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歴史小説「安芸銀山城秘伝」第9回~黄金の茶釜~

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     一体どれだけの数の毛利軍が攻めて来ているのか、北側からも西側からも次から次へと毛利軍が繰り出してきて攻め寄せて来る。
     武田軍が南側に気を取られている隙に、城の北側は完全に制圧されてしまったらしい。
     城に立て篭もって死力を尽して守ってこそ大軍を防ぎ切るすべもあるが、これではどうすることも出来ない。既に頂上館やその下の千畳敷の辺りまで、毛利兵が満ち満ちて制圧されかけてしまっている。
     (うぬ、これはもはやいかぬ!)
     内藤弥四郎はこの一戦に華々しく死に花を咲かせようとかねてより覚悟の上であったので、攻め寄せて来る毛利軍の新手らを決死の形相もの凄く、死に物狂いに切りまくっていた。
     しかし多勢に無勢はもはや如何ともし難く、また武田方の兵士たちも戦意を喪失してしまったのか次第次第に残る兵の数も少なくなっていった。
    「青木殿、青木殿!いよいよじゃ。後のこと、手筈どおりに頼んだぞ!」
     必死で奮戦していた内藤弥四郎であったが、
    (もはやこれまで)
     と、乱戦の中を一人抜け出し、観音堂の裏手辺りまでやって来た。
     この勢いでは、ここまで毛利兵が攻めて来るのも時間の問題と思われた。
     お堂の裏手の石垣に兜を置き、その横の草むらにどうっと腰掛けた。
     若き日、今日のような乱戦の中、危うく死にかけた所を武田光和の加勢により助けられたこともあった。その光和も、これからというまさにその時、病に倒れ若くしてこの世を去った。
    (随分と無念であったであろう・・・)
     様々なことが、走馬灯のように、弥四郎の頭の中を駆け巡る。
     武田の家臣の子に生まれついて、戦国の世の波乱に翻弄され続けた半生であった。そして、安芸銀山に三百年の繁栄を誇った武田家は風前の灯火となり、今まさに滅び去ろうとしている。
     しかし不思議に、弥四郎には悔いは無かった。
     己の与えられた生を、力一杯生きた。そう思うと心の奥底に清涼感さえ漂った。
    (殿、弥四郎めもお傍に参ります。いざっ!)
     瞬間、亡き武田光和に語りかけるようにして脇差で腹を十文字に掻っ捌き、更に喉を掻き切って、切腹して果てた。
     文字通り、この銀山の城と運命を共にした内藤弥四郎の壮絶な最期であった。

     
     青木太郎左衛門は、内藤弥四郎より、
    「いざという時になったら、武田家に伝わる家法の品々を持ち出し、厳重にこれを守って武田家再興の際の助けとせよ」
     銀山城での討死覚悟の篭城が決まってから、よくよくそう言い渡されていた。
      「嫌でございます。拙者どこまでも殿の後をついて参ります」
    「ならぬ!どんなことをしてでもお主は死んではならぬ。武田家の宝を守り抜き、縁の者を立て何としてでもお家再興を期するのじゃ」
     生き残れと言われた太郎左衛門には、悔しさと不安が残った。
    (今となっては内藤の殿のご遺志を守らぬ訳にはいかぬ・・・)
     しかし、毛利軍は怒涛のように湧き出し攻めて来る。もはや一刻の猶予も出来かねた。
     安芸武田家家宝の第一は何と言っても武田家始祖の新羅三郎義光公の鎧であるが、これは相当な重量があり、この混戦の中ではもはや運び出すことは難しい。
     その第二は武田家代々に伝わる黄金の茶釜・・・これは手に持つことの出来る大きさと重量で、木箱に入れて用意してあった。だがこの乱戦の中、宝を持ったまま抜け落ちるのはよもや不可能と思われた。
    (この山の、どこか誰にも判らぬ所に埋め隠しておいて、後日隙を見て運び出すしかない)
     そう意を決すると、青木太郎左衛門は木箱を小脇に抱えて、刀を振って草木を掻き分けて進んだ。
     観音堂から上高間へ降りる道を横にそれ、更に道無き所を草を分け入って進むと断崖絶壁に突き当たる。ここなら道も無く、容易に人が近づける場所ではない。太郎左衛門は慎重にこの崖岩に張りつくようにして降り下り、三つ目の大岩の下の辺りに少しばかり土の窪みがあることに気がついた。
    (ここなら誰も判りはすまい)
     手に持つ刀で懸命にこの部分の土を掘り、その底に木箱に入った黄金の茶釜を入れ、土を埋め戻した。そして、それだけでは埋めた位置が判らなくなるので、目印とするため準備しておいた白南天の小木を懐より取り出し、宝を埋めた位置にしっかりと植え込んで標しとした。
     南天の木の実の大半は、秋から冬にかけ鮮やかな紅色の実を結ぶ。
     赤い実のなる南天はそこいら中にある。
     だが白南天は珍しい。白い実のなる南天の木は辺りでここだけである。宝を取りに戻るのが万一何らかの支障で遅れることがあっても、これなら見失う心配は無い。
    (この場所を知るものは拙者しかおらぬ。何としてでも生き延びねば・・・・・)
     青木太郎左衛門は、そのまま深い谷へ向って一目散に降りて行った。毛利勢は背後まで迫っている。行く手には大内軍も網を張って待ち構えているだろう。

    (生きるのだ!)

     内藤弥四郎の声がしたような気がした。
     今頃はもう、この世の人では無いように思えた。
     草を分け入って、山本へ続く道にやっと抜け出し、夜の闇の中へ消え去って行った。

     この日、要害堅固で鳴った銀山城も遂に希代の軍略家、毛利元就によって攻め落され、ここに三百年間続いた安芸武田家は滅亡したのであった。
                 (つづく)
     


     
     
    作家/エッセイスト/ファイナンシャルプランナー /ラジオパーソナリティー、広島市在住 「広島にこだわり広島を題材にした作品を広島から発信」をモットーに小説や詩、エッセイを創作。 ◼️著書に小説「愛が降る球場物語」(ザメディアジョン刊)、自伝的エッセイ「カープファン物語」(新風舎刊)

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