大阪代表藤見寺工業。修徳が予選グループ戦で二対一で敗れた所だ。
     実は、こんなことは初めての経験だったが、角友金属の山下先輩がこの強豪藤見寺工のチームを詳しく研究してくれて、昨夜我々の旅館を訪れ、全員参加で緊急ミーティングが開かれた。とても有難かったが、何せ一度も対戦したことも見たこともない相手の、
    「このレフトの何番がどうのこうの、こいつがこう来てああだこうだ……」  とやるものだから、何が何やらさっぱり判らない。だから、実際皆ちょっと情報過多の頭でっかちになっていた。
     八月四日、ベスト八進出をかけた三回戦で舟入はとうとう負けた。
     県大会の初戦から続いてきた破竹の快進撃も七連勝でストップした。藤見寺工は伝統校だけあってやはり強かった。舟入よりも数段レベルが上、という感じでどこを取ってもそつのない洗練されたバレーをする。
     打てども決まらず、ブロックに飛べども止まらず。ブロックには舟入はよく行っていた。しかし、相手のアタックが舟入のブロックに当たってコートの外に落ちるブロックアウトがとても多かった。これは藤見寺の作戦だったかも知れない。まともに打っても前衛の三人皆にブロックに飛ばれたら、弾き返されるだけだから、藤見寺ははじめからブロックアウトにするつもりでコート外を狙って打ってきていたのでは無かろうか。これはとても高度な戦術である。これに対し舟入の選手はがむしゃらに相手コート目指して打つので相手のブロックは面白いように決まった。最後は、野本のライトからのアタックが見事にブロックされてけりがついた。
     一セット目、八対十五、二セット目、九対十五、セットカウント二対0。点数的にも軽くあしらわれたといった内容だったと言える。
     この試合中、俺は舟入バレー部の一年生五人と二年で唯一人ベンチに入れなかった小出に感謝したい。ベンチに入れない彼らは体育館二階の観覧席で観戦していたわけだが、藤見寺工は全国大会の常連らしく慣れていて大阪から大応援団が来てもの凄い声援なのに対して、舟入側は、たったの六人で声を枯らしてよく頑張った。試合中ふと二階の応援席の方を見やると、
    「フレー、フレー、舟入」の六人の声の後に続いて、全然舟入に関係のない人たちまでが一緒に手をたたいて応援してくれていた。恐らく地元直方市の人々なのだろう。これを見たとき思わず胸が熱くなった。
     こうして、俺たちの長かった夏はようやく終わった。  
              (つづく)                 


     
     
    作家/エッセイスト/ファイナンシャルプランナー /ラジオパーソナリティー、広島市在住 「広島にこだわり広島を題材にした作品を広島から発信」をモットーに小説や詩、エッセイを創作。 ◼️著書に小説「愛が降る球場物語」(ザメディアジョン刊)、自伝的エッセイ「カープファン物語」(新風舎刊)

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