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Photo bytakoyakiyuchan

「資本主義のアップデート」のベースとなる「金融リテラシー」を高めるために

    「上場は誇り」だけど、「株式投資はギャンブル」?

     私は以前より、株式市場に関する一般の方の反応が時折「ちぐはぐ」であることに違和感を持っていました。
     
    例を挙げてみましょう:
    ・子供が就職する企業が、「プライム市場上場企業(以前は東証一部上場企業)」であると安心する
    ・上場するスタートアップ企業は凄いと感じる
    ・株価が高い企業は信頼できると感じる
     
    一方、
    ・株式投資はギャンブルと同じであり、「株に手を出す」、つまり株式投資をする人は信用できないと感じる
    ・株式投資で大損した人の話を聞いたことがある
     
     当然のことながら、上場企業は株式投資を行う投資家がいるからこそ成立します。それなのになぜ、投資行為に対するネガティブな印象が根強く存在するのでしょうか?
     企業が上場することの意味、そしてその上場企業株式に投資することの意味がそもそも理解されていないことが原因の1つになっていると考えられます。

     高校における「金融教育」

     2022年4月より、高等学校の家庭科で金融教育が必修化されました。その背景には①諸外国に比べて劣る金融リテラシー ②成人年齢引き下げに伴う金融トラブルの予見 ③老後のための資産形成の推進、があると言われています。
     同年3月17日に金融庁が公表した「高校向け金融経済教育指導教材」を見てみましょう。
     目次は以下の通りです:
    ①    家計管理とライフプランニング ~働いて「稼ぐ」ことと将来設計について
    ②    「使う」
    ③    「備える」~社会保険制度と民間保険
    ④    「貯める・増やす」 ~ 資産形成
    ⑤    「借りる」
    ⑥    金融トラブル
    ⑦    まとめ

     金融教育の主な目的は「家計管理をしっかり行うことで経済的に自立し、より良い暮らしを送る」ことにあります。大変重要なテーマですが、国民の投資活動を活発化させ、株式市場を活性化させて日本経済を立て直すためには、こうした「家計目線」だけでなく一般人の金融リテラシーや株式市場リテラシーをもっと向上させる必要があると、私は考えます。
     

    社会人に必要な「金融/株式市場リテラシー」

     残念ながら現在は、こうした「金融/株式市場リテラシー教育」を受けずに社会人になるケースが多いようです。私自身も金融や株式市場について学んだのは社会人になってからでした。そのような状況ですので、業務上の必要性があって株式市場や財務に直接関与する社員以外は、こうした教育を受ける機会がほとんどありません。
     たとえば上場企業の一般社員の皆さんは全員、「時価総額」という言葉の意味を理解しているでしょうか?また、「株価と時価総額の関係性」「上場のメリット/デメリット」について説明できるでしょうか?
     自社が上場企業であることは知っていても、その意味を理解していない方、「株式市場の基本知識」をお持ちでない方が実は大勢いらっしゃると私は感じています。
     
     「資本主義のアップデート」を実現するためには各上場企業が「株式市場との対話」を実践し経営に活用することが必須です。しかしながら、経営者とコーポレート部門の一部の社員だけが「金融/株式市場リテラシー」を持って対話を実行するだけでは十分ではありません。全社員が金融/株式市場の基本知識を身に付けた上で、自社の株式市場におけるポジションや株主の期待を理解する必要があります。経営者のリーダーシップのもと、全社員が高いモチベーションと正しい課題感を持ちつつ努力することで、企業価値が最大化されるのではないでしょうか?

    社員の金融/株式市場リテラシー向上のための講座

     私は、経営陣幹部やIR部門が企業内で社員向けに「金融/株式市場リテラシー」を高めるための講座を行うことを推奨しています。従業員がこのような基礎的なリテラシーを身につけるとともに自身の業務との関連性を理解することで、「上場企業として株式市場と対話しながら成長を目指す」という取り組みを全社一丸となって推進するための第一歩となり得ます。

     期待される具体的な効果は次の通りです:
    ① 社員の金融/株式市場リテラシーの向上
    ② 自社に対する株式市場からの期待を理解することでの企業価値向上へのモチベーションアップ
    ③ バックボーンを理解することで、IR部門に対するサポートの向上
    ④「株式市場からのフィードバック」の活用機運アップ

    「社内IR講座」ワークショップの進め方

     私は長年ワークショップ「社内IR講座」を行ってきました。
     自社を題材に1時間半の双方向的な形式で実施し、受講者が自分の頭で考えたり、実際に手を動かして調べることで、理解が深まるように設計しています。
     実施方法は以下の通りです:
    ① 1セッションの参加者数は20~30人程度
    ② 3人ずつの小グループを形成
    ③ 質問に対してグループで討議し、必要に応じて全体に共有
    ④ スマホやPC等の、インターネットで検索できるデバイス持参
     
     講座の反響は毎回大変好評で、それぞれ次のようなコメントを頂いています:
    ・自社が「良い会社」であることを再認識した
    ・株式市場における自社のポジションを初めて知った
    ・投資家や株主をむやみに恐れる必要はないのだと知った
    ・ 自社の「強み」「課題」について真剣に考える機会になった
    ・ 何故企業が成長しなければならないのか理解できた
    ・自分も会社を成長させるために努力しなければならないと思った
     
     「社内IR講座」のカリキュラム内容を以下に記載します。
     このカリキュラムは完璧なものでも、最適なものでもありません。株式市場を取り巻く環境変化に応じて、常にアップデートしなければならないものでもあります。私自身、50回程の講演を通じて、資料を都度改訂してきました。

    「社内IR講座」主要コンテンツ

     主なコンテンツは以下の通りです。
     なお、第三者のグラフやコンテンツを利用する場合には著作権を侵害しないようご注意ください。

    ①    株式市場/上場企業に関する一般的な知識
     i) 株価と時価総額の関係性
     ii) 3つの「価値」
     iii) 株価指数って何?
    ②    株式市場における自社のポジション
     i)  自社の株式の歴史、株価と時価総額の最安値と最高値
     ii)  株価推移、株価指数との比較
     iii) 株価変動の理由
     iv) 日本の企業総数と上場企業数
     v)  日本と世界の時価総額ランキング、自社のポジション
     vi) 上場のメリットとデメリット
     vii) 上場していない企業の「理由」
     viii) 「会社は誰のものか」
    ③    株式市場からの自社への期待
     i)自社の株主構成とコミュニケーション
     ii)株主が見る自社の強みと成長期待
     iii)株主が見る課題とリスク
     iv)環境変化での停滞は衰退を意味する
     v)模擬 投資家ミーティング

     このワークショップは1回きりで終了とせずに、以下の内容で継続すると良いでしょう:
    タイミング:決算発表後(年に一度。または財務部門等、近い部門については四半期に一度)
    内容:
    ・決算発表のポイント
    ・決算発表内容に対する投資家の反応/コメント
    ・決算発表後の株価推移

     具体的なプレゼンテーション資料や進め方については、拙著「『株主との対話』ガイドブック」(中央経済社 2023年)の第7章に記載しました。同書にはサンプルとなるプレゼンテーション資料をダウンロードするためのリンクも記載しています。
     前述の項目に加えてESG/サステナビリティ関連情報について説明する講座を開催しても良いでしょうし、ROEやPBR、資本コストやバリュエーションと言ったファイナンスの基本を説明する講座を開催しても良いでしょう。ESG/サステナビリティ関連情報については、前掲の「『株主との対話』ガイドブック」に、またファイナンスの基本については「この1冊ですべてわかるIRの基本」(日本実業出版社 2023年)に記載しましたので、ご参照ください。


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    「株主との対話ガイドブック(中央経済社 2023年)」「IRの基本(日本実業出版社 2023年)」

    「株式市場の基礎知識講座」ワークショップのススメ 
    ~学生の意識改革に活用~

     「社内IR講座」では、社会人、とりわけ自社社員のリテラシー向上を目指しました。
     一方本来は、このような知識は学生のうちに身に付けることで、若いうちからの意識改革が可能になると考えていります。
     例えば、「全ての投資においてリスクとリターンが比例する」ことは、金融/株式市場のリテラシーとして常識です。それなのに「絶対に損しない儲け話」詐欺に引っかかる人が多い理由は、この「リスク&リターン比例の法則」を理解していないため、つまり金融リテラシーの欠如にも起因するかもしれないと私は考えています。
     
     「株式市場の基礎知識講座」は、大学の学部生や一般の社会人の方向けに私が実施しているワークショップです。
     講座の枠組みや伝える基本情報は「社内IR講座」とほぼ同じですが、大学の学部生向け講座では、就職先を検討する学生が参考にできそうなことを交えて話しています。

     講座の反響は毎回大変好評で、それぞれ次のようなコメントを頂いています:
    ・株式市場や上場企業などの意味を知らなかったが、今日初めて理解することができたため、就活に役立てて行きたい
    ・時価総額ランキングを比較することで、世界の企業の成長率が凄まじく高い反面、日本の企業の成長率が低いということを初めて知った
    ・上場によって企業に多くのメリットが生まれるのはもちろんだが、同時にデメリットもあるということを理解することができた
    ・今回の講義を通じて就活の幅を広げる視点を得ることができたため、とてもためになった
    ・ESG情報について初めて体系的に理解することが出来た

     主なコンテンツは以下の通りです。
    ①    株式市場/上場企業に関する一般的な知識
     i) 株価と時価総額の関係性
     ii) 3つの「価値」
     iii) 株価指数って何?
    ②    株式上場とは?
     i)日本の企業総数と上場企業数
     ii)日本と世界の時価総額ランキング、自社のポジション
     iii)上場のメリットとデメリット
     iv)上場していない企業の「理由」
     v)「会社は誰のものか」
    ③    ESGとは?
     i)ESGは「機会=SDGs」と「サステナビリティ・リスク=CSR」
     ii)「機会」の中の「CSV」と「フィランソロピー」
     iii)「サステナビリティ・リスク」の中の「環境」と「社会」
     iv)インパクト投資家のレター
     v)コーポレートガバナンスとは?
    ④    企業の成長が日本経済の成長に繋がる

     前述の拙著をご参照頂き、わかりやすい資料を作成してワークショップを開催してくだされば幸いです。
     皆さんが「株式市場の基礎知識講座」を広めてくださることで、学生と社会人の株式市場に対する理解が深まり、企業価値の向上と、株式市場、ひいては日本経済の活性化につながっていくことを願ってやみません。

    参考文献
    ・「株主との対話」ガイドブック (中央経済社 2023年)
    https://amzn.asia/d/9H9kKyh

    ・この1冊ですべてわかるIRの基本(日本実業社 2023年)
    https://amzn.asia/d/bX56EWQ


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