
セーフティテザーは鈴の音
ひどく疲れていて、普段はしない昼寝をした。
死んだ父方の祖母が夢に出てきた。
夢の中で祖母はなにかの塗り薬をお腹のあたりに塗られているところで、
途中で塗ってくれていた人がどこかに行ってしまった。
祖母が上半身裸のまま残されてしまったので、
私は祖母の前に立って身体を隠した。
「恥ずかしいでしょ」
「そうだね ありがとね」
そんな会話をしながら、こんなに祖母の近くにいるのはすごくすごく久しぶりだ、と思った。
ふざけたふりして祖母を抱きしめた。
まきちゃんのお洋服に塗り薬がついちゃうよ、と祖母は言った。
私は祖母を抱きしめていることが嬉しくて、笑いながら祖母の顔を見ていた。
祖母もニコニコして、「まきちゃんはあったかい。気持ちいい。幸せだぁ。」と言った。
そこで目が覚めた。
私は祖母を一度も抱きしめなかったな、と思った。
いつも私をじっと見ては嬉しそうに笑って、「綺麗だ」と歌うように言った祖母。
贅沢をせずひたすらに働いて、死んでいった祖母。
たまのお出かけは隣のおばあさんと行く大師様で、決まって葛餅を買ってきた。
ぎゅっぎゅっと握るおにぎりは三角じゃなくてつぶれたお団子みたいにひらべったくて、でも私はそれが好きだった。
抱きしめるほど大好きじゃなかった。
でも抱きしめてあげたらよかった。
その人生は、抱きしめられるに値するものだったでしょう?
偽物の木が貼り付けられた天井の木目を見ながら、
金縛りにあったように動けずに、
目から涙がぼろぼろ溢れ、もみあげを濡らし、耳介のくぼみに溜まっていった。
間に合わなかった悲しみはいつもこうして時間差で私の首を締めにくる。
この世とあの世の境目に落っこちてしまったような、冷んやりとした寂しさ。
ここではどこまでもひとりぼっちだ。
枕がどんどん湿っていく。
鈴のような音が響く。
この世に引き戻されたように、スマホを確認する。
この着信音はあの人からのメッセージだ。
私がしたお願いに、いいよ、と応えてくれた内容だった。
過ぎ去ってもう戻らないものへの惜別の念に殺されそうになっている時にあの境目からこの場所に引き戻してくれるのはいつだってこんなちいさな約束とか失くしたくないぬくもりとかで、
それを雑にラベリングした箱に押し込めるなら、
その箱には「生きる理由」なんて書いてあるのかもしれない。
続けて同じ着信音が鳴る。
今日も大好きだよ、と書いてある。
同じ言葉を返して、涙を拭いて起き上がる。
洗濯機をまわして、お昼ごはんを作らなくちゃ。
さよならおばあちゃん、また会う日まで。
今度会えたら抱きしめるよ。