
音声燻製
うらぶれた路地の片隅にその店はあった。
『くんせいや』
どんなものでも一流の燻製品に変えるという。
「すみません」
一人の男がくんせいやの暖簾をくぐった。
「こいつの声を燻製にしていただけませんか?」
男がさしだしたのは一匹のニワトリ。
ずっとコケッコー、コケコケ鳴きわめいている。
「ひよこの頃から育てたピーすけです。朝の五時から甲高い声で鳴きつづけるもので、ご近所から迷惑と言われましてね。せめて声をスモーキーなワントーン抑えたものに変えられないかと」
店主は難しい顔で腕を組み、やがてうなづいた。
「失敗するかもしれませんが、やってみましょう」
仕上がりの連絡をうけ、男は再びくんせいやに赴いた。
店主が奥からゆらりと登場する。
店主の両手の上にいるのは、ピーすけだ。
「ピー……すけ?」
「失敗しました」
店主が重々しくスモークドチキンを男に手渡した。
ナイフとフォークで丁寧に切り分ける。
ぱくり。
「ピーすけ、うめぇ」
男の目から涙がこぼれた。
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